7月6日、東京でのキックオフ会合が無事に終わりました。これから4年間「被ばくコミュニティ形成」科研の研究を行います。
被ばくの被害は償いきれるのでしょうか?これがこの研究を始める問いでした。第二次世界大戦後、太平洋の島国マーシャル諸島は、アメリカによる核実験場となりました。核実験で人々が被ばくしただけではなく、放射能に汚染された故郷に戻れない人もいます。現在は補償金が支払われているものの、補償金への過度の依存や、生活習慣病の蔓延、アルコールやドラッグ問題など、核実験の間接的影響が続いています。 これまでは、アメリカの加害責任を問う研究が多く、私もそのような研究を進めてきました。しかし、加害者の責任を追及するだけでは、謝罪もないまま補償金の支払いだけで終わってしまうため、解決に至らないどころか、アメリカ―マーシャル諸島間に不信感をもたらしてしまったり、マーシャル諸島に新たな社会問題を生み出したりしています。
マーシャル諸島の被ばく者側からも、補償金を獲得するために、疾病、生態系の変化、補償金の少なさ、アメリカに理解してもらえることばを選んで被害を語ってき...ました。しかし、研究する中で気づいたのは、被ばく者の中には、こうした語り口とは異なる語りをしている人がいる、ということでした。例えば、汚染された故郷を離れて暮らすことの不便や不安があります。不慣れな避難地の潮流を知らないために漁労中に遭難してしまったり、地域独特の毒魚に関する知識がないために、間違って食べてしまったり、自分たちを守ってくれるデーモン(霊的存在)を故郷に置き去りにしてしまったことの罪悪感だったり。
この研究は、償いきれない被害に向き合う方法を多くの方とともに模索していきたいと考えます。そのために、被ばく者の声に耳を傾け、理解し、さらにそれを社会に発信するツールを作り、このツールを用いて、次のように研究を進めていきます。
① 被ばくや暮らしに関する写真、映像記録などを使って、人びとの記憶を喚起し、被害者ではない人たちも含めて、被害を共有していくワークショップを日本とマーシャル諸島で開催します。
② 被ばく当事者がインターネット上に書き込みをし、それを閲覧した人たちと被ばく者が、互いに被害観を語り合うことのできるウェブシステム「マーシャル諸島アーカイブ」を作ります。アーカイブは、アクセスする人たちが更新し発展させるとともに、随時改良していきます。アーカイブを通じて、新たな「被ばくコミュニティ」を形成する後押しをしていきます。
正式名称:科研費補助金基盤研究(C)「写真着彩技術と対話を活用した持続可能な被ばくコミュニティ形成の応用人類学的研究」