佐藤直曉の「リーダーの人間行動学」 blog

リーダー育成のための人間行動と人間心理の解説、組織行動に関するトピック

リーダーの暗示学616――北朝鮮関連動向をまとめてみた

2006-10-11 17:29:27 | 先見力訓練法
 今日はお休みしようかと思いましたが、北朝鮮の核問題が深刻化してきました。こういう大事な問題はやっぱり自分で考えてみないといけません。そこで、現状をまとめ、将来動向を占ってみました。私はこの問題には全くの素人ですので、そのおつもりで読んでください。

 
「北朝鮮の戦略」
北朝鮮の目的は現体制の維持。これしかないだろう。そして、それを可能とする戦略を北朝鮮は今、着実にとっている。

戦略:
・韓国を取り込み、韓国と米国を仲たがいさせる
・米軍が朝鮮半島から撤退したあと、核を武器に朝鮮半島の主導権を握る
・核によって、韓国は北朝鮮の人質となり、北朝鮮のいいなりになるしかない
・韓国を食って核実験の制裁を乗り越え、やがてインドやパキスタンのようになる

(北朝鮮は、6カ国協議の再開に応じるという声も一部には聞かれる。しかし、仮に再開しても、成果があがる可能性は少ない。一時的な時間引き伸ばしに過ぎないだろう)


「従来の中国の対北朝鮮戦略」
中国は自国の経済発展を最重要視しているため、その妨げとなるような要因、つまり北朝鮮の核開発によってもたらされる地域の不安定化を避けたかった。

そのためには、問題の平和的解決が必要である。一方で北朝鮮の過激な行動を抑止し、他方で北朝鮮の立場を理解してアメリカの強硬姿勢に反対しながら、双方の対話促進に努力してきた。

簡単に言えば、これは現状維持政策ということである。中国にとって望ましいのは、北の体制が存続し、北自身が体制を徐々に改革することである。それが進めば、朝鮮半島における中国の支配的影響力が確立されることになる。ただし、この場合には、安全保障問題で北の責任ある行動が望まれる。

従来の中国の北朝鮮政策の優先順序をまとめてみよう。

1北朝鮮の存続
米軍との緩衝地帯としての必要性から、北朝鮮の不安定化や崩壊は危惧すべきものである。また、韓国主導の南北統一により、強力な国家が誕生することにも警戒心がある。

2難民の大量流入を阻止する
当面、中国の最大の関心事は、中朝国境における摩擦の増加や脱北者激増を是非とも回避することである。そのために、北朝鮮に対する援助を行うことになる。

3朝鮮半島の非核化
中国は、北朝鮮に抑制ある態度を望んでいた。


「想定される中国の変更されるであろう対北朝鮮戦略」
しかしながら、北朝鮮が中国の度重なる要請を拒絶して核実験を強行した結果、中国は従来の対北朝鮮政策の優先順位を完全にひっくりかえさせられるかもしれない。

1北朝鮮の核保有を廃棄させる(あるいは平和利用に限定させる)

北朝鮮が核保有することで、中国は、韓国、日本、台湾などの核保有を心配しなければならなくなる。
しかも、北朝鮮の核保有の余波は北東アジアだけに限らない。
東南アジアではインドネシア、ベトナム、ミャンマーが核への関心を高めているという。
核兵器がアジア全域にドミノのように拡散する最悪のシナリオも想定できる。
問題が突然大きくなったということである。

2北朝鮮の存続
  同上

3難民の大量流入の阻止
  同上

2と3の優先順位は微妙である。状況次第であろう。


「アメリカの対北朝鮮戦略」
アメリカの目的はテロの撲滅である。そして、米国は核の第3世界拡散を懸念している。

アメリカは、核物質がニューヨークに落ちる可能性に危機感を感じ、これを防ごうとするはずだ。この危機感は、日本人にはピントこない。9.11のテロ攻撃を受けた国民でないとわからないだろう。ちょうど、日本人の核アレルギーが他の国々にピントこないのと同じである。

・アメリカとしては、北朝鮮による核の拡散(テロリストへの核の売却)は、譲れない一線である。

・北朝鮮への対応は、イランの核開発抑制に対する試金石にもなっている。もし、北朝鮮の強行突破を認めれば、他の国に対する威信が損なわれる。特に対イランや対イラクに悪影響が出る。

・北朝鮮が核保有することで、韓国、日本、台湾などアジア地域での核拡散を心配しなければならなくなる。

アメリカの戦略:
北朝鮮の体制が金正日からまともな民主政権に代わること。


「韓国の対北朝鮮戦略」
もはや、韓国は自らの主導権でこの問題に対処する能力を失ってしまった。これまで南北は通常兵器による軍事的均衡を保つことができたが、北の核保有が既定事実化した今、その均衡は崩れた。 軍事的に北朝鮮が韓国よりも優位に立った。

韓国の対北朝鮮政策は周辺国の意向次第になってしまった。核保有を唱える世論が韓国内に高まっているが、それとてアメリカの意向次第だろう。

事態をここまで悪化させた責任の一端は、盧大統領らの反米、親北朝鮮政権の無能にある。イデオロギーに囚われて、現実を直視できなくなったからである。

彼らの発言はwishful thinking(希望的観測、事実よりも自分の願望に基づく考え方)のオンパレードである。

盧大統領は2005年1月の記者会見では、中断していた6カ国協議について
「開催への条件は整った。障害の理由はほとんどないように思える」と語った。
その1カ月後、北朝鮮は6カ国協議中止と核保有宣言を行った。

2005年9月19日に6カ国協議の共同声明が出た際も、韓国政府は「民族的快挙」と持ち上げたが、北朝鮮はたった1カ月で破ってしまった。

盧大統領は、今年5月にモンゴルで「北朝鮮に対し、条件なしの支援をしようと思う」と述べ、「北朝鮮の核問題はきちんと管理していける」と言っている。

今年7月のミサイル発射前後にも、大統領と政府は「ミサイルなのか人工衛星なのか確認できない」、「政治的問題であって、安保問題ではない」、「アメリカの失敗」と発言した。

先月のフィンランド訪問では「北朝鮮の核実験について根拠なしに話すのは、多くの人々を不安がらせるだけでなく、南北関係に有害となる恐れがある」と語った。

北朝鮮外務省が核実験計画を宣言(3日)した当時、日米は直ちに実験の可能性を認めたが、韓国政府当局者は当時、「いつだ、何日だというのはすべて推測に過ぎない」とした。当局者らは、核実験当日の9日午前まで「特別な兆候は発見されなかった」としている。

イ・ジョンソク統一部長官は4日に緊急招集された国会常任委員会の報告でも「米国圧迫カードの性格が強い」としている。実験の時期についても「6カ国協議再開の努力が不発の終わる場合…」とした。尹光雄(ユン・グァンウン)国防長官も同じような分析を報告している。


「北朝鮮に対する影響力」
中国の影響力が最も大きい。中国は北朝鮮の最大貿易国であると同時に援助国であり、投資国だ。2000年以降、中国が鉱物開発などをために北朝鮮に投資した金額は10億ドルを超えるという。

また北朝鮮の貿易物品のおよそ3割が、中朝間の国境を通じて搬入されると推定されている。

中国が国境閉鎖措置を取るだけでも、北朝鮮経済は深刻な影響を受けるのは想像するに難くない。

韓国も大きな影響力がある。98年以降、南北経協に7兆3000億ウォンを投じている。 昨年の北朝鮮との貿易規模も10億ドルを超える。

今年、北朝鮮に直接支援する金額だけでも1億868万ドル(約1775億ウォン)にのぼる。さらに金剛山(クムガンサン)観光と開城(ケソン)工業団地事業で北側に昨年1626万ドルを提供した。 こうした事業が一時中断する場合、北朝鮮はドル不足に苦しむ可能性がある。


「一般に流布されている通説」
以下は今のところの通説である。

・国連憲章第7章を援用して軍事的制裁に踏み切ることには中国が反対する
 今のところは、そのとおりである。しかし、北朝鮮の突出がさらに続けば、果たしてどうだろうか。

・アメリカには北朝鮮に対する軍事的オプションは存在しない
 政府高官もそのように発言している。しかし、事態が緊迫化したらどうだろう。リビアの例もある。
 

「今後の動向」
韓国や中国は、一貫して北朝鮮の戦略遂行を過小評価してきた。その結果が、核保有へと北朝鮮を走らせた。

しかし、韓国はこれからはアメリカに追随せざるをえないだろう。そこで、中国の動向が最も問題になってくる。

北朝鮮は追い詰められているが、それと同じくらい中国も追い詰められつつある。北朝鮮の突出のおかげで、中国も選択を迫られているように思われる。このまま北朝鮮の戦略遂行を黙認するか、それとも制止するかである。

制止する選択を選べば、半島で戦争が起きるかもしれない。しかし、制止しなければ、東アジアおよび東南アジア情勢は泥沼に陥る可能性がある。核のドミノ現象である。これは中国としても到底受け入れられない。これは中国存続の危機につながる。

この事態はアメリカにとっても認められるものでない。北朝鮮が核保有国となり、テロリストたちを活気づけることはアメリカにとって到底認められない。

2008年には北京オリンピックが、2010年には万博が開催される。中国は世界を敵にはできない。状況がさらに深刻化すれば、米中の利害は一致するようになるだろう。

米中が手を組んだとき、今流布されている通説はもはや通説足り得なくなる。もう一度通説を再掲しておこう。

 ・国連憲章第7章を援用して軍事的制裁に踏み切ることには中国が反対する。
 ・アメリカには北朝鮮に対する軍事的オプションは存在しない。


 状況が緊迫化するときは、どんなことが引き金になるだろうか。思いつくままにあげてみよう。

 ・経済制裁が強化され、予想以上に効果をあげた場合 アメリカによる金融制裁が効果がないという識者がいるが、それは信じがたい。北朝鮮は、「金融制裁さえ解除されれば6カ国協議に復帰する用意がある」と言っているのであるから、やはり効果はあると考えるべきだろう。

 もし、金融制裁が一層強化され、北朝鮮が大打撃を受ければ、北朝鮮は過激な行動をとり続ける以外に手段はないはずである。これは中国の期待とは正反対になる。
 
 ・中朝国境で難民が大量発生した場合
 オリンピックを控える中国は、人道的見地からアクションをとらざるをえなくなる。従来のような過酷な難民政策はとれないだろう。それがきっかになって、中朝対立が深まる可能性は十分ある。
 
 ・核関連物質の販売が露見する場合
 ・中国の現体制への影響があった場合
(具他的には何か私には分からない。スパイ行為の露見とか賄賂とかのスキャンダルなどか)
 ・テロ活動が起きた場合など

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2 コメント

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Unknown (5年目社長)
2006-10-13 00:43:36
今日も読みごたえありました、

北朝鮮問題は、重大な局面にはいってきましたね。



>過小評価してきた

確かにその通りだと思います。韓国としては

同じ民族だし、中国は同じ共産圏だし。



ただ、ミサイル発射の時にしても、今回の核実験にしても

それらの技術力には疑問符がつきそうです。



しかし問題はテロ、日本にも工作員が沢山潜伏していますから

これには警戒する必要があるでしょうね。

返信する
5年目社長様へ (佐藤直曉)
2006-10-13 08:56:53
コメントありがとうございます。



>しかし問題はテロ

おっしゃるように、一番怖いのはこれかもしれません。

兵器については、さびついていて、ろくなことはできないと思いますが、テロはゲリラ的にできますから。
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