アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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高村薫「ウクライナ講演」から考える<上>「戦争報道」

2022年11月28日 | 国家と戦争
   

 20日付の中国新聞に、作家の高村薫氏が新聞通信調査会シンポで「ウクライナ報道から学んだ幾つかのこと」と題して行った講演の要旨が掲載されました。きわめて示唆に富む内容なので、講演を手掛かりにウクライナ情勢にどう向き合うか、2回にわたって考えます(写真左はNHK・ETV特集より)。

 第1回は、「戦争ジャーナリズムとの付き合い方」(高村氏)です。講演の関連部分を抜粋します。

< 私たち一般市民は、日々入手する新聞やテレビのニュース、SNSで発信される情報をうのみにしてはならないことを思い知ったのではないでしょうか。

 日本は戦争報道のうさんくささやプロパガンダに慣れていないし、耐性もない。その一方でSNSの時代だから雑多な情報だけは、山ほど飛び交っています。

 戦争ではメディアも得られる情報は限られ、詳細な情報は政府や自治体の発表に頼ることになる。それを検証するすべもなく、どこまでが真実か、留保をつけなければならない状況が続きます。

 最初の頃に印象的だったのは、ウクライナ軍の姿が見えなかったこと。あちこちで戦っているはずのウクライナ軍の姿が少しも入ってこないのはなぜか。戦時下のウクライナによる情報統制だと気づくのにだいぶ時間がかかりました。ウクライナの公共放送も沈黙し、ゼレンスキー大統領が一人、SNSで戦況を発表し続けていました。

 大統領は各国議会で感動的な演説を繰り返し、西側諸国は軍事支援を加速させていく。ウクライナは西側に代わりロシアと戦争をしているという部分を前面に押し出し、支援を正当化していったが、この構造を可視化させたのもメディアでした。

 これだけ情報環境が発達した時代でも、ひとたび戦争となれば、現地にいない人間が正しい状況を把握することの困難は想像以上でした。ウクライナとロシアの双方が情報を発信しても、ほとんどプロパガンダであり、フェイクニュースと見なした方が間違わないでしょう。

 ゼレンスキー大統領がブチャの町に立ち、残虐行為を厳しく批判した。ロシアの戦争犯罪は紛れもない事実である一方、その事実を最大限利用して(あえて遺体を放置して)西側諸国にロシアの非を訴えるプロパガンダでもあったということです。これが戦争というものの現実であり、戦争報道の実態です。私たちはよほど冷静でなければなりません

 私たちはウクライナ報道を通じて戦争ジャーナリズムとの付き合い方の難しさを学びました。それを生み出しているのは、情報を発する側、すなわち政府の意図により情報にバイアスがかかっていることに加え、メディアにも統制というかたちで圧力や制限が加わるからです。

 日頃から社会や世界の動きに注意深く接するように心がけること、何が正しいのかを簡単に決めつけないことです。情報の入手先を多様化するのが、この情報化社会でできる限り間違わずに生き抜くために欠かせない処世術です。>

 ゼレンスキー大統領はじめウクライナ側の発表や西側の情報が量的に圧倒的し、またそれが正しいと印象付けされる日本の報道の中で、高村氏の「冷静に」という指摘はきわめて重要です。

 同時に考えたいのは、高村氏が指摘するようにプロパガンダと情報統制が支配する戦時下では、私たち「一般市民」が戦争の「真実」を知ることは絶対に不可能なのだろうか、ということです。

 高村氏が強調する「日頃から社会や世界の動きに注意深く接する」ことや「情報の入手先を多様化する」ことの重要性はその通りと思います。しかし問題は、それは「一般市民」にとってけっして簡単ではないということです。

 それを実行するには、ネットやSNSが有力な手段になるのでしょう。しかしネットやSNSの情報にも「検証」が必要です。またそもそも、私も含め、60代以上の多くはネット情報に不慣れであり、また懐疑的なのではないでしょうか。

 ではどうすればいいのか。正解はないのかもしれません。

 ただ1つ言えるのは、「戦争ではメディアも得られる情報は限られ、詳細な情報は政府や自治体の発表に頼ることになる」(現状はその通りなのですが)と決めつけてはならないのではないか、ということです。

 言い換えれば、戦時下であっても、国家権力によるメディアへの「統制」「圧力」「制限」を許してはならない、取材・報道の自由は「戦争報道」においても保障されなければならない、ということではないでしょうか。

 なぜなら、「一般市民」にとってメディアは、それほどかけがえのない存在だと思うからです。
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