「石見神楽(いわみかぐら)」は、島根県西部の浜田市など人々の暮らしに根差した伝統芸能。
「塵輪(じんりん)」「鍾馗(しょうき)」「大蛇(おろち)」など、定番の演目の囃子(はやし)が聞こえると、血が騒ぐという人も少なくありません。
浜田市大辻町在住の竹内惟臣(ただしげ)さん(80)は、自宅の敷地内に設けた「神楽殿」を持つ、「石見神楽面」の収集家。
そんな、竹内惟臣さんに石見神楽面の魅力などを伺いました。
私設の神楽殿に立つ竹内惟臣さん。石見神楽面のコレクションが壁一面に並ぶ
収集を始めたのは1970年。
大阪万博を訪れた際にお土産を買いそびれ、帰りに浜田市在住の神楽面職人・岩本竹山氏(故人)の工房に立ち寄って般若の面を買ったのが始まり。
50年間で集めた面は500点以上。
神楽殿では、照明器具がない中で舞った昔の雰囲気を再現するため、蛍光灯ではなく裸電球を使うなど、面の見せ方にこだわっています。
日本遺産に認定された石見神楽の定番演目「大蛇」(石見の舞い『神降臨祭』特別公演より)
(竹内惟臣さん)
子どものころから石見神楽が好きで、近所で公演があると舞台にかぶりつくようにして見入っていました。
かっこよく舞う大人たちの姿に憧れ、石見神楽を誇りに思ったものです。
竹内さんが収集を始めるきっかけになった岩本竹山氏作の般若面(中央)
当初は一枚数千円の面を集めていました。多い年で20枚ほど買いました。自宅の廊下に飾っていましたが、並べきれない面は重ねて置くしかありません。
そうすると傷がついてしまう。面がかわいそうだった。
それで神楽殿を設けました。
多彩な表情の石見神楽面が並ぶ神楽殿の一角
今は原材料である石州和紙の価格高騰もあり、面の価格も上がっています。
1枚2万5千円から、高いもので30万円ぐらいしますかね。
仕事に区切りをつけたこともあり、昔ほど気軽に買い足せませんが、最近では3万5千円の般若面を買いました。新人の作家が手掛けたもので「どれくらいの技術を持っているんだろう」と気になり、欲しくなりました。
神楽殿を訪れた人が記帳した名簿を懐かしそうに眺める竹内さん。多くの人に石見神楽の魅力を伝えてきた
神楽殿に来られた方は皆さん、面の数の多さに驚かれます。「日本一のコレクション」と言ってくださる方もいますよ。
私の活動を知り、寄贈してくれる方もいます。本当にありがたいことです。
竹内さんの活動を知った人から寄贈された面
面だけではなく、石見神楽の演目を再現した模型も特注で制作し、神楽殿に展示しています。模型の下に敷いている畳も、本物の畳をケースのサイズに合わせて発注しました。
私はそれぐらい妥協を許せない、常軌を逸した石見神楽面好きです。
石見神楽の演目を再現した模型。下に敷かれた畳は特注した
だからこそ、愛する石見神楽が今後も正しい形で受け継がれることを心から願っています。
「汚れが気になるから」という理由で色付きのはかまをはいたり、たたきやすさを重視して太鼓の向きを斜めにしたりと、伝統を軽視する傾向が気がかりです。
華やかで迫力がある鬼舞「塵倫」(石見の舞い『神降臨祭』特別公演より)
少子化で舞い手が少なくなり、若い舞い手がかわいいのは理解できますが、厳しく指導しないのはよくない。歴史を学び直し、日本遺産にふさわしい「本物」の石見神楽を残してほしいです。
病魔を司る鬼を退治する演目「鍾馗」(石見の舞い『神降臨祭』特別公演より)
2019年5月に日本遺産に認定された石見神楽。
土地柄を反映し、神楽殿にはこれまでに約1300人が来場。そのなかには県外から足を運ぶ愛好者もいました。
「石見神楽を身近に感じ、歴史を知ってもらえる場にしたい」と、
思いを面に託し、竹内さんは魅力を次代に伝えてゆきます。
※神楽殿の見学は事前予約制。
問い合わせは竹内さん、電話0855(22)7532。
石見神楽の魅力をもっと知りたい方はコチラへ
▼石見神楽公式サイト
http://iwamikagura.jp/
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