迷宮映画館

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クラッシュ

2006年03月16日 | か行 外国映画
アカデミー受賞を引っさげての凱旋上映です。

豪華な出演者が並んでいるが、役者魂を感じる人たちばかり。トップに来たのはサンドラ・ブロック。どんな敵にも立ち向かっていきそうなおきゃんなイメージの彼女が、神経症気味に、不安な気持ちをいらいらしながら表している。強さを押し出す役柄が多いが、彼女のもろさの別の一面を見たような気がした。

その夫がブレンダン・フレイザー!これまたびっくり。いつか何かをやらかすんではないかと思わせながら、野心あふれる検事を好演。アメリカの検事は、選挙で選ばれるために、有権者に対するイメージを何より大事に考える。特に有色人種や移民の多いロスでは、その取り込みに汲々としなければならない。この夫婦の高価な車が、黒人の二人組に奪われる。白人が何より嫌いで、白人から盗んでいる自分たちに罪悪感はない。

ロスで何より大事なものは家の鍵。24時間営業の鍵修理屋が繁盛する世の中の悲しさ。鍵を付け替え、直しに行く。でも、鍵屋がうちに帰ると、自分の家には鍵をかけなかった。

黒人のディレクター。上記の検事と同じ車に乗っていた。当然それはセレブな証拠。しかし、極端な差別主義者の警察官に絡まれ、妻がひどい目にあう。怒りを抑えることが大事なのか、怒りをぶつけて騒ぎを大きくすることが重要だったのか・・。白人世界で生き抜いてきた彼の苦悩と処世術と葛藤と怒り。苦悩を十二分にわかりながらいたぶる白人警察官の気持ちには、絶対感情移入などできなそうに見える。しかし、黒人夫婦とともに、警察官もたっぷりと傷つく。

中東からの移民の雑貨屋の主人。9・11以降、アメリカ世界では一番生きにくい人たちだ。彼らはペルシア人でイラクとは敵対している人々。民族も違えば、言葉も違う。まるで違う自分たちのはずなのに、その他の人々に区別はつかない。

黒人の刑事。それなりのステイタスにいる彼が、この映画の中では一番中立的に見える。差別もせず、差別もされない。彼女は白人。しかし、一番身近であるはずの家族に拒否されている。やんちゃな弟は家を出、母は気がかりな弟の心配しかしない。ドン・チードルのさびしげな表情が全てを物語る。

さまざまな立場の人間が、さまざまな状況でかすかな接触にあう。そこに必要なのはほんの少しの優しさと、ちょっとした思いやりのはずなのに、その簡単なことがどうしてできないのか。差別する側も差別される側もエゴを押し通す。ここで主張しなければ人生の一生の損かのように振舞う人々。

ここは、ロスという地域性が非常に大きな影響を与えているという。いち早く人種差別の垣根を取り払ったカリフォルニアのはずなのに、そのせいで多くのさまざまな人々を受け入れてきた。いまや、どこよりも多くの人種が混在している街になってしまった。知らない人を受け入れたくない。知らない人は怖い。そして、人と接触しなければ、しないで生きていけるのがロスだという。その広さが原因。車がなければ始まらないロスで、誰にも会おうとしなければ、会わなくてもしばらく暮らせる。

全てが猜疑心あふれる人たちで占められているわけでは、当然ない。しかし、人を信じられない生活を送っているのも確かだ。でも、そうなってしまった、そういう世の中を作り上げたのは自分たちではないのか。悲しい現実の世界を作り上げてしまった自分たちを振り返ろうとしているのではないだろうか。

救いもあった。かすかな救いだが、それは本当にいい話だった。せめて、せめて子供にだけは救いが欲しい。人を見たら逃げなさいと教えなければならない世の中で人を信じなさいと教えたい。

猜疑心あふれる世界は、アメリカの専売特許ではない。世界一安全を誇っていた日本の神話はすでに地に落ちている。犯罪など無縁なのではないかと思われていたこんな田舎でも子供に防犯ブザーつきのランドセルを買ってやらなければならない世の中になってしまった。これでいいのか?いいわけがない。どうすればいいのかどうにもわからない。ただこのままでは絶対にいけない。そんなことを2時間の映画で、36時間の世界で描いたポール・ハギス監督。自分の表したいことを憂いなく表現し、それを受け取ることができた。

だからどうしよう・・などという教条的なものではない。でも深く考えさせられる。見たもの全てに深く突き刺さる。それだけの力のある映画だった。

『クラッシュ』
監督 ポール・ハギス
出演 サンドラ・ブロック ブレンダン・フレイザー ドン・チードル サンディ・ニュートン 

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5 コメント

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私は昨日 (カオリ)
2006-03-16 18:27:33
見てきました。深い映画ですね。

どうしたらよいのかなんて簡単な答えは当然出ないんですよね。TBさせていただきます。
私は (sakurai)
2006-03-17 08:44:18
日中だったので、違う回かな。

Mも結構人が入ってまして、やはり皆さん気になる映画ですよね。

つくづく人間って・・と思わされますが、救いにもホッとされました。いい方に考えましょう。
Unknown (ルーピーQ)
2006-04-07 22:05:51
sakuraiさん、今晩は☆

コメント&返TB有難うございます。^^

どの人物のエピソードも自分に置き換えられ、深く考えさせられました。

猜疑心は拭い切ることはできないけれど、だからこそ微かな希望が胸に響いて…。

良い映画でした!
こんにちは (カオナシ)
2006-10-21 10:52:37
TBとコメントありがとうございました。

群像劇という形をとっていたためか、脚本のすばらしさが際立っていましたね。

大変鮮烈な映画でした。
>カオナシ様 (sakurai)
2006-10-22 09:39:45
本当にその通り。

素晴らしい脚本が映画の出来を見事に左右する、そんな感じでした。映画は眉間に皺が寄りそうな展開でしたが、見た甲斐がありました。

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8 トラックバック

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クラッシュ (自主映画制作工房Stud!o Yunfat 映評のページ)
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