桜谷慎一の STRATEGIC REVIEW

デザイン、アート、テクノロジー、インフォメーション。『情報を構造化する』仕事の源泉

複製こそが新たな創造性を開く ーWeb3.0は複製の時代を意味するのだろうか?

2007年01月31日 | diagnoses
すでに失われてしまった古代最大にして最高の図書館、アレクサンドリア図書館。
紀元前300年頃、プトレマイオス一世がアレクサンドリアの街作りの一貫として知識の殿堂を建てるべく、多くの思想家や作家の著作、学術書を所蔵し、その蔵書はおよそ60万巻とも70万巻ともいわれる。世界中から文学、地理学、数学、天文学、医学などあらゆる分野の書物を集め、知の偉人達、アルキメデス、エウクレイデス(ユークリッド)、エラトステネスらの偉大な業績の源となった。

これほどの知識を集積するにはありとあらゆる手段がとられたと伝えられている。当時は印刷技術もなく、パピルスに写本するしかなかった。
多くの知識人がさらなる知識を求めてこのアレキサンドリアを訪れるが、街に一歩入ると所有している本は没収され、写本に回される。行きずりの旅人でさえ、没収の憂き目に遭う。そうやって没収された本、つまり原本は図書館に収蔵され、持ち主が街を出るときに返されたのは、ご丁寧にも写本の方だったのである。

そうやって強引なまでの収集欲によって、アレクサンドリアの図書館には膨大な知識のオリジナルが集積し、一方で街を去っていく人々は写本を手にまた別の街へと辿り着き、こうやってコピーによって知識が拡散する仕組みが出来上がっていった。

情報(InformationまたはIntelligence)こそが国家の礎であり、産業や文化創造の源泉でもある。権力者は誰よりも情報掌握に優れ、どの情報をどれだけ誰に出すか、持っている情報をどうやって隠匿するかが施政の鍵だった。

以前のブログ「複製禁止は時代に逆行する - デジタルメディアとコピー問題」にも書いたが、グーテンベルグの活版印刷技術が、知識を囲い込むことで権威主義を誇っていた教会や権力者の元から聖書含めさまざまな知識を解きはなった。多くの人々に知識が行き渡ることでリテラシー(読み書き能力)が向上し、新しい価値、様式が生み出されるようになってルネッサンスが花開いた。

Googleは、地球上のあらゆる情報を集めることをミッションとしていて、現代のアレクサンドリア図書館と言える。
いや、すでに情報国家としての様相を呈していて、Googleが情報操作を行えばたちまち世の中の流れが変わるところまで来ている。Googleの持つ『キャッシュ機能』は著作権侵害に当たらないという判決がでていて、キャッシュそのものは違法でないとされているが、これこそ現在の『写本』ではないだろうか。

Web2.0の重要なポイントが「共有」であることを考えると、「衛星ラジオ放送局XM Satellite Radioが音楽業界から提訴された」という記事は、既得権益を持つものは相変わらず『情報の囲い込み』によって権力を維持しようとしているとしか読み取れない。

ただ、最近思ったのは、Web2.0の代表例と言われるGoogleも、Flickrも、YouTubeも、ビジネスモデルは広告を取り込んだもの(アフィリエイトやリスティングなど)であって、Web2.0であっても『ビジネスモデル2.0』というフェーズには至っていないということである。
新たな広告枠を提供したという意味では、吊革広告や古くは新聞のラジオ・テレビ欄の広告、トンネル・ムービーとさほど変わらない。(目新しい広告手法は、オンラインマガジンPingMagの記事が面白い)
ロングテールな広告手法が生み出されたに過ぎないのではないかと思ってみたりもする。

Web2.0が明確な定義ナシでプランナーやマーケッターに、「Web2.0的機能を実現!」と使われるいささか”恥ずかしい”言葉になってしまっていて、目新しいモノ全てに使われるようになったのは残念だが、実体としてもWeb2.0はまだまだウェブの進化のほんの入り口に過ぎないように思う。

かなり前に投稿された CNET読者ブロガー F's Garage typeC氏の「Web2.0とか3.0とか」にもすでに似たニュアンスのことが書かれているが、Web3.0は

   Copy free + PPU(Pay Per Use)

の実現なのだと感じる。

複製が悪いのではなく、『複製されると利益が得られない』ことが問題なのだから、知識を広く開放して自由にコピーができ、それを利用するときには水道や電気、パケット料のようなマイクロペイメント(何銭という単位での課金)が適用されるのが、次のパラダイムなのではないだろうか。もちろん、必ずしも実貨幣である必要はない。
SecondLifeは、サービスそのものよりも、仮想社会というclosedなシステムで独自の貨幣流通を試せるという可能性がある。Web3.0の萌芽は、そのあたりから始まるか。

Web3.0は、あるいは広告という概念がない世界の実現であれば、相当面白い。