


韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領がついに拘束されました(15日)。現職大統領の拘束・逮捕は初めてです。ハンギョレ新聞は社説(16日付日本語電子版)でこう書きました。
「現職大統領が法の名のもとで逮捕されたことこそ、「法の前の平等」という憲法の原則を実現し、法治国家としての力を示した。世界の民主主義の歴史に記録されるほどの事例だ」
この画期的な事例をつくりだした背景に、大統領警護庁(処)職員たちの良心的不服従がありました。
「大統領に対する逮捕状の執行に協力した大統領警護処の職員たちに声援が数多く寄せられている。
ソウル中央地裁で判事として勤めたソウル市立大学法学専門大学院のチャ・ソンアン教授は、フェイスブックに文を載せ「警護処職員こそ英雄」とし「国会前で消極的不服従を繰り広げた軍人たちのように、文武を兼備した最高の公務員である警護処職員が大韓民国の法治主義を救った。憲法を救った」と述べた」(16日付ハンギョレ新聞)
「12・3非常戒厳」を不発に終わらせた大きな要因に軍の不服従がありましたが(9日のブログ参照)、それに続いて尹氏拘束の背景にも不当な命令に対する警護処(庁)職員の不服従があったのです。
さらに留意すべきは、軍人や警護処職員のこうした良心的不服従を支えているのが韓国市民だということです。
「民主主義を守ろうとする市民の堅固たる意志は、国会による尹大統領弾劾をけん引したのに続き、公捜処(高位公職者犯罪捜査処)と警察の断固たる法の執行も引き出した。軍と警察が令状執行に協力することになり、強硬派に振り回された警護処まで協力に回った背景にも、やはり市民がいた」(ハンギョレ新聞16日付社説)
翻って、日本はどうでしょうか。
安倍晋三政権が強行した官邸への権力集中によって、官僚(国家公務員)は政権(国家権力)になびき、「忖度」が常態化しているのではないでしょうか。それが地方政治にも伝播し、地方公務員にも首長に対する絶対服従と忖度が広がっているようにみられます。
そんな権力構造の中で、末端の公務員に権力者・組織の不正を告発する権利を保障しているのが公益通報者保護法(2006年施行)です。
しかし、それが実効力を持ち得ず、逆に通報した人を探索する「通報者捜し」・報復が行われているのが実態です。森友学園問題を告発した赤木俊夫氏の自死、兵庫県庁や鹿児島県警などでそれが表面化しました(11月12日のブログ参照)。
こうした公務員の勇気ある告発・不服従を、メディアをはじめ、日本の市民は支えてきたでしょうか。
公益通報者保護法に「探索禁止」を明記し違反には罰則を科す改正は喫緊の課題です。そしてその公務員・勤労者の権利を警察官や自衛官にも広げる必要があります。
それは日本の民主主義の重要な課題であるとともに、自民党政権が推し進めている戦争国家化に歯止めをかけることにもつながります。
それが「非常戒厳」をめぐる現在の韓国市民の闘いから、私たち日本市民が汲み取るべき教訓の1つではないでしょうか。