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あと7年で"反権力"の解説者はいなくなる

2018年06月02日 00時02分38秒 | 政治・拡散記事・報道・海外

あと7年で"反権力"の解説者はいなくなる

夏野 剛  2018/06/01 09:15

テレビの報道番組では、リベラル色を前面に打ち出した「反権力」のコメンテーターをよくみる。だが慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授の夏野剛氏は、「いまのテレビは60代以上に向けてつくっており、その世代はリベラルで安倍政権を支持しない人が多い。だが7年後までに高齢世代が入れ替わるため、番組内容も自ずと変わらざるを得ない」という――。

※本稿は、夏野剛『誰がテレビを殺すのか』(角川新書)の一部を編集部で再編集したものです。

「あと7年」で起きる高齢層の世代交代

これからの日本の人口動態を考えた場合、2015年の時点で70代だった人たちは、2025年には80代を迎えます。平均寿命を考えると、2025年になるころにはこの世代の人口はかなり減少していると見ていいでしょう。つまり、2025年までには人口構成が変わり、2015年時点で55歳以上の人たちが2025年には新たな高齢者となるのです。

2015年の段階で70代以上だった人たちにはいわゆるリベラル層が比較的多く、政治的スタンスとしては、安倍自民党に対して不支持の姿勢を表明する人が多くいました。しかし2025年になると、これらの層の人たちは減少し、存在感も薄れていくはずです。

テレビ局にとって、60代を含むこの層がメイン視聴者であることについてはすでに述べました。そのため、今のテレビはこの層が喜ぶようなコンテンツ作りを行っています。しかし、2025年を迎えるころまでには世代交代が起きると予想されるため、それに伴ってテレビ局側のスタンスも変わってくるでしょう。

「反権力」が視聴者にウケなくなる?

今後、テレビ局が直面するであろう現実は、リベラル色を前面に打ち出した番組内容では視聴率が稼げなくなるということです。これまでは、60代、70代以上の人たちに受け入れられるようにコンテンツを作り、それに合わせたコメンテーター選びが功を奏してきましたが、今後はその路線がウケなくなります。人口構成の変化により、2025年までの間に報道番組の位置づけはガラリと変わっていく運命にあるのです。

テレビ局は今から実際に変わっていかないと、人口構成の変化に間違いなく乗り遅れることになるでしょう。

本来であれば、こうしたことにいち早く気が付いた事業体が反権力ではないテレビ局を新設する動きが出てくると、日本のテレビも活性化すると思います。しかし、規制が厳しい日本ではこうしたことは絶対に起きません。

新しいテレビ局は誕生しませんが、その代わり、既存のテレビ局が新しい姿勢を打ち出すことになるでしょう。日本のテレビ局は主義主張で凝り固まっているわけではなく、柔軟性を十分に備えているのです。自分たちの生き残りのために必要となれば必ず姿勢を変えてくるはずです。残されている時間はあと7年。あまり時間はないのです。

今後はテレビ番組の内容に細かいクレームを付ける視聴者の数は減っていくはずです。どう見ても“暴走”としか思えないようなクレームを行う視聴者の数は、おそらく今がピークではないでしょうか。

今後の日本社会では、高齢になっても働き続ける人たちの数が多くなることが予想されます。健康寿命が延びていることに加え、経済的な理由や労働力不足が重なって、元気なうちは働こうと考える人はすでに増えています。この流れは今後ますます顕著になっていくはずです。そうなれば、テレビにかじりつきながら老後を過ごす高齢者の数は確実に減少します。忙しくなれば、いちいちテレビ局にクレームを入れている時間はありません。

2025年に高齢者となる現在の50代は、現時点の60代、70代世代と違い、普段の生活でネットを使いこなしている人たちです。日本では今後も高齢者が増えていきますが、今後はネットリテラシーのある高齢者が増えていきます。

番組制作のスタイルが変わる

さらに言うと、2025年には番組制作とメディアの関係に変化が起きているはずです。ちなみに、ここでいうメディアとは、地上波、BS放送、ネット配信、パッケージ(ブルーレイディスク)といったコンテンツを発表するフォーマットのことを指します。

これから数年の間に、地上波で放送するためだけに番組を制作する従来のスタイルは必ず変わっていきます。ビジネスという観点からすると、今後はコンテンツを制作しつつ、編集の仕方を変えて地上波で放送するバージョンとネットで配信するバージョンを用意し、視聴者の好みによって選択してもらうようにならざるを得ないのです。さらに、再編集したものをパッケージにして売り出せば、1つのコンテンツからより多くの利益を生むことが可能になります。これからのテレビ局は、生き残りをかけて、こうしたビジネスモデルを構築していくはずです。

現在の番組制作側が持っている能力は、地上波の枠を完全に上回っています。例えば首都圏の場合、NHKを含めたチャンネル数は7です。つまり1日の放送枠は24時間×7チャンネルで168時間しかありません。日本国内のコンテンツ制作能力をフルで活用しようと思ったら、これではとても収まらないはずです。

配信用の「長尺バージョン」をまず作れ

例えば、2008年にフジテレビが放送を開始したテレビドラマシリーズに『コード・ブルー』があります。2017年には第3シリーズが放送され、2018年の映画化まで決定した大ヒット作品です。このシリーズは毎回10~11話で完結する構成になっています。

この作品について理想を言えば、地上波で放送した後に自社のオンデマンドやネットフリックスなどでも配信することを考えて制作すべきだと思います。つまり、1話90分の長さのロングバージョン用の台本を作り、それに合わせて撮影を済ませ、これをテレビ用に1話45分、10~11話完結作品として編集したものと、ネット配信用に1話90分、20話完結作品として編集したものに分けるのです。こうして2つのバージョンを制作しておきます。

ネットフリックスなどでは、すでにそれぐらいの長さのオリジナル作品が数多く配信されていることを考慮すれば、地上波で人気作品となっているドラマは、ネット配信でも新たな視聴者を獲得できるはずです。

ロングバージョンには、ショートバージョンでカットされた中間のストーリーをそのまま残します。こうすることで、より深い意味をドラマに盛り込むことができます。能力の高い脚本家はたくさんいるので、ストーリーはいくらでも作れるはずです。今まででも、1年間にわたって放送されるNHKの大河ドラマは、年末に総集編として4~5時間のダイジェスト版が放送されてきました。

さらにパッケージで売る際には、CMの後の重複部分や前話の振り返り部分をすべてカットし、オリジナルのフォーマットで収録するのです。

視聴者は「別バージョン」を歓迎する

このほか、バラエティの場合は120分のフォーマットで制作します。これをテレビ用として45分に編集し、ネットの場合はオリジナルを配信すればいいでしょう。生放送のバラエティであれば、さらに変化を加えられます。地上波では2時間番組とし、ネットでもサイマル放送を行って、ネット配信のほうには30分の延長部分を付け足すのです。こちらでは出演者たちに2時間の本編について語ってもらいます。これをすることでオマケ感が出せるので、コンテンツをより面白いものにすることができるのではないでしょうか。

コンテンツは、制作側が編集を施すことによって様々な長さの“商品”に作り分けることができるのです。どうして今すぐにこれをやらないのか私はいつも不思議に感じています。

テレビ局の関係者に直接提案したこともありますが、決まって返ってくるのが「ドラマのクオリティが下がる」ということです。その言葉からは「新しいことはやりたくない」という空気しか伝わってきません。もしかしたら自信がないのでしょうか。

地上波で放送するショートバージョンの視聴率が良ければ、スポンサーは喜びます。その上で、ロングバージョンをネットで配信すれば、さらにそこから収入が得られるのです。コンテンツが良ければ、視聴者は何度でも見たくなるものです。別バージョンがあるとなれば、視聴者は必ず興味を示してくれます。

今後さらに高齢化が進んでくれば、「安心して見られるあの作品をもう一度見たい」という需要は確実に増えるでしょう。ネット配信の方法を整えれば、海外にも売ることができます。こうした隠れた需要が存在しているのに、何もしないのはおかしな話です。

このところ変化の兆しが見えてきているようですが、日本国内の事情として、男性タレントを数多く圧倒的に持っている某事務所所属のタレントがコンテンツに出ているとそれをネットで販売できないという大きな障害があります。ただし、その事務所所属のタレントを出演させるよりも、ネットで配信するほうが結果的にメリットが大きいという見通しが立てば、「その事務所所属のタレントは使わない」という判断もコンテンツによってはできるはずなのです。しかし、その判断はまだどこからも出てきません。

結局のところ、新しいことにチャレンジしない体質が日本のテレビを世界の潮流から孤立させ、その姿勢が自らを弱体化させていくのでしょう。

「地上波」にしがみつけば衰退一直線

「地上波」というのはいまだ明らかに1つのブランドです。ただし、そのブランド力にいつまでもしがみつき、変化を恐れるようなら、間違いなく衰退の道を歩むことになるでしょう。

テレビ離れが進んでいると言われながら、テレビ局は今でも面白いドラマやバラエティ番組を作り続けています。今後、コンテンツを発表するメディアを増やすことができれば、コンテンツ制作を行うテレビ局は今後も生き残れます。

作品を作りたい監督や脚本家、出演したい俳優は、メディア業界にたくさんいます。人気のある俳優でも、年に2本のドラマとCMの仕事しかしないという人はいくらでもいるのです。彼らに仕事を依頼すれば、確実にコンテンツを増やしていけるでしょう。露出の機会を与えられるのは、俳優にとっても嬉しいはずです。

求められるのは、放送業界に所属する人たちの意識改革です。もともとプロデューサーやディレクターにとって自分たちが制作したものを多くの人に見てもらえるのは願ってもないことなので、意識を変えて多角的な制作に移行するのはさほど難しくはありません。

それよりもネックなのは、テレビ局の経営陣の意識改革ではないでしょうか。現在の経営トップたちは、テレビがエンタメの主役だった時代を生きてきた人たちです。したがって、ネット配信やパッケージ販売については、キワモノという考えを持っている可能性があります。仮にそうであれば、ネット配信やパッケージ販売に抵抗のない世代に経営をバトンタッチできるかどうかが生き残りのカギになるでしょう。

ただし、どんなに意識改革が遅れたとしても2025年になるまでには今の経営陣は第一線を退いているはずです。「テレビ」という枠から飛び出していくためにはこうした抜本的な改革が必要なのかもしれません。

将来を考えると、テレビ局が存在し続けるには映像コンテンツ総合制作会社へと脱皮する道しか残されていません。テレビ、ネット、パッケージと自由自在に良質のコンテンツを提供する集団に変貌できれば、これからも視聴者はついてきてくれます。

番組ごとに事業管理できる新体制の構築を

今後、テレビ局の経営陣がやらなくてはいけない仕事は、事業管理を行い、新体制を構築することです。

コンテンツを制作し、それを様々なメディアに向けて販売していこうとしたら、まずはマーケティングを行う必要があります。市場を調査し、各メディアからどれだけ収益を上げられるのか概算していかなくてはなりません。

複数のメディアでビジネスをするようになれば、今度は新たな評価システムを作る必要があります。これまでは視聴率が制作スタッフの唯一の評価の基準だったはずです。しかし、ネット配信やパッケージ販売が加わることで、視聴率だけを物差しとすることはできなくなります。こうした変化に対応し、新しいシステムを社内に作っていかなくてはならないのです。

それに伴い、予算の決め方も変わるでしょう。制作だけでなく、営業の仕方も大きく変化すると思います。有名な話ですが、スタジオジブリは映画館での興行では大きな利益を出せていないにもかかわらず、その後のパッケージの売上が大きいので最終収支は黒字となっています。こういうケースもあるので、ひとつひとつの番組のコスト管理、売上管理というのをプロジェクトごとに行う仕組みを作らなくてはいけません。

強みを生かし、先手を取れ

これまでのテレビ局は、視聴率が高ければCMの単価が上がり、大きな儲けが出るというどんぶり勘定で経営をしてきました。しかし、これからはこの体質も変えていかなくてはなりません。コンテンツごとに長いレンジでしっかりと採算管理する仕組みを採り入れることができれば、テレビ局には大きな未来があるはずです。

映像コンテンツに対する需要はますます高まっています。その最大の理由は、ネット配信の手段が発達し、枠が急激に増えているからです。

増えたこれらの枠を埋めるのは、テレビ局なのか、それ以外の勢力なのか。それを決める1つの分岐点が今なのです。この重要な局面を外さずに、コンテンツの供給者としてしっかりと食い込んでいければ、当分の間、テレビ局が殺されることはないでしょう。テレビ局には一日の長をはるかに上回るものが備わっているのです。

分岐点にある今、各局は横並びの状態でいるわけにはいきません。どこかの局が、いち早く先んじて動くべきです。先手を打ったテレビ局が、必ず勝者になっていくでしょう。

夏野 剛(なつの・たけし)

 

慶應義塾大学政策・メディア研究科特別招聘教授

1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京ガス入社。95年ペンシルベニア大学経営大学院卒業。97年NTTドコモ入社。iモードの立ち上げに関わる。現在はドワンゴなど複数の取締役を兼任。『自分イノベーション』(総合法令出版)『「当たり前」の戦略思考』(扶桑社)など著書多数。(写真=iStock.com)

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