迷宮映画館

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誰も知らない

2004年08月30日 | た行 日本映画
私は映画ばっか見てるとんでもない母親である。お帰りなさい、と子供を迎えたこともない。「これ買って」といわれて二つ返事で買ったことなどない。授業参観も真面目に行ってない。カップラーメン食わせて終わりの昼飯なんか、数え切れないくらいある。あなた方のために生きてるんだなんて言えない。誰よりも誰よりもあなた方が大好きだといったこともない。こまめに掃除もしない。酒ばっかかっ食らってる。あなた方の幸せを真剣に考えたことがあるだろうか。母親として何をすべきか、真剣に考えたことがあるだろうか。

私はただの保護者だ。自分の目の届くところで、あなた方の安全を守り、命を守り、毎日の生活を送る。これだけのことをしているに過ぎない。ご飯を食わせない母親、虐待する母親、パチンコに興ずる母親、ちょっと自分が優先してしまって、子供の命を奪った母親と何の違いがあるだろうか。YOUの母親が「私は幸せになってはいけないの」の言葉がずしりとくる。

母親とは子供のために何をしなければならないのか。愛情を注いでください、と人はいう。あなたはたっぷり愛情を受けましたか?何をすれば愛情なのですか?抱きしめること?話を聞くこと?生きる力を教えること?おいしいものを食べさせること?あなたが大すきよと言うこと?どうしたらいいのでしょう。

映画は素晴らしかった。淡々と追う是枝作品の真髄を見たような気がする。子供の強さ、可愛さ、残酷さ、誰しもが持ってる心の弱さ、苦しみを、これだけさりげなく描いていいのか、と思うほどの素晴らしさだ。細かい描写の心憎いこと。自然の香りを誰よりも感じるだろうと、畳のにおいをかぐとこなんて、うますぎる。コンビニの店員の最初の訓練はビニールくしゃくしゃ。カップラーメンの残った汁には絶対ご飯を入れる。一体是枝さんは、町のどこ見て、暮らしてんでしょうね。難点をいうなら、うちでも使ってる『チャレンジ国語辞典』がきれいすぎたことくらい。

子供達だけ生きていたというニュースは衝撃だった。いや、子供達だけも生きていく力はあると思う。人間はそうヤワではない。ただ、世の中のシステムはそうはなっていない。弱者が生きていくには、ものすごく不便な世の中なのだ。それはこの世界が管理されているから。私たちを把握し、戸籍を作り、細大漏らさず網羅するのは、管理するため。そこから外れて生きている人も当然いる。このニュースを今から10何年かくらい前に聞いたとき、そう感じた。人間とはヤワなもんじゃない。ただ、管理の網から外れた人間のなんと生きにくいことかと。

すべてをかなぐり捨てて、何もかも放り投げて、自分のことだけ考えて、勝手に生きたい。こんなことは毎日考えてしまう。これができたら、どう思うだろう。スカッとするだろうか。幸せだろうか。しかし、自分には私の後ろをぎゅっとつかんでる小さな手がある。どんなときもこれを忘れたことはない。かあちゃんがあなた方にあげられる気持ちは、あなた方を絶対に忘れたことはない。それだけかもしれない。その気持ちだけ。こんなかあちゃんで、ごめん。

全然、映画の感想になっていない。でも、本当にこんな気持ちにさせた映画だった。

「誰も知らない」
監督・脚本・編集 是枝裕和 
出演 柳楽優弥 北浦愛 YOU 2004年 日本作品


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2 コメント

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こんなかあちゃんで (miyu)
2010-06-23 20:01:46
ごめんだなんて。
sakuraiさんってすごく素敵なママだと思うのに。
それでも反省するところもあるなんて、余計に素敵です。
子供より大事なものなんてないって言う人もいるけど、
ちゃんと自分のエゴって親にだってあるとは思います。
でも、やはりとても小さな命を守るのはやはり親の務め
なのかなぁ~なんてね。
誰にも知られることなく生まれて来てしまって、
誰にも知られることなく死んでいってしまった命が
あったことはやはり切ないですね。
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>miyuさま (sakurai)
2010-06-27 20:13:15
これ見たのが6年前か・・・。
もっと前のように思えるのは、事件そのものの印象が、娘が赤ん坊の時、だからでしょうかね。
柳楽君もいろいろと大変な人生でしたが、とにかくさまざまなことが胸に去来した映画でした。
結局、人間なんてのはエゴの塊なんでしょうが、それを超える何かがあるはずだ!みたいなもんとかね。
今日、「プレシャス」見てきたもんで、ますます複雑です。
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