迷宮映画館

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酔っ払った馬の時間

2003年05月09日 | や行 映画
イラン、イラク国境に近いあたりのバザールか。子供らが密輸の商品のコップを手際よく包んでいく。壊れないように新聞紙で一個づつ。仕事をひたすら探す子供たち。その表情は、今まで見てきたさまざまな国のストリート・チルドレンとは違う。責任感と悲壮さが数倍も違う。小銭を稼ぐなんていう生易しいものではない。今日のこの日を1分1秒生き抜いていかなければならないのだ。

少年アヨブは母を亡くし、密輸の仕事をしている父を少しでも手伝うために荷運びの仕事をしている。そんな中でも妹を気遣い、不治の病の兄を何とか助けようとする。そして、父の死を知る。兄弟5人の面倒を見なければならないアヨブ。今日から家長だ。

兄、マディの容態はだんだん悪くなる。もう手術しか助かる方法はないといわれ、なんとか手術代を稼ごうとするが、少年アヨブの稼ぎなどはたかが知れている。マディの面倒を見てくれるという条件で、姉のロジーンが別の村の青年と結婚することになる。その長い道のりを荷物のように運ばれるマディ。彼の行く末に希望はあるのか。

いやー、近年まれに見る凄い映画を見てしまった。これは圧倒的としかいえない。今のところ、今年の映画でこれをしのぐものはない。

実際にクルド人の兄弟を使って、ほぼ初めてクルド語を使用した、クルド人監督の映画だということだが、誇張も何もなく、実際のクルド人の様子だという。これほどまでに過酷で、つらい中を生きている人々がいるだろうか。仕事は重い荷運び。冬の厳しい道のりを踏破するために、ラバに酒を飲ませて、麻痺させるという。ラバを持たないその中でも最貧のアヨブは肩に荷物を背負っていく。行く手には地雷が待ちうけ、国境警備隊が銃を構えている。でもそこに行かなければ、今日を生きていけない。黙々と足を運ぶアヨブ。マディのため、妹のアーマネにノートを買ってやるため。

かわいそうとか、何とかしてやりたいなどという甘ったれた感情など入る隙もない厳しい世界を彼らは生きている。なぜ、自分達はこんな世界で生きていかなければならないのだろうなどとは絶対に考えてない(多分)。ただ、今このときを行きぬけなければならないということだけが、アヨブを、ロジーンを動かしている力だ。自分のために、妹のために、兄のために。こんな生き方もある、それでも人間は生きているということは我々は知らなければならないと思う。たった1日の上映だったが、何とか大勢の人に知らせたいという気持ちが自分を突き動かした久々の映画。

「酔っ払った馬の時間」

原題「Zamani Baraye Masti Abha(英題 A Time for Drunken Horses)
監督 バフマン・ゴバディ 出演 アヨブ・アハマディ アーマネ・エクティアルディニ
マディ・エクティアルディニ 2000年 イラン作品


 ☆☆☆豆知識・クルド人ついて☆☆☆

クルド人はトルコ、イラン、イラク、シリア、アルメニアの隣接する国境の山岳地帯に生活している少数民族で、全体では2000万~3000万の人口規模があり、クルド語を話す固有の民族である。その90%がイスラム教スンニ派で、現在も国家無き民として中東地区にさまざまな問題を起こしている。

第一次世界大戦時に独立を一旦はオスマントルコから勝ち取るが、ここで、また英国を中心にするヨーロッパ諸国の思惑が絡んで、クルド人の独立の約束は反故にされる。

その後も幾度か独立しようとするが、クルド人をかかえている国々の対立などから失敗を繰り返してきた。そして、1980年からはじまったイラン・イラク戦争が大きな惨禍をもたらした。イラクに住むクルド人愛国同盟がイラン政府から支援を得たということに対する報復として、フセイン政権はクルド人に対して化学兵器を使用した。5000~6000人のクルド人が苦悶のうちに亡くなったという。

さらに湾岸戦争時には反イラクを掲げるクルド人組織に対して、アメリカはフセイン政権打倒を扇動した。しかし、アメリカの政策転換から、支援を断ち切られ、孤立を余儀なくされた。

そして、現在のイラク戦争に発展しているが、その後のクルド人に関してはまだ確かな情報が入っていない。

アヨブ少年とマディに未来はあるのか。せめて彼らに希望というものを味わって欲しい。ほんのわずかな間でも。

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