サンタフェより

高地砂漠で体験したこと 考えたこと

火を盗んだコヨーテ (クラマス族)

2005年11月28日 | 魔法としての言葉
その昔、人々は火を自由に使うことができなかった。冬になっても、暖をとることができなかったし、食べ物は生のまま食べた。火は雷が守っている大きな白い岩の中に、閉じ込められていた。雷はとても恐ろしく、誰もが怖がっていた。熊やクーガーでさえも、雷がゴロゴロいうと身を震わせた。

コヨーテは雷を恐れていなかった。実際、彼には何も怖いものがなかった。ある日、雷の機嫌が悪く、鼻息荒くうなり声をあげ、動物たちはこわがってみんな隠れていた。コヨーテは、雷から火を奪ってやるのによい機会だと考えた。彼は雷が住む高い高い山の上へ登って行った。「やあ旦那」コヨーテは言った。「サイコロゲームをしましょうや。旦那が勝てば、おいらを殺してもかまわないよ。おいらが勝ったら火をいただくってのはどうでしょう?」「よし、いいだろう。」と雷は答えた。

二人はビーバーとマーモットの歯でできたサイコロを使って、ゲームを始めた。ビーバーの歯は男サイコロ、マーモットの歯は女サイコロ。歯の片面には模様が彫られた。サイコロを平板の上に投げ、男サイコロの模様が上に出たら2点。女サイコロの模様なら1点。歯が平になって落ちなければ、得点はなし。木のひごで、得点を数えることにした。

さて、誰でもご存知のように、コヨーテは世にも知られたペテン師である。どんなゲームでも、うまくごまかして勝ってしまう。賭け事にかけて、雷はコヨーテの足もとにも及ばなかった。雷がちょっと目を離したすきに、コヨーテは自分のサイコロの模様の面が出るように、ひっくり返してしまう。雷のサイコロは、何も彫っていない面を上にする。ほんのまばたきした瞬間も逃さず、数え棒をサッと取ってくる。しまいに雷は、コヨーテがズルをしているのはわかっていたものの、どうしても証拠をつかむことができず、どんどん混乱してしまった。「旦那、わたしの勝ちのようですよ。」とコヨーテ。「さあ、火を渡していただきましょうか。」

コヨーテは他の動物を山の上に呼んで、火の入っている大きな岩を運ぶのを手伝ってもらうことにした。その岩は固く見えるが、貝殻のようにとても壊れやすかった。すべての動物は、注意深く岩を持ち上げようと構えた。すると雷は「ちょっと待った!」「コヨーテが勝ったのだから、お前たちに火をやるのはいいだろう。だが、あいつはズルをしおった。よって、わしはあいつの命をもらう権利があるぞ。奴はどこだ!」

コヨーテは、雷が怒ってこう言い出すだろうと重々承知であった。雷がやって来る前に、コヨーテはからだの外側、皮も毛もしっぽも耳も、まとめて体からはずすと雷のそばに置いた。そして内側、内蔵すべてを遠くに隠した。それから彼は自分がすぐ近くにいるように声色を調整して、「ここですよ。殺せるものならどうぞ。」と叫んだ。雷は火の入った大きな岩を持ち上げると、コヨーテめがけて投げつけた。しかし岩は、コヨーテのそと皮に当たっただけで、粉々に割れてしまった。山に集まった動物たちはみんな、小さくなった火の岩のかけらを脇の下や翼の下に入れて、てんでんばらばら世界中に帰って行った。そうやって、地上の部族はみんな火を使えるようになった。コヨーテは体の中身にそと皮をもどし、こう言って去って行った。「さよなら、旦那。もう二度と賭け事はいけませんよ。あなたはあまり上手じゃないようだ。」

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2 コメント

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Unknown (sato)
2005-11-28 21:30:01
そちらでは火にまつわる色んなお話があるんですね。私も火好き。でもこの狭い家事情の日本焚き火なんてできないし。まして暖炉なんてめったにある家なんてないし。(今年は灯油高で、家庭用暖炉が売れてるらしい)だからいらなくなった書類がたまったら植木鉢に入れて燃やして火を見てる!こわいようなわくわくするような、不思議な気分になる。薪ストーブがあったらな~
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火事に気をつけて遊んで下さいね (Satori)
2005-11-29 03:13:35
どうしてあんなにおもしろいのでしょうか?「危険な遊び」だからかなぁ?コヨーテがせっかく盗んで授けてくれた火ですから、扱いには気をつけてゆきましょう。お隣さんに火が移ったら、大変です!
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