アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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ワクチンと東京五輪

2021年01月21日 | コロナ禍と政治・社会

    
 自民党の二階俊博幹事長は20日の衆院本会議で、新型コロナのワクチン接種を急ぐよう促し、菅義偉首相はこれに答えて「2月下旬までには開始できるように準備している」と答えました。5月には一般への接種を始めたい意向と報じられています。

 有効なワクチンはもちろん待望されます。しかし、世論調査ではワクチンは必ずしも歓迎されていません。NHKが1月9~11日に実施した調査では、「ワクチン接種したくない」という人が38%にのぼっています(「接種したい」は50%)。女性では「接種したい」42%に対し「したくない」が44%と上回っています。その主な理由が副作用(副反応)に対する不安であることは明らかです。

 山中伸弥京都大教授は、「ワクチンでリスクを抑えられれば、今の閉塞感は一気に打破されるでしょう」としながら、「ただ、多くの健康な方に投与するので、追跡調査は非常に大切です。安全性は石橋を何度たたいても十分ということはありません」(3日付中国新聞)と、安全性の慎重な検証に十分な時間をかける重要性を強調しています。

 ワクチンに対する不安は、こうした追跡調査を含め、菅政権がはたして十分な安全性の検査・検証を行うのか、という不安・不信ではないでしょうか。なぜなら、菅政権にはワクチンを急がねばならない理由・政治的思惑が、支持率低下の歯止め以外にもあるからです。それは東京オリンピック・パラリンピックです。

 世界中でコロナの変種が現れ深刻な状況にあるにもかかわらず、菅首相はいまだに、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」(18日の首相の施政方針演説)などと言って東京五輪開催に固執しています。

 自民党の下村博文政調会長は18日の民放テレビで、東京五輪開催の最終的決定を「3月下旬を目安に」行うと述べました。それまでになんとしてもコロナ感染を下火にしなければならない、というのが政府・自民党の思惑です。菅政権の「ワクチン接種日程」が「東京五輪日程」を念頭に設定されていることは明らかです。

 加藤勝信官房長官は19日の記者会見で、ワクチンの接種状況は東京五輪開催の可否を判断する前提ではないと述べました。しかし、ワクチンの効果なくして大規模なイベント開催が不可能であることは世界の常識です。加藤氏の発言は、市民の疑念・批判を念頭に、あえてワクチンと五輪の関係を否定してみせたものでしょう。

 そもそも専門家は、「ワクチンに期待しすぎないこと」(高山義浩氏、『コロナの後を生きる』村上陽一郎編、岩波新書2020年所収)と警鐘を鳴らしています。「ワクチンが供給されれば、そのまま普及して、全世代において接種が進むわけではない。その有効性だけでなく、副反応のリスクについても丁寧に説明していくことが求められる」(同)からです。

 国内でワクチンの開発を行っている東京大医科学研究所の石井健教授(ワクチン学)は、12月の日本記者クラブでの講演で、「感染者がほとんど現れなくなるなど社会的に(ワクチン)効果が実感できるようになるまでには最短でも4、5年はかかる」(12月27日付中国新聞)と述べています。

 ワクチンの拙速は絶対に禁物です。十分時間をかけた検査・調査が不可欠であるのもかかわらず、菅政権があくまでも7月の東京五輪開催にこだわる限り、ワクチンの安全性に対する不信・疑念を消すことはできないでしょう。結果、有効なワクチン接種の普及を遅らせることにもなります。

 各種世論調査でも東京五輪の予定通りの開催を支持する世論は10%台(11日発表の共同通信調査14%、16日発表のNHK調査16%)に下落しており、破綻はすでに明白です。菅政権は素直にそれを認め、東京五輪の断念・中止を一刻も早く内外に表明すべきです。それが、安全なワクチンの普及、ワクチンへの信頼性にとっても不可欠であることを肝に銘じるべきです。

 

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