飛び出せ! 北の宇宙基地

北の地である北海道で、人工衛星の開発などを行っている 北海道工業大学 佐鳥研究室の活動日記です。

研究紹介: 係留型ハイブリッド飛行船システム

2014-11-02 07:49:36 | 佐鳥新の教授&社長日記

共同研究:北海道科学大学、NPO法人北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)、北海道衛星株式会社

はじめに

近年の高比強度材料の進歩により、高高度にある飛行船を係留することが可能になり、新しいプラットフォームとしての利活用を視野に入れることができるようになってきた。ローカルではあるが、定点に固定することにより、飛行船の運用コストが不要となることから、使い方によってはメリットが大きい。また、10t以上の飛翔体を成層圏で係留することができれば、通信やリモートセンシングだけではなく宇宙観光としての使い方も可能となると考えています。

従来の気球や飛行船は風速の小さな環境(風速10m/s以下)で飛行するシステムでしたが、ここで提案する係留飛行船は機体形状を3次元的な翼形とすることによって、揚力を積極的に利用します。翼形状をもった飛行船は一般的にはハイブリッド飛行船と呼ばれ、最近ではアメリカの企業が開発を始めています。
翼の揚力をL、抗力をDとするとき、L/Dが2以上であれば風に流されることなく飛行船は係留点のほぼ真上に上昇することが期待できます。高度10キロ付近では100km/h以上のジェット気流が存在しますが、むしろその強風を積極的に利用することによって位置と姿勢を安定化させようという点が従来のシステムとは根本的に発想が異なります。
飛翔体を定点にテザーで係留することの最大のメリットは、姿勢・軌道制御が不要となることにあります。これは運用コスト(維持費)が不要となる可能性を持っていることを意味しています。

高度別の大気圧(左)と風速(右)図1 高度別の大気圧(左)と風速(右)

係留型ハイブリット飛行船の概要

係留型ハイブリッド飛行船の概要を以下に列挙します。

  • 高度20kmの定点に常時停留させる定点固定型プラットフォーム
  • 地域ローカル通信、リモートセンシングのプラットフォームとして活用(平常時ミッション)
  • 飛行船(母船本体)は、降ろさない
  • 安価な水素ガスを利用
  • 必要な電力は、太陽電池で現地調達
  • 補充ガスおよびペイロードは、地上からテザー経由で小型飛行船の浮力を利用して搬送
  • 災害発生時、ローカル通信拠点として非常時ミッション(防災ミッション)に切り替える

大型のプラットフォームを高度10km以上の位置につくることによって、3次元空間を積極的に使うことができます。図2は係留飛行船のイメージです。

係留飛行船プラットフォームイメージ

係留型ハイブリット飛行船のメリット

係留飛行船を採用する上での優位性は以下のとおりです。

  • 安価で簡便なシステムであることから、民間参入のハードルが低い
  • 直径550km程度のエリアをカバーできる。(ローカル通信の場合)
  • 母船では軌道制御をしない(ペイロードによる姿勢制御)
  • ペイロードを定期的に降ろすことが可能なため、メンテナンスに対するハードルが低い
  • 水素は、酸素がなければ燃えず、静電気を逃がすことができば、発火せず”意外にも”安全

成層圏定点プラットフォームへの応用

高度別の空間の利用方法(ニーズ)を以下の表にまとめます。

高度
[m]
高度別の渓流飛行船の利用方法
2,500 ローカル通信(SoftBank,北海道大学 小野里教授)
5,000 ローカル通信
10,000 リモートセンシング
15,000 空中発射
20,000 観光(宇宙体験),沿岸監視
30,000以上 X線計測(素粒子実験)

高度20kmの成層圏にプラットフォームを作ったときに使い方としては次のようなものが考えられます。

  • 地域農業の定点観測プラットフォーム
  • 直径20kmのエリアをカバー(北海道空知の場合)
  • 交通、火山、洪水などの災害状況、気象観測
  • 地域農業の定点観測プラットフォーム
  • 重要施設や海岸線などの監視

成層圏定点プラットフォームの応用例

開発目標

1.係留飛行船のミッション

  • 定点監視、通信(特に光通信)、リモートセンシング
  • ロケットの新しい打ち上げ手段を確立
  • 観光[宇宙と地球の境界を見る](高度10km以上、浮力100ton)
  • 高度30kmではX線観測(理学観測)

2.係留飛行船の飛行高度目標値

  • 2段式とする
  • 1段目を12~13kmとする。(空中発射には10kmでは少し距離が不足する)
  • 2段目は1段目から放出し、30km程度の高度を目標

係留飛行船のペイロード重量(規模)

  • 定点監視、通信(特に光通信)、リモートセンシング
  • ロケットの新しい打ち上げ手段を確立
  • 観光[宇宙と地球の境界を見る](高度10km以上、浮力100ton)
  • 高度30kmではX線観測(理学観測)

2.係留飛行船の飛行高度目標値

  • 将来構想として100tonまでのシステムを検討する。重量の1/3をテザーが占めるので、160ton程度の浮力が必要
参考文献

HASTIC学術講演会 2014年2月 NPO法人 北海道宇宙科学技術創成センター 秋葉鐐二郎 会長
日本航空宇宙学会年次総会 2014年4月  北海道科学大学 千葉一永 准教授
機械学会年次大会 2014年9月 北海道科学大学 佐鳥新 教授(北海道衛星株式会社代表取締役) 他
電気・情報関係学会北海道支部講演会 2014年10月 北海道科学大学 三橋 龍一 教授(2件)

 URL:http://www.hokkaido-sat.co.jp/about-collaboration/hybrid-airship-pj.html 



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