Blog of SAKATE

“燐光群”主宰・坂手洋二が150字ブログを始めました。

クジラの映画なら観なければならない

2012-04-21 | Weblog
夜、これまた今日までの上映だというので『ヴェルクマイスター・ハーモニー』へ。ハンガリー映画で、「世界一巨大なクジラ」が出るということしか予備知識がなかったが、クジラといえば坂手、と称される身でもあり、そうと知った以上は行かざるを得ない。長回しのワンシーンワンカットなのである意味演劇的なのだが、最初のうちは「これはこのままの不条理の調子だとずいぶん長くかんじるだろうな……」と思った。途中から何か既視感があり、人の動きや配置にViewpoints的なものも出てきた。そして主人公が傾倒する天文学とクジラと言えば、ここ数年私のこだわる「惑星思考」ではないか。途中でこれはカフカ的・カミュ的というより別役実『象』の変奏のようだと気づき(もちろん作り手たちは別役戯曲を知らないだろうし私がかってにそう思っただけである)、やがて作り手のやり方がわかってくると唖然とする面白さになり、ワンシーンワンカットの蓄積効果は圧巻の暴動シーンに至って爆発する。ラストにいたって、前半は物語性を度外視して抽象的に投げ出されたように見えたこの映画が、周到なプロットで出来上がっていることが明白になる。そしてやはり『象』の姉妹編のような結末でもあった。ヴェルクマイスターは、今日も使われている、1オクターブを12の半音で等分した責任者だということだが、つまりシステム、世界の構造化からこぼれ落ちるものについて描いているということなのだろう。人々の面構えや風景がいい。撮影がどこなのかは知らないが、『神々の国の首都』ツアーでハンガリーに行ったのはもう十六年も前のことになるのだった。ハンガリー人たちは自分たちをアジア系だと思っているフシもある。「フン族」の末裔ということだ。観客を選ぶであろう、こんな地味な白黒映画のわりにお客が入っている(『戦火の馬』より埋まっている!)のが不思議だったが、見終わってから気づいたのだが、これは未見だが最近『ニーチェの馬』が評判を取ったタル・ベーラという監督の映画なのだった。……この日は午前中、日韓演劇交流センター会議。午後、未来社西谷社長、担当長谷部さんと『普天間』出版に向け、おそらく最後の打合せ。最終校正を残すのみ。そのまま町中で事務仕事。日中いろいろ動いて夜は映画という日が二日続いた。芝居も観なければ。
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『戦火の馬』と『屋根裏』

2012-04-21 | Weblog
たまっていたメール関係、朝まで。起きても。そして数日かかった長文をようやく仕上げる。連絡のみならず、なんだかやることが多く時間がいたずらに過ぎる気がするが、夜は、もう上映が終わってしまうので、『戦火の馬』を観る。スピルバーグはあいかわらす巧みだけれども大味、という点はいつも通りだが、憎めない。タランティーノとこの人は映画マニア出身の監督という面もあり、映画的記憶の琴線に触れるのか。戦争物でも『プライベート・ライアン』の生々しさとは方向を変えている。欧州を舞台にしたアメリカ映画がどの言語も全部英語ということを英語も満足にしゃべれない者が突っ込むつもりはないが、それぞれの国の「ステレオタイプ」については、こうして再生産されていくのだなと思う。台本書きを志す人は見た方がいい教科書的な構成の定石ぶりもあるが、このプロットの根本はある意味、じつは私の『屋根裏』と同じグループに属するのである。夜に新宿にいるのも最近珍しいので、ものすごく久しぶりにゴールデン街・ガルガンチュアに顔を出す。
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