今回は、「年次改革要望書2008」に見る米国の横車についての第三弾として、日本の「弁護士業務」への米国の介入についてご紹介します。
日本では長らく、日本の司法試験に合格し弁護士登録を行った者にのみ日本国内で「法律事務」を行うことが認められ、外国弁護士(外国等において法律事務を行うことを職務とする者で弁護士に相当するもの)には認められませんでした。
しかしその後、どこぞからの圧力が働き、徐々に制限が緩和されてきました。
1986年
外国弁護士は、法務大臣の承認を受ることにより「外国法事務弁護士(≒外国ローファーム)」として原資格国法に関する法律事務を行うことができる(外弁法)。→原籍国法に関する業務の解禁。
1994年
一定の条件の下、「外国法事務弁護士(≒外国ローファーム)」と弁護士間において、日本国内の法律事務を行うことを目的とする共同の事業(「特定共同事業」)が可能になる(外弁法改正)。→パートナーシップの解禁。国内登録弁護士の雇用の禁止は従来のまま。
2003年
「外国法事務弁護士(≒外国ローファーム)」による国内登録弁護士の雇用と外国法事務弁護士と国内登録弁護士の「外国法共同事業」が、日本弁護士連合会に届け出ることにより可能になる。→日本人弁護士の雇用解禁。外国ローファームによる国内弁護士事務所の系列化解禁。
こうした流れにより、監査法人に見られるような、米国大手ローファームによる日本の大手法律事務所の系列化が可能になる下地が作られてきました。
年次改革要望書2008の内容はこの流れをさらに進め、米国企業による日本企業支配を、司法面から支えることを強く意識したものとなっています。
1.外国ローファームが直接日本に支店を開設
[年次改革要望書2008抜粋]
III-A-2. 外国ローファームならびに日本にいるその弁護士および外弁パートナーを含むすべての弁護士事務所が、専門職法人の設立にかかわらず、日本国内に複数の支店を設立することを認める。
まさに、日本の法曹(主に弁護士)登用制度に風穴を開けるものです。例えば米国で弁護士資格をとれば、日本の司法試験を落ちた人でも日本で弁護士ができるようになります(英語が堪能な人であれば、米国の司法試験は日本と比べてかなり受かりやすいものです)。
それ以上に重要なことは、日本におけるM&Aを強力に推進するための法的支援を、外国ローファームが直接的に支援することができるようになり、敵対的買収の敷居が低くなり、外国企業の日本企業支配が進むという点です。
[年次改革要望書2008抜粋]
III-A-3. 弁護士がインターナショナル・リーガル・パートナーシップのメンバーになることの法的な意義について、インターナショナル・リーガル・パートナーシップの実際の実務に関する調査を含めた法務省による検討を2009年3月までに完了する。また、単独か、他の弁護士もしくは外弁とのパートナーシップを通じてかにかかわらず、日本の弁護士が日本国外で弁護士の国際パートナーシップのメンバーになることに対して、法的あるいは弁護士会の規則上の障害は存在しないということを明確にするための措置を講じる。
III-A-4. 日本以外の法律に準拠するすべての仲裁を含め、日本で行われるすべての国際裁判外紛争解決(ADR)手続きにおいて、外弁が主宰者として活動すること、また当事者を代理することができることについて、法的確実性を高めるための適切な措置を講じることができるかどうかに関する法務省の調査を2009年3月までに完了する。また2009年中にそのような措置を実施するための措置を講じる。
弁護士法の規定はあいまいな表現が多く、司法書士・行政書士等との住み分けで紛争が耐えませんが、ここでは「外国ローファームが好きにできるということを条文上明確にしろ!!」と言ってきているわけです。
[年次改革要望書2008抜粋]
III-A-5. 日本弁護士連合会および各地の弁護士会が、原則として法務省に対する原出願日から3カ月以内かつ法務省による承認日から2カ月以内に、外弁の新規登録請求を承認するよう確保する。
外国企業によるM&A事案等が発生した場合に、機動的に外国ローファームから弁護士を送り込んで日本国内で活動できるようにするためです。
司法の問題は、一般国民に関心の薄いところかもしれません。
しかし、米国企業による日本企業の買収の目的は、日本国内における地道な企業活動を意図したものというより、日本企業が溜め込んだ企業内留保を配当という形で、外国への持ち出すことを目的としたものですので、それを法的に支援するための仕組みが、日本の司法制度内に組み込まれることで、外国企業による不当な日本搾取を防止する有力な防壁が取り払われることは、我々一般国民の雇用等にも非常に大きな影響がある点に注目すべきです。
続きは次回で
筆:猿山太郎
日本では長らく、日本の司法試験に合格し弁護士登録を行った者にのみ日本国内で「法律事務」を行うことが認められ、外国弁護士(外国等において法律事務を行うことを職務とする者で弁護士に相当するもの)には認められませんでした。
しかしその後、どこぞからの圧力が働き、徐々に制限が緩和されてきました。
1986年
外国弁護士は、法務大臣の承認を受ることにより「外国法事務弁護士(≒外国ローファーム)」として原資格国法に関する法律事務を行うことができる(外弁法)。→原籍国法に関する業務の解禁。
1994年
一定の条件の下、「外国法事務弁護士(≒外国ローファーム)」と弁護士間において、日本国内の法律事務を行うことを目的とする共同の事業(「特定共同事業」)が可能になる(外弁法改正)。→パートナーシップの解禁。国内登録弁護士の雇用の禁止は従来のまま。
2003年
「外国法事務弁護士(≒外国ローファーム)」による国内登録弁護士の雇用と外国法事務弁護士と国内登録弁護士の「外国法共同事業」が、日本弁護士連合会に届け出ることにより可能になる。→日本人弁護士の雇用解禁。外国ローファームによる国内弁護士事務所の系列化解禁。
こうした流れにより、監査法人に見られるような、米国大手ローファームによる日本の大手法律事務所の系列化が可能になる下地が作られてきました。
年次改革要望書2008の内容はこの流れをさらに進め、米国企業による日本企業支配を、司法面から支えることを強く意識したものとなっています。
1.外国ローファームが直接日本に支店を開設
[年次改革要望書2008抜粋]
III-A-2. 外国ローファームならびに日本にいるその弁護士および外弁パートナーを含むすべての弁護士事務所が、専門職法人の設立にかかわらず、日本国内に複数の支店を設立することを認める。
まさに、日本の法曹(主に弁護士)登用制度に風穴を開けるものです。例えば米国で弁護士資格をとれば、日本の司法試験を落ちた人でも日本で弁護士ができるようになります(英語が堪能な人であれば、米国の司法試験は日本と比べてかなり受かりやすいものです)。
それ以上に重要なことは、日本におけるM&Aを強力に推進するための法的支援を、外国ローファームが直接的に支援することができるようになり、敵対的買収の敷居が低くなり、外国企業の日本企業支配が進むという点です。
[年次改革要望書2008抜粋]
III-A-3. 弁護士がインターナショナル・リーガル・パートナーシップのメンバーになることの法的な意義について、インターナショナル・リーガル・パートナーシップの実際の実務に関する調査を含めた法務省による検討を2009年3月までに完了する。また、単独か、他の弁護士もしくは外弁とのパートナーシップを通じてかにかかわらず、日本の弁護士が日本国外で弁護士の国際パートナーシップのメンバーになることに対して、法的あるいは弁護士会の規則上の障害は存在しないということを明確にするための措置を講じる。
III-A-4. 日本以外の法律に準拠するすべての仲裁を含め、日本で行われるすべての国際裁判外紛争解決(ADR)手続きにおいて、外弁が主宰者として活動すること、また当事者を代理することができることについて、法的確実性を高めるための適切な措置を講じることができるかどうかに関する法務省の調査を2009年3月までに完了する。また2009年中にそのような措置を実施するための措置を講じる。
弁護士法の規定はあいまいな表現が多く、司法書士・行政書士等との住み分けで紛争が耐えませんが、ここでは「外国ローファームが好きにできるということを条文上明確にしろ!!」と言ってきているわけです。
[年次改革要望書2008抜粋]
III-A-5. 日本弁護士連合会および各地の弁護士会が、原則として法務省に対する原出願日から3カ月以内かつ法務省による承認日から2カ月以内に、外弁の新規登録請求を承認するよう確保する。
外国企業によるM&A事案等が発生した場合に、機動的に外国ローファームから弁護士を送り込んで日本国内で活動できるようにするためです。
司法の問題は、一般国民に関心の薄いところかもしれません。
しかし、米国企業による日本企業の買収の目的は、日本国内における地道な企業活動を意図したものというより、日本企業が溜め込んだ企業内留保を配当という形で、外国への持ち出すことを目的としたものですので、それを法的に支援するための仕組みが、日本の司法制度内に組み込まれることで、外国企業による不当な日本搾取を防止する有力な防壁が取り払われることは、我々一般国民の雇用等にも非常に大きな影響がある点に注目すべきです。
続きは次回で
筆:猿山太郎