迷宮映画館

開店休業状態になっており、誠にすいません。

終の信託

2012年10月30日 | た行 日本映画
重い喘息を患っている患者。ぜんそくは本当に辛い。映画の中でも語られるが、呼吸ができない。気持ちは、息を吸って、吐いてと、ごくごく普通のことをしようと思っているだけなのに、できない。その辛さは筆舌に尽くしがたい。

その病を患って25年になるという江木さん。強い薬はできるならば使いたくない。何とかしてよくならないかと自分なりの努力を重ねてきた。それが克明なぜんそく日記。多分、几帳面な性格なんだろう。それが如実に見える。

そういう性格な人ならば、なぜに???と思うことが頭をよぎる。それは後で述べる。

発作が起きると入院を繰り返すということで、病状はあまり芳しくない。彼の主治医が折井先生。女医だ。美しい女医先生ということで、人気もありそう。病院内に恋人もいるようだ。それは周知のことらしい。空いてる病室でよからぬことをしちゃいかんやろお~と思いつつ、相手の男性はその気はなさそう。

中年にさしかかった女性。この年で肉体関係にあって、いわゆる恋人と思っていた相手。焦るなといっても無理かもしれない。えらく男性目線な感じがしたのだが、焦る中年女性をもてあそぶ、ちょっとちゃらい、やな奴を浅野忠信が好演。やな奴が超似合う。ここは男の正体も知れて、よかったじゃん!とあたしなぞは思ったのだが、折井はショックを受けてしまう。やなことをただ忘れようと酒を飲む、寝るために睡眠薬を飲んだだけなのに、オーバードーズ。

薬の誤飲で亡くなってしまう人などは、きっと大半がこんなことなんだろうなと。自殺なんて、かけらも思ってのことじゃないのに、周りは自殺と騒ぐ、噂が飛び交う。しかし、彼女は思いもかけず死に瀕した患者として、貴重な経験を得る。

髪も切って、吹っ切った彼女は仕事に戻る。そして、江木と向き合う。江木は一向に良くならない。彼と接して行くうちに、誠実で、温かい江木の人柄は、ずたずただった彼女の心を癒していく。しかし、病状は悪くなるばかり。空気のいいところに転地を勧めたり、懸命に治療するが、先は見えない。そして彼は自分の最後を彼女に託す。

チューブにつながれ、ただ命を長らえるのだけは耐えられない。医療費もバカにならない。妻は、おとなしい気弱な女性だ。ずっと看病に明け暮れてきた妻に最後まで託すのは忍びない。先生に託す。先生を心から信頼している。頼む・・・と。

そして彼の最期の時。運ばれてきた江木は、意識がない。心肺停止状態。当然、蘇生のために治療を行う。心臓マッサージをし、挿管し、栄養のチューブをつなぐ。彼がもっとも避けたかった状態だ。でも、彼は生きている。望まぬ形で。3週間、意識の戻らぬまま、折井は家族に伝える。彼の意志と、この状態と、どうすべきかを。

管を抜けば、呼吸が止まり、亡くなるはず。しかし、管を抜いたとき、彼は暴れ出す。苦しみの中で、呼吸をしようとしているのか、もがき苦しむ。そして、折井がやったことは、鎮静剤と麻酔(?)を注入。そして、彼は息を引き取る。

この一連のことは医療行為なのか、それとも殺人なのか???折井は殺人と起訴され、検事のところに行って、取り調べを受けると言うのが、この話のキモとなる。大沢検事と、草刈先生の、やりとりは迫力満点。大沢検事が流れから言って、悪役の方というばばを引かされているが、検事なんてのは多かれ少なかれ、あんなもんでしょ。

願わくば、生涯あんなところで、検事と丁々発止だけはやりたくない!と思った。問題は、彼女の行為は殺人なんだと言うことを自らの口から言わせること。そのために、いやらしい待たせ方をしたり、ねちっこく突っつき、あってないような約束事行ってみたりと、完全にあっちの土俵の上で相撲を撮らせられる感じだ。

私が強く感じたのは、話について。映画については、敢闘賞もん。草刈さんのセリフ回しには、どうにも気になるところがあって、きちんとボイストレーニングをしてるんだろうかと、時折思うが、監督の思いが強すぎて、文句は言わせねーぞ!みたいな。

いつもの周防監督のタッチの、丁寧で、微に入り細に入り、作りこまれていると言うのがよーくわかる。この映画の作り方に関しては、お見事だと思う。

で、申し上げたいのは話の中身について。それは映画とは言えないので、別物として考える。なんだか話の流れは、医者に自分のやったことを認めさせる!というのをひとえに目的として、それに突き進んだように見える。そして目的を果たしたような。それは検事としてはガッツポーズなんだろうけど、ものすごく後味の苦いガッツポーズだ。

折井は、託された。それは、その時になってみなければわからないだろうが、彼女には覚悟が必要だ。時としてそれは殺人になるかもしれない。それくらいの覚悟を持って、彼女は信託を受けたのだろうか。もし、それだけの覚悟があったのなら、堂々と「殺した!」と言い得てしかるべきではないかと。いや、医者が「殺した」などと言ってはそりゃまずい。そうではなかったと延々と説明してても、実は自分が殺したんだと分かっていたはず。

「殺した」のだ。そうなってしまったのが、江木にとっての最善の方法であり、それが認められない世の中。ならば「殺したのです。それがこの場合の最善の策で、それを託された私は、実行しました。現状では咎められます。何が一番いいのか、どうすれないいのか、どんな方法が最良なのか。それを問いたい」と、はなっから言ってほしかった。

そして、託した江木。現状では自分の要求が通らないことは分かる。しかし、延命治療の拒否、はっきりとした自分の意志があるならば、明確にすべきではなかったか。これだけの几帳面な人ならば、先のことも容易に想像ができるはず。その意志をもっともっと明確にしていくのが、この人のやるべきことじゃないかなあと感じた。

保身する医師と、追及して自白させたい検事。それだけじゃないはずなのに、そう見える作りになってしまったのは、あまりに題材が難しすぎたからだろうか。

女性の描き方がステレオタイプなのが、若干鼻についた。役所さんはさすが!完璧。やっぱ大沢カマキリは、どうしても苦手だ。なもんで、狡猾な感じってのは、似合ってたと思う。

答えの出しようのない、難しい題材に挑戦した監督には敬意を表する。

◎◎◎○●

「終の信託」

監督 周防正行
出演 草刈民代 役所広司 浅野忠信 大沢たかお

コメント (8)   トラックバック (8)   この記事についてブログを書く
« 369のメトシエラ | トップ | プンサンケ »
最近の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大沢カマキリ…… (hori109)
2012-10-31 18:44:29
……の気持ちはよくわかります。
わたしも、「JIN-仁」を観るまで苦手でしたし(笑)

この映画で気になるのは、宣伝の意味もあるのか
周防監督がバリバリに主人公の行動の正当性と、
それを認めない現状への異議を申し立てていること
です。

実はわたしは尊厳死をかなりの部分で許容できると考えて
いるんですけれど、そうはっきり言われては……
そこをグレーにする感じがこの映画にあったので
もったいない気がしました。
>hori109さま (sakurai)
2012-11-02 08:51:53
「仁」は、それなりに楽しみましたが、あたしはこの人がどうしてもだめで。。。
なもんで、この検事役はピッタリだったと思います。

原作を読んでないので、なんとも言えないのですが、徹底的にディティールにこだわる監督にしては、江木の方の行動や、流れにすとんと落ちないものを感じました。
難しい題材ですけどねえ。
明日は我が身~ (cyaz)
2012-11-08 17:35:41
sakuraiさん、こんにちは^^

寒くなりましたねぇ><
この映画は結構美談に仕上げていましたね?
矛盾する部分も多々ありましたが、何故江木が
あれほど折井に心を許したのか・・・。
単に家族ではダメだった背景が曖昧に描かれすぎましたね。
自分に置き換えて、今からエンディングノート残しておかないと(笑)
明日は我が身ですから(爆)

>cyazさま (sakurai)
2012-11-09 10:07:30
ほんとにめっきり寒くなりました。
風邪ひいてしまったです。ショック。
暇な今のうち引いちゃおう!という手もありますが。

はい、映画としては完成度高かったと思いますが、話の中身については、いろいろと引っかかるとこがあって、すとんと落ちませんでした。
息子はあてにならない、娘は遠くにいる。だったら!だからこそ妻は何のために居るんだ!なんで妻に気を使う。ずいぶん身勝手な夫だなあと感じました。
一種のラブストーリーにしてしまったのが、無理を感じた要因ではないかと。

あたしもそろそろエンディングノートかなあと思いつつ、その前におくらねばならない人がまだいっぱい居るんで、一応やめときます。
順番は守りたい。
Unknown (クマネズミ)
2012-11-14 20:28:13
今晩は。
本作は、sakuraiさんがコメントに対する回答でおっしゃっ
ているように、「一種のラブストーリーにしてしまったの
が、無理を感じた要因ではないか」とクマネズミも考えま
す。
こんな重い問題を取り上げているのですから、そちらを
もっと突っ込んでくれたらなという思いです。
チューブを抜きとってからの折井医師の行動は、どうみ
ても「殺人」であり、ところがその時の行動やその後の
言い訳の仕方をみると、どうも「覚悟を持って、彼女は信
託を受けた」ようには見受けない感じがします。なんだ
か、車の中で江木に深い信頼を寄せられて以来、折井
医師の頭がボーッとしてしまったような印象を受けます。
それでいて、事件の後、病院の担当部長になったりして
いるのですから、どうもよくわからないところです。
>クマネズミさま (sakurai)
2012-11-16 22:34:29
コメント、ありがとうございます。
原作を知らないので、どのように描かれているのかわかりませんが、実際の事件は、どう考えても恋愛要素はないと思います。
そこに無理やりのように、贅肉付けたような話が、どうもすとんと落ちなくて。
安楽死問題だけで十分、しっかりしたものが作れたろうし、その方が問題提起もはっきりしたように思えます。
それだけじゃ面白くない・・と監督は思ったんでしょうかね。
奥さん大好きなのもわかりますが、ここは完全第三者で行った方がよかったと思いました。
こんにちは (はらやん)
2012-12-01 08:09:53
sakuraiさん、こんにちは!

個人的な感覚で言うと、綾乃はそれが「殺人と世間では言われるかもしれない」という意識はなかったのかなと思いました。
どちらかといえば、この人を苦しみから救ってあげたいという思いだけであったのではないかと。
そういう点では愛の物語なのかもしれないです。
医師が男性のキャラクターであればこのような形にはならなかった気がします。
そういう点で綾乃は医師として「信託」を受ける覚悟があったかというと微妙で、「信託」を人として、もしくは女として受けてしまったということなのかもしれません。
検事の取り調べは、自分もあの場所に座るようなことにはなりたくないなと思いました。
あれだったらやってなくてもやってますと言ってしまいそうな気がしますよね。
そうして冤罪は生まれるのかと変に納得してしまいました。
>はらやんさま (sakurai)
2012-12-04 14:06:52
そうそうそう、彼女に殺そうなどという気はさらさらない!
その時点で問題だと思うんですよ。
あれだけの信託をされたということを覚悟してない。
実際のモデルになった話は、どうなんでしょ。
詳しくはわかりませんが、そこん所を無理やり愛の物語にしてしまったのが、無理が生じたんじゃないかなあと感じました。

検事の前にだけは、座りたくないです。
そういう一生をぜひとも送りたいですが、疑似体験くらいだったらしたいかも。
でも、これは冤罪というもんとも違うし、難しいですね。

コメントを投稿

た行 日本映画」カテゴリの最新記事

8 トラックバック

「終の信託」 (2012 東宝=フジテレビ=アルタミラピクチャーズ) (事務職員へのこの1冊)
ロアルド・ダールに「音響捕獲機」という短篇がある。世の中の、人間には聞こえない音
『終の信託』 (京の昼寝~♪)
□作品オフィシャルサイト 「終の信託」□監督・脚本 周防正行□原作 朔立木□キャスト 草刈民代、役所広司、浅野忠信、大沢たかお、細田よしひこ■鑑賞日 10月28日(日)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★☆(5★満点、☆は0.5)<感想>  ...
映画「終の信託」感想 (タナウツネット雑記ブログ)
映画「終の信託」観に行ってきました。朔立木原作の同名小説を、草刈民代と役所広司が「Shall we ダンス?」以来16年ぶりに共演し、終末医療のあり方をテーマとした、周防正行監督の...
終の信託 (映画的・絵画的・音楽的)
 『終の信託』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。 (1)これまで周防正行監督の作品は、『シコふんじゃった』(1991年)、『Shall we ダンス?』(1996年)、『それでもボクはやってない』(2007年)と見てきていますので、この作品もと思って映画館に出かけました。  物語...
映画「終の信託」 (FREE TIME)
映画「終の信託」を鑑賞しました。
「終の信託」 いろいろ考えさせられました (はらやんの映画徒然草)
「尊厳死」を題材にしているのは予告からわかりました。 重いテーマだなと思い、これ
『終の信託』 作文には書けないもの (映画のブログ)
 さすがは周防正行監督だ。『終(つい)の信託』は144分もの長さがありながら、名人芸ともいえるショットの積み重ねで、一瞬の無駄もない。  いや、一瞬の無駄もなく切り詰めに切り詰めたからこそ、この緊迫...
映画『終の信託』を観て (kintyre's Diary 新館)
12-90.終りの信託■配給:東宝■製作年・国:2012年、日本■上映時間:144分■観賞日:11月18日、TOHOシネマズ渋谷(渋谷)■料金:0円 □監督・脚本:周防正行◆草刈民代(折井綾乃)◆役所広司(江木泰三)◆浅野忠信(高井則之)◆大沢たかお(塚原透)◆...