迷宮映画館

開店休業状態になっており、誠にすいません。

夕映えの道

2004年02月05日 | や行 映画
ある薬局で一人の老婆と行き会ったイザベル。老人は自分の意思が上手く伝わらない憤りを店員にぶつけていた。その場を過ぎれば、忘れてしまうような出来事だったのだが、イザベルはどうしてもその老婆が気になって、家まで送っていく。そこは古くからの街並が残るルトレ通り。しかし、老婆の家はひどかった。お湯も出なければ、掃除もされていない。少しいただけで、臭いが染み付いてしまうような部屋だった。

たった一人で暮らしていたマドレーヌ。若い頃は財産家で、これでも帽子工場の花形職人だったという。今まで誰にも省みられなかった人生。歳を取り、腰が曲がり、杖を頼りに歩いていても誰も見向きもしてくれなかった。そんなマドをなぜかほおっておけないとイザベルは、いろいろと面倒を見る。

しかし、今まで、他人と接してこなかったマドは、ここまで来ても生きるのが下手だった。他人の施しは受けたくない。でも、自分で何でも出来る歳はとっくに過ぎてしまった。他人が疎ましくもあり、誰よりも人恋しい。その気持ちをすべて受け止めてくれたイザベル。人生の本当の最後の瞬間に、かけがえのないものを得たマドだった。

老いを真正面から描いた映画だった。前途洋洋たる若い方たちは、きっと目もくれない映画かもしれないが、これは素晴らしかった。誰だって歳などとりたくない、きっと自分はいつまでも若いままでいられるはずだ。「あーー歳だ」などと言ってても、それはほんとの気持ちとは裏腹のはずだ。私もそう思っていた。しかし、現実はそうではない。誰だって歳をとる、それだけは確かなこと。幸せたっぷりの老人、孫に囲まれ、生活の不安もなく、悠悠自適の毎日を送り、大往生を遂げることの出来る人。しかし、片一方に、家族もいず、一人寂しく、夜中に腹の痛みを訴えても誰にも聞いてもらえない人。こんな老人もいる。マドはそんな後者の老人の一人だった。

たった一人で歩んできた人生。老人を一人の人間として扱わないような援助をかたくなに断り、頑固に生きてきた。あくまでも頑固であって、頑迷ではない。きっと一人で死んでいくはずだった。でも、その死の直前に神様が出会わせてくれた邂逅。こんなときだけ都合よく神様にお出まし願うが、本当に暖かい出会いだった。イザベルとマドの出会い。人間の出会いがこんなに素晴らしいものなのかと心から感じさせるものだった。

つくりはリアル、老人のたわごとと思えるような魂の叫びもしっかり描いている。目を背けたくなるような現実も見据えている。見たくはないけど、見なくてはならないことかもしれない。でも、それをすべて押し流してくれるマドの言葉。イザベルと出会って「今が一番幸せだわ」といったマドのおだやかな顔は、最高のシーンだった。このシーンはちょっと忘れられない。

『夕映えの道』

原題「Rue du Retrait」 
監督 ルネ・フェレ 
出演 ドミニク・マルカス マリオン・エルド 2001年 フランス作品


最新の画像もっと見る

コメントを投稿