☆三等星☆

~小ネタと妄想と切ない気持ち~


ごゆるりとしていってください。

三浦半島を南へ(2)

2007年10月17日 18時28分29秒 | 優しい時・切ない時
緑の丘、白い灯台、碧い海。

その景色に、胸が高鳴る。


中学を卒業する頃から、20才を過ぎるまで、

僕はここで育ったんだ。


横浜にあった県の青少年施設のボランティアとして

子どもたちのキャンプを企画運営していた僕らは、

グループ結成からわずか2年半で、

施設の閉鎖という壁に直面する。

周りのグループが次々と解散する中、

僕らはフリーの団体として、

観音崎にある青少年の村に拠点を移して活動を続けた。


いくつの季節をこの海で過ごしたのだろう。

光る海、鈍色の海、新緑の森、夜の森、

子どもたちの笑顔、子どもたちの泣き顔、

あいつの笑顔、あいつの泣き顔。

最近連絡も取っていないけど、

元気にしているかな。

会いたいよ。


自転車が青少年の村に近づく。

まずは通用門が見えて、

そしてすぐに正門が見える。

キューっと音を立てて、胸が苦しくなる。


村は驚くほどそのままの姿でそこにあった。

あ、子どもたちだ。

子どもたちが笑顔で走っていく。

その隣には、子どもたちを優しく見つめる男性の姿。

彼の目と僕の目が、一瞬交わる。

時間が止まる。

まるで彼の視界を僕が見ているような、

僕がそこに立っているかのような感覚。

確かに僕はあそこに立っていた。

子どもたちを見つめていた。


どこかにしまわれていた感情が堰を切ってあふれ出した。

青少年の村の中、どこに何があるのか、

目をつぶっていてもわかる。

事務所には太ったおばちゃんがいるんだぜ。

宿泊棟の前の草っぱらはバッタが跳ぶんだ。

網戸はボロいから部屋に蚊が紛れ込むけど、まぁいいじゃん。

自分で布団を蹴っておきながら

夜中に「ちゃむい」って寝言を言うなよ。

真っ暗闇で焼いたサンマ、

後で電灯の下で見たらほとんど生だったよな。


すべての場所に僕らのかけらが落ちている。

子どもたちの笑顔、畳のにおい、

厨房から聞こえるおしゃべり。

君の声、君の笑顔、君の存在、

僕の声、僕の笑顔、僕の存在、

すべてがここにあるよ。


こんなにも忘れていただなんて。

こんなにも遠く離れていただなんて。

手を伸ばせば届くのに、伸ばした手は届かない。

眩暈が起こる。


いつしか遠くなった青い季節、

僕はそれを丁寧にしまっていた。

泣きたいほどの喜びも悲しみも、

そのまま丁寧にしまっていた。

僕らはここで生きていたんだ。


そして、観音崎は、今も子どもたちの歓声に包まれている。

あの頃と何も変わらない光景。


「君たちのキャンプがお天気に恵まれてよかった。」

それが、最後に浮かんだ思い。

(続く)

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