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エリザベス 黄金時代への道

2008年02月17日 | お勉強コーナー
さて、エリザベス女王がイギリスを黄金時代に導くためには、長い年月を必要とした。そこに至るまでの状況は、少々の歴史的な知識があると、理解の手助けになる。人間関係が、よくわからなかったという方のために書きますので、よろしければお読みください。

ヨーロッパの王朝は王家が変わると、その名も変わっていくが、エリザベスのときはテューダー朝。百年戦争(1339~1453)のあとのイギリスの貴族の生き残り戦争、薔薇戦争(1455~1485)を終わらせたヘンリ・テューダーが始めた(1485)。

彼はヘンリ7世として即位するのだが、まだまだ英国内も騒然としており、有力な貴族は、その座を虎視眈々と狙っていたころだ。

そのあとを受けるのが、ヘンリ8世(位1509~1547)である。このヘンリ8世の姉のマーガレットがスコットランド王、ジェームズ4世と結婚し、その孫がメアリ・ステュアートになる。エリザベスとの関係でいうと、いとこの子になる。



ヘンリ8世



さて、このヘンリ8世、当時の習いで、政略結婚をさせられる。相手はスペインの王女カザリン。それも当初は兄の嫁として迎えたのだが、兄が早世したために、押しつけられた形の相手だった。二人の間に生まれたのがメアリ。(ここで、メアリがたくさん出てくるので、こんがらがりそうになるのだが、がんばって!)

そのあと、王の目はカザリンの侍女の一人だったアン・ブーリンに行ってしまう。カトリックの結婚は神の前での契約。離婚は許されない。なんとかローマ教皇に離婚の許しを得ようとするが、それは認められない。ローマとしては、最大のカトリックの擁護者であるスペインのご機嫌を損ねるわけにはいかなかったのだ。当時のスペイン王・カルロス一世は、カザリンの甥になる。

そこで、ヘンリは強硬策を取る。それがカトリックからの離脱。自らを首長とする、イギリス国教会を独立させてしまう。そのアン・ブーリンとの間に生まれた娘がエリザベスなのだ。




アン・ブーリン



念願のアンと結婚したヘンリだったが、その目はまた別の女に行ってしまう。当初はつつましやかに見えたアンも、慣れてくると、徐々に彼女の高慢さが鼻につき始め、心やさしい名門貴族の娘、ジェーン・シーモアに行くのだ。

あれだけの騒動で結婚したアンと、そう簡単には離婚できないと思ったか、アンに不義密通の罪を着せ、死刑にしてしまう。(本当に不倫をしていたという説もあるようだが、ここは、無実の罪の方がずっと面白いので、そのままの説をとりたいと思います)

エリザベスが映画の中で、盛んに「妾腹!」と言われたのは、スペイン側は、アンを一切認めず、妾(この言葉は死語でしょうか?)と見ていたからだ。

やさしいジェーンの間に産まれたのは念願の王子、エドワード。しかし、佳人薄命、ジェーンはエドワードを産むと亡くなってしまう。母の優しさを受け継いだエドワードだったが、体の弱さも受け継いでしまい、若干16歳で亡くなってしまう。このエドワードと婚約をしていたのがメアリ・ステュアートなのだ。

ヘンリ8世が1547年で亡くなると、エドワードはわずか6年間、王位(位1547~1553)につき、皆に惜しまれ亡くなる。そのあとを継ぐのが英国初の女王、カザリンとの間に生まれたメアリ(位1553~1558)となる。




メアリ1世



(あまり世間的には評判の良くないメアリ1世。ブラッディ・メアリなどとも呼ばれるが、あたし的にはとっても興味のあるおばさんで、哀れにも思える人で、要チェック)

母の恨みを胸に抱き、父が袂を分かったカトリックを復活させる。スペインの血がそうさせた。そして、スペイン王子のフェリペと結婚する(1554)。エリザベスが死の危機を迎えるのはこの時。メアリにとって一番邪魔なのがエリザベスその人。この様子は、前作「エリザベス」の冒頭で描かれている。

当時、メアリ女王はすでに40歳を過ぎ、フェリペはまだ20そこそこだった。二人の間に子供が授かることを念願したメアリだったが、その願いもむなしく、メアリは亡くなってしまう。エリザベスは命の危機を脱し、女王に即位するのだ。1558年、エリザベスは25歳であった。各国の王やら、王族やら、大公やら、あるいはイギリス国内の貴族やらのプロポーズは引きも切らなかったのだが、そのプロポーズを手玉にとって、優柔不断の姿勢を貫いた。

当然、その中には、姉の旦那だったフェリペ(王に即位したのが1556年)もいたが、袖にしたのは言うに及ばない。

さて、そのころスコットランドはカトリックの道を貫いていたが、なかなかこれといった為政者に恵まれない。スコットランドはイングランドにとって、文字通り目の上のたんこぶ。13世紀ごろから、ずっとイングランドに侵攻され、抵抗を続けながら、共存を図ってきた歴史を持つ(『ブレイブ・ハート』の舞台はこれ)。

前作「エリザベス」のときは、フランスと組んで、イングランドに侵攻しようとした計画が露見し、一度叩かれるが、その時の指導者はフランスから嫁に来ていたメアリ・オブ・ギース(すいません。またメアリです)。これを演じていたのがフランスの名優、ファニー・アルダンだった。そのらしさはぴったり。深く、エロっぽく、カリスマたっぷり。その娘が今回死刑に処せられたメアリ・ステュアート。サマンサ・モートンが演じていたが、今回、私がどうにもしっくりこなかったのがこの配役。

メアリ・ステュアートと言うと、エリザベスが嫉妬するほどの細面の美人。楚そとしたイメージが強かった。そのイメージから行くと、・・・・かなぁと思っていたら、晩年の頃は、かなりお太りになって、かつての面影もなくなったということなので、妥当かもしれない。




メアリ・ステュアート



さて、エリザベスと並び称されることの多い、スコットランド女王のメアリ・ステュアート。やはり、エリザベスとはかなり格が違う。スコットランド王、ジェームズ5世の王女として産まれるが、生後すぐに父ジェームズが死んでしまい、赤ん坊のまま彼女は王になる。摂政は母、メアリ・オブ・ギースだ。

しかし、田舎の小国の悲しさで、周辺の大国に依存していかなければ、存続は難しい。イングランドは長年狙っているし、フランスも血縁だからといって、心から信頼しているわけではない。

結局、メアリ・ステュアートはフランス王子、フランソワと結婚するために、フランスに渡る。王なのに、自国にいないということは、当時としてままあることだ。各国の王家同士が結婚すると、そうなってしまう。そこでの宮廷の陰謀劇などが、はたまた歴史を面白くしてくれる。(『女王ファナ』などは、もろにそれだ)

しかし、王に即位した病弱なフランソワは、すぐに亡くなってしまう。次の王はシャルル9世。(『王妃マルゴ』の舞台のときの王で、ジャン=ユーグ・アングラード様が演じていた)シャルルの嫁にともいわれたが、メアリはスコットランドに帰ってくる。ここで、エリザベスとの違いが明確になる。独身を貫くわけでもなく、国内の貴族と再婚をし、国内の力関係のバランスを崩してしまう。

政治的な忠臣に恵まれなかったことも悲劇の原因の一つだ。スコットランド国内の貴族の対立を引き起こし、メアリは王位をおわれ、イギリスに亡命してくる。その時メアリ26歳。悲劇の女王としては格好の題材だ。

メアリは復位を狙って、さまざまな行動をおこすが、うまくいったものはなかった。しかし、エリザベスが独身を貫けば、皇位継承権のあるメアリは、仇敵イングランドの女王になれる可能性がある。でなければ、自分の息子のジェームズがその地位につく。そこで黙って待っていればよかったのだが、それができなかった。聖戦の名のもと、イングランドを叩きのめそうとするスペインの後押しによって、エリザベス暗殺計画に加担したとされ、死刑に処せられる。

最後に、ウォルター・ローリーについて。エリザベスの寵臣として知られるが、マルチな才能の持ち主で、冒険家だけでなく、政治家、詩人、その他いろいろな場で活躍している。新大陸に渡って、さまざまな文物を持ち込み、新たな世界を紹介したと、いろいろな伝説が残っている。煙草もその一つで、煙草を吸ったウォルターを見た召使がびっくりして、「ご主人様が燃えている」と、煙を吹かすウォルターに、水をぶっかけたという逸話や、エリザベスの歩くぬかるみに、さっとマントを引いたという話も有名だ。




サー・ウォルター・ローリー



クライヴ・オーウェンほど、野性味たっぷりで、男くさい男だったかは定かではないが、エリザベスが、重用し、彼に信頼を寄せていたのは、事実である。年齢差は20歳ほどだ。

このあと、スペインの無敵艦隊、通称アルマダを破ったイギリスは、文字通り、黄金時代を迎え、世界の冠たる帝国になっていくのだが、結局エリザベスは独身のまま亡くなり、そのあとを継ぐのは、かのメアリ・ステュアートの息子、ジェームズである。ステュアート朝の始まりだ。イギリスの政治に慣れないステュアート朝の歴代の王は、イギリス国民にそっぽを向かれ、ジェームズのあとのチャールズ1世のときに、ピューリタン革命が勃発する。国民が王を断罪し、王を処刑するということが起こるは、このあと50年後のことになる。

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20 コメント

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面白い・・・!! (圭一朗)
2008-02-17 17:08:06
 すんごく面白いご講義 ありがとうございます。

こうして歴史的背景が解って見る映画は、面白さが増してきますね。
この映画見る前に、「講義」していただきたかったのでうれしく読みました。勉強になりました。
ありがとうございます。

 前作は、レンタルがないとのことなので、ヘレン・ミレンの「エリザベスⅠ世」を見て勉強しておりました。
あの頃のヨーロッパに興味が湧いてきました。
高校時代に、桜井先生に教えていただいていれば、「世界史」の点数も良かったかもしれませんね。
また「お勉強コーナー」、よろしくお願いします。
>圭一朗さま (sakurai)
2008-02-18 08:26:45
恐れ入ります。
よっぽどの暇人にみえますでしょうね・・。
でも、ついこういうことをやってしまう、かなしいサガです。

えーー、レンタルないんですか。それはびっくり。
すんごく面白いですけどね。
そういや、ダニエル・クレイグが、出てたような記憶が・・・。だったっけ?
ぜひ、今からでもどうぞ。
メアリがメニー・・・ (AKIRA)
2008-02-18 17:39:40
たくさんのメアリー・・・。

分かりやすい記事に感動しました!

世界史,ヨーロッパ史って面白いですね~。
学生時代,ちゃんと勉強しとけばよかった。。
>AKIRAさま (sakurai)
2008-02-18 19:27:07
恐れ入ります。
なんか見たあと、こういうの書かなきゃという、勝手な使命感に燃えて、書いてしまいました。
当時の流行りの名前だったんですかね、メアリ。
エリザベスも結構います。

ヨーロッパ史が面白くなるのは、この辺りからですわ。それまでは、超おくれた、ど田舎の国が多かったですから。
ありがとうございました。 (富久亭)
2008-02-20 21:47:56
 メアリ・ステュアートの件、
教えていただき
ありがとうございました。
大変勉強になりました。
>富久亭さま (sakurai)
2008-02-21 08:38:04
余計なこと申し上げてすいませんでした。
そこ、とっても間違いやすいとこなんですよ。
映画は、本当に迫力ありましたねえ。
もう一回くらい、見に行きたいと思ってます。
はじめまして♪ (コニコ)
2008-03-23 11:22:42
はじめてこちらに伺ったコニコです。「☆彡映画鑑賞日記☆彡」のコメントで「エリザベス」がお好きなようなので遊びに来ました。
とても楽しい、いろいろなことに造詣の深い記事が満載のブログですね。是非これからも遊びに来させていただきますね。

この歴史解説も大変参考になりました。本当にメアリ・ステュアートもエリザベスが亡くなるまで、おとなしくしていればよかったのに、徳川家康の境地にはなれなかったのですね。それから、もし日本の戦国時代だったら、メアリの謀反がわかった時点で息子のジェームズも殺されていたのかも…などと「ありえない想像」したりして。

是非是非第1話の「エリザベス」を探して観なくてはと思います。

刺激的な講義をありがとうございました。TBさせていただきますね。
>コニコさま (sakurai)
2008-03-23 14:28:09
はじめまして。いらっしゃいませ。
職業柄、ついこの辺に興味があるもので、こんなことを書いてしまいました。
お役に立てれば、幸いです。

やはり、メアリ・ステュアートでは、格が違ってたかなという感じですかね。
やはり世紀の女王、エリザベスという存在が、傑出していたのかもしれないです。
その辺も十分に描き出されていて、非常に楽しめました。

「エリザベス」、噂によるとビデオのみとのことで、なかなか探すのが難しいということなようですが、よくできてますし、あれからここまで、エリザベスとともに、ケイト・ブランシェットの成長も見えるので、ぜひご覧になってください。
どうもです。
Unknown (mig)
2008-10-25 18:41:57
こんばんは★
失礼しました他の方のところから飛んで記事読ませて頂いて
コメントあとで時間あるときにと思っていたら先に頂いちゃいました

今年のはじめに書かれた記事だったんですね。
すごく興味深いです。

「エリザベス」は未見で「ブーリン家の姉妹」観たんですがすごく面白かった★

エリザベスではメアリ・ステュアートをサマンサ・モートンですか~、、、、
別の映画で、サマンサモートンってマリリンモンローをやってたのですが、モンロー好きのわたしとしても
それはちょっとなぁ、、、、って思ってまだ観てないんですよね
>migさま (sakurai)
2008-10-25 21:01:50
いえいえ。ありがとうございます。
ほとんど職業病です。
「エリザベス ゴールデンエイジ」見て、勝手に書いてました。
あまり劇的には入らない映画でしたが、あたし的にはとっても興味深く、おもしろかったです。
一作目もよくできてましたがね。

サマンサ・モートン扮するメアリは、そんなに出番は多くなかったですから、ぜひどうぞ。

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