下関市の「鯨類研究室」が、本年度末で閉鎖されるという。
室長の石川創さんは、沖縄の小島曠太郎さん、江上幹幸さんと並んで、私をクジラ界に導いてくれる先達である。
南氷洋の調査捕鯨に14回参加し、団長まで務めた。クジラの座礁についても詳しい。いろいろなことを教わった。名護の食堂で、一緒にヒートゥー(イルカ)料理を食べたこともある。戯曲『くじらと見た夢』執筆に当たっては、石川さんの調査による克明な資料や写真を幾つも見せていただいた。劇中に登場する、フィクションと思われがちな「クジラの解体ショー」についても、石川さんの資料にお世話になった。
窪 美澄さんの小説『晴天の迷いクジラ』に登場する「クジラ博士」は、石川さんがモデルである。
山口新聞の報道によると、
下関市の公益財団法人下関海洋科学アカデミーが、クジラの学術研究や啓発を進める「鯨類研究室」を本年度末で閉鎖する方針を固めたことが分かった。唯一の室員の石川創室長(59)が定年を迎えることや市の財政難が理由。
研究室は、近代捕鯨発祥の地として「くじらの街」を掲げる市の業務委託を受け、2012年7月に同市田中町の市役所庁舎に開設した。開設当初から南極海や北西太平洋での鯨類調査で調査団長を務めたことがある石川さんが室長を務めている。
これまでに鯨の座礁・漂着の記録や船からの目視調査などから成果を報告書で公表。市民講座「鯨塾」を50回以上開いて鯨の生態や捕鯨などについて解説するなどの活動をしている。
同アカデミー理事長を兼務する三木潤一副市長は「定年の延長は市の財政的に厳しい。研究の成果をアカデミーで活用していきたい」と話した。石川室長は「残念だが判断を受け入れるしかない。3月までできるだけのことはしたい」と話した。
とのこと。
唯一の室員の石川創室長、という記事の言い方は、まあ、仕方ないが、事実である。私が訪問したのは一昨年か、もっと前だったか。クジラ研究のユートピアであり、クジラと私たちの接点を保持し、捕鯨の歴史を伝えていく、最後の砦のようにも思える場所だった。クジラそのものと、捕鯨史に関心のある方は、この地を訪ねてみることをお薦めする。
自由な立場になった暁には、いろいろな選択肢があるだろう。石川さんの今後の活躍にも、期待したい。