迷宮映画館

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故郷の香り

2005年04月25日 | は行 外国映画
井河(ジンハー)は、北京から故郷に10年ぶりに帰った。帰れなかったわけではない。いつのまにか、故郷への思いを封印していた。自分を故郷に向かわせなかったものは何だったのか・・・。

久しぶりに帰った井河は、道の途中で、大きな背負子をくくりつけ、足の不自由なくたびれた女性とすれ違う。10年ぶりだろうと、どんなに変わってようとそれが誰かはすぐにわかった。暖(ヌアン)だった。初恋の相手。

暖は口の利けないヤーバと結婚していた。幼い頃からのケンカ相手。聾唖のもどかしさをぶつけるように、暖にちょっかいを出していた男だった。よりによって、何であのヤーバと。もっと君にはふさわしい人がいたはずじゃないか・・。土産を持って、暖の家に向かった井河は、あのときを思い出していた。

愛とは一体何か。愛とは奪い去るもの、愛とは惜しみなく与えるもの、愛は残酷であり、愛は優しい。どれも正解だと思う。若い頃の愛は素直だ。相手と自分しか見えない。その無垢な愛が、どこかで、誰かを傷つけていようと一切構わない。しかし、その愛を喪失してしまったとき、この思いは一体どこに行ってしまうのか。やりきれない気持ちの渦がまいているように思える場所が故郷なのかもしれない。

藁のにおい、アヒルの散歩、村のブランコ、ドサまわりの役者、どのシーンもフォ監督らしい暖かさと、ゆるっとしたテンポで、丁寧に描く。一つ一つの場面がじわっと沁みていくのが心地いい。香川照之のはっきりとした演技が秀逸。この人のすごさは止まる事を知らない。

誰しもが胸に刻む初恋の切ない思いを丁寧に、丁寧に、描いてくれた。映画を見た後、こういう映画を作ってくれて、ありがたいと思った。こんな気持ちになったのは久しぶりだった。

『故郷の香り』

原題「暖」 
監督 フォ・ジェンチイ 
出演 グオ・シャオドン リー・ジア 香川照之 2003年 中国作品


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