迷宮映画館

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ディア・ドクター

2009年09月05日 | た行 日本映画
日本で一番有名なニセ医者というか、無免許医といえば、我らがブラック・ジャック、間黒男だ。って、そう思ってんのは、あたしだけかな。

彼の場合は、正規の勉強と研修を積んで、最高の外科技術を身につけ、何の間違いのない医者なのだが、好きで免許を持っていない。まあ、長い連載の中で、少々の矛盾もあったが。

彼の高い技術を見込んで、「君に、免許を特別に申請した。免許が降りるぞ!」と偉い人に言われて、結構喜んでた話があった。結局、トラブルが起きてもらえなかった。

というのもあれば、好きで免許を持ってないのだから、構わないで欲しい・・・なんて巻もあったりして、手塚氏も長いこと書いてるうちに、色々あったんだろうなあ・・・などと、勝手に想像する。

週刊チャンピオンに連載していたとき、毎度毎度、原案を3つ用意したそうである。その中から、一つを選んで、残りに2つはボツ・・・。ボツになった話を、再度使うということはなかったそうな。一体、どんな頭をしてたんだ・・・・。本当の天才とはああいう人を言うんだと思う。

彼には、アイデアだけは、いくらでもいくらでもわいて出てきたという。次から次へと、ストーリーが浮かんでくる。いかんせん、それを書いてる時間と腕がない。できるなら、千手観音みたいな手が欲しい・・・・と言っていた。

と手塚のことを書くと、長くなるが、そのあまたある話の中に、ニセ医者の話がある。山の中の小さな村。BJが、つと立ち寄ったその村に、ただ一軒ある医院。村のみんなから慕われ、信頼され、尊敬されてる唯一の医者。

しかし、その医者は実はニセモノだった・・・・というお話。

この映画を見て、真っ先に頭に思い浮かんだのがそれだった。無医村だったところにやってきた医者。高いカネは払ったが、そこに医者という存在があるだけで、どれだけ人の心が安らぐか。

それがニセだろうと、・・・じゃまずいか・・・本ものだろうと、そんなに大きなちがいはない。困った人を見たときに、助けなければ!と、単純に思うその気持ち。そこにあるのは何なのか・・・。

世の中にさまざまな間違いやら、ニセものやら、本物やら、偽り、見栄、虚飾、真実がある。しかし、どれも絶対なものはない。ただ一つ絶対なもの、まぎれもなくすべての人に絶対にあるのは死だ。

そして、その死を見送る医者。病気を治すのが医者なのだが、見てて、安心して死にたい。死ぬ時ぐらい、医者に脈をとってもらいたい。医者の存在価値は、それなのかなっと。

どう死ぬか、どう生きるかよりも、もしかしたら、どう死ねるか・・・・。人間が求めているのは、そこなのかもしれないと感じた。その死をみとるものの存在が、必要なのかもしれない。

相変わらずぶれがない西川作品。書きたいもの、描きたいもの、絵で表したもの・・これらが混然一体となってて、まったく一貫している。この世界観は、彼女ならではだ。お見事。

頭もじゃもじゃのころから考えると、こんな演技派になるとは思わなかったが、鶴瓶師匠の笑顔と、戸惑いの表情はうまいなあ。岩松刑事のいやらしさなんか、かゆい所に手が届くような快感のいやらしさだ。

香川照之は言うに及ばず、高橋昌也様は、いつの間にかああいう恍惚の人がぴったりになってしまったが、この映画の珠玉は、余貴美子!!うますぎた。

さて、BJの件のニセ医者は最後にどうなったか・・・。
あの結末を思い浮かべながら、映画の最後を楽しみに見させてもらった。ふーん、そう来たか・・・。

◎◎◎◎○

『ディア・ドクター』

監督・脚本 西川美和
出演 笑福亭鶴瓶 瑛太 余貴美子 井川遥 松重豊 岩松了 笹野高史 中村勘三郎 香川照之 八千草薫


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12 コメント

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Unknown (KLY)
2009-09-06 20:41:04
そのニセ医者の話し覚えてます。結局医大にはいりなおしたんではなかったでしたっけ?
鶴瓶師匠は撮影の間にサインを求めて集まったファンに、全てサインをしていたそうです。そして書ききれないと、宿舎に色紙を預かっていって翌日渡していたんだとか。西川監督は、この鶴瓶さんが伊野なんだと言っておられたですが、解るような気がします。
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おっ (GMN)
2009-09-07 18:39:37
やっぱりBJを思い出しましたか。
私は特定の話じゃないけど、本当に大切なのは何だ?みたいな感じで普通に間黒男先生っぽいとか思ってしまいました。

鶴瓶のキャラクター性みたいなのが上手く生きてましたね。
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>KLYさま (sakurai)
2009-09-08 14:54:28
そうです、そうです。「50の手習いです」とか言って、ちゃんと勉強しなおすんですよね。
これで、大学に伊野が大学に入ったら・・・と思ったのですが、こう来たか、と。
押し付けがましくなく、かつ存在感があって、誠実である。
偽であろうとなかろうと、人としての生き方を問うた・・・。そんな感じがしました。
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>GMNさま (sakurai)
2009-09-08 15:11:19
本当に似たシチュエーションの話があって、山の中の小さな村のただ一軒の医者・・・。
村人みんなから尊敬されてはいるも、何か引っかかるものがあって、それを最後は自分なりに昇華する、ということで。
なにはともあれ、このあらわし方のうまさにうなりました。次回作も楽しみです。
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鶴瓶師匠♪ (mezzotint)
2009-09-08 22:53:16
sakuraiさん
今晩は☆彡
TB&コメントありがとうございました。
鶴瓶師匠を起用したと聞いた時は
えぇ~!と驚きましたが・・・・。
観るとこれが彼のキャラにハマっている
じゃあないですか!!西川監督曰く、
主人公の伊野がごく普通の人なので、
キャスティングは超有名な鶴瓶師匠を持って
きたようです。まさに逆の発想がぴたりと
はまったということなんでしょうね。
お姉さん、鶴瓶師匠に会われた?
いやあ~ラッ木―ですね。そういえば
鶴瓶さん、京都シネマに突然アポなしで
乱入したらしいです。
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>mezzotintさま (sakurai)
2009-09-09 13:43:40
いや、会ったんじゃなく、ただ単に飲み屋のマスターが似てただけです。
それも今考えると、あまたがもじゃもじゃだったから・・・のような気もしますが。
鶴瓶師匠、うまいですよね。間の取り方が絶妙。
こういう起用もなかなか個性的で、この監督からの眼力は凄いと思いますわ。
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Unknown (keyakiya)
2009-09-12 15:17:42
「ブラックジャック」全巻揃えて仕事場のデスクに山積みしていましたもので、ちらっとイメージを重ねましたが、似て非なるものでした。映画の偽医師とはイメージが繋がりませんでした。鶴瓶さんの表情があまりにも個性的ですから。(笑)

この映画を作るにあたって取材したネタをスケッチ風に編集した作品「きのうの神様」は意外とよかったです。映画とは違う鋭くねちっこい視点がよく出ていました。映画ではゆったりとした「間」ですが、小説の文章にするといろいろな感情が表現されていることがわかります。

劇業では、鶴瓶と吉永小百合の共演作品の予告編が流れています。「うそだろう1」という驚き。

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西川美和はすごいよね。 (圭一朗)
2009-09-13 00:11:31
 大好きな鶴瓶ですから、楽しみにしていました。
(何と言っても「家族に乾杯!」大好き人間ですから・・・。)
やっぱりいい味出してましたねぇ。
いい俳優になりました。

 それにしても、西川美和は凄い映画監督ですよね。
あんなに若くていい女なのに、あの才能は、天は二物も三物も与えてしまいました。

 「きのうの神様」もいい短編集のようで、ぜひ読んでみたいと思っています。

 えっ?何々?
この映画の音楽やってるグループを山形に呼んでくるのですか?
あのハーモニカぷかぷかやってる・・・
それは楽しみですね。
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>keyakiyaさま (sakurai)
2009-09-14 13:44:29
医者のイメージは違ったのですが、シチェーションが似てて、頭に思い浮かんでしまいました。
書いたのが、30年以上も前ですからね。
手塚の眼力の凄さを改めて感じますわ。
「きのうの神様」!ぜひ、読もうと思ってます。
彼女の場合は、本と映画とあいまって、ひとつの作品になってると思うときがありますから。
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>圭一朗さま (sakurai)
2009-09-14 13:56:55
ほんとに凄い才能ですよね。
こういうものを作り出すことに、一切妥協を許さず、とことん突き詰める!!
この姿勢にぶれがないのが、いいです。

えーー、「モアリズム」と言うバンドです。
リズム&ブルースって奴ですかね。
山形初公演になるそうです。
そろそろチラシをおきますので、ぜひよろしく。
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