サトシアキラの湾岸爆走日記(自転車でね♪)改

一言:ここは俺が引き受けるから、早くクリスマスを……!

R・U・R・I・第5話 桜の追憶

2006-01-02 22:45:40 | 俺小説
 始業式の次の日の今日は第二土曜でお休みであった。瑠璃は相も変わらず、休日の惰眠を許してはくれない。
こんこん、こんこん。

「おにいちゃん?起きてる?」
 軽やかなノックの音と、やや素っ気なく聴こえるドア越しの声が、俺の眠気を覚ます。しかし、それは人を不快にさせるものではない。なかなかのもんだぞ、毎朝美少女に起こされるって。当の瑠璃には、毎朝面倒臭くてたまったもんじゃないんだろうが・・・。俺は、あくびを噛み殺しながら返事をした。
「へいよ、起きてるよ」
「おにいちゃん、最近先に起きてるようになったね。いいことです」
 ドアの向こうから、階段を下る足音が遠ざかる。あーあ、今日一日何するかな。そうだ、瑠璃にこの町を案内してやろう。まだこの町に来て二週間も経ってないからな、いろいろと見てない所もあるだろう。そう決めた俺は、台所でその事を瑠璃に話した。
「ほんと?よかった、私の方からお願いしようと思っていたから」
「よし、十時頃になったら出かけよう」
「うんっ!!」
瑠璃は、俺の予想以上に喜んでくれた。ウチに来た当初からは想像もつかないくらい人間味が出てきたな。
「いいことです」
「おにいちゃん、何か言った?」



 十時をちょっと過ぎた頃、一歩先に外に出ていた俺は、観光コースを考えていた。まず、そうだな・・・。俺の通っていた八坂小学校でも見せてやるか?でも、別に行ったってしょうがないか。俺の子供の頃の景色を瑠璃にも見せてやりたいんだけど・・・。ま、これは瑠璃が見たいって言ったらだな。じゃあ、どうするかな?あ、海を見せてやろう。近いからな。その次は、と。
「おまたせ」
 瑠璃が玄関から出てきた。初めて会った時と同じ、やや幼めの青のワンピース(似合ってるからいいか)を着て、触角のような髪をまとめているのは、今日はピンクのリボンだ。この服装だと、小学生に見られても不思議じゃない。ただでさえ、普通の14歳のコに比べて身体が小さいからな。
「じゃ、まず海に行くか?」
「うんっ」
 瑠璃は、勢い良く首を縦に振った。

 今日は、いつにも増して穏やかな陽気で、サーファー達が大勢波を手なずけようとしている。波打ち際では、太公望が釣糸を水面に垂らしていた。そんな砂浜を、俺と瑠璃は並んで歩いている。瑠璃は、靴と靴下を脱いでいた。さっきから一言も喋らない。最近口数が増えたように感じたのは、俺の錯覚だったのか?と考え出したその直後、瑠璃は自分の足元を見たまま言った。
「気持ちいいね・・・」
 小さい声で、しかし、しみじみと。
「ん・・・。そうだな…」
 気の利いたセリフのひとつも浮かんではこなかったが、瑠璃がこの春の心地よさを楽しんでいるのが良く分かったから、この場所を勧めた俺としては、ちょっと嬉しい。
「どうだ、学校は。といってもまだ、一日しか行ってないか」
「うん、だけど、親切そうな人ばっかり。特に男の子がいっぱい話かけてくれたの」
 瑠璃、そりゃあな、お前が可愛いからだよ。俺は、心の中でつぶやいた。
「それなのに私、あんまり男の子とお話した事ないから、つい…素っ気無いような返事になっちゃって。みんな、気を悪くしたかな?」
「ま、しょうがないんじゃないか?初顔の人間ばっかりなんだから。緊張してた事ぐらいみんな分かってくれるさ」
「そうよね。これからを大切にしなきゃ」
「そういうこと」
 しばらく海岸を歩いた後、こんどは町中のデパートの位置や、コンビニの位置、俺お気に入りの輸入雑貨の店や古本屋を案内して回った。でも、俺が一番教えてやりたかったのは・・・。
「なあ瑠璃、腹減ってないか?」
 時計を見ると、12時を回っていた。
「うん、もうお昼だもんね」
「じゃあ、この近所にいい喫茶店があるんだ。そこで軽く食べていこう」
「賛成」
「あ、コーヒー好きか?」
「うん」
「それなら、尚更良しだ。さ、行こうぜ」


 俺は、喫茶館とそのままズバリ書かれた看板の、赤煉瓦風のシャレた店に来た。商店街のど真ん中にあって、店の面積自体は小さいが、昼どきはけっこう混む。今もまあまあの入りだ。中に入ると、窓際の席を選んで座る。
 店内は、アンティーク家具の、その生きてきた年数が自然に醸し出す落ち着いた雰囲気で満たされ、かかっているBGMも、ピアノのクラシック主体で趣味がいい。カウンターの向こうで珈琲を煎れているマスターも、男は年を取ったらかくありたいと思わせるような、渋いオジさんだ。そして何よりここには、そのマスターが作り出す…俺の魂を安らがせる、芳醇な珈琲の香りがある。
 やがて、ロングヘアのウェイトレスの人がやってきた。
「いらっしゃい・・・あら、亮君。一週間の御無沙汰だったじゃない」
 この人は、黛 響子さん。ここのコーヒーが気に入って通い詰めている内に、いつの間にか知合いになってしまった。
「一週間もウチの珈琲無しで良く平気だったわね?」
 綺麗な手で水をテーブルに置きつつ、切れ長の美しい瞳が悪戯っぽく輝く。こんな風に、年上とは思えないほど気さくで、いろんな相談を聞いてくれる、俺にとっては頼もしいお姉さんといったところだ。歳は20で、バイトをして一人暮しをしながら、近場の大学に通っているらしい。
「まあね、ここの珈琲断ちも一週間が限度かな。これでもいろいろとあって、さ」
「いろいろねえ。ところでこの子、新しい彼女?見たところ中学生くらいに見えるけど」
「中学生ってのは合ってるけど、彼女はハズレ。俺の妹だよ」
「えっ?それは初耳ね。そうなんだ。この前彼女に振られたばっかりなのにって思った。私、黛 響子。よろしくね」
 響子さんは、瑠璃の身の上まで聞こうとはしなかった。妹とは言ったって、顔を見れば、血のつながりがなさそうな事ぐらい容易に想像できるからな。余計な事は聞かないというスタンスが、今はなぜか無性に嬉しかった。しかし瑠璃は、自ら事を話し始めた。
「私、瑠璃っていいます。よろしく。おにいちゃんのお父さまの友人だった者の娘です。私の父が亡くなったため、引き取ってもらったんです」
「そ、そう。そうなの。え、えっと・・・」
 響子さんは、自分があえて聞くつもりのなかった話を切り出され、ちょっとパニクっているように見えたが…。
「そうそう。どう?亮おにいちゃんは?優しい?」
 咄嗟に辺り障りの無い話題を見つけたらしい。
「はい、とっても」
「そう、よかったわね。瑠璃ちゃん、私に出来る事があったら相談に乗るわ」
「ありがとうございます」
「じゃあねっ・・・て注文取ってなかったわね。何にする?」
 喫茶館特別ブレンド二つとミックスサンドとパンケーキを頼むと、響子さんは仕事に戻っていった。
 瑠璃は、頼んだものが来るまで、俺の顔と手元の水を交互に見つめていた。が・・・。
「おにいちゃん、響子さんとどういう関係なの?」
 瑠璃は、今度は自分の指を弄びながら言った。
「どういうって・・・。単なる顔見知りさ。マスターとも親しいぜ」
「そう・・・」
 瑠璃の顔が急に沈んだ。どうしたというのだろうか。


 やがて注文の品が来ると、俺達は黙々と食べ始めた。さっきの質問から瑠璃はちっとも喋らない。どうしたもんか・・・。そうだ、危うくここに連れてきた目的を忘れるところだった。俺は、このコーヒーの素晴らしさを布教したかったんだっけ。
「なあ、まだコーヒー飲んでないだろ?飲んでみろよ」
「うん・・・」
 瑠璃は、コーヒーに口をつけた。と、見る見る内に瞳が見開かれ、感嘆の表情に変化していった。こうまで反応がいいと、こっちも気持ちがいい。
「美味しい」
 瑠璃は、溜息をつかんばかりに感想を漏らした。
「だろ?この味が分かりそうな人間にしか教えてないからな」
「そうなんだ。ありがとう、おにいちゃん」
「別に礼を言われるようなことじゃないけど?」
「ううん、私も通い詰めようかなあ」
「ははは、胃悪くすっぞ」
 何とか、会話のテンポが戻った。マスターの入れたコーヒー様サマだ。
「そうだ瑠璃、俺の出身小学校を見に行かないか?」
「何をしに?」
「う・・・そう言われると困るな。ま、イヤならいいんだけど、なんとなく俺の小さい頃の風景を見てもらいたくて…じゃ駄目かな?」
「そういうことなら…。行ってみたいな」
「よし、行くか」


 俺達は、喫茶館を出てやや東に位置する、八坂小学校の校庭に足を運んだ。ここも桜満開で新入生を迎え入れたようだ。俺は五年生の春にこっちへ転校してきたから、この小学校に通ったのは実質二年間だが、どうもそれ以上に愛着を感じてしまう。それまで通っていた、山形の片田舎の小学校なんて、クラスが学年一つだったからな。こっちに来たら、友達が沢山出来て楽しかったんだ。
「狭ぇなあ、久しぶりに来ると」
「それはそうよ。体の大きさが違うんだもの」
 小学生の頃は、校庭の端から端まで物凄く広く感じたのに。トラックの直線は50m取るのがやっとだから、高校のと比べると、約二分の一の面積になる訳だ。
「しっかし・・・。相も変わらずボロい校舎だぜ。こいつは小学校の時から変わらないな、断言できる」
 剥がれ落ちた塗装に、ひび割れた壁。ここだけはやる気がない。
「公立じゃあね。修理もままならないんじゃない?」
「そいつもそうなんだが」
 俺は、瑠璃に自分の思い出を話した。運動会の騎馬戦の話、昼休みに、ブランコから飛び降りて負傷した話、クラスで飼っていた兎が死んだ話・・・。瑠璃は特に退屈した様子もなく、俺の話を興味深そうに聞いてくれた。
「思わず長話しちゃったけど、聞いてて面白かったか?」
「うん。だって、おにいちゃんの事だもん。妹なら、おにいちゃんの事いろいろ知ってて当り前でしょ?私、もっとおにいちゃんの事を知りたい、もっとほんとの兄妹みたいになりたい・・・。こういう時はどうすればいいの?」
 瑠璃・・・。
 兄弟になったばかりで、戸惑いも多々あるだろうに…こうまで積極的に俺と家族になろうという姿勢に、不意に胸が熱くなってしまう。
「これから徐々に知っていけばいいさ。時間はたっぷりあるんだ。焦ることはない。それに・・・。俺も瑠璃の事、もっと知りたい」
「うん。私も自分の事知ってもらいたい・・・」
 なんだか、言葉も無く見つめあったりして・・・。これじゃあ、第三者が見たら兄妹に見えないだろう。そう考えたら、柄にもなく照れてしまい、視線を外す。
「おにいちゃん、夜桜キレイな所ある?あったら行ってみたい」
 そんな気まずい雰囲気を察したか、瑠璃が俺を見上げて聞いた。
「夜桜…か。そりゃまたどうしてだ?」
「うん。ちょっと…、思い入れがあって」
 そう言うと、瑠璃は微笑んだ。その微笑があまりに寂しそうなので、それを吹き飛ばす位、大袈裟に振舞う。
「そうか、OKOK任せとけ。あるぜ、名所が。じゃあ、夜に行ってみるか、弁当でも持って」
「うんっ!!」



 午後七時半。俺達は自転車の二人乗りで、駅から北、約2Kmにある総合公園にやって来た。ここは、野球場や陸上競技場などがひとつの場所に集まっていて、駅からのアクセスも容易なため、数々の試合や催しものが開かれる。そして春ともなれば、桜の名所として花見のメッカになる。今日も陽気が良かったために、既に出来上がっちゃってる人が沢山いた。
「すっごい人・・・」
「まあ、名所だからな。でも、穴場があるんだ。来いよ」
 瑠璃の手を引き、雑踏の中心からは離れる方向に導く。そこは、公園に隣接している高校のグラウンドの中だった。
「いいの?ここ、学校でしょ?」
「構わないさ。花見どきだ、大目に見てもらおう」
「ふふっ、そうね」
 ベンチに座り、弁当を広げようとしたその時。何気なく瑠璃を見ると、光るものが頬をつたっているのに気がついた。
「お、おい、どうした?」
「私、昼間、夜桜に思い入れがあるって言ったの憶えてる?」
「ああ、だからここに連れてきたんだぜ」
「うん・・・。思い入れっていうのは、お父さんとの事なの」
 この場合の「お父さん」は、俺の親父ではなく岩戸教授の事を指すのだろう。
「昔、まだ幼稚園ぐらいの時、今みたいに夜桜見に連れて行ってもらって、すっごく楽しくて・・・すっごくキレイで・・・それ以来、夜桜見るとお父さんの事思い出して、でももうお父さんはこの世にはいなくて・・・」
 瑠璃は、なんとか聞き取れるぐらいの、早口の鼻声でそこまで言った。まるで、腹の底からの嗚咽に、言葉が押し出される様に。そして、俺の胸に飛び込んできた。
「お願い、おにいちゃん。今日で最後にするから・・・」
 今日で最後。その言葉は、こっちに引っ越して来る前から、数え切れないほどの涙を零した事をも意味している。
「最後にするから、泣かせて。泣いたら、きっともう平気だから・・・」
 言い終るとすぐに、瑠璃はわっと泣き始めた。その泣き方はあくまで激しく、赤ん坊がいなくなった母親を必死になって探しているようなものだった。瑠璃の、お父さんを想う気持ちが、どれだけ深かったかが分かる。俺まで鼻の奥がつーんとしてきて…涙をこらえるのに苦労するぜ。受け止めてやる側も泣いてちゃあカッコつかないもんな。
俺は、瑠璃の背中をそっと抱いてやり、自分は桜から目線を外さなかった。頭を撫でてやると、泣き声が一層大きくなった。体を俺の胸にさらに押し付けるようにしてくる。俺は、いつまでも瑠璃を抱いてやっていた。



 俺は・・・俺は、岩戸教授のかわりに、瑠璃を守ってやれるのだろうか?ま、今考えてもしょうがないな。ベストを尽くすだけだ。俺はそう覚悟を決め、思い出の桜を通して、岩戸教授に誓った。


 水銀灯の光に照らされた薄紅色の桜が、ぼうっと闇から浮かび上がっていた。


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