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心理会計 (「命令違反」が組織を伸ばす(菊澤 研宗))

2007-09-19 23:33:55 | 本と雑誌

Midway  本書のテーマである「不条理(合理的)な失敗」が生じる理論的根拠として、面白い考え方が2つ示されています。

 「心理会計」「取引コスト(行動経済学)」です。

 まずは、プロスペクト理論にもとづく「心理会計」についてです。

 菊澤氏は立論にあたって、「価値関数」という概念モデルを示します。

(p45より引用) 限定合理的な人間の心のバイアスを描き出す価値関数を用いることで、一見非合理的な人間行動の合理性を説明することができる。

 価値関数を通して現実の利益を心理的価値に置き換えてみます。すると、「現実の利益の増加率よりも心理的価値の増加率が小さい」という価値関数の性質から、以下のようなケースが発生します。

(p49より引用) 予想外の利益(x1>0)と予想外の利益(x2>0)が出た場合には、二つの成果を統合勘定で処理するよりも、それぞれ別々に分離勘定で処理した方が、人間の心理的価値(満足)は高くなる。
 以上のことから、この場合、経営者は二つのビジネスの利益x1とx2の合計を最大化しようとするのではなく、それぞれのビジネスの利益を分離勘定で扱い、それぞれ時間差で最大化しようとするか、あるいはどちらか一方だけを最大化するように行動する可能性が高いといえる。その方が心理的に価値が高いのだ。

 これは、よく言われる「木を見て、森を見ず」とか「部分最適/全体最適」のissueでもあります。
 菊澤氏は、そういった判断に至る道程を「心理的価値」の大小で説明していきます。

(p49より引用) したがって、一方で0.1%の金利で子供の教育費を貯蓄し続け、他方で3%の金利で自動車ローンを組んでしまうという一見非合理な人間行動も、人間の心の中での会計処理、つまり心理会計的にいえば、分離勘定のもとに心の中では合理的に処理している可能性があるのだ。

 菊澤氏は、こういったケースの具体例として、インパール作戦における牟田口廉也中将の行動を紹介しています。

 予想外の利益がマイナスの状態(現状が想定どおりに進んでいない状況)においては、それ以上の悪化に向かうリスクよりも、状況を好転させる(であろう)期待の方を選択するのが、「心理的には合理的だ」というわけです。

 ただ、その末路は悲劇です。

(p62より引用) 利益が出ているときにはリスク回避的にすぐに利益を確定しようとするが、損失が出ているときにはリスク愛好的にすぐには損失を確定しようとしない。こうした行動は決して非合理的なものではない。心理的には合理的なのだ。
 しかし、そのような行動は客観的には必ずしも効率的ではなく、むしろ非効率的なことが多いので、結果的にそのようなリーダーの命令に従う組織は合理的に自滅していくことになる。

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