


2日のサッカーW杯で日本がスペインに勝って決勝トーナメント進出を決めたことで、日本中がこの話題で持ち切りになっているかのようです。岸田文雄首相も森安一監督に電話して「日本国民が勇気や元気をいただいた」などと語りました。
しかし、あえて言いますが、これは一つのスポーツの国際大会で予選を通過したにすぎません。日本のメディアの騒ぎ方は異常です。
たとえば、NHKは2日夜7時のニュースで、10分以上(3分の1以上)この話題に割き、最後にまた繰り返すという念の入れようでした(写真左)。ほかに大きなニュースはなかったのでしょうか。
とんでもありません。この日、自民党と公明党は「敵基地攻撃能力」保有の具体的な内容を正式合意しました。国際法違反の「先制攻撃」ではないと言いながら、基準はきわめてあいまいです。攻撃対象も「軍事目標」としながら「拡大解釈の余地」があるとしています。
「他国の領土や領海の中を攻撃する能力を持つことは、日本の防衛政策を大きく転換させることになる」(2日付朝日新聞デジタル)のは言うまでもありません。自民党の責任者の小野寺五典元防衛相も「日本の防衛体制の中で大きな変化だ」(同)と記者団に誇示しています。
この重大なニュースが、W杯によって完全に後景に追いやられました。
「敵基地攻撃」問題だけではありません。
岸田首相は11月28日、5兆4000億円の軍事費(2022年度、GDP比約1%)を5年後の27年度に約11兆円(GDP比2%)にするよう、浜田靖一防衛相と鈴木俊一財務相に指示しました。今でも膨大な軍事費を5年で2倍にするというとんでもない大軍拡が動きだしたのです。
しかし、この問題もW杯コスタリカ戦の翌日で、十分注目されたとは言えません。
過剰なスポーツ報道は、しばしば重要な政治・社会問題から市民の目(関心)を逸らす役割を果たします。
例えば、2004年8月13日、沖縄国際大学に普天間基地の米軍ヘリが墜落する重大事故(事件)が起こりましたが、ちょうどアテネ五輪開会式と重なったため、「本土」メディアが五輪の方を大きく報じたことはその典型例です。
「敵基地攻撃」も「11兆円軍事費」も、岸田政権が今月中旬に閣議決定する「国家防衛戦略」など「安保3文書」に盛り込まれます。「3文書」はまさに、憲法の平和条項を正面から踏みにじる歴史的な転換点になります。
岸田政権・自民党はそれに向けて着々と歩を進めています。この重大事態がサッカーW杯の熱狂によって覆い隠されているのではないでしょうか。
日本がいま騒がねばならないのは、W杯ではなく、歴史的転換点となる大軍拡・軍事大国化であり、それを阻止することです。