内分泌代謝内科 備忘録

急性膵炎の治療戦略

最近の急性膵炎の治療戦略
J Clin Med 2024; 13: 978

急性膵炎(acute pancreatitis)は入院の原因となる代表的な消化器疾患である。急性膵炎の診断後 72 時間の初期管理は極めて重要であり、この疾患の臨床的転帰を左右する。重症度の評価、輸液、疼痛コントロール、栄養サポート、抗菌薬の使用、胆石性膵炎における内視鏡的逆行性胆管膵管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography: ERCP)などを含む初期治療は、急性膵炎治療の基本である。

治療目標、輸液の種類、速度、量、期間など、輸液に関する最近のエビデンスは、生理食塩水を用いた積極的な輸液から、乳酸加リンゲル液を用いた目標指向的 (goal-directed) かつ非積極的な輸液へのパラダイムシフトを引き起こしている。早期に経腸栄養を開始することが臨床的に有益であることを示すエビデンスは、決定的なものとなりつつある。予防的抗菌薬をルーチンに使用することは認められなくなっており、急性膵炎患者による炎症と感染による炎症とを区別するために、プロカルシトニンに基づく抗菌薬間使用のアルゴリズムが最近研究されている。胆石性膵炎と胆管炎を合併している患者には緊急 ERCP(24 時間以内)を行うべきであるが、胆管炎を合併していない患者には緊急 ERCP の適応はない。

急性膵炎の局所合併症を有する患者、特に感染性壊死性膵炎 (infected necrotizing pancreatitis) を有する患者に対する管理アプローチについて、適応、時期、解剖学的考察、介入方法の選択などを含めて詳細に論じている。

さらに、胆石性膵炎における胆嚢摘出術、高トリグリセリド血症による急性膵炎における脂質異常症治療薬、アルコール性膵炎におけるアルコール症状に対する介入などの回復期治療も、急性膵炎患者の予後を改善し再発を予防するために重要である。本総説では、急性膵炎の初期および回復期の管理戦略に関する最近の最新情報に焦点を当てる。

1. はじめに
急性膵炎は、膵臓の急性炎症である。膵臓は、消化酵素や血糖値を調節するホルモンの産生を担う重要な臓器である。この疾患の特徴は、膵臓内の消化酵素が早期に活性化し、自己消化と炎症が起こることである。急性膵炎は世界中で入院の原因となる代表的な消化器疾患であり、その発生率は多くの国で増加している。急性膵炎で入院した患者のうち、約 80%は軽症であるが、重症化する患者もおり、死亡率は約 20%である。

診断後 72 時間以内の初期管理は極めて重要であり、本疾患の臨床経過と転帰を左右する。早期発見と適切な介入は合併症を予防し、患者の転帰を改善する。胆石性膵炎に特異的な薬物療法は存在しないが、重症度評価、輸液、疼痛コントロール、栄養補給、抗菌薬の使用、胆石性膵炎における ERCP などを含む初期治療は、胆石性膵炎治療の基本である。さらに、急性膵炎患者の予後を改善し、再発を予防するためには、回復期の治療が重要である。本総説では、急性膵炎の初期および回復期の管理戦略に関する最近の最新情報に焦点を当てる。

2. 最初の 72 時間における初期管理
2.1. 重症度の評価
急性膵炎の診断後に急性膵炎の重症度を評価することは、臓器不全や死亡を含む重篤な臨床経過の可能性を予測するために極めて重要である。さらに、この評価は適切な初期治療とその後の治療戦略を決定するためにも必要である。

急性膵炎の重症度は、臓器不全と局所合併症の発症によって決定され、その多くは Revised Atlanta Classification に従って分類される。重症急性膵炎は、臓器不全が持続する(48 時間以上続く)と定義され、初発時の死亡率は 43%に達することがある。重症急性膵炎患者は、臓器不全の後遺症のリスクを軽減するために、集中治療室での監視と循環、肺、腎、肝胆道系機能のサポートが必要である。

急性膵炎の重症度を予測するために患者関連の危険因子、検査値、スコアリングシステムから計算される多くの予後予測モデルが開発されてきた。数多くの予測ツールが利用可能であるが、大規模な比較で他より決定的に優れているとされたアプローチはない。残念ながら、急性膵炎の重症度を早期に予測する能力はまだ限られている(精度は約 80%) 。

あらゆる予後予測ツールの中で、全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndromes: SIRS)は一般的に使用され、妥当性が確認されている予測因子である。他のより複雑なスコアと同程度に正確である可能性があり、初日に SIRS がないことは高い陰性的中率と関連している。もう 1 つの適用しやすいスコアは、急性膵炎のベッドサイド重症度指数(bedside index of severity of acute pancreatitis: BISAP)スコアである。BISAP スコアが 3 以上であることは、死亡リスクの増加と有意に関連していた。最近、EASY-APP と名付けられた人工知能モデルがウェブベースのアプリケーションとして開発され、入院後数時間以内に重症急性膵炎のリスクが高い患者を容易に特定できるようになった。特に急性膵炎の初期段階では、臨床経過と治療反応をモニターするために、これらの予測パラメータを連続的に追跡する必要がある。

2-2. 輸液
伝統的に、輸液は、どのような重症度の急性膵炎管理においても治療の基本である。急性膵炎患者では、血管透過性の亢進と浸透圧の低下により、膵臓周囲および後腹膜、腹腔、胸腔への細胞外液漏出が生じ、循環血漿量が著しく減少する。その結果、循環血漿量が著しく減少し、低灌流血症を引き起こす。重症の急性膵炎では低灌流による臓器不全を引き起こすことさえある。

したがって、循環動態を安定させ、膵微小循環を増加させるためには、早期に適切な輸液を行うことが重要である。いくつかの先行研究では、初期に積極的な輸液を行うことで、膵壊死を最小限に抑えて生存率を改善できることが示されている。

しかし、過剰な輸液は、敗血症、呼吸器合併症、腹部コンパートメント症候群など、重症急性膵炎患者の臨床転帰を悪化させる可能性がある。現在のところ、輸液の目標、輸液の種類、速度、量、期間について明確に定義されたものはない。

2-2-1. 目標指向的療法(goal diected therapy: GDT)
急性膵炎患者では、いくつかの現行のガイドラインで、輸液に GDT を用いることが推奨されている。GDT とは、心拍数(heart rate: HR)、平均動脈圧(mean arterial pressure: MAP)、中心静脈圧(central venous pressure: CVP)、尿量(urine output: UO)、中心静脈酸素飽和度(central venous oxygen saturation: ScvO2)、血中尿素窒素(blood urea nitrogen:BUN)濃度、ヘマトクリット値、乳酸値などの指標に合わせて輸液速度を調節することである。GDT は、死亡率の有意な改善や持続性の多臓器不全の割合の減少をもたらさなかったが 、特に重症の急性膵炎患者においては、経験的な推定値ではなく特定の生理学的目標値によって輸液量が決められる構造化されたアプローチであると考えられてきた。これらの「目標 (goal)」は、患者の血管内容量と灌流状態を反映するさまざまな血行動態および生化学的パラメータを用いて決定される(表 1)。

表 1. GDT における生理学的パラメータ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10889262/table/jcm-13-00978-t001/

ICU 入室が必要な臓器不全を伴う重症の急性膵炎患者では、過少治療や過剰治療を避けるために、より個別化されたオーダーメイドの輸液療法が必要である。

単一の臨床パラメータだけでは全体的な体液量の状態を反映しにくいため、初期急性膵炎の各相に応じた複数のパラメータを同時に評価することがより合理的である。これらの患者は、理想的には 2-3 時間ごとに頻繁に評価し、これらのパラメーターの変化に基づいて輸液量を調整すべきである。

最近のパイロット研究では、重症の急性膵炎が予測される患者の輸液反応性の予測には、動的パラメータと検査(ミニ輸液チャレンジ(10 分以内に 250 mL の生理食塩水を投与)後の一回拍出量 (stroke volume) の変化と下肢挙上テスト)に基づく輸液療法プロトコルの方がより信頼できることが示された。

2-2-2. 輸液の種類
急性膵炎の治療に用いる輸液の種類は等張晶質液 (isotonic crystalloid solution) で、正常食塩水(normal saline)と調整/緩衝晶質液 (balanced/buffered crystalloids, 例: 乳酸加リンゲル液 [lactated Ringer's solution]、Plasma-Lyte、ハルトマン液 [Hartmann's solution])がある。

伝統的に急性膵炎における輸液療法には生理食塩水が使用されてきたが、高クロ-ル性アニオンギャップ非開大性アシドーシスや急性腎障害などの生理食塩水による輸液の有害作用に関する懸念が提起されてきた。

メタアナリシスにより、乳酸加リンゲルで輸液した場合は生理食塩水で輸液した場合よりも、中等度または重度の急性膵炎に進行し、ICU 入室を必要としたり、局所合併症を発症したりする可能性が低いことが示された。2018 年に発表された 2 件の大規模ランダム化比較試験の結果は、バランス型晶質液(乳酸加リンゲルまたは Plasma-Lyte)が生理食塩水よりも有利であることを示唆した。SMART 試験では、調整晶質液 (balanced crystalloid) を使用することで、重症患者における院内死亡、新たな腎代替療法、腎機能障害の持続という複合アウトカムを低減できることが明らかになった。救急部の非重症患者を対象とした SALT-ED 試験では、調整晶質液の使用により、病院を受診しない日数 (hospital-free days) に差はないものの、30 日以内の主要な腎有害事象が有意に減少することが明らかになった。さらに、乳酸加リンゲルの使用は、CRP や SIRS の発生率低下に示されるように、抗炎症作用と関連している可能性がある。

AGA ガイドラインにおける乳酸加リンゲルの生理食塩水に対する優越性については、主要な臨床転帰に関するエビデンスの質が低いため、ガイドライン策定委員会は同意しなかった。しかし、乳酸加リンゲルを使用することの臨床的利益はリスクを上回ると考えられている。さらなる詳細な前向き比較研究が必要である。

「半合成」コロイド(ヒドロキシエチルデンプン(hydroxyethyl starch: HES)、ゼラチン、デキストラン溶液)や「天然」コロイド(ヒトアルブミン溶液)を含むコロイドの使用は、利益はなく副作用の可能性があるため推奨されていない。晶質液と HES を比較した盲検化ランダム化比較試験である CHEST 試験では、急性腎障害と有害事象(そう痒症、皮疹)が生理食塩水群よりも HES 群で多いことが示された。さらに、アルブミン静注は急性膵炎患者の臨床的予後を改善しなかった。

2-2-3. 輸液速度と輸液量
急性膵炎の初期治療には、早期の積極的な輸液が広く推奨されている。しかし、最適な輸液量と輸液速度については議論がある。その後、いくつかのランダム化比較試験で積極的な輸液と非積極的な輸液が比較された(表 2)。

表 2. 急性膵炎における輸液療法のプロトコルを比較した最近のランダム化比較試験のまとめ
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10889262/table/jcm-13-00978-t002/

中国で実施された重症急性膵炎患者を対象とした 2 件のランダム化比較試験の結果では、積極的な輸液療法によって臨床転帰が悪化することが示された。Wu らは、GDT と標準的な輸液療法との間に差を認めなかった。Buxbaum らは、積極的な輸液が軽度の急性膵炎に有効であると思われることを示したが、軽度の急性膵炎患者 249 人を対象とした最近の大規模ランダム化比較試験(WATERFALL 試験)では、積極的な輸液が臨床転帰の改善なく、体液過剰の発生率の増加(20.5% v.s. 6.3%) と関連したため、早期に中止された。

ランダム化比較試験の結果およびいくつかのガイドラインに基づいて、私たちは、中等度から重度の急性膵炎 (血管内容量低下、急性腎障害、またはヘマトクリット 44%以上や BUN 25 mg/dL 以上などの予後不良な予測因子を認める患者) には、2 時間かけて 10-20 mL/kg のボーラス投与を行った後に、乳酸加リンゲルによる輸液を 1.5 mL/kg/ h の流速で開始する中等度の輸液戦略を推奨する。

急性膵炎の初期治療には、一般に以下の輸液量が適切と考えられる。中等度または重度の急性膵炎では、臨床/検査パラメータに基づいて、24 時間で 3-4 L、48 時間で 6-8 L である。

2-2-4. 輸液療法の期間
軽症の急性膵炎患者の多くでは、腹痛が軽度なら、急性膵炎発症後 12 時間後から経口栄養を開始することができ、患者が経口栄養に耐えるようになれば、輸液を中止することができる。血管内容量過剰が疑われる場合は、輸液を減らすか中止すべきである。輸液療法の期間は、中等度から重度の急性膵炎患者では長くなる可能性があり、血行動態の安定性、臓器機能、症状の消失などの患者の臨床状態によって決定される。GDT による継続的モニタリングは、必要に応じて輸液療法を調整するために不可欠である。

2-3. 疼痛コントロール
急性膵炎の主な症状は腹痛であり、しばしば重篤で持続性のため、効果的な管理が必要である。疼痛コントロールは急性膵炎の集学的管理において極めて重要な要素である。しかし、有効性と安全性の点で、特に優れていると一般にに認められた鎮痛戦略があるわけではない。

2.3.1. オピオイド
オピオイドは Oddi 括約筋痙攣を誘発する懸念があるため、急性膵炎患者に使用することについては躊躇されてきた。しかし、最近のエビデンスによると、オピオイドは急性膵炎患者に対して、Oddi 括約筋に関連する有害事象のリスクを増加させることなく安全に使用できることが示唆されている。

オピオイドは強力な鎮痛作用を示し、急性膵炎に伴う激痛の管理に特に有効である。作用の発現が速く、内臓痛を軽減する効能があるため、多くの臨床場面でオピオイドが選択される。オピオイドは有効であるが、呼吸抑制、便秘、依存形成の可能性などのリスクを伴う。しかし、急性膵炎については、短期間の使用は一般に安全と考えられている 。

最近、急性膵炎患者の鎮痛に対するブプレノルフィン(buprenorphine, モルヒネよりも強力なオピオイドで、呼吸抑制や乱用の可能性が少ない)とジクロフェナク(非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs: NSAIDs))の静脈内投与の有効性と安全性をランダム化比較試験で評価したところ、ブプレノルフィンは、中等症または重症の膵炎患者のサブグループにおいても、より有効であり、同様に安全であることが示された。

2.3.2. 非ステロイド性抗炎症薬とアセトアミノフェン
非ステロイド性抗炎症薬とアセトアミノフェン (acetaminophen)、特にデクスケトプロフェン (dexketoprofen)、ジクロフェナク (diclofenac)、パラセタモール (paracetamol) などの静脈内投与製剤は、オピオイドの代替薬となる。これらの薬剤は、オピオイドの使用が禁忌とされる患者や、オピオイドに関連した副作用のリスクがある患者に特に有用である。

研究では、NSAIDs、特にパラセタモールは急性膵炎においてオピオイドに匹敵する鎮痛効果を示すことが示されている。さらに、その抗炎症作用は、膵炎において利点をもたらす可能性がある。NSAIDs とアセトアミノフェンは一般に忍容性が高い。しかし、腎障害、胃潰瘍、または出血のリスクのある患者では、慎重に使用すべきである。

2.3.3. 硬膜外麻酔 (epidural analgesia)
硬膜外麻酔、特に胸部硬膜外麻酔は、ICU に入院した急性膵炎患者の疼痛管理のために検討されてきた。多施設での後ろ向き傾向分析では、硬膜外麻酔は死亡率の低下と関連している。EPIPAN 多施設共同ランダム化比較試験では、ICU の急性膵炎患者を対象に胸部硬膜外麻酔が検討された。この試験では、膵における血流の改善や急性膵炎の重症度低下などの潜在的な有益性が示唆された一方で、重症の急性膵炎を有する ICU 患者では硬膜外麻酔に起因する有害事象に有意差は認められなかった。

2-4. 栄養サポート
伝統的に、疼痛や膵炎の悪化を避けるために、急性膵炎の初期管理として「膵安静 (pancreatic rest)」の概念が提案されてきた。しかし、最近の研究では、急性膵炎患者において早期の経口または経腸栄養が、入院期間の短縮、合併症の減少、死亡率の低下をもたらすことも示されている。

非経口栄養と経腸栄養を比較したある研究では、経口栄養により敗血症および急性膵炎の重症度が低下することが明らかにされた。このような臨床的利益は、消化管粘膜の萎縮を予防し、腸粘膜バリアの機能を維持することにより、細菌の移行 (bacterial translocation) を減少させ、感染性膵周囲壊死 (infected peripancreatic necrosis) のリスクを最小限に抑えることから生じる可能性がある。

2-4-1. 経口栄養の開始時期
早期経口栄養の是非について論じた 11 件ランダム化比較試験の結果をプールした解析では、入院後 48 時間以内に経腸栄養を開始すると、非経口栄養と比較して、多臓器不全、膵感染性合併症、および死亡のリスクが有意に低下することが実証された。そのため、ほとんどのガイドラインでは、特に患者に疼痛がなく、検査所見が改善している場合は、NPO(nil per os, 口から何も入れないという意味のラテン語)ではなく、早期(24-48 時間以内)の経口栄養を推奨している。

多施設共同ランダム化比較優越性試験である PYTHON 試験は、急性膵炎と診断された患者において、早期経鼻・経腸経管栄養(ランダム化後 24 時間以内;早期群)と、来院後 72 時間から開始する経口食(経口食に耐えられない場合に経管栄養を行う;オンデマンド群)の転帰を比較することを目的とした。この試験では、早期群とオンデマンド群との間で臨床転帰(重大感染または死亡)に有意差は認められなかった。

最近の PADI 試験では、入院期間とその合併症を減らすために、軽度および中等度の急性膵炎患者において経口再栄養を開始する最適な時期を決定することに焦点が当てられた。この試験では、即時に経口栄養を再開する群(入院直後に開始する低脂肪固形食)と従来のタイミングで経口栄養を再開する群(最初の 24-48 時間は絶食し、臨床検査パラメータが改善したら経口食を再開する)とが比較された。その結果、即時に経口栄養を再開する群が入院期間の短縮と合併症の減少によるコスト削減において有益であることが明らかになった。したがって、本研究の著者らは、軽度または中等度の急性膵炎患者では、臨床症状や検査所見の改善を待たずに経口食を開始することを主張している。

2.4.2. 経管栄養の投与経路
現在のメタ分析およびガイドラインでは、非経口栄養よりも経腸栄養が強く支持されている。しかし、疼痛、嘔吐、イレウスのために 72 時間以内の経口栄養に耐えられない患者の中には、栄養支持のために経腸チューブの留置が必要な場合がある。経鼻胃管栄養 v.s. 経鼻腸管(経鼻十二指腸または経鼻空腸)栄養の問題を特に取り上げた 3 件のランダム化比較試験を含む研究では、軽症または重症の急性膵炎のいずれにおいても、経管栄養の経路に関連する臨床的有益性は実証されなかっ。経鼻胃管は経鼻腸管に比べて挿入が比較的容易である。どちらの栄養経路も、患者の状態に応じて選択できる。非経口栄養の適応となるのは、経腸栄養ルートが不可能であるか、最低限必要なカロリーを満たすことができない場合のみである。

2.5. 予防的抗菌薬の使用
壊死性膵炎の病態生理学は、膵壊死が特徴的である。壊死した膵組織は微生物が定着しやすく、感染壊死が生じ得る。感染壊死は、急性膵炎の後期における死亡率(約 30%)と大きく関連しており、感染壊死が臓器不全と共存すると死亡率は倍増する。

重症急性膵炎が予測される患者または壊死性膵炎と診断された患者における感染壊死、合併症、死亡率のリスクを軽減する目的で感染前に抗菌薬を予防的に使用することの是非が一連のランダム化比較試験で評価されている。初期の試験およびメタアナリシスでは、抗菌薬の予防的使用による臨床転帰の改善がしばしば示されていたが、最近の試験およびその後のメタアナリシスでは、抗菌薬の予防的使用による有益性の一貫したエビデンスを一貫して示すことができなかった。つまり、重症膵炎や壊死性膵炎を含む急性膵炎における感染関連合併症の頻度や死亡率を減少させるための予防的抗菌薬の使用の是非については、依然として結論できておらず、さらなる大規模ランダム化比較試験が必要である。

2.5.1. プロカルシトニンを指標とした抗菌薬の使用
抗菌薬を使用するべきかどうかの判断は、特に発熱、白血球増加、CRP 値上昇などの全身症状を呈する急性膵炎患者においては困難である。これらの特徴はいずれも炎症と感染を区別しないため、急性膵炎患者の入院中に抗菌薬が過剰に使用されることになる。これまでで最大の無作為化試験である PROCAP 試験では、急性膵炎患者における抗菌薬使用の指針となるプロカルシトニンアルゴリズム(図 1)の使用が検討された。

図 1. PROCAP trial におけるプロカルシトニンに基づく抗菌薬使用のアルゴリズム
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10889262/figure/jcm-13-00978-f001/

この試験では、プロカルシトニンに基づいて抗菌薬の使用を決めると、急性膵炎患者の感染や害のリスクを増加させることなく、抗菌薬が処方される確率を有意に減少させることが示された。

2.6. 胆石性膵炎における ERCP と超音波内視鏡検査の意義とタイミング
胆石は膵炎の最も多い原因であり、臨床的には総胆管やファーター膨大部 (ampulla of Vater) に胆石結石や胆泥が嵌入することで発症する。胆石性膵炎患者は、胆管炎、臓器不全、その他の生命を脅かす合併症を発症する可能性がある。

ERCP は速やかに胆石を摘出し、胆道減圧を行うことで、膵炎の重症度を軽減する。胆石性膵炎と胆管炎を合併している患者には、緊急の ERCP(入院後 24 時間以内)を行うべきである。胆管炎を伴わない胆石性膵炎患者では、治療的 ERCP の最適なタイミングは診断後 24-48 時間(結石の自然通過を考慮すると 24 時間、胆道閉塞の長期化を避けると 48 時間)であろう。胆管炎を伴わない胆道閉塞が疑われる場合は、核磁気共鳴胆管膵管造影(magnetic resonance cholangiopancreatography: MRCP)または超音波内視鏡 (endoscopic ultrasound: EUS) を行い、総胆管結石の存在とそれを除去するための ERCP の必要性を判断することができる。

8 件のランダム化比較試験のシステマティックレビューでは、胆管炎を伴わない患者における早期 ERCP は、膵合併症、臓器不全、死亡のリスクを全体的に減少させなかった 。特に、胆管炎を伴わない重症急性胆道原性膵炎 (biliary pancreatitis) が予測される患者において、最近の APEC およびAPEC-2 試験の結果では、APEC-2 試験において胆道結石や胆泥を有する患者を選択するために EUS によって ERCP を行うかどうかを決めた場合であっても、緊急 ERCP は保存的治療と比較して主要な合併症や死亡率を有意に減少させることができなかった。その結果、ERCP は胆管炎や持続性胆道閉塞などの明確な適応がある症例にのみ行うという、より保存的な戦略を採用する傾向が強まっている。この傾向は、胆石性膵炎患者個々のニーズや状況に合わせて治療が行われるようになり、より個別化された治療が行われるようになったという、診療全体の傾向を反映している。

2.7. その他の治療的介入
2.7.1. 高中性脂肪血症誘発性急性膵炎に対するインスリンと血漿交換
高中性脂肪血症誘発性急性膵炎 (hypertriglyceridemia induced acute pancreatitis: HTG-AP) は、血液中の中性脂肪(triglyceride)濃度が過度に高くなると、血液粘度が上昇し、膵臓の毛細血管が閉塞し、有毒な遊離脂肪酸が放出されることで起こる。インスリンはリポ蛋白リパーゼ (lipoprotein lipase) 活性を増強することによって中性脂肪濃度を低下させる。また、血漿交換 (plasmapheresis) は中性脂肪と遊離脂肪酸を血液から速やかに除去することができる。これらの有効性と安全性を扱ったランダム化比較試験はない。最近のいくつかのメタアナリシスは、主に観察研究に基づくものであるが、これらの治療法は中性脂肪濃度の減少(<500 mg/dL)を促進するのに有効であるが、従来の管理と比較して死亡率には影響しないことを示している。ELEFANT 試験は、血液中の中性脂肪と遊離脂肪酸を早期に除去することが HTG-AP に有益であるという概念を検討する現在進行中のランダム化比較試験である。この試験は、HTG-AP 管理における早期の脂質低下介入に対するエビデンスを提供するものである。

2.7.2. 低分子ヘパリン
エノキサパリン (enoxaparin) などの低分子ヘパリン (low molecular weight heparin: LMWH) は、血栓の形成を防ぐ抗凝固薬である。急性膵炎における LMWH の役割は、微小血管血栓症が疾患の進行に関与しているという前提に基づいている。最近のランダム化単盲検第 3 相対照試験では、急性膵炎における LMWH の潜在的な有用性が強調された。この研究では、LMWH は、特に中等度から重度の急性膵炎の初期段階において、膵臓の壊死を抑制できることが明らかになった。

2.7.3. プロテアーゼ阻害薬
プロテアーゼ阻害薬は急性膵炎の治療に用いられるが、その有効性については議論がある。これらの阻害薬は、膵臓に損傷を与える酵素の活性化を防ぐ。急性膵炎に関連した死亡率や合併症の減少におけるプロテアーゼ阻害薬の有効性を検討したメタ分析では、プロテアーゼ阻害薬による治療は急性膵炎に伴う死亡率を有意に減少させることはなかった。

3. 局所合併症の管理
急性膵炎の局所合併症には、急性膵周囲液体貯留 (acute peripancreatic fluid collection)、膵仮性嚢胞 (pancreatic pseudocyst)、急性壊死性貯留 (acute necrohic collection)、および被包化壊死(walled-off-necrosis: WON)が含まれる。急性膵周囲液体貯留および急性壊死性貯留の発生は通常、急性膵炎発症後 4 週間以内に起こるのに対し、膵仮性嚢胞および WON の形成は通常、急性膵炎発症後 4 週間以上経過し、被包化することで起こる。改訂された Atlanta 分類では、WON は通常 4 週間以上経過してから発症するとされているが、境界明瞭な壊死性貯留の 40%以上は壊死性膵炎発症後 3 週間以内にすでに発症していた。

実際の臨床では、腹痛の持続または反復、血清膵酵素活性の二次的上昇、発熱や白血球増加などの敗血症の臨床徴候の発現、臓器機能障害の悪化、かつ/または 7-10 日間の入院後も臨床症状が改善しない場合に、局所合併症を疑うべきである。このような場合、速やかに造影腹部 CT および/または MRI を実施し、局所合併症および感染症の診断を確認すべきである。

3.1. 間質性浮腫性膵炎における局所合併症
間質性膵炎の縦断的研究では、急性膵周囲液体貯留のほとんどは 7-10 日以内に自然消退し、4 週間を超えて持続したのはわずか 6.8%で、それらのケースでは膵仮性嚢胞が発生した 。さらに、膵仮性嚢胞の多くは自然消退し、その割合は最大 70%と報告されている。

3.1.1. 膵仮性嚢胞に対する介入の適応
成熟した仮性嚢胞のドレナージは、仮性嚢胞の大きさに関係なく、症状(持続する腹痛、嘔気、早期満腹感、食欲不振、体重減少、または黄疸)または合併症(感染、出血、または閉塞 [胃、十二指腸、または胆道閉塞] )を有する患者に適応となる。

3.1.2. 膵仮性嚢胞に対する介入方法
胃や十二指腸に隣接する症候性または合併症のある膵仮性嚢胞患者には、手術や経皮的ドレナージよりも、EUS ガイド下経皮的ドレナージを行うことが一般的である。これは、経皮的ドレナージが仮性嚢胞の解消に有効であり、手術よりも合併症が少なく、ドレーンを必要としないことが示されているためである。一部の患者(主膵管と連絡している仮性嚢胞や膵管狭窄のある患者など)に対しては、ERCP ガイド下で経乳頭的膵ステントを留置することができる。

3.2. 壊死性膵炎
膵壊死 (pancreatic necrosis) は、造影 CT で膵実質が造影不良であることと定義され、壊死性膵炎 (necrotizing pancreatitis) は、膵実質のみ、膵外組織のみ、またはその両方 (最多) を含む壊死として現れる。

急性膵炎発症後 48-72 時間以内の造影 CT では、膵壊死の存在を除外できないことに注意することが重要である。したがって、壊死性膵炎が疑われる場合は、発症から少なくとも 3 日後に評価すべきである。壊死性膵炎は間質性浮腫性膵炎 (intestinal edematous pancreatitis) と比べて管理が難しく、予後も不良であるため、正確な分類は重要である。

3.2.1. 感染性壊死
感染性壊死は、壊死性膵炎患者の約 3 分の 1 に合併症として起こり、多くは急性膵炎発現後 2-4 週で起こる。急性壊死性貯留および WON は、初期には無菌性であるが、時間の経過とともに感染することがある。これは、腸から隣接する壊死膵実質への細菌の移行に起因すると考えられている。

感染壊死は死亡率が 30%と高く、壊死性膵炎における死亡の主な原因である。したがって、感染が強く疑われる場合(壊死中のガス、菌血症、敗血症、臨床的悪化など)には、培養や穿刺を行わずに、速やかに経験的抗菌薬治療を開始する。膵壊死に浸透することが知られている広域スペクトル抗菌薬(例えば、カルバペネム、またはキノロン系、セフタジジム、セフェピムとメトロニダゾール (嫌気性菌カバー目的) 併用)を優先すべきである。さらなる治療的介入については後述する。

3.2.1.1 感染壊死の診断
腹部コンピュータ断層撮影 (computed tomography: CT) 画像で、壊死領域内に管腔外ガスが存在する場合、予後不良とみなされる。しかし、これは感染性壊死患者の約半数にしか認められず、ガスがないからといって感染がないとは言えない。

感染の有無を確認するために、EUS または CT ガイド下での壊死組織の穿刺吸引(fine needle aspiration: FNA)を行い、グラム染色と培養を行うことができる。しかし、大半の症例ではこの診断手技は不要であり、最近のガイドラインでは以下の理由からルーチンに FNA を行うことは推奨していない。

第一に、208 人の連続患者を対象とした多施設のプロスペクティブデータベースにおいて、事後解析の結果、感染壊死症例の 80-94%が、FNA の結果を伴わない臨床検査または画像検査に基づいて診断され、その死亡率はグループ間で差がなかったことが明らかになった。

第二に、早期の FNA による感染壊死の診断は、介入に関する臨床的意思決定には必要ない。現在の診療では、壊死が封入されるまで、臨床的に可能な限り治療的介入は延期される。

さらに、約 25%の症例で偽陰性の結果が得られる可能性があり、無菌の採取出口を汚染する理論的リスクもある。肺感染、尿路感染、静脈感染など他の感染因子がなく、臨床的悪化や発熱を示す(膵周囲) 液体貯留の患者に対しては、感染壊死と推定診断することは正当である。

3.2.2. 壊死性膵炎の治療戦略
壊死性膵炎の病態生理と自然経過に関する理解が進んだことに加え、治療介入技術の発展により、この疾患の治療戦略に大きなパラダイムシフトが生じている。

1980 年代には、壊死性膵炎は主に外科医が発症後 1-3 日以内に壊死切除術を行うことで治療されていた。しかし、2010 年に発表された PANTER 試験の結果では、低侵襲の「ステップアップ」アプローチが開腹壊死切除術よりも優れており、新たに発症する多臓器不全(12% v.s. 40%)、腹壁瘢痕ヘルニア (incisional hernia)(6% v.s. 19%)、新たに発症する糖尿病(16% v.s. 38%)の割合が有意に減少することが示された。

PANTER 試験におけるステップアップアプローチは、経皮的ドレナージに続いて、必要に応じて低侵襲の後腹膜壊死切除術 (retroperitoneal necrosectomy) を行うものであった(通常は 4 週間後)。興味深いことに、ステップアップアプローチ群では、35%の患者が経皮的ドレナージのみで管理に成功した。感染壊死に対する従来の外科的デブリドマンによる管理は、低侵襲の外科的および内視鏡的ステップアップアプローチにほぼ完全に取って代わられた。

壊死性膵炎に対する最近の治療戦略は、概念的に 4 つのステップからなる。 (1) 抗菌薬による保存的治療、(2) 経皮的または内視鏡的経膜ドレナージ、(3) 低侵襲的壊死切除術、ビデオ補助下後腹膜剥離術(video-assisted retroperitoneal debridement: VARD)または内視鏡的壊死切除術、(4) 開腹壊死切除術である。詳細な適応、時期、解剖学的考察、および各介入法の選択については後述する。

3.2.2.1. 介入の適応
膵壊死は二次感染や症候性無菌性壊死を引き起こすことがあり、この結果として、腸閉塞や胆道閉塞、臓器不全の悪化、患者の体調不良の持続などを来し得る。感染性壊死も症候性無菌性壊死も、治療介入の適応として認められている。抗菌薬を 48-72 時間投与しても感染の徴候が続く場合は、次の段階として貯留液を排出するインターベンション手技を考慮する必要がある。無症状の無菌性膵壊死患者は、通常経過観察される。手技中の医原性合併症のリスクは、体液貯留に起因する自然合併症のリスクよりもはるかに高いからである。

3.2.2.2. 介入のタイミング
膵インターベンションは、膵壊死が封入されるまで 4 週間待機するのが最適である。急性膵炎の最初の数週間(<3-4 週間)は、抗菌薬を少なくとも 4 週間継続し、臨床的に悪化が続いている患者にはカテーテルによるドレナージを留保することで、手技の延期を試みる。POINTER 試験の結果から、感染壊死が最初の 4 週間以内に診断された場合でも、ルーチンの即時ドレナージは、ドレナージ延期群と比較して臨床転帰を改善せず、実際にはより侵襲的な介入(カテーテルドレナージと壊死切除術)につながったことが明らかになった。実際、感染壊死症例の 39%は、他の介入を必要とせず抗菌薬のみで改善した。このことは、感染壊死が診断された場合抗菌薬による初期保存的管理とドレナージ延期戦略が正当化され、特に急性膵炎の初期段階において不必要な処置を防ぐのに役立つことを示唆している。

3.2.2.3. インターベンションのための解剖学的考察
膵インターベンションを行う前に画像検査で膵壊死の部位を評価することは重要である。胃後壁に接する網嚢 (lesser sac, 腹腔は greater sac) 内に位置する液体貯留は、経胃的に内視鏡的、腹腔鏡的、または開腹的に評価することができる。

内視鏡的デブリドマンは外科的アプローチに比べ合併症が少ないため、一般に好まれている。左結腸傍溝 (paracolic gutters) 深部まで達している胃後部の液体貯留は、左後腹膜アプローチでドレナージすることができ、経皮的ドレナージから開始し、必要に応じて VRAD または低侵襲的後腹膜膵デブリドマン(minimally invasive retroperitoneal pancreatic debridement: MIRP)を行う。あるいは、これらの液体貯留を内視鏡的にドレナージし、さらに経皮的ドレーン (percutaneous drain) を用いて左結腸傍溝内に残った貯留に対処することもできる。

腸間膜の根部または腸間膜血管の右側にある液体貯留は、経皮的、内視鏡的、あるいは後腹膜からのアプローチでは到達が困難である。このような症例では、腹腔鏡下経腹膜的アプローチまたは従来の開腹アプローチが必要となることがある。

3.2.3. インターベンション手技の選択
壊死性膵炎患者においてドレナージかつ/またはネクロセクトミー (necrosectomy) を行うかどうかは、患者の状態(血行動態の安定性、症状、検査所見、併存疾患、臨床経過)、壊死の特徴(成熟した被包壁の存在、壊死片の量、位置、範囲、消化管からの距離)、手技的要因(内視鏡的、経皮的、外科的、およびステップアップアプローチとしてのそれらの組み合わせなど、各介入の利点と欠点)などのさまざまな要因を考慮し、個別的に決定される。

3.2.3.1. 経皮的ドレナージ
一時的な経皮的カテーテルドレナージ (temporary percutaneous catheter drainage) は、1. 一次治療として、2. ステップアップアプローチの最初のステップとして、または 3. 外科的デブリドマンの合併症リスクが高い急性膵炎発症 4 週間未満の時点でのつなぎ療法として用いることができる。4 週以降は、経皮的ドレナージよりも膵液瘻 (pancreatic fistula) の発生率がはるかに低い内視鏡的ドレナージ (endoscopic drainage) が好まれる。ふつう、経皮的ドレナージは内視鏡的ドレナージうまくいかなかったり、技術的に実行不可能であったりする場合に限り救命処置として行われる。

一般に、後腹膜ルートは腸からの漏出 (enteric leaks) や腹膜の汚染を回避でき、後に VARD、MIRP、または経皮的内視鏡的ネクロセクトミーに使用できるため、好まれる。実際の手技としては、単数または複数のカテーテルを留置した後、手動でカテーテルに生理食塩水を灌流させる。カテーテルは順次内径の太いものにサイズアップし、壊死した残骸を容易に除去できるように位置を変更する。

384 人の患者を対象とした 11 件の研究についてのシステマティックレビューによると、壊死性膵炎の一次治療として経皮的ドレナージを用いた場合の全成功率は 56%であった。膵液瘻などの有害事象は、患者の最大 27%に発生した。

3.2.3.2. 内視鏡的ドレナージ
内視鏡的経腸管的ドレナージ (endoscopic transmural drainage) は、内視鏡下での直接穿刺ではなく、EUS ガイド下に経腸管的に壊死腔に穿刺し、瘻孔 (fistula) を形成する。EUS ガイド下穿刺は、2 件のランダム化比較試験で、従来の直接穿刺法よりも技術的成功率が高く(95% v.s. 35-66%)、有害事象発生率が低い傾向にあった(0-4% v.s. 13 -15%)。EUS ガイド下穿刺は、壊死腔の可視化と穿刺を可能にし、カラードプラの使用は穿刺中の血管の回避に役立つ。壊死腔を穿刺し、瘻管を拡張した後、ダブルピグテールプラスチックステントまたは lumen-apposing metal stent: LAMS を内腔を横切って留置し、壊死腔内に拡張する。

LAMS はプラスチックステントに比べて直径が大きいため、理論的にはドレナージに優れ、内視鏡的ネクロセクトミー(direct endoscopic necrosectomy: DEN)が容易になり、WON の管理に役立つ可能性がある。プラスチック製ステントに対する LAMS の優位性は、まだ確実ではない。最近のメタアナリシスでは、2 つの方法の技術的成功率と臨床的成功率は同程度であった。最近の 2 件のランダム化比較試験と、LAMS とダブルピグテールプラスチックステントを比較した後ろ向き試験のデータを用いた比較研究でも、必要な手技の回数を含め、技術的または臨床的有効性に有意差は示されなかった。 さらに、同軸のダブルピッグテールプラスチックステントを LAMS 内に固定することで、ステント閉塞などの有害事象の発生率が低下することが示されている。

3.2.3.3. 内視鏡的ネフレクトミー
内視鏡医は、経腸管的ドレナージだけでなく、WON 患者に DEN を行うことを試みるようになってきている。DEN は一次治療として行うこともできるが、一般的には液体成分をドレナージした後の処置として行われる。壊死切除を行うには、前方視型の内視鏡を用いて壊死腔にアクセスし、生理食塩水で灌流した後、バスケット、スネア、その他の内視鏡用アクセサリーを用いて脆弱な壊死デブリを除去する。この処置は、腔内からデブリがなくなるまで繰り返される。

WON 患者 455 人を含む 14 件の研究の系統的レビューにより、ネフレクトミーを伴う内視鏡的ドレナージは 81%の臨床的成功率を達成し、患者 1 人当たり平均 4 回の内視鏡的介入が行われたことが明らかになった。全合併症率は 36%と推定され、手技関連死亡率は 6%であった。

酸化水素洗浄 (hydrogen oxide lavage)(濃度中央値: 3%;生理食塩水で希釈;容量: 20-1000 mL)は、内視鏡的ネフレクトミーの補助療法として導入されており、臨床的に許容できる結果が得られている。

経皮的内視鏡的ネフレクトミーは、経皮的ドレナージを受けた側方に位置する液体貯留を有する患者に対して、経皮的カテーテルドレナージ管を通して行う代替手技である。この手技では、カテーテルを 30Fr にサイズアップし、標準的な内視鏡を用いて腔にアクセスできるようする。

3.2.3.4. 外科的デブリドマン
外科的デブリドマンは、低侵襲手術または開腹手術で行うことができる。低侵襲手術は開腹手術に比べ、重度の炎症反応が少なく、生理的ストレスも低い。術前の画像検査で膵壊死の部位を特定することはデブリドマンをどのように行うかを決めるための重要な指針となる。

VARD 法と MIRP 法は、左結腸傍溝まで及ぶ後腹腔貯留のドレナージのための後腹膜アプローチとして最もよく使用される手技である。さらに、VARD 法は PANTER および TENSION 試験における低侵襲外科的「ステップアップ」アプローチの構成要素である。これらの患者は、術前に後腹膜腔への経皮的アクセスを必要とする。VARD 法では切開創(5-7 cm)からビデオスコープの直視下 で、MIRP 法では切開創なしで 30Fr の腎盂鏡 (nephroscope) 2-3 本と鉗子 (foreceps) を作業チャネルに挿入して、長い把持鉗子を用いてデブリドマン を行う。デブリドマンは通常、壊死腔にデブリがなく健康な肉芽組織が裏打ちされるまで、7-10 日ごとに繰り返される。VARD に関するメタアナリシスでは、成功率 64%、合併症率 47%、死亡率 14%であった。

(腹腔鏡下または開腹) 経胃的外科的デブリドマンは、網嚢内に WON が存在する患者に適している。DEN と比較して、これらの外科的処置はより確実であるが、膵液瘻などの合併症のリスクも高い。

従来の腹腔鏡下経腹腔的アプローチには、腹膜汚染のリスクや瘢痕組織形成による再介入の困難さなど、いくつかの欠点がある。しかし、経胃的手技や経皮的手技が行えない、腸間膜根部の WON に対しては依然として実行可能な治療選択肢である。

開腹手術が行われるのは、経皮的ドレナージも内視鏡的ドレナージも不可能な広範な壊死を有する患者、ステップアップアプローチが失敗した患者、または腸穿孔、腹部コンパートメント症候群、腸管虚血、血管造影によるコイリング/塞栓術が不可能な重篤な出血などのまれな合併症を有する患者である。壊死性膵炎患者 305 人を対象とした単一施設の研究では、193 人の患者が、内視鏡的ドレナージ単独またはネフレクトミーとの併用を含む内視鏡的介入を受けた。4 週間以内に早期介入を受けた患者のうち、難治性の壊死または腸穿孔などの合併症のために最終的に開腹手術を必要とした患者は 7%であった。

3.2.3.5. 内視鏡的アプローチと低侵襲外科的ステップアップアプローチの比較
内視鏡的アプローチと外科的 "ステップアップ "アプローチの両方が感染壊死に有効であることが証明されている。

その後、3 件のランダム化比較試験で 2 つの介入の有効性が比較された。内視鏡的経腸管的ネフレクトミー(n = 10)とさまざまな外科的ネフレクトミー(n = 10)を比較した PENGUIN 試験では、内視鏡群において炎症反応(インターロイキン-6 で測定)と新たに発症した多臓器不全の発症が有意に減少したことが明らかにされた。

TENSION 試験では、内視鏡的カテーテルドレナージ後に内視鏡的ネフレクトミー(必要な場合)を行う群(n = 51)と、経皮的カテーテルドレナージ後に VARD(必要な場合)を行う群(n = 47)が比較された。内視鏡群と外科群では、それぞれ 43%と 51%の患者がカテーテルドレナージのみを必要とした。さらに、内視鏡群の患者の約 3 分の 1 が、経皮的カテーテルドレナージまたは VARD を追加で受けた。結論として、この研究では、6 ヵ月の追跡調査時点における死亡率および重大な合併症率を含む複合エンドポイントの主要アウトカムに有意差は認められなかった(43% v.s. 45%, p = 0.88)。しかし、内視鏡的アプローチにより入院期間が短縮し(平均 53 日 v.s. 69 日, p = 0.014)、膵瘻が有意に少なかった(5% v.s. 32%, p = 0.001)。TENSION 試験の長期追跡調査の結果、内視鏡手術群では、最初の 6 ヵ月追跡調査後の再介入の必要性が少なかったことが示された(7% v.s. 24%、p = 0.038)。

MISER 試験では、低侵襲手術(腹腔鏡または VARD)(n = 32)と内視鏡ステップアップアプローチ(n = 34)が比較された。6 ヵ月の時点で、重大な合併症または死亡(12% v.s. 41%、p = 0.007)または瘻孔(0% v.s. 28%、p = 0.001)が発生した患者は、手術群よりも内視鏡群の方が少なかった。TENSION 試験とは異なり、MISER 試験では主要評価項目として腸瘻と膵液瘻が考慮されており、これが 2 つの試験の結論の主な違いを説明している。結論として、死亡や膵液瘻以外の重大な合併症の減少において優れているわけではないが、感染性壊死性膵炎に対する治療法としては、外科的アプローチと比較して内視鏡的ステップアップアプローチが望ましいようである。

4. 回復期治療
4.1. 胆石性膵炎における胆嚢摘出術
4.1.1. 胆嚢摘出術のタイミング
急性胆道性膵炎患者に対する予防的胆嚢摘出術は、一般的に退院後よりも初回入院中に行うことが推奨されている。この戦略は、膵炎の再発を予防することを目的としており、軽症の胆石性膵炎では、胆石関連合併症の再発予防には、待機的に胆嚢摘出術を行うよりも、同じ入院期間内(7 日以内)に胆嚢摘出術を行う方が、費用対効果が高いことが証明されている。最近の研究では、壊死性胆道性膵炎患者における胆嚢摘出術の最適なタイミングと安全性について、胆管イベントの再発と手術合併症のリスクとのバランスをとることを目的として検討された。結論として、膵周囲に貯留物がない場合の胆嚢摘出術は、退院後 8 週間以内に行うのが望ましいと考えられている。

4.2. HTG-AP に対する脂質低下薬
他の急性膵炎の原因と同様に、HTG-AP の初期治療は、輸液、疼痛コントロール、栄養サポートからなる。急性期エピソードの後、食事療法と生活習慣の改善を開始し、高脂血症治療薬を併用することが、HTG-AP の再発を予防するために重要である。フィブラート (fibrate)、ナイアシン (niacin)、オメガ 3 脂肪酸 (omega-3 fatty acid) などの脂質低下薬や、アンジオポエチン様タンパク質 3(angiopoietin-like protein 3: ANGPTL3)阻害薬、アポリポタンパク質 C-III(apolipoprotein C-III: ApoC-III)阻害薬、ペマフィブラート (pemafibrate) などの新しい薬理学的治療が使用できる。

4.3. アルコール性急性膵炎におけるアルコール介入
禁酒 (abstinence) は急性膵炎の再発を予防することができる。さらに、入院中に短期間の禁酒指導を実施し、指導を繰り返すことで、急性膵炎の再発予防効果を向上させることができる。しかし、アルコール性急性膵炎患者だけを対象に禁酒指導の有効性を検討したランダム化比較試験は不足している。禁酒が急性膵炎の再発を減少させ、予後を改善するかどうかを明らかにするためには、さらなる研究が必要である。

5. 結論
急性膵炎の初期および回復期の治療は、最近の臨床的エビデンスに基づいて進化している。バランス晶質液による輸液などからなる目標指向的をが、急性膵炎治療の主要な戦略となっている。十分な疼痛コントロールと早期の経腸栄養は、急性膵炎の初期管理において重要な役割を果たす。抗菌薬を感染症予防のためにルーチンに使用するのではなく、アルゴリズムに基づいて使用することにより、臨床的改善につながり得る。胆管炎を伴う急性胆道性膵炎において緊急 ERCP が決定的な役割を果たすことを除けば、より保存的なアプローチが広く評価されるようになってきている。壊死性膵炎患者の初期段階では保存的管理を行い、ドレナージは避ける。後期段階では、一般に低侵襲の外科的あるいは内視鏡的「ステップアップ」アプローチでドレナージを行う。新しい薬物療法、壊死性胆汁性膵炎における胆嚢摘出術の最適なタイミング、禁酒指導の有効性については、今後調査する必要がある。

元論文
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10889262/
  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「消化器」カテゴリーもっと見る