『深く深く、砂に埋めて」 真梨幸子

2012年11月03日 18時36分59秒 | 読書
寒いですね。これでもまだ20度きったくらいだから、冬はもっと寒い。(←あたりまえ!)



「かつて一世を風靡した美貌の女優・野崎有利子。彼女に魅せられたエリートサラリーマンが、殺人と詐欺の容疑で逮捕された。やがて明らかになる男の転落と女の性。奔放に生きる有利子は悪女か、それとも聖女なのか?悪女文学の傑作『マノン・レスコー』を下敷きに、女のあくなき愛と欲望を描く長編ロマンス。」(BOOKデータベースより)


真梨氏のほかの作品(といっても読んだのは「殺人鬼フジコの衝撃」だけですが。)とくらべると人もそんなに死なないし、そこまで悪女じゃないので思いのほか楽しめてしまいました。
殺人鬼フジコの衝動のときに期待の作家と表現しましたけど、期待を裏切らなかったです。

冒頭の一節を引用しますね。

私は恋ゆえに盲目となった一青年を描こうとしているものである。彼は幸福であることを拒絶して、結局は、悲境にみずからとびこもうとする。かがやかしい未来を約束している、あらゆる才質をかねそなえながら、みずから好んで裏街道をごろついて、運命と自然がもたらす有利な条件のごときもことごとく棒に振ってしまう。自分の不幸が目に見えているのに、避けようともしない。もとより、そうした不幸を身をもって感じもし、また、その蹂躙にまかされてもいるのだが、親しい人たちから不幸払いの方法をたえずさずかりながら、それをいっこうに利用しようともしない。(中略)――以上が、私のこれからお目にかけようとする絵巻の背景をなすものである。   アベ・プレヴォー   (「マノン・レスコー」作者の言葉より)


この作品は、この「マノン・レスコー」の日本版っていう感じです。

主人公は弁護士の篠原賢一。
物語は基本的にこの人の一人称で進んでいきますが、ところどころ手記であったり手紙であったりが登場します。
そしてキーパーソンが野崎有利子。
上に引用した通り一世を風靡した美貌をもつ彼女は多くの男を虜にし、たくさんのお金を貢がせていた。
ただ、この有利子はそこまで悪女っていうわけじゃない。
貢がせていたとはいえ、男たちが自主的にお金をかけてきているだけ。
まあ、売春して生計を立ててるくらいだから聖女っていうわけにはいかないとおもうけど。

そんな彼女に出逢った斎藤啓介。
かれは有利子に魅せられ、多くの金を貢ぎ、悪に手をそめ、詐欺を働いてまで貢ぎ続けた。
そんな斎藤が逮捕された。
詐欺と殺人の容疑。
その陰に見え隠れする有利子。
しかし、斎藤は有利子は無関係だという。
斎藤は嘘をついているのか。真犯人は有利子か。

そーんな話。
ただじゃ終わんないんですけどね。
なかなか面白い作品でした。

★★★★☆

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