種蒔櫻と里人の生活
ご無理を承知でお願いして 農家にホームスティ
東北には各地に種蒔櫻と称する櫻が点在する
何処から見てもよく見えるやや高台の地に 悠久の櫻がある
角館の武家屋敷の櫻が満開になるまでと
ちょっとずるい考えがなかったわけではなかったが
種蒔櫻を抱える町外れの農家に飛び込んで交渉し泊まらせて戴き
この時季にする農作業を体験させて戴いた
農機具の点検や苗床作りの体験などである
最初テレビの番組と間違えられたが 大笑い
皆さんに 本当によくして戴いた
夜 秋田の地酒も出て 農業の将来をも語り明かした
日本は稲作文化の国であるのに あらゆる農産物を盛んに輸入に頼り
今では自給自足率が20%を切っている現状で 私の泊まったお宅では
長いモノに巻かれろと ただ指を咥え 傍観している方々ではなかった
確かに農村には若い手がいない だからと言って4ヘクタアール以下の
営農が出来ない今度の農業施策はどうだろうか 思い切りぶつけてみた
帰って来た答えは あんな松岡農林大臣に 丸きり期待していないと
どんな無理難題の施策が打って来られようが
代々受け継いで来られた営農を簡単に手放さない断固たる決意があり
私は頗る嬉しかった あの減反政策によって田のお祭りが半減し
今度の施策で 日本人の信仰の元さえ失われようとしている
日本は農業立国であり その基本は些かも変わりないものかと
ご主人の古着を着て 雨の中でも 汗びっしょりかいて農機具磨き
苗床は田んぼに作るのではなく 何とビニールハウスの中に
奥さんが気を使って何度も何度も声を掛けてくれたが
何の何の 私はどんなに楽しかっただろうか
身体じゅう筋肉の痛みが走るが 実に心地いいではないか
今朝別れ際に 奥さんもご主人も子供さんも 皆別れを惜しみあった
多分これからもお付き合いが続くことを願いつつ
ご主人に 種蒔櫻って どんな感じで何時も観ていらっしゃるんですかと
問い掛けて見たら 櫻こそ五穀豊穣の神であるとはっきり言っておられた
どうやら我が主人とも メソメソした感傷の交流は必要なくなったようだ
やっと取れた角館の旅館で 今独りでお酒を飲んでいる
心地いいお酒が身体全体を巡り これからも櫻を未だに追い続けることに
何一つ言い訳など 決して必要ないのだからと
一献の杯に 花片を一枚ずつ乗せ 香りを楽しみ目でも楽しみ
漸く満開に近い櫻になった武家屋敷を明日は観てから
愛すべき角館と さよならをしよう
口絵の写真は 先日山形を廻った際 櫻桃の故里・寒河江にあった種蒔櫻の立看板
このような立看板がある東北の櫻は幾らでもあると言ったら言い過ぎだろうか
今回写真に収めたものでも 実に八箇所もカウントされている