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  <title>カレーショップ　サイのツノ　公式ブログ</title>
  <link>https://blog.goo.ne.jp/sainotuno2003?fm=rss</link>
  <dc:creator>sainotuno2003</dc:creator>
  <dc:date>2025-08-17T11:20:20+09:00</dc:date>
  <language>ja</language>
  <copyright>&#9400;NTT DOCOMO, INC. All Rights Reserved.</copyright>
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   <title>カレーショップ　サイのツノ　公式ブログ</title>
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   <description>「マスターの独り言」　日々の雑感やお店の裏話などを綴っています。サイのツノへの興味と関心が増して頂ければ幸いです。</description>
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  <description>「マスターの独り言」　日々の雑感やお店の裏話などを綴っています。サイのツノへの興味と関心が増して頂ければ幸いです。</description>
  <docs>http://blogs.law.harvard.edu/tech/rss</docs>
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   <title>回顧　サイのツノ２，０　その１</title>
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<![CDATA[
<p> </p>
<p>６月いっぱいでサイのツノ2.0（テイクアウト専門店）を閉めて元の一店舗の形に戻りました。</p>
<p>2.0がオープンしたのが２０１５年９月４日なのでちょうど１０年の営業でした。隣の店舗が閉店に</p>
<p>なって（餃子屋さんでした。その前がお弁当屋さんで当店より前に開店していました）居ぬきで借りれて</p>
<p>ほぼ初期費用がかからないというのもあってわりと悩まずに契約した記憶があります。その時で開業して</p>
<p>１３年目でなんらかの進展を求めていたのかもしれません。</p>
<p>規模が倍になって経費も倍（以上？）になりお弁当という業態ももちろん初めてなのでいろいろと大変では</p>
<p>ありましたが、たくさんのスタッフやお客さんとの出会いがあり楽しい日々でもありました。</p>
<p>スタッフはそれまで平日は妻と２人で営業していたので夜と土曜の昼間に来てくれる人だけだったので在籍は</p>
<p>１人か２人だったのが４，５人になりにぎやかになりました。それまではスタッフとの飲み会というのはなかったんですが</p>
<p>厨房が実質倍（以上化も。客席がない分2.0の厨房は広かった）に増えたこともあって仕込みもいろいろできて定期的に</p>
<p>パーティーも行って常連の人も来てもらったり、サイのツノの１５周年や２０周年の時はちょっとしたイベント（ビールや</p>
<p>アイスの無料配布とか）も行ったりしていろいろできたのも面白かったです。</p>
<p>単純に空間が広くなった解放感もありました。従業員用のトイレができたのもうれしかったですね。一つだけだと行きたいときに</p>
<p>いけなかったりしましたから。年をとるとトイレが近くなるし。</p>
<p>メニューも１コイン弁当を2.0をオープンして少ししてから始めてお惣菜も作り始めのも新しい展開でした。今思えば2.0用のメニュー</p>
<p>とかとくに考えずに始めたんですよね。それまでのカレーだけのメニューでいけると思っていたのか、ほかに作るという発想が</p>
<p>なかったのか今となっては覚えていませんが。カレーだけのメニューではお客さんの需要を満たせないと始めたのが１コイン弁当</p>
<p>で最初が手羽元とカレーの組み合わせでした。そこから角煮。マリネ。ランチョンミート。それにスパイシー温野菜。２，３</p>
<p>年かけて５つまで増えました。仕込みもそれだけ増えて複雑になりましたが面白かったです。基本作るのが好きなんですよね。</p>
<p>店自体も始めてからメニューや看板を作ったりその都度その都度でやってきた感じです。いつものパターンですが。</p>
<p>やらなければならないことができた時はまず後き出して考える。足から先に出て頭が追いかける。というパターンです。</p>
<p>いろいろと後手に回ったり二度手間になったり失敗も多かった気がしますが、でもそういうもんですよね。なんでも</p>
<p>新しいことをやろうとしたら。つまづきながら歩き続けるという感じですかね。</p>
<p>などと言い訳じみてきましたがしばらく2.0追悼（？）の意味もこめてこの１０年を回顧したいと思います。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
]]></description>
   <category>日記</category>
   <dc:date>2025-08-03T07:55:24+09:00</dc:date>
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   <title>　番外編　オッペン・ロウシ氏の作品集より　「忘却の風に吹かれて」　（後編）</title>
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   <description>
<![CDATA[
<p>  　後編の投稿です。まだいろいろあるようなので番外編は続きます。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>目覚めると牧師が部屋の隅に置いてある木製の素朴な椅子にそっと座って両手を膝の上にのせ顔を窓の方へ向けていた。</p>
<p>昨日の夜の記憶がいっきに押し寄せしばらく絵画の中の人物のような雰囲気の牧師を眺めながら散らばったかけらがが落ち着くところに落ち着いていくのを待って身を起こすと、牧師がさっと僕のほうに体をむけおはようごいますと声をかけた。何時だろうと枕もとの腕時計をみるともう朝早いという時間は過ぎていた。ぐっすり眠ったようだ。頭が痛くなるかと心配していたがすっきりとしている。気のせいか体の疲れもとれているような。挨拶をかえすとお邪魔じゃないですか、もしまだゆっくりされたいなら出直してきますがというので、大丈夫ですよ、もう起きますととりあえずベッドから足を下ろす。かってに上がってきてすいませんでした。もう起きているかなと、しきりに言うので、ほんとにもう起きるところでしたから、とベッドからおりて体を伸ばすと下でコーヒーでも飲みますかと誘って先に下りてもらう。洗面台で顔を洗い曇りがかった鏡を見るといつもより肌つやがよくて少し驚く。この村手作りのワインのせいなのか、何度か手で顔を叩いて確かめてみる。気のせいではなく肌に張りがあるようだ。</p>
<p>下に降りると牧師の座っているテーブルにすでにコーヒーカップが二つ置いてある。両手を膝に置いて彫像のように座っていてほかには誰もいない。主人の姿も見えず湯気の立つコーヒーカップだけが現実とつながっているみたいで薄明りに浮かびあがるまわりの食堂や外にみえる広場の景色が蜃気楼のように消えていっても不思議でない気さえする。昨日の夜の出来事は本当にあったことなんだろうかと一瞬思ってしまうが一人旅ではよくあることかもしれない。牧師と軽く言葉を交わしコーヒーに口をつける。昨日より苦みが強くて少し戸惑うが淹れる人によって違うんだろう。今日はどうするんですかとか今までの旅のことを聞かれ僕も牧師の仕事について聞いてみる。人々の話し相手ですよ、あとは教会の修繕とか、なんでもできないといけないんですと静かにほほ笑む。仕草にしても表情にしても最小限のことしかしないが相手に信頼感を与える。確固たる信仰があるせいなのか。僕とは全く違う世界にいるわけだ。</p>
<p>会話が途切れたところでこれをどうぞとかなり色あせた肌色の表紙の大判のクロッキー帳のようなものを渡してくれた。おじさんが残したものらしい。ぜひ見てくださいと熱のこもった目で見られるとなんだか気後れして僕が見ても絵心があるわけじゃないし、しょうがないんだけどと思いながら受け取ってその重さに驚く。重いですねというと彼の描いて残っているのは全部はさんでいますしといって僕が開くのを待っている。牧師の視線に緊張しながらそっと表紙をめくる。</p>
<p>素朴なのどかな絵を想像していたのだがほとんど真っ黒に書きこまれた何を描いているのかよくわからない絵が何枚も何枚も書き続けられている。人物だったり風景だったり。この村で目にしたものをを描いているのだろうがかなり塗りこめていてなんだか迫力がある。こんな個人的な知らない人のなクロッキー帳を見るのは初めてだが目が離せなくなっていた。ページをめくる手が止められない。きれいな絵ではない。なにをかいているのかもよくわからないのもある。でもなにかが伝わってくるものを感じる。うまく言えないけど。</p>
<p>牧師が身を乗り出して僕をみているのに気がついて目をあげる。お互いの視線があって僕が一つ息を深く吐くと牧師は軽く何度かうなづいている。</p>
<p>ー絵のことはなにも分からないけどなんだか力強いですね。老人が描いたものとは思えない。</p>
<p>ー私も最初は驚きました。絵を描くとは聞いていたんですがこんな本格的なものとは思っていなかったので。最初は子供たちがおじさんが絵を描いてくれたと言って見せてくれたんですが簡単はスケッチみたいなもので上手だなとは思ったんですがとくに惹かれはしなかったんです。彼と会って話すようになった時にたまたま小さなスケッチブックみたいなものをみつけて見せてもらったんですが、</p>
<p>と思いだすように何度かうなずく。</p>
<p>ーすでに全部に絵と字が書きこまれてだいぶ時間が経っているようで、こすれてなんだか真っ黒で状態がよくなかったんですがなにか特別なものを感じたんです。それで教会にあった紙を渡してあげるとすごい勢いで描いてましてね。すぐに描く紙がなくなったので街で画材を買ってきてこのクロッキー帳もそのときあげたんです。最初は遠慮してたんですけどね。とにかく描いている時は年齢を感じさせませんでした。それこそ20代の若者みたいな勢いで描いていましたから。</p>
<p>―ここにいたのは半年ぐらいなんですよね。夏ぐらいから体調を崩していたっていうからここにきて最初の数か月でこんなに描いたんですね。</p>
<p>話しながらも目は絵の方へ戻っていく。吸い込まれるように。絵というのか描かれているものから鼓動を感じてしまう気がする。なんだか生き物のように。</p>
<p>ーなにかせき止めていたものがいっきにあふれ出すぐらいの感じで昼間はずっと書いてました。子供たちがまわりにいれば子供たちを描いて</p>
<p>あげたりしていたんです。子供たちの絵には色をつけていました。私が色付きのペンをあげたら喜んでいましてね。もともと黒のインクしかもっていなかったようで。</p>
<p>ーそれでこんなに真っ黒なんですね。</p>
<p>ーそうですね。でも人にあげる時の絵にしか色は付けなかったような気もしますが。この食堂でもよくみんなの絵を描いてその場であげたりしていたんですよ。</p>
<p>牧師も絵をのぞき込みながら話す。荒い紙に描かれたものがはさんであったりしてとにかく量がある。しかも一枚一枚かなり描きこんでほとんど真っ黒なものも多い。でもよく見ているとそこから木々だったり人だったりが浮かび上がってくる。この中には色付きのものは入っていない。二人でしばし絵を見つめてしまって僕が一息ついて椅子に座りなおすと牧師も我に返ったように顔をあげ二人でなぜか微笑みあう。</p>
<p>ーつい見てしまいますね。</p>
<p>ー技量もかなりのものだと思うですが、なんといえばいいのか、この人の生きざまを見るようでとても素晴らしいと思うようになりました。</p>
<p>ー・・・生きざま。どんな生き方をしてきたんでしょうね。聞くともなく言葉が出てくる。</p>
<p>ーうまくは言えないんですが、異国の人というのもあるんでしょうが、とにかく今までに会ったことのない人という感じでしたね。まわりには優しいんですが自分に対してはすごく厳しいというか、いろんなことを経験したきたんだらうなと思わせるというか。もちろんかなり年配というのもありますがしぜんな敬意を抱きました。私とはまったく違う人生を送ってきたんだろうなという。生まれたところも時代も違うわけですから当たり前と言えば当たり前なんですが。</p>
<p>ーおじさんは自分の事は話さなかったんですか。</p>
<p>ーいろいろと聞いては見たんですが、今までどこにいたんですかとか絵描きなんですかとか。自分の事になると固く口を閉ざしましてね。絵描きではないと言ってはいましたが。接していると立ち振る舞いや言うことになにも不自然なところはないし学があるというか品を感じせせるんです。でもそもそもここにいること自体が不自然というか不思議というか。まあ謎の人でした。それなのにこの村に溶け込んでいるのがもっと不思議というか。当時のことを思い出すとなんと言えばいいのか、ちょっと特別な経験でした。変なたとえなんですが深い森の奥にひっそり立っている老木が浮かぶんですよ。彼のことを思い出すと。長い年月厳しい風雪に耐えて立ち続ける老木。・・・失礼かな。</p>
<p>いえいえと首を振りながらおじさんの姿を想像してみる。うまくまとまらないが会ってみたかったと強く思う。</p>
<p>ー夏ぐらいになったというのはどんな病気で。</p>
<p>ーそうですね。病気というわけでもなかったんですが。彼は自分の事についてはほとんど話しませんでしたからよくわからないんですがもともとどこか悪かったようです。病院にはいこうとしなかったし街の医者に来てもらってみたもらったりもしたんですが。</p>
<p>―医者はなんといっていたんですか</p>
<p>ーどこが悪いというより衰弱しているということでした。年なのに旅をしているんだから弱りもすると。夏前にはいつも乾いた咳をして寝込むことがおおくなって、教会の裏にある納屋に、納屋と言ってもきちんとした寝具や生活用具はそろっているんですよ、そこで療養というか寝泊まりしてもらうことにして。みんなで交代で看病をしていたんですけど。</p>
<p>―みんなで看病を。</p>
<p>ーええ、なんていうのか。みんなほっとけなくて。子供たちが会いたがっていたのが大きいとは思いますが、村人みんなが気にはしていました。おじさんの具合はどう、というのが挨拶みたいな時期もありましたし。</p>
<p>ー夏を越えていったん元気になっって外に出るような時もあったんですがまたすぐ寝込む状態が続いて寒さがやってきた12月はじめごろでした。静かに息をひきとりました。本当に静かな最後で。毛布をきちんと掛けてまっすぐな姿勢で。寝ている時も起きている時と同じで姿勢がよかったんです。だから最初は寝ているのかと。でも近くまでいってすぐ分かりました。だんだんと声の調子が変わってきて最後の方は壁に描かれた字を読むようになっていた。ーでもその前の日に、と言いかけて沈黙が降りる。牧師を見つめるが視線を受けることはせず外のほうへ目をやる。なにか見るべきものがあるかのように。</p>
<p>ーすいません。長々話して。もう行かなくては。ゆっくりごらんになってください。一度街に帰って夜にはまた戻るつもりですから。</p>
<p>まだ聞きたいことが口から溢れてきそうだが具体的になにを聞いていいのか分からないし言葉として口から出てくることはなかった。そんな僕をしばし見守っていたがすっと立ち上がり会釈をして出ていった。裾の長い上着のたてる乾いた音だけを残して。</p>
<p>食堂には僕一人で物音もしない。主人や奥さんはどこにいるんだろう。お腹が空いたなと思ったところでまだ朝食が出ていないことに気がついた。朝食がつくという話だったけどどうなっているんだろう。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>日が高く上り始めたころに最初におじさんが居ついたという小さな教会のある丘に登ってみた。村からみているとそれほど遠くあるとは思わなかったが大きく迂回した道のせいで時間がかかった。少し息が切れ額に汗が浮かびはじめたころその教会にたどり着いた。赤い丸屋根が後方についいて全体は白いレンガでつくられた縦長の形で車が2，3台入るぐらいの倉庫のような教会。入口は大昔に作られたような鉄の錠前がかかっている。持ち上げてみたがしっかり錠がかかっている。後ろに回り込んでみた。頭ぐらいの高さに格子のはまった窓がある。昔はステンドグラスがはまっていたんじゃないだろうか。今はなにもなく暗い天井がわずかに見える四角く形を作っている格子が残っているだけだ。こっちが南側みたいだ。周りを見渡すと教会の背後が小高くなっていてそこに上がってみることにした。</p>
<p>風が強くなってくる。汗ばんだ体を清めてくれるようで気持ちが高揚してくるような風だ。ここまでくると木々が生えてなく赤茶けた岩肌が一面を覆っている。ちょっときついなと思い始めたところで峰にたどりついた。振り返ると村を一望できた。日に照らされて村の建物はなんだか積み木でできたみたいに現実感があまりない。動いているものが見えないせいだろうか。昼間はこの先の町の学校や店に働きに行ってほとんど人がいないみたいだ。車も走っていない。箱のような建物が散らばっている真ん中に教会が見え、その前にぽっかり空いた場所が広場だろう。小枝が散らばっているように見えるのは人のようだ。たぶん男性のお年寄りだろう。この近隣の国でもそうだったが食事がてら街を散策するとなぜか男性ばかりなのがよくある。広場のベンチに座っているのは男性のお年寄りばかりで女性の姿はほとんどみない。家の中で木製の椅子に座り編み物でもしているのだろうか。大昔の映画の一場面を眺めているようで現実感がない。僕が今日ここでこの風景を目にしているという偶然になぜか心動かされる。予定では次の都市にいって仕事の準備をしていたはずだ。</p>
<p>村と反対側を見やると丘陵が連なりその先にわずかに空と色の違う濃い線が見える。なんだろうとじっと目を凝らしているとそれが海だと分かった。西に広がる大海だ。白くけむった空とほとんどつながって見分けがつかないほどだが薄い膜のような濃紺の海面がどこまでも左右に伸びている。この土地を守るように。ずっと昔から人がここに住み着く前からたたずんでいる。それは変わらないもの。振り返ると村のおもちゃのような家々が風に吹かれて砂埃とともに消えていくのが見えた。</p>
<p>太陽が西に傾き始めて風が強くなってきた。大きな岩を背にして腰を下ろし両手を頭の後ろに組んでぼんやりと空を見上げている。どのくらい時間が経ったんだろう。時計を置いてきたから時間が分からない。でもそれがこんなにのびのびとした気分にしてくれるなんて。小さい時に蛹から蝶がふ化するのを飽かず眺めていたのを思い出す。</p>
<p>そんなことを想いながら腰を上げ村に戻ろうとしたが下から丸く黒いものが動いているのが見えた。なんだろうとみているとやがて人の姿になって昨日の少女だと分かった。</p>
<p>ここに来るのは久しぶりですと爽やかな笑みを浮かべ僕のそばの平たくなっている岩の上に座る。僕も少し距離を置いて地面に腰を下ろす。朝に牧師が来ておじさんのクロッキー帳を見せてくれた話をする。少女は膝を両手で抱え前後に揺れながら嬉しそうに、おじさんのこといろいろ思いだしちゃってと話し出す。この教会に、と首をめぐらして見ながら、住み始めちゃったんですよ。その頃は入り口が壊れてひらっきぱなしになってたから。それにしても住みつくなんてね。みんなびっくりしたでしょ。それはもう、子供たちのあいだであれは人間じゃないなんて話もありましたから、怖いもの見たさで最初は来たんです。なるほどねと思う。そうだよな、遠くの国からきた妖怪みたいだったのかも、勝手におじさんを妖怪みたいな姿に想像する。でも近づいてみたらニコニコしてぜんぜん怖くなくて。</p>
<p>―そんなにいつもニコニコしていたの？</p>
<p>ーええ、ほんとにいつ行っても喜んで嬉しそうに迎えてくれるから。今から考えると心の中ではどうだったんだろうとも思うけど当時はまだ子供だったしそばにいるのが楽しかったんです。</p>
<p>膝を抱えて空を見上げる。くるっと顔を僕に目を向け</p>
<p>ーいなくなってからなんだか気になって、どんな人生を送ってきたんだろうって。このところよく思い出すんです、おじさんのこと。幸せだったのかなって。自分の生まれたところとすごく離れた国で一人で、と言って黙り込む。</p>
<p>ーなにかおじさんは言ってなかったの。自分の事を。</p>
<p>ー言葉が通じないせいもあったんだと思うけどおじさんのほうから話しかけることはなかった気がします。いつも私たちがまわりで遊んでおじさんがニコニコしながらみているかんじです。</p>
<p>なんとかその場を自分の中で再現してみようとしてみる。異国の言葉も通じない子供たちに囲まれニコニコしているおじさん。</p>
<p>―ときどき無理やりおじさんに遊びをつき合わせたりしてたけど。でもお年寄りだからすぐ座り込んで楽しそうにみんなを眺めてました。</p>
<p>ーまあ珍しい体験ではあるよね。見ず知らずの異国の老人と遊ぶなんて。</p>
<p>―そうですね。今から思えばなんであんなに頻繁にいってたのかな、でもあの時はなんだか行きたかったんですよね、おじさんのところへ。異国の人で珍しかったというのはもちろんあると思いますけど。なんていうのか今になってわかるんですけどおじさんは、とそこで口を閉ざし目をつむり自分の中に入り込んでいく。そんなふうに見えた。</p>
<p>ーそのうち皆の絵を描いてくれて、それが似てなかったんですよね。ぜんぜん。それがおかしくて。</p>
<p>草の上に寝転がって流れる雲をみながら何年か前にここでおじさんがニコニコしながら子供たちをスケッチしていたんだと思いを馳せる。本当の名前も年も分からないおじさん。縁もゆかりもない土地で見知らぬ人に見守られて死んでいったおじさん。</p>
<p>二人で丘を降りながらおじさんの葬られたところに行ってみたいなというと少女はうなづいて道すがら花を摘んでいく。あちこちに咲いている花があってすぐ抱えるぐらいの花束ができる。</p>
<p>教会の裏側に広々とした墓地があった。小屋みたいな建物もいくつかあってあのどれかにおじさんは寝泊まりしていたのかと想像する。</p>
<p>おじさんの墓は共同墓地の一番奥の方にあって知らなければここに墓があるとはだれも気づかないだろう。お墓といっても丸石が置いてあるだけ。教会のほうでもいろいろと事情はあるのだろうが寂しい眺めだ。少女が途中で摘んだ花をそっと石の前に置く。ここに眠っているのかと思わず石を撫でてしまう。その様子がおかしいのか横で少女が笑っている。家族はいなかったのか。少なくとも親はいたはずでおじさんの年齢なら亡くなってはいるだろうが親や親類と遠く離れた異国の地で葬られるなんていったいどんな気分なんだろう。なくなる時に生まれ故郷や子供時代のことを思い出さなかったのだろうか。それともよほど辛いことがあって少しでも離れていたかったのか。丸い石を撫でながら思いをめぐらした。どこへにもたどり着かない思いを。</p>
<p>ーごめん。家に帰らないといけないんでしょ。もう行こう。気がつけば日も陰り始めてひんやりした空気が流れている。少女は空を見上げ雨が降ってくるかもとつぶやく。</p>
<p>宿に帰りクロッキー帳をめくっていつまでも絵を見続ける。いったいどういう人だったんだろう。絵をみても分かりようはないがなにか想念のようなものが沸き上がるのを感じる。ペンをもつしわの寄った手のひら、細い腕。白く短く刈り込んである髪に頬のこけた小さな顔。額にもしわが寄っているだろう。じっと対象をみる細く、そして厳しさと優しさをたたえた目。黒い瞳。村の教会や畑が広がる風景をみながら、子供たちをみながら、ペンを走らせる。子供たちがまわりで騒いでおじさんが笑っている。屈託のない笑顔。しわにおおわれていてもその中に子供がいる。</p>
<p>絵描き？芸術家にありがちな放浪癖の持ち主か。いや実業家として成功していたのかも。一人で異国の地を旅をする経済的余裕はあったのだろうし。でもなぜ一人で。寝込んで旅が続けられなくなっても生まれ故郷には帰ろうとはしなかったのか。</p>
<p> </p>
<p>牧師がまだ彼の絵はたくさん残っているんですと持ってきてくれる。店の主人も持っていた絵を見せてくれる。昨日より少ないが村人が集まってきて飲んだり食べたりして奥さんが忙しそうに店の中を行き来する。みんなもおじさんの絵を交互に見てあれこれしゃべっている。思い出話をしているようだ。僕にもいろいろと話しかけてくるがどうもおじさんの知り合いと最初は思われたようで少女の話が勝手に独り歩きしたのだろう。僕が全く関係のない人間だとわかるとがっかりするようでがっかりされても困るがなんだか悪いことをしたみたいな後ろめたさを感じてしまう。でも同じ国から来たのは確からしいということで話が盛り上がっているみたいだ。年齢がいくつかとかなにをしてきたのかということでみんなの意見が分かれているらしい。少女が横で話してくれる。６０代という人もいれば８０過ぎているとい人もいるみたいだ。絵描きだという人もいれば旅回り芸人だったんじゃないかという人もいるらしい。あいつは頭がよかったよ、とこみかめをさしながら言う人の横でちょっとおかしかったけどなとこみかめで指を回す人もいる。</p>
<p>おじさんの話をする時みんなが拳で頭の上をこするのでなんだろうと牧師に聞いてみるとああいう癖があったんですと教えてくれる。少女もまねをする。よく頭を叩いていました。自分で自分を叱っているみたいでおかしかった。</p>
<p>むかしは街道の要所になっていてそれなりに栄えていたみたいだが車の幹線道路ができていっきに寂れていったそうだ。僕が新しく渡されたおじさんの絵をみている横で牧師がこの村のことや村人たちのことを話してくれる。おじさんと一番仲が良かったのはあの人で、あの人はワイン作りの名人でというふうに。まわりは酒がすすんで賑やかさが増してくる。僕もつられてつい飲んでしまう。</p>
<p>―いつも飲んでるでしょ。くすくす笑う。</p>
<p>ー若い人はいないんですか。昨日から不思議に思っていたことを聞いてみる。</p>
<p>―子供たちは大人になると街に出ていきますからね。ごらんのとおり年寄りばかりです。君ももうすぐだね。と少女を見やり少女は下を向く。</p>
<p>―この国も前の戦争の影響が色濃く残っています。この村も例外ではありません。みんなの中に、深く残っています。この土地にというべきかもしれませんが。忘れることのできない、いや、忘れてはいけないことを、と言ってみんなが飲み食いしているところを遠い風景をみるように眺めている。</p>
<p>ー今思ったんですがみんなもおじさんに同じにおいを感じていたのかも。なんだかそんな気がします。子供たちもいなくなった祖父母の影をみていたのかもしれないですね。</p>
<p>横で聞いている少女の顔に大人になる瞬間を垣間見る。</p>
<p>ー絵を何枚かをもらえませんか？</p>
<p>思いきって聞いてみる。牧師は喜んで、ーええ、もちろんと言ってくれた。私が持っていてもなんだか申し訳ないし、どうしたものかと思っていたんです。</p>
<p>国に帰っておじさんを知る手掛かりになるかもしれませんしとかなりいい加減な理屈をつける。どれでも好きなものをどうぞと言われてどれにしようとばらばらになっていたのを一つにまとめ最初から見始める。ワインがだいぶまわっているようで少し手元がおぼつかない。牧師は村人たちのほうへいってなにか話し込んでいる。おじさんの絵をみて店の中を見まわしワインを一口飲む。</p>
<p>　ーそれは私を描いてくれたの。のぞき込んで少女が言う。ーいつも遊びに行ってたから私をかいてくれたのは何枚もあるけど、これが一番最後のなんです。看病していた時に描いてくれたんです。あまり似てませんよね。と笑いながら話す。牧師が言ったように色がついてあってほかの絵とは違い明るい色調で人が描いてあるのはすぐ分かるが確かに少女に似てはいない。というか輪郭がぼやけているしまだ幼い子というのが分かるぐらいだ。でもその絵全体からなにか温かみが伝わってくる。というかそんな気がする。</p>
<p> </p>
<p>あなたも描いてもらったら、と指をさす。そっちを見ると細長い板のようなものが見える。よく見ると背中だ。そうか、あれがおじさんか、たしかに老木のようだ。ほとんど身動きせず腕だけがしきりに動く。描いているんだろう。おじさんの前には暗がりが広がっている。なにを描いているんだろう。のぞいてみたいがなんだか足がが動かない。声をかけてみようとするがうまく声が出ない。じたばたしてるといつのまにか子供たちがおじさんのまわりに現れてはやし立てている。似てない、似てない。おじさんを囲んで踊るようにみんな口々に叫んでいる。</p>
<p> </p>
<p>鳥の声がして目が覚めた。なんだか人の声に似ているなと思ったら誰かが外で大声でしゃべっているようだ。朝からなんだか騒がしいなとぼんやりしていたがはっとして急いで窓から下をのぞくと少女が大きく手を振っている。背中にバックをしょって自転車に乗ってこれから学校に行くのだろう。年下の男の子も二人自転車にのってこっちを見上げている。僕が手を振ると手を口にもっていって大声で何か言葉を発しもう一度大きく手を振って自転車の向きを変え立ち去ろうとする。意味が分かって窓から身を乗り出し僕も同じような言葉を発する。よい旅を。よい一日を。</p>
<p>少女は漕ぎ出した自転車を止めこっちを振り返り大きくうなづいてから勢いよく走り去っていく。あとを男の子たちが追っていく。畑のあいだをを抜け林の中に消えていくのをずっと目で追っていた。</p>
<p> </p>
<p>暑さが増してきた日差しの下でバッグを椅子代わりにして座りバスを待つ。どこからかのんきそうな鳥の声が聞こえた。風が腕や頬をかすめていく。おじさんの絵は牧師にもらった手提げ袋に入れて背中に背負っている。</p>
<p>ここに降りたのが3日前のことなんだ。なんだか昔話にあるように歩いていたら穴にすぽっと落ちて別の世界に入り込んだみたいな気分だ。予定では一週間後には国に帰っているだろう。今までの自分の人生がうまく思い出せない。いや思いだせないというのとは違う。もちろん覚えている。でもそれがほんとうに僕が生きた時間で僕が体験したことだったのだろうか。馬鹿みたいな話だけどそんなことを考えていた。ばらばらの記憶があるだけで今の僕とつながっていないような妙な気分を味わっていた。不安というのとは違う。妙な、そう、すごく現実感のある夢の中にいるような不思議な気分。足元を見て地面をつま先でけってみる。小さく砂ぼこりが舞う。何度か深呼吸をしてみる。林の向こうの村を想う。そしてそこにいる人達。そこにいたおじさん。一陣の強い風が吹き木々の先端を撫で揺らしていく。</p>
<p>さて僕はどこへ行けばいいのだろう。どこに行きたいんだろう。バスはなかなか来ない。</p>
<p> </p>
<p> </p>
]]></description>
   <category>日記</category>
   <dc:date>2025-07-30T22:32:37+09:00</dc:date>
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  <item>
   <title>番外編　オッペン・ロウシ氏の作品集より「忘却の風に吹かれて」（前編）</title>
   <link>https://blog.goo.ne.jp/sainotuno2003/e/e60b7efa05fb60ac69bd59e2c0b0c47a?fm=rss</link>
   <description>
<![CDATA[
<p>　今回の番外編は前編です。後編も近日投稿予定。たぶんですが。</p>
<p> </p>
<p>ーなにかお困りですか。</p>
<p>振り向くとあどけない顔の少女が立っていた。身長は１５０センチくらいか、僕より頭一つ分低い。10代半ばぐらいだろうか。薄青い瞳に黒みがかった金髪をぎゅっと後ろで束ねて頭の形がまん丸にみえ額を大きく見せて利発な感じを与える。真っ白なブラウスに濃い緑のロングスカートで地味ではあるがよく手入れのされている清潔感のある服装だ。</p>
<p>長距離バスの待合所で壁に掛けられた大きな路線図を眺めながらぼんやりしている時だった。木製のベンチが四方の壁沿いに置かれちらほらと人が座っている。首都から離れたこの街（この国の第２都市らしい）に外国からの旅行者は珍しく周りからちらちらと視線を感じるのだが話しかけてくる人はいない。これから行こうとしている都市にいくバスの発車場所を探していたのだがいくつも路線があるようでどれに乗るのが一番早いのか路線図と時刻表を見ていても頭の中でひもがどんどん絡まっていくようで集中力の電池が切れかかっていた。</p>
<p>ちらっとまわりをみてその少女に体をむける。まっすぐな視線を僕に向けている。この年代にありがちな大胆さに少し気おされながら共通語が話せるんですねと聞くと嬉しそうにうなずく。路線図に顔を向けて行く予定の都市を指さしてここにいきたんだけど、と事情を説明する。</p>
<p>姿勢よく僕の話を聞いている。教師に教えられている生徒のように。高校生ぐらいだろうかと頭のすみに浮かんだがこの国がどういう学校制度なのかわからないから聞くのもためらわれる。</p>
<p>しばらく路線図の横にある時刻表を厳しい目つきでにらんでいたが私と同じバスに乗れば大丈夫ですよ、このバスですと７８という番号を指さす。お礼を言うと控えめだけど大きな目を細めてくすぐられたような表情をする。この国で仕事以外でしゃべった初めての会話だった。旅行者特有の満面の笑みを浮かべるとさりげない日常的な笑顔を返してくれた。壁にかかった大きな時計をみながらもうすぐ時間だから発車場所までいきましょう、こっちです、と案内してくれる。人見知りしないタイプなのか初対面の旅行者にも警戒心もないみたいで窓口で先にチケットを買い僕が買うのを横でみていて小銭がいくらなのか見てもよくわからずもたついているのを手伝ってくれる。僕がチケットをポケットにしまうのをみてからあそこのホームですと指さしながら先をいく。</p>
<p>初めての異国の地で見知らぬ人についていくなんてことはしたことはなかったが相手がまだ１０代の女性ということもあって多少の躊躇はあったが後をついていく。道連れができるのはこの旅で初めてだった。ほんのひと時にしろ異国の少女と旅をすることになるなんて思いもしなかったがこの時僕は一つの分岐を選んでいた。あとから何度もこの日を思い出すことになるのだがそのたび不思議な心持になる。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>大陸の端の小さな国に行った時のことだ。その国の先には大海が広がる。バスで国境を越え首都を目指したがほとんど人家がみえず森と草原が延々と続いている。たまに羊やヤギ（だとおもう）が捨てられた置物のように点在している。乗り合わせた乗客もお年寄りが多くみんな静かにしている。そっと息を殺している気さえする。もちろん僕の勝手な想像だが。</p>
<p>首都はほかの国と見劣りしない近代的な街で高層ビルが立ち並ぶが少し区画を過ぎると石作りの古い建物も多く残り天気のせいもあり（ずっとしとしとと雨が降っていた）暗い印象が残った。歴史の教科書で名前は出てくるし、かつて栄えていたというのも知っているがそれだけになんだか行きかう人々も寂し気にみえる。落ち着いているという言い方もできるんだろうが、僕の中に浮かんだのは忘れられた国という言葉だった。</p>
<p>ひと月ほどの予定でこの地域をまわって帰国の予定だった。この国には数日だけのつもりで首都で何軒か目ぼしい店を訪ねてまた中心地の国に戻る途中で一か所、二か所寄れれば十分だろうという心つもりでいた。</p>
<p>臨時の仕事で古いワインや家具などの買い付けの下調べをしている。この地域の共通語が分かるので知り合いの会社の社長に頼まれたのだ。僕の遠い親戚になる。法事で親戚が集まっている時にぶらぶらしてるならちょっと頼まれてくれよと声をかけてくれた。金融機関の営業をしていたがいろいろあって体を壊し少し引きこもっていた時期だった。もともと旅好きで若い時はあちこち放浪していたのも知っていたし社会復帰の足掛かりになればいいと思ってくれたのだろう。僕の中では悩むところがあったが金銭的に余裕がなくなっているしとにかく体を動かした方がいいだろうと腰をあげることにした。なにかきっかけがないと気だるい日々にずぶずぶ沈みんでいきそうだった。あとすこしで３０歳を迎える時期で僕の中では３０というのがなにか大きな節目のように感じていてそれまでに生活を立て直さないとという焦りもあった。ふとした時に背中に冷気が這い上るような寒気を感じて暗いところに落ちていくような恐怖を感じることさえあってそんな日常から早く抜け出したかった。</p>
<p> </p>
<p>ーきれいな発音だね。途中で売店で買ったジュースを渡しながら話しかけるとすっと屈託のない笑顔になって幾つか幼くなった。またすぐ取り澄ました感じになるが緊張しているんだろうなと思う。初めて会う外国人といるのだからふだんと同じというわけにはいかないだろう。バスを待ちながら飲み物を手に二人でベンチに座る。目の前を大型バスが並び入っては出ていく。ごった返すほどではないがつねに人々が行き来する。学生らしき一団や背広姿の人達もいるがこころなしかみんなのんびりしている気がする。お国柄だろうか。自分の国ならもっとせわしないだろう。</p>
<p>自己紹介がてら東の遠い島国から来たことを教えるとにっこり微笑む。相手に安心感をあたえる素敵な笑顔だ。家族に大事にされているんだろうなと思わせる。どんな家族なのか想像もつかないが。</p>
<p>ーたぶんそうじゃないかと思いました。むかしあなたと同じ国の人が私たちの村にいたことがあるんです。なんだか雰囲気が似ていて懐かしくて声を掛けました。お邪魔でしたか。ごめんなさい。</p>
<p>ーいえいえ、ありがとう。教えてもらって助かりました。</p>
<p>この地域の共通語で話すわけだがお互い外国語（彼女にとってはまだ身近だろうが）だからかえって気楽に話せるのかもしれない。この国の言葉も少しなら話せるがたどたどしくなって会話にならないだろうし彼女が僕の国の言葉を話せるわけもない。学生ですかと聞かれる。仕事で来ているんだよというと少し意外な顔をしている。中型のザックを担いでいる格好だし学生の旅行と思われたのだろう。いままでまわっていた国の名前を言う。いいですねと肩をあげておろす仕草をして私もいろんなところを旅してみたいと待合所の屋根のあいだからのぞいている空を見上げる。そこに将来世界を飛びまわっている自分が見えるように。少女に対する好感度がぐっと増してくる。僕も小さいころから外国を旅するのが夢で学生時代に何度かいっていろいろと経験したことを思い出す。かなりの貧乏旅行で体力的にも財布的にもきつかったがそれを楽しめる若さがあった。</p>
<p>ーどこまで行くの。これから家まで帰るところということだったが彼女が言ったのは初めて聞く地名（発音が難しく何回も聞きなおす）でザックの中からガイドブックを出して地図で探してみたが出ていないようだ。この辺なんですけど、と細長い指が地図の上を行き来する。その白くつるっとした指が僕になにか遠い記憶を呼びさます。</p>
<p>そうこうするうちバスが入ってきて一緒に乗り込み隣り合わせに座ることになった。窓際の席を譲ってあげると小さくありがとうと言う。運転手が何か大声で叫ぶとそれが合図みたいにエンジンがかかり一度大きく車体を揺らせ半分ほど埋まっている乗客も大きく揺れてバスが走りだす。石作りの建物が続く街中はすぐに抜けて新しい建物はすぐ見なくなり道沿いにぽつぽつと古い民家のような建物が時々現れるていどになる。低木の生い茂る草原や森の中をほとんどカーブのない道をエンジン音をうるさく響かせながら単調にバスは走る。最初は思い出したように止まり乗り込む人が少しいて席はほぼ埋まってくる。</p>
<p>やがてあまり止まらなくなり上りの道がしばらく続きやがて見晴らしのいい平原にでてバスも気持ちよさそうにかたかた小さく振動させながら走っていく。延々と続く遠くの山並みとすぐそばに広がる草原とこんまりした森の眺め。ときどき草原の中にポツンと小屋のようなものがあるが人は見かけない。彼女もバッグを膝の上において背筋を伸ばし外の風景に目をやっている。エンジン音がうるさくて話すと大声で耳を近づけないと話せないので自然黙って二人とも外を眺めることになる。僕としてはそのほうが気楽でよかったが。彼女のほうもそうかもしれない。年の離れた外国人同士でそう話題があるわけじゃない。でも横に少女がいるだけで何か安心感があった。彼女もそうだといいんだけと思うがどんな気持ちでいるのだろう。</p>
<p>1時間ほど走ったところで休憩所みたいなところに止まった。トイレ休憩というところだろう。四角いコンクリート作りのなんの飾りもない建物で店頭に軽食や飲み物を置いている売店があり奥の方が食堂になっているようだ。殺風景な店内であまり食欲をそそる感じではなかったけど少女に何か買ってあげようと思って一緒に売っているものを見に行ったが揚げ物とパンが並んでいるぐらいで僕としては買う気がしなかったが少女に何かいると聞くと彼女は笑顔で首を振る。外に出て木のベンチに二人で腰かける。</p>
<p>学校に行っているのと聞くと村から自転車で一時間ぐらいかけていっているようだ。どんな村なのと聞くとしばらく思案顔になっていたが小さい村でなにもないけどとてもいいところということだった。両腕をひろげ自然に囲まれて美しい村ですと。自分の国の田舎の風景を思い浮かべなんとなく近い感じなんだろうなと想像する。こっちに来ても都市ばかりまわって人に疲れているところだったから（言葉がしゃべれるといっても流暢とはいかないから仕事の会話をしたあとはけっこうぐったりする）そんなところも行ってみたかったなとぼんやり思う。</p>
<p>運転手も降りていて売店のおじさんとなにやら大声でしゃべって乗客と一緒に大笑いしている。みんな先を急いでいないようだ。あとどのくらいで出るんだろうと少女に聞くと肩をすくめ運転手の方をちらっとみて分からないというふうに首を振る。僕も苦笑いして固い椅子に座りなおしてなまぬるくなったジュースを一口飲む。空を見上げると雲がだいぶ薄くなって青空がのぞいている。少し埃っぽいけど街中とは違う乾いた風が心地いい。</p>
<p>ー君の村に泊まるところはあるのかな？</p>
<p>自分でも深く考えず言葉がでてきてしまった。彼女はしばらく首を右に傾げ間があってからー一つだけ。食堂の上に泊まれる部屋があります。泊まるんですか。珍しい虫を見つけた小さな子供のような目でオレを見る。外国人が訪れることなんてほとんどないんだろう。</p>
<p>―なんだかよさそうな村だから一日二日泊まってみようかな。</p>
<p>自分で言っておきながら意外な展開に驚いていた。仕事の合間の息抜きになりそうだし急ぎの案件もないしちょっと寄り道しても問題ないだろう。そもそもそんなに成果を期待されているわけでもないし。</p>
<p>ー出発したらあと一時間もしないで私の村に着きますけど。ほんとうに観光するようなところはない村ですよ。</p>
<p>―自然に囲まれたところで少しのんびりしたいなと思って。</p>
<p>その言葉をしばらく頭の中でかみ砕くようなに眉間にしわを寄せていたがーそういうことなら私たちの村はぴったりかもしれません。と僕にというより自分に向かってつぶやいてそっと視線を僕に向ける。その視線に最後の後押しをされた。それに気がつくのはずっと後のことだけど。</p>
<p> </p>
<p>再び走りだしたバスに揺られながら自分でも半信半疑な気分でいた。僕は本当に彼女と一緒に降りて見知らぬ村で滞在するんだろうか。彼女はどう思っているんだろう。あまり衝動的な行動はしない性格な自分がしようとしていることに自分で驚いている。仕事とはいえかなり自由に動ける旅の影響だろうか。いままでこんなことはしたことはなかった気がする。バスはだいぶ高地にきたみたいで窓から入る風が冷気を含んでくる。少女はとなりで相変わらず姿勢よく座って窓の外をみている。</p>
<p> </p>
<p>バスが突然止まる。彼女が当たり前のように、ここです、と言ってかばんの紐を肩にかけて立ち上がる。僕が通路に出てザックを担いでいると運転手になにか声をかけている。窓から外を見るが建物のようなものは何も見当たらない。木々と草原が広がる気持ちの良さそうな場所だ。ただ人が住んでいるようにはみえない。彼女は運転手のそばでなにやら会話を交わしオレを振り向き少し肩をすぼめなにか言いたそうな顔をしてステップを降りて外に出る。運転手も一緒に降り車体のわきにある荷物入れから彼女の荷物を出してあげている。ドアのあいた出入り口からその様子を見ながらオレはなにか勘違いしているんじゃないか、彼女の話を誤解して聞いていたのかもしれない、と頭の中でついていってはまずいだろう、こんな辺鄙な誰も知り合いもいないところで降りるなんてまともじゃないと押しとどめようとするのだが足は彼女の後を追ってステップを降りバスから出ていた。少し先で彼女が立ち止まりオレが降りたのをみている。光の加減で表情がよく見えなかったが本当に僕が降りたので驚いているような気配がある。後ろでドアが閉まるバス独特の音がして思わず振り返るがバスは躊躇することなくためらいもなく車体を上下にきしませながら動き出し後尾から灰色の排ガスをまきながら去っていった。どんどん小さくなるバスをしばし目で追っていた。現実にバスを降り見知らぬところにいるのを確認するように。</p>
<p>まわりを今一度見渡すが建物はどこにもない。道沿いに木々がたちならびなだらかな丘が連なって緑が斜面を覆い穏やかな日差しを浴びて世界はどこまでものどかなようだ。それでもどこかに緊張感を潜ませているようにも見える。昼寝をしている猫が突然全身の毛をを逆立て牙をたててとびかかってくるような不穏な気配をこの風景の背後にしのばせているような。</p>
<p>彼女はオレがついてくるのを確認するとすたすたと林の中に入っていく。とにかくついていこう。もし何かまずいことがあれば次のバスに乗ればいいんだと自分を説得して後をついていく。次のバスがいつ来るのか調べておけば良かったと思いながら。何の目印もないのに木々のあいだを歩いていくと思っていたがよく見るとところどころ石がひいてあり道になっている。ほとんど地面と見分けのつかない道だけど。林と思っていたが１，２分歩くと突然木々がなくなり展望がいっきに開けた。遠くの山並みまで見通せる広々とした風景が広がり目の前は盆地になっていてそこに小さな家々が間隔をあけて何十と散らばっている。その周りには四角く区切られた畑がかこむように点在して緑に覆われた土地に人の生活感を与えている。村だ。とりあえず彼女が言っていたのは本当のことなんだと少し安堵する。なにを心配してたのか自分でもよくわからないが最悪の展開は避けられそうだ。赤茶けた屋根が多くところどころ薄い青色の屋根もみえる。中心辺りに塔が見えるのは教会なんだろう。その前に広い平地があってたぶん広場だ。このへんの国にある普通の村の風景が広がっている。</p>
<p>前を歩く彼女が両手に持っている重そうなバッグを速足で追いついて持ってあげようとするが首を振って固く断る。オレもあまり無理は言わずおとなしくついていく。草地を抜けて村に入るところに低い石垣が境界を示すように作られているがだいぶ崩れてその機能を果たすのはあきらめているようだ。腰ぐらいの高さの石垣を横目で見ながら村に入っていくと初老の男性と目があって一瞬身構えてしまった。目があってもピクリとも動かない。もしかして人形と思ってしまったが彼女が声をかけるとその男性が口を動かし何か音を発した。一言づつの会話。彼女はそのまま歩いていく。つばの広い帽子をかぶって木でできたなにかの荷台の上に座っている男性は何の動きも見せない。でも視線は感じる。ついさっき消えた不安がまた夜明けの霧のように背後から忍び寄っていた。</p>
<p>なにかを感じたのか彼女が振り返り真剣な表情で軽くうなずく。大丈夫ですよ、というように。忍び寄っていた霧はまた少し遠のいた。</p>
<p> </p>
<p>彼女の大きな荷物を両手に持って歩く後ろ姿はまわりの風景と溶け合っている。見失いそうなほどに。漆喰作りの平屋の質素な家が2、3軒かたまって立っていて小ぶりな畑があって木の柵で囲われた赤茶けた土に覆われた場所に牛が何頭か気ままに草を食んでいる。</p>
<p>乾いた風が吹いてくる。さらさらとどこかで葉がなる。なんの邪気もない生まれたてのような風。彼女の後ろ姿がそう思わせるのかもしれない。まだ足を踏み入れて何分もたっていないが好感が湧き始めていた。ここで降りて間違っていなかった。少なくとも悪いことは起きなさそうだ。自分の中でそんな声がする。</p>
<p>教会の小ぶりな尖塔が見えてきてすぐ広場についた。彼女は迷いなく教会の向かい側に立つ2階建のこの中では一番大きい建物に歩いていきその前で立ち止まって自分の両手に持っていた荷物を下に置いて振り返りここですという。何がだろうと思ったがさっきいていた宿泊施設を兼ねた食堂なんだと気がついた。なにかを煮込んでいる匂いがしてくる。　</p>
<p>入り口にドアはなく開け放たれている。少女はすたすたと中に入っていったが僕はとりあえず外からのぞいてみる。外の明るさのせいか店内は薄暗く慣れるまでぼんやりとしたみえなかったが木製のかなり年季のはいった簡素な机と椅子がすぐ手前にあって奥は意外と広そうだ。この建物自体は木造みたいで床や柱などところどころかけて傷がつけられ痛めつけられながらも地道に勤めをはたしてきた感じを醸し出している。かなり長い歴史がありそうだ。</p>
<p>目が慣れてくると正面の右側にカウンターがあり５，6席あってその後ろの壁には酒瓶やグラス、よくわからない道具のようなものが飾られているのが見える。その奥が厨房なのだろう。先ほどの匂いはここから漂ってきていたようだ。最初誰もいないと思ったが奥のテーブルに二人男性が座っていた。そのうちの一人が立ちあがって少女に何か言うとカウンターに入っていく。この店の人らしい。背は僕とそれほど違わないが首も腕も太く胸板も厚くがっちりした印象。とっつきにくそうだ。少女もカウンターにいってたぶん僕がここの泊りたがっているということを説明しているのだろうなにやら話している。店の主人（たぶんだが）がちょっと困ったような顔をして何か言うとすぐ少女が言葉を返す。ちらっとこっちを見て何か言うとまた少女が言葉を返し黙ってしまう。突然の来訪者に警戒しているんだろう。気持ちはわかる。少女の後ろにいってできる限りのにこやかな笑みを浮かべ少女の後押しをする。僕としてもここに泊まれなければ困るわけだし。主人は僕と目が合うとしばし疑り深そうにみていたが少女の視線を感じたのだろう、誰にともなくうなづいてなにやらやつぶやくと古ぼけたノートを後ろの棚から出してきて僕に渡す。少女が宿泊帳です。ここに名前と住所と指さして教えてくれる。主人はまあしょうがないという感じでなにやら少女にいって少女が僕に通訳してくれる。宿の代金や朝食がつくこと、二階に部屋があってシャワーも自由に使っていいとのこと。カウンターの下からなにやら取り出しついてきなという目配せをして奥にある階段を上がっていく。少女にお礼を言って後をついていく。少女が階段の途中の主人に声をかけると愛想のない返事をする。もうちょっと友好的な態度をしてくれてもいいのにとも思うが突然の客なんだから仕方ないとかとその後姿をみやる。</p>
<p>階段の間隔が広く下がよく見えてちょっと足がすくむ感じがして気のせいか踏むたびきしんで何かの鳴き声みたいな音がする。あがると広い部屋にでて窓側にベッドがいくつか並んでいる。一人用ではないみたいだが他に泊まる人はいなさそうだから広く使える。南側のようで日差しが差し込んで明るくきれいに片付いていて想像していたよりかなり居心地良さそうだ。手にしていたものを渡されるとシーツとタオルだった。ベッドメイクは自分でするみたいだ。この土地の言葉でお礼を言うと両手を広げどういたしまして（たぶんだが）と言って片目をつぶってみせてなにかい言うと下に降りていった。僕がその言葉を理解したかどうかは気にしないようだ。</p>
<p>とりあえずザックを下ろしベッドに腰かける。一人になるとどこからともなく風が吹いてきた。深呼吸すると気持ちがすっと落ち着いた。あたりを見回してなんだか学生時代の貧乏旅行を思い出していた。いつも一番安いところに泊まっていたものだ。そういうところからみればかなり清潔で悪くない。奥にもいくつか部屋があるようだが使われている雰囲気はない。シャワー室はかなり質素というか必要最小限の設備しかなくもちろん湯舟なんてものもない。でも文句もいえない。先ほど言われた宿泊費は昨日泊まったホテル五分の一ぐらい。朝食もつくらしいし一日二日の話だからこういうのも一つの体験だろう。</p>
<p>シーツをしいてベッドに仰向けに寝転がって両手を頭の後ろに組む。天井に渡されている木の柱に蜘蛛の巣があって蜘蛛の姿は見えないが蛾のような虫がいくつも捕まっているのぼんやり眺める。</p>
<p> </p>
<p>下に降りていくと誰もいず少女も姿が見えない。自分の家に帰ったんだろう。外光が差し込む店を見まわす。隅の方は薄暗いが掃除は行き届いている感じがする。何か飲むものがないかとカウンターにいってみる。奥の厨房からカタカタと音がする。包丁を使っているんだろうか。なんて声をかければいいのかわからずしばらくその音を聞きながらぼんやり外を眺める。ときどき人が行き交うがお年寄りばかりだ。みんな同じような作業着で帽子をかぶっている。気配がして振り返ると太ったおばさんが立っていて目が合うとなにやら言うよくわからないがこっちの言葉でこんにちわと言うとこんにちわと返してにっこり微笑む。手で飲み物を飲む仕草をして飲み物がありませんかと共通語で聞くと片言でコーヒーならあると教えてくれたので注文する。</p>
<p>ぶらぶらと村を歩くが確かに何もない。広場の真ん前に教会があって野菜を売っていたる店や雑貨をあつかっている店などがその周辺にちらほらありすぐ畑や牧草地が広がっている。でもすれ違う人もへんに観光客づれしていなくて僕に見向きもしない人もいれば目を合わせて軽く微笑んでくれる人もいてふつうに生活しているふつうの人達という感じで居心地はいい。</p>
<p> </p>
<p>まだ明るいうちから晩御飯を出された。丸くこんがり茶色になっているパンに牛肉だろうか大きな塊の肉にじゃがいもと見慣れない野菜の煮込み料理に小さい玉ねぎの酢漬け、それに甘く煮つけた（カボチャだろうか、こっちの品種はよくわからない）デザート風のもの。奥さんが（たぶんだが）両手で大きめのトレーに盛り付けた料理を両手でもって自信ありげになにやら言いながら片手で親指を立てる仕草をして目の前に置いて戻っていく。お茶目な雰囲気を全身から醸し出している。出される前はあまり期待していなかったが湯気を立てた煮込みからいい匂いがしてなかなかおいしそうだ。お腹が空いていたのに気がつく。</p>
<p>どれから食べようとスプーンを手に取って料理をみているとと一人若めの男性（この村で今まで見かけた中では。僕から見れみんなお年寄りだが）が入ってきて主人に挨拶すると僕に目で挨拶してテーブルまで来て手を差し出す。握手を求めているのに気がついてすぐ手を差し出し握手をする。ニコッと笑って僕の前に座り主人になにやら叫ぶとワインのグラスが二つでてきた。急な展開で戸惑っているとその男性がグラスを掲げる。お酒を飲むつもりはなかったが（あまり強い方ではないので旅行中は飲まないようにしている）この場の流れだしまあいいかと僕もあわせてグラスを掲げる。お互いほほ笑んで飲もうとすると主人が声をかけもう一つグラスを持ってくる。一緒に乾杯ということらしい。店のほうはいいのかなと思うが他にお客さんはいないみたいで暇なんだろう、三人でグラスをかがげて乾杯（こっちの言葉でよくわからないがたぶんそうだろう）と言って飲もうとした時に入り口に何人か男性が大声で話しながら姿を現し最初に来た人に声をかけるとそばにやってくる。隣のテーブルに座って最初のに来た人が僕をみんなに紹介する。どう紹介しているのか分からないが気がつくと主人がグラスをみんなに手渡している。もともとみんなで集まる日だったのかいつもこんな感じなのか、それとも僕が来たからなのかよくわからないが宴会が始まる雰囲気をみんなが醸し出している。じゃあ、乾杯というところで入り口から声がしてみんなが振り向くとまた何人か人が現れた。今度は女性も混じっている。主人がカウンターに戻ってグラスを用意する。なかなか飲めない。</p>
<p>そのワインを一口飲んでびっくりした。今までそれなりにいろんなワインも飲んできて高価なものも何度か飲む機会があったのだが素直に美味しいといえるものがそんなにあったわけではなかった。いろんな能書きをあらかじめ聞かされて美味しいと思わないわけにはいかなことがままあったわけだが、このワインは新鮮で嫌みがなく深みには欠けるけど素直に美味しいと思える。この場の雰囲気がそう思わさせるのかもしれないが一口飲んでしみじみグラスを目の前にかざして眺める。隣のおじさんがが心配そうにどうだと聞いてきてそのおじさんの顔をまじまじと見つめ素晴らしいというこの国の言葉が口をついて出てきた。まわりのおじさんたちがいっせいにオレの方を見てしばし間があったあと乾杯と誰かの言葉を合図にみんなでグラスを掲げ一口で飲み干す。僕もつられて飲んでしまう。そして店内にあふれる笑顔。主人がきてまた注いでくれる。</p>
<p> </p>
<p>これは酔っぱらいそうだから気をつけないとと思っていると入り口に少女がいるのに気がついた。となりに黒い服をきた男性がいる。僕と目が合うとその人と僕の前にやってきてこの村の牧師ですと紹介してくれた。先に座っていたおじさんがその二人に席をゆずり僕と三人でテーブルを囲むことになった。</p>
<p>牧師という人と話すなんて初めてだったが落ち着いた笑顔で握手を求めてきて、初めまして、ようこそわが村へと共通語で話しかけてきた。まだ若い人だ。たぶん僕より１０ぐらい上といったところだろうか。僕も姿勢を正してよろしくと手を差し出し握手する。牧師の隣で少女がほほ笑んでいる。</p>
<p>この村に来るのは月に数回だけなんですが今日はたまたま来ていてお会いできて良かったと少女とうなずきあっている。</p>
<p>二人で僕を見ながらなにやら話しているのでなんだろうと思ったが以前にこの村に来た同じ国の旅人に似ていると牧師も言っているらしい。</p>
<p>どうも同じ国の人らしいですねと返すと牧師があれは何年前だったろうと少女に聞いて二人で思い出すように顔を見合わせ４年、いや５年前、私がまだこの村にきだしたころだからと二人で話している。二人の会話の端々にojisanという言葉が出てきて気になって聞くとその人の名前だと言う。自分でそう名乗ったらしい。おじさんか、おかしな人だ。確かに同じ国の人だ。僕より年上でしたか？と聞くと二人ともうなづいて、息子、いや孫ぐらい、と牧師が言っているので思わず聞きとがめる。</p>
<p>ー孫って僕よりもかなり年上だったんですか？</p>
<p>牧師が少女に何か言うと少女がちょっと困った顔をして僕を見る。</p>
<p>ーまだ詳しく話したわけじゃないから、と言葉に困っているとーええ、そうです。お年寄りでしたね。私の父親ぐらいの年齢でした。正確には分かりませんでしたが、と牧師が言葉を継ぐ。</p>
<p>―だからバス発着場で見かけた時おじさんの家族が探しに来たんじゃないかと思ったんです。</p>
<p>―見かけただけで？</p>
<p>ーええ、最初すれ違ったんですけどなんだかハッとして今の人おじさんに似てるって、慌てて戻って後ろをついていったんです。それで時刻表をみている様子をしばらく見ていたんですけど、やっぱり似てるって。それで思いきって声をかけたんです。ちょっと勇気がいったけど。家族、お孫さんかなって勝手に想像しちゃったりして。</p>
<p>だいぶ強引だねというと三人に静かな笑いが起こった。でもなんていうのか雰囲気が似てるのは本当ですよと牧師がいうのをふだん見かけない地域の人たちが同じような顔にみえるのはよくあることだよなと思いながら聞いていた。</p>
<p>それにしても牧師の年齢もよく分からないが父親ぐらいということはおじさんは７０前後ぐらいということだろう。それなら僕が孫にみえてもおかしくはないが。</p>
<p>ーそんなに年齢の人が一人旅をしていたんですか？旅人っていうし僕と似ているっていうからてっきり同じくらいの年齢の人だと思いましたが。</p>
<p>ーええ、そんな高齢の人が一人旅をしているなんて珍しいですよね。高齢のわりにはしっかりしていましたが。とその人を思い出しているのかしきりにうなづいている。</p>
<p>とはいっても自分の親よりも上の年齢の人が言葉もままならない異国の土地を一人で旅するなんてそんな人に会ったこともないし聞いたこともない。</p>
<p>ーみんなも最初は警戒するというか遠巻きに眺めている感じでした。そのうちいなくなるんだろうと思っていたようなんですが、この先の丘に昔の教会があるんですがそこに居ついてしまって。</p>
<p>―居ついた？</p>
<p>ーええ、今は使われていなくて何十年もそのままなんですが。私たちとは別のものなので。誰もいない廃屋になって入り口も壊れていたからそこに入り込んで過ごし始めたんです。誰も行くこともなくなっていたから最初は気づかなかったんですが食材を村で買って自炊をしたりして。お年寄りだし害はなさそうだけど言葉もあまり通じないしどうしたものかとなって。そのうち子供たちがなついちゃったんですよ。後をついていくようになって。それでまたみんなが心配して私のところに相談に来まして。彼も共通語は話せましたから。</p>
<p>ー子供たちがなついた？怖がらなかったんですか？</p>
<p>―私もその一人だったんですけど、いつもニコニコしてやさしいんです。異国の人は珍しいし痩せた老人だし最初見たときから怖い感じはなかったです。言葉は通じないんですけど一緒に遊んでくれたりして。この村には子供が少ないんですけどほとんどみんなが集まってました。学校帰りに遊びに行くのが習慣になって。</p>
<p>ーどんな遊びをするんだろう？この広々とした大地の中にぽつんとある小さな村で異国の子供たちを遊ぶ老人の姿がうまく思い浮かばない。</p>
<p>ーほんとに子供の遊びですよ。石けりとか草笛を作ったり。口笛も上手だったな。そう、それに絵を描いてくれて。</p>
<p>ー絵を描くんだ？</p>
<p>ええ、クロッキー帳を持っていてとなんだか微妙な間があったあと、ーみんなを描いてくれたりもしたんですけど似てないんです。みんなが似てない、似てないって言ったらおじさん困ってましたけど。と笑っている。その絵なんですけど、と牧師が身を乗り出してきた。</p>
<p>ーそれを家に持って帰って子供たちが放り投げてあるのを親御さんが見て気にいって実は有名な絵描きじゃないかと言いだして。その時ぐらいからかな、村人も彼に馴染みだしていつのまにか一員になってましたね。不思議な経験でした。半年ぐらいだったかな。</p>
<p>少女を見やって二人でその時のことを思い出すように口をつぐむ。</p>
<p>―亡くなったのが１２月の初めころだったからあれから５年半が経つんだね。牧師が少女に言っている。</p>
<p>―亡くなったんですか？思わず聞き返していた。</p>
<p>ーええ、ここで。私たちの教会の共同墓地に埋葬されました。来たのはちょうど今頃の季節でしたから。</p>
<p>少女はおじさんを思い出しているのか焦点のあわない遠い目をして牧師も穏やかだがどこか硬い表情をしている。そして亡くなったという言葉に動揺している自分がいた。</p>
<p>ー年も年だったし寝込んだ時から心配はしていたんですが。いろいろ問い合わせはしたんですが結局身元不明でこの村で埋葬することになりましてね。お葬式には村人みんなが参加しました。</p>
<p>―身元不明ってパスポートがあったでしょ。それをみれば。</p>
<p>ーいいえ、荷物にはありませんでした。もちろん警察には届けたんですが身元は分からなかったみたいです。</p>
<p>そんなことがあるんだろうか、まさか密入国でもないだろうし本当の国籍とかは分からないということか。</p>
<p> </p>
<p>気がつくと合唱が始まってテーブルをどけて場所を作り踊り始めていた。どこからかギターや見たことのない打楽器がでてきて即興の演奏も始まる。男同士やカップルもいて（たぶん夫婦なんだろう）かなり年齢の高いダンスパーティーになっている。賑やになって二人と話もできなくなってきた。牧師もみんなのほうを見て苦笑いしている。</p>
<p>ーいつもお酒を飲んで騒いでるんですよ。みんなのほうを見ながら顔をしかめて少女が言う。</p>
<p>―いつもというわけではないでしょ。厳しい日々をおくってきたんだからこういう時間も必要ですよ。少女は肩をすくめている。</p>
<p>僕たちのほうにもやってきてなにやら言っているが牧師は手を振って断っている。僕にも声をかけ肩をたたいてこっちにこいよと手招きされるが遠慮する。みんなだいぶ酒がまわっているみたいであちこちで笑い声が起きる。一人のおじさんが輪の中でおどけた顔をして全身を揺すりながら踊りだしいっそう盛り上がってきた。少女も声をあげお腹を両手でおさえ笑っている。牧師も楽しそうだ。</p>
<p> </p>
<p>芯からくつろいでいるのが分かった。この旅で初めてかもしれない。不思議なもんだ。見知らぬ人に囲まれ見知らぬ土地で芯からくつろいでいる。この村の名前さえ知らないのに。</p>
<p>―彼のスケッチブックを預かっているんです。明日にでもお見せしますよ。僕のほうに身を寄せ牧師が言う。</p>
<p>ー捨ててくれと言われたんですがとてもそんな気にはなりませんでした。絵のことはよくわかりませんが、</p>
<p>最後のほうはみんなの騒ぎ声にかき消されよく聞き取れずあいまいにうなづいた。僕もかなり酔って最後はふらふらになりながら二階に上がりベッドに倒れこんで下から聞こえてくる笑い声を聞きながら眠りに落ちた。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
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   <category>日記</category>
   <dc:date>2025-06-01T11:37:16+09:00</dc:date>
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   <title>テレビのない風景</title>
   <link>https://blog.goo.ne.jp/sainotuno2003/e/f347a7f8f28e7ad9e4f8a68de0fe7f17?fm=rss</link>
   <description>
<![CDATA[
<p> </p>
<p>　長年使っていたテレビが突然壊れました。その朝までふつうにみていたのに夕方何気なくつけたら</p>
<p>画面が黒いままであれ、なんだろう、としばらくあれこれやっていたんですが、反応がなく、そうか、壊れたんだ</p>
<p>と気がつきました。正確にはもう覚えていないですが１７，８年は使っていましたから、なんとなくよく</p>
<p>もつなと思ってはいたんですが予兆のようなものはなかったので、そうか、こんなに唐突に壊れるもんなんだと妙な</p>
<p>感心をしてしまいした。</p>
<p>そこで家族で話したんですが一人一台パソコンをもっているし、子供も大きくなってテレビ番組を見ることがあまりないしと</p>
<p>いうことでテレビはもういらないんじゃないということにとりあえず落ち着いて買い替えはせずテレビのない生活が始まりました。</p>
<p> </p>
<p>考えてみれば物心ついた時からテレビはありました。最初の記憶にあるのは白黒。白黒テレビを見たことのある方はもう</p>
<p>少数派かもしれないですね。物心つく頃にはカラーになっていましたが。当時のテレビは後ろからのぞくと真空管があって</p>
<p>なんだか宇宙基地みたいと喜んでいた記憶があります。真空管って割れると大きな音がするんですよね。真空管といっても</p>
<p>若い方は何のことかわからないでしょうね。</p>
<p>チャンネルなんかはつまんで回すので取っ手がとれたりしてペンチで飛び出ている棒をつまんで一生懸命回したりして。</p>
<p>チャンネル争いというのもありましたね。とうぜんテレビは一家に一台で一つの番組しか見れませんから日本全国（世界各国？）</p>
<p>で熾烈な争いが繰り広げられていました。けっこう調子が悪くなることもよくあって映らなくなたっりするとテレビの横側を</p>
<p>バンバン叩くんです。子供の役割でした。でもそれで治ったりもしたんですよ。そうそう、アンテナがテレビの上についてたし。</p>
<p>映りが悪いといろんな方向に動かしたりして。</p>
<p>いろんなことを思い出します。学生時代の一人暮らしの一時期を除いてテレビがない生活というのはなかったです。常に身近な</p>
<p>ものというかなくてなならないものでしたから。</p>
<p> </p>
<p>子供のころはいつもテレビがついていました。誰も見ていなくてもとりあえずテレビをつける習慣はどこの家でもあたのでは</p>
<p>ないでしょうか。茶の間の主役でした。見た番組を思い出していくと「タイガーマスク」「巨人の星」（当時はアニメという言葉は</p>
<p>なかった気が。マンガと言っていたと思いますがどうでしょう？）「仮面ライダー」（もちろん一番最初のやつ、本郷猛！）</p>
<p>「ウルトラQ」その前の「怪奇大作戦」は怖すぎるという理由で母親から禁止されていた記憶が。野球も必ず見てました。</p>
<p>当時はスポーツ放送と言えばほとんど野球だけでしたから（それも巨人戦！）。でも途中で切れちゃうんですよね。延長なんて</p>
<p>いうものはありませんでした。</p>
<p>などなど思い出していくときりがないですね。子供のころの記憶とテレビ体験はないまぜになって切り離すことはできないぐらい</p>
<p>濃いです。まさにテレビっ子の世代です。ビデオが出てきた時は画期的でしたね。画面もだんだん大きくなっていって、今のテレビは</p>
<p>薄型というやつで我が家に来た時は、おおデカいと子供と一緒に喜んだものです。</p>
<p>時は過ぎ今は若い人でテレビを持たないのが普通です。そういう時代なんだと思っていたら我が家でもテレビのない日常が始まりました。</p>
<p>パソコンやスマホがあって不便はないし静かでいいと思いますが、こう書いていると少し寂しい気もしてきます。　</p>
<p>テレビって家族で見るものでしたし、みんなの共通の話題の提供元でしたからそういう体験自体がなくなっていくってことでも</p>
<p>あるわけです。老兵は死なず、去り行くのみですね。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
]]></description>
   <category>日記</category>
   <dc:date>2025-05-25T15:23:09+09:00</dc:date>
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   <title>シン・どうでもいい話その３　ハエはどこからきてどこへいくのか</title>
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   <description>
<![CDATA[
<p> </p>
<p>　このあいだ暑くなった週がありましたよね。先週末ぐらいでしたか、最高気温が２５度を超えて東京でも</p>
<p>夏日が２，３日続きましたが、その時店内にハエがでたんです。今年初めて見るハエ。一匹だけでしたがわりあい</p>
<p>大きいやつ。べつにうれしくも懐かしくないわけですがこんな時期（今は４月2日）でも出てくるんだなと思って</p>
<p>みていたんですが、ふとこのハエはどこから来たんだろうと疑問が沸き起こりました。</p>
<p>その暑くなる前はまだ三月下旬ですから寒かったわけです。ハエなんて見ないですよね。蚊とか羽虫みたなのもさすがに</p>
<p>でてこない時期です。急に２，３日暑くなったからといって卵からふかして成虫になったわけではないでしょう。そんなに</p>
<p>はやく卵から成虫になれるとも思えないしそもそも卵がどこかでじっとふ化する時を待っているものなのか。</p>
<p>それとも成虫になっているハエがどこかに潜んで冬を越して春が（夏？）来るのを待っているのか。こっちのほうが</p>
<p>ありそうですが、でも、ですよ。だいたいは９月ぐらい（最近は暑い時期が長いから10月ぐらいか）までみかけて寒くなり</p>
<p>姿を消して次の年の５，６月まで出てこないのでそのあいだずっとどこかに身を潜めているんでしょうか？</p>
<p>このあいだでてきたハエは暑かった２，３日だけ姿をみせてその後行方をくらましています。死んだんでしょうか？それとも</p>
<p>また暑くなる時までどこかに隠れているのか？隠れるとしてどこに隠れるのか？</p>
<p>そもそもの話としてハエってそんなに長生きするものでしたっけ？ハエの寿命ってどのくらい？冬はどうやって生き延びているのか？</p>
<p>身近な存在ですが改めて考えだすと知らないことばかりです。でもでてきてもうっとうしいとしか思わないですもんね。しつこくいると叩き殺してまうし。</p>
<p>詩に歌われることもなく人に役立つイメージも全くないし。なんで存在しているのか、ハエなんていなくなっても誰も困らないというか絶滅をもくろまれているような存在で生きていることを全否定されてしまうハエ。　</p>
<p>なんとなくそんなことを考えているとなんだかかわいそうになってきました。もっと我々はハエにたいして温かい目を向けるべきではないでしょうか。もっと愛を注ぐべきでは・・・ないでしょうね。無理ですよね。出てきたらうっとうしいと手で追い払いそれでも居座っていると叩き殺すでしょう。店内にはハエたたきを常備しています。店の中をハエの好きにさせるわけにはいきませんしね。しょうがないですよね。生きていくためには。</p>
<p>なんだかわけのわからない話になりましたが、どうでもいい話シリーズなのでまあいいかと読み流してください。</p>
<p> </p>
<p> </p>
]]></description>
   <category>日記</category>
   <dc:date>2025-04-04T00:11:24+09:00</dc:date>
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  </item>
  <item>
   <title>明けましておめでとうございます。</title>
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<![CDATA[
<p>明けましておめでとうございます。</p>
<p>無事年が明け新年を迎えることができました。ひとえに皆様のお陰です。</p>
<p>有難うございます。</p>
<p>といっていきなりで申し訳ないのですが今年からカレーの値段を上げさして頂きます。</p>
<p>すいません。今回はカレーだけの値上げです。２０円から６０円の値上げ幅です。</p>
<p>仕入れ値だけでなくすべての経費で上がっていないものがない状態でお店の存続の危機と</p>
<p>ご理解いただければ幸いです。</p>
<p>　サイのツノも今年の１０月で22年目を迎えることになります。長いような短いような、</p>
<p>いろんなことがあったようなたんたんとやってこれたような、しょうじき不思議な気分が</p>
<p>します。どこまでいけれるのか分かりませんが流れに身をまかせいけるところまでいって</p>
<p>みようというところです。</p>
<p>とにかく今年もより良いサービス、より美味しい味を目指して精進していきますので</p>
<p>どうぞよろしくお願いいたします。</p>
<p> </p>
<p> </p>
]]></description>
   <category>日記</category>
   <dc:date>2025-01-04T18:51:29+09:00</dc:date>
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   <title>番外編　オッペン・ロウシ氏の作品集より　「オッペンおじさんの思い出」</title>
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   <description>
<![CDATA[
<p>今回は小品です。「ゆらゆらと舞い落ち、緩やかに流れる」の続きは次回に。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>僕の人生最初の記憶はオッペンおじさんのどアップの顔だ。金髪で白い肌に茶色い目をしている。顎のとがった縦長の顔。真ん中に大きな鼻。 僕の意識の中で加工され年齢とともに細部は変わってきていると思うがとにかく金色に輝くつやのある髪にデパートの壁によくあるような白い肌。そして茶色い瞳。その瞳がポイントだ。僕の瞳が茶色いから。小さいころから心無い友達（そういう子が何人もいた）は僕の目をのぞき込んでなんで茶色なのとぶしつけに聞いてくる。なんでと聞かれても答えようもない。生まれた時からこうなんだから。</p>
<p>その顔は満面の笑みを浮かべいる。外でのことみたいでオッペンおじさんの頭の後ろに青が広がっている。たぶん空なんだろう。</p>
<p>3，4歳ぐらいの記憶だと思う。どこなのか、何をしていたのかは全く覚えていない、ただ大きな顔。満面の笑み、そして茶色い瞳。他にもいろいろ小さい頃の思い出はありそうだがとにかく強烈だったんだろう。小さい頃のことを思い出すとすぐおじさんの顔が浮かんでくる。半世紀近くの時がたっているのに鮮明だ。いや時とともに鮮明になってきているのかも。記憶の不思議を想う。</p>
<p>オッペンおじさん。小さい時からそう呼んでいる。本名は知らない。中学生のころ友達におじさんの話をしたら、なに、その名前、と大笑いされたことがある。物心がつく前からその名前で呼ばれていたからなんの違和感もなかったけど改めて考えてみたら変かもしれない。その時はそう思って友人と一緒に笑っていた。</p>
<p>日本語は上手だった。ただところどころイントネーションに変なところがあってやっぱり外国の人なんだと安心したりしていた。小さい時だとあの顔ですらすらと日本語を話されるとこっちの頭が混乱させられてめまいがしたことが何度かあった。見慣れない容姿がちょっと怖かったのかもしれない。泣き出したこともあったらしい。ほんとに小さい頃のことだ。まだ僕がいた街では外国人の姿を見ることがほとんどない時代の話。</p>
<p>子供の時から突然ひょいと姿を現す。忘れたころに出てくる失くしものみたいに。学校から帰ってくると母とちゃぶ台で縦長の湯飲みでお茶を飲んでいたり、おばさんの家族と一緒に遊園地に遊びにいってみんなでソフトクリームを食べていると突然後ろから現れて僕を驚かしたり。</p>
<p>母と二人暮らしだった僕たちは母の姉である家族とよく一緒に過ごした。旅行に行ったり誕生日会（おばさん夫婦には二人子供がいた。上が男でしたが女。下の子とも５，６歳離れていてお互い遊び相手にはならなかったけど）をしたりしていた。</p>
<p>僕の小学校に入学したときのお祝いの食事会のことをよく覚えている。家の近く中華屋の２階を貸し切りにして、おばさんの家族や母の親しい人が参加して１０人ぐらいの集まっていたと思う。わざわざ新品のランドセルをもっていってみんなの前で背負って写真を撮ったり、プレゼントをもらたっりしてすごくうれしかった。母との二人暮らしだったのでふだんは賑やかなこともないし僕が周りから注目されることもほとんどない生活だったからすごく新鮮な感じだったんだと思う。</p>
<p>―おめでとう！とその時も突然現れて微妙にずれた発音で声をかけていきなり僕を抱き上げた。背も高く（１８０センチ近くあったんじゃないか）力も強いから年の割に小柄な僕を両手で軽々と持ち上げ抱きしめ両手を伸ばし小さい子にするように高い、高いをしてひどく恥ずかしたっかのをよく覚えている。みんなは大笑いしていたけど僕はひどく子ども扱いされているようで機嫌をそこね憮然としていた。それを見てまた母は笑っていたけど。</p>
<p> </p>
<p>ドイツ人よ、私の親戚になるの。あなたの目が茶色いのはおじさんの遺伝かもね、と小学２年のころに母に言われたその言葉が僕の柔らかい心に深く突き刺さった。とても深く。自分でも意識できないほど深く。おぼろげな記憶だが母は台所で洗い物をしていて僕がなにかの拍子に聞いたんだと思う。とくに深い理由はなく、いったいあの人は誰。どこの人。近所に住んでいいる人なの。みたいな感じで。母は明日の天気の話でもするように何気なく話したいた。</p>
<p>ドイツ。僕と親戚。僕の目が茶色いのはあの人から受けついだ。まだなんのことかよくわかっていなかっただろうがとにかく衝撃を受けたのは今でもありありと思いだせる。どこにあるのかよくわからないが遠くにある国。ドイツ。頭の中では一気に空想が広がってその空想が僕を包んだように足がふわふわとして少し床から浮いているような気分で隣の部屋のひきっぱなしの布団の上にどさっと身を投げた。たぶんその時のことは母は覚えていないだろう。その何げない言葉がどれほどその後の僕の人生に影響を与えたか。</p>
<p>海を越え砂漠を越え巨大な山並みを越えていく。僕の一部はそこからやってきたんだ。その後の何年間かは母の言葉を思い出すたび全身が細かく震えるほど興奮した。その血をぼくが受け継いでいる。ほんの少しなんだろうけどはるかかなた（どこかはわからないがはるか遠くにあるのは間違いじゃないだろう）の人々とつながっていると考えると想像力を刺激された。幼い想像力を。</p>
<p>風の吹きすさぶ荒野を甲冑をつけて槍を持ちある者は馬に乗り（みんな顔にはひげをたくわえている）胸をはり遠くを見やりなながら進む一群。敵をおおきな剣でたおし血しぶきを浴びながら雄たけびをあげる。またある時は大きな木造の船に乗り帆を広げたマストや先端に立ち腕を組みはるか海原をにらんでいる。</p>
<p>もちろんそこにはオッペンおじさんがいる。たいていリーダー役だ。顔を思い浮かべられるのはおじさんしかいないからしょうがない。すぐそばには僕がいる。まだ小さいけどしっかり者でリーダーを補佐している。想像の中でもう少し大きくなっている時は筋肉が盛り上がった凛々しい姿（かなりの男前）でリーダーと共に戦う。</p>
<p>小学生の間はそんな想像（妄想？）が繰り返し湧き出て、体が火照ってくるような興奮をよく覚えている。実際に熱をあげていたんじゃないだろうか。最初のころは本当にそのまま熱がでて寝込んだこともあった。ただ病気にかかっていただけなのかよくわからないが知恵熱という言葉を知った時あれはそうだったんだと納得したこともある。なにせ突然立ち上がって拳を突き上げたりして。敵と戦い切られながらも倒したつもりで実際に部屋で一人でのたうっていたり。買い物から帰ってきた母をびっくりさせて後々何度も蒸し返され笑い話にされた。</p>
<p>現実のぼくは体の小さな運動の苦手な子供だった。勉強だってあまりできない。要するにとりえのない子だ。家にいて本を読むのが好きだった。母が図書館でいつも借りてきてくれたので困ることはなかったがあるていど大きくなってくると自分で学校の図書室で借りてきた。バイキングだったり円卓の騎士だったりそれっぽい挿絵があるかないかが選ぶ基準だったけど。ローマ皇帝の本だったりして何か違うなとは思ったが中身はあまり関係なかった。読んでも理解できなかったし、そもそもほとんで読んでなかったような。僕の想像を刺激してくれる挿絵とかがあればそこから勝手に自分で話をこしらえてオッペンおじさんが出てき僕が出てきて大活躍する。</p>
<p>今思い出しても恥ずかしくなるぐらいの稚拙なお話（お話にもなっていない思いつきの場面の羅列がほとんどだけど）だが飽きもせず何時間でも空想の中にひたっていられた。今思えば僕の子供時代の幸せな時間だったのかもしれない。現実から軽々と飛翔して空想世界を跳ね回り壁を乗り越えていく。</p>
<p> </p>
<p>もう少し大きくなってくるとドイツという国がどのへんにあってどういう国かというのがなんとなくわかってくる。僕が最初に持ったイメージはソーセージとビールの国だった。たぶんテレビの番組でそんな特集をやっていたのだろう。とにかく男も女もソーセージを食べながらでかいジョッキでビールを飲んでいる。そういう国になんだと思っていた。今でもドイツと聞くと反射的にビールとソーセージのイメージが湧いてくる。出会いというのは恐ろしいもんだ。</p>
<p>テレビでドイツの話題が出ると食い入るように画面を見た。スポーツ（競技の種目とかは関係なく）でもドイツを応援して勝つと心の底から嬉しかっし負けると涙目になってなにもやる気がしなくなる。学校で地理とか歴史とか勉強しだすとドイツの場所を何度も確認して、年表でドイツのとこだけ繰り返し見てほとんど暗記していた。戦争で勝ったと書いてあれば喜び、負けたと書いてあれば悔しがった。年とともにその熱は薄れたいったが。でも今思い出しても熱い気持ちを覚えている。他の子は好きな野球やサッカーのチームの勝ち負けに一喜一憂していたところをドイツという（僕の中だけの幻想のドイツだが）存在に一喜一憂していたわけだ。</p>
<p>でもおじさんの話は母とはしなかった。小学校も高学年になって物心がついてきて僕がおじさんのことをあれこれ聞くと必ず何か他のことを話し出す。そのうちに聞いちゃいけないんだと子供心に思って二人の間で話題になることはなくなっていた。でもたまに（家に来るのは一年に一回ぐらいだったろうか）オッペンおじさんが姿を現すと母の機嫌は良かった。子供の僕が見ても分かるくらいに。その意味は分からなかったが。いや深いところでは本当は理解していたのかもしれない。</p>
<p>父の顔は覚えていない。オレが生まれてすぐ病気で死んだらしい。写真が一枚残っている。小さな写真で寝室の和たんすの一番上のガラスの引き戸がついたところに入れてある。母が椅子に座ってその横に父さんが立って二人とも生真面目な表情でカメラを見つめている。その写真は高い位置にあるのでふだんは見えない。子供のころ時々布団を踏み台にしてその写真を取り出して眺めていた。その写真を見る時はじっと父の目を凝視する。なに色だろうと。でも小さい写真だからいくら見ても瞳の色はわからない。一度その写真とにらめっこしているみたいに見続けていたら母が何してるの、と声をかけてきた。振り返ってただ見ていただけ、と言おうとしたら母の表情にびっくりして黙ってしまった。なにかに怯えているような不安げな顔。あまり見たことのない表情だったのでこっちも驚いて悪いことをしたみたいな気になってすぐ元に戻して外に遊びに出ていった。</p>
<p>高校生のころにはオッペンおじさんとドイツに対する僕の勝手な妄想は空気の抜けた風船みたいにどこかに飛んで行って見えなくなった。ほかにやるべきこと、友達との遊び、異性への興味、なんやかんやで時が過ぎていった。たまにおじさんのことを思い出すことはあっても母の知り合いの一人で遠い親戚とはいってもほかにドイツ人との付き合いがあるわけじゃないしただの遠いつながりのある人という感じだった。でも血のつながりがあるというのはいつも頭の中にあったと思う。それも高校３年の時何かの話の流れでずっと思っていた疑問を母に聞くまでだった。</p>
<p>ーオッペンおじさんて確か母さんのお兄さんの奥さんの弟なんでしょ。</p>
<p>ーそうよ。</p>
<p>しばしの沈黙のあとじゃあ、オレと血のつながりはないじゃん。そうね。さも当たり前のように軽く言う。僕が呆然としているのを不思議そうな目で見ながら、でも親戚でしょ。</p>
<p>なにかが崩れ落ちる音がオレの中からした。</p>
<p> </p>
<p>大学生のころは一人暮らしを始めてほとんどオッペンおじさんと会うことはなくなっていた。幼い幻想は徐々に背景に吸い込まれ意識することはなくなっていた。でも背景の陰に隠れていてもなくなっていないのは確かだと思う。小さい頃の思い出がなくならないように。僕の目が茶色いのはおじさんの遺伝と言った母さんの言葉が僕の聞き違いなのか、母さんのただの軽口だったのか（よく冗談を言う人ではあった）今となっては分からないが子供時代の大事な一部というのは間違いないと思う。クラスの中でも目立たないグループのその中で目立たない立ち位置だった僕の自尊心をくすぐって多少でも自分に自信を持たせてくれたところはある。人とは違う。なにせ遠い外国の血が入っているんだから。子供時代の卑屈になりがちなとりえのない僕の一条の光だったんじゃないだろうか。とくに大きく道を踏み外さず大人になれたのはオッペンおじさんのというか、母さんのあの一言がけっこう影響しているじゃないかと思っている。</p>
<p> </p>
<p>いつ子供時代が終わったのかよくわからないが、大学に入り就職して社会人になりさすがに妄想につき動かされることはなくなったが、子供時代から残されたのは人の瞳をのぞき込む癖だった。この癖は治らなった。子供のころから無意識にしていたみたいだけど中学や高校生ぐらいになると相手からとやかく言われて（お前って目をのぞき込んでくるよな、とか　何見てんのよ、気持ち悪いとか）自分の癖なんだと知った。よくないと分かっていても気がつくと相手の瞳をのぞき込んでいる。ただその癖のお陰で結婚ができた。妻とは会社で出会った。職場結婚だ。会社の倉庫の片隅でたまたま二人きりになった時にいつもの癖でつい瞳をのぞき込む。だいたいは戸惑った顔をして顔を背けられて、ぼくが謝ることになるんだけど、その時妻（になる女性）は見つめ返してきた。一瞬だったが瞳を見つめ合った。その時の感覚。なにかが混じりあうような流れ込むような大げさにいえば何かを分かりあったような奇妙な瞬間。その女性の漆黒の瞳が僕の脳裏に焼き付けられた。なにか確かなもの、この人とつながっているという感覚。ただそれもただの錯覚だったのはその後の人生ではっきりしたわけだけど。でもその第一印象が忘れられず付き合いを申し込むことになり一年後には結婚していた。</p>
<p>子供ができた時 産院で始めて対面して抱き上げた時もまず目をのぞき込む。できたての新鮮で何の混じりけもない瞳。吸い込まれるようなその瞳は黒だった。漆黒の瞳。妻と同じ漆黒の瞳。どれだけ見ていても飽きることはなかった。でも本当に何かが吸い込まれるのかもしれないなと思った。僕の中から娘に。娘の中から僕に。瞳には何か特殊な力がある。僕の実感だ。</p>
<p>娘の1歳の誕生日におばさん、叔父さんや親しい人たちと食事会をしたときにオッペンおじさんが現れてた時はビックリした。妻もびっくりしてあれ誰と聞いてきたけど、昔からの母さんの知り合いなんだぐらいにしか話せなかった。実際のところ僕もどういう人なのか知らないわけだから。改めて何も知らないことに気がつく。そして知ろうとしなかったことに。</p>
<p>オッペンおじさんは相変わらずの満面の笑みを浮かべ右手を差し出し力強く握手する。僕が大きくなってからの癖だ。握って大げさに上下に振る。でも何年振りだったろう。時の流れを感じた。少し背が前かがみになりしわも増え全体に縮んだ印象を与える。</p>
<p>ーおめでとう。女の子なんだね。</p>
<p>娘を抱き上げ顔をのぞき込みにっこり笑う。その様子に既視感を覚えた。強烈な既視感。体が、というより僕の中の細胞（変な言い方だけど）が震えていた。おじさんをじっと見る。子供の時からのおじさんとの思い出がよみがえる。思い出と言ってもそんなにあるわけじゃない。二人でどこかに出かけたとか遊びにいったりしたことはなかった。いつも母と一緒で3人かもっと多い集まりの中にいたりする。娘が泣き出した。おじさんはなんとかあやそうとしている。僕の中で時間が溶け出し娘と僕が入れ替わり、僕がおじさんになり、かつてあった思いや感情があふれ出し奇妙に重なり合う。見たことのない景色が見え経験したこともない思い出がよみがえる。気がつくと娘はきゃっきゃっとかわいい笑い声をあげていた。</p>
<p> </p>
<p>結婚して少ししてから会社を辞めてフリーランスとして働いている。それなりの大学を出てそれなりの会社に就職した。小さな広告代理店だがコンピューター関係もできたので重宝されデジタルの広告制作を任されるようになりいろんな人たちとのつながりもでき面白く仕事をしていた。最初は自分で制作にも携わっていたが調整役が自分にあっているのに気がついた。もともと控えめな性格だから前にでるのでなく裏方で黙々とやるのがあっていたようだ。まわりからも重宝され（僕から見ればみんな我が強い）自分の仕事での立ち位置を作っていた。</p>
<p>結婚を機に思い切ってフリーランスになったわけだが僕としてはかなり思い切った決断だった。どこかで自分を変えなくちゃという思いがずっとあっていろんなタイミング重なり合ってできたことだった。妻の後押しも大きかった。僕の見栄ももちろんあるが若い二人が単純にもっといい暮らしをしたいと思うのも自然なことだろう。最初のうちは良かった。会社にいた時の2倍ぐらい稼げて妻と余裕の暮らしを送れた。ただ朝も晩も関係なく仕事をこなしていたが。若いから体もついてきて公私ともに歯車がかみ合った順調な時期だった。妻も僕のサポートを理由に会社を辞めそして娘が生まれた。娘は僕なりに溺愛したつもりだ。経済的にも余裕がある時期でよくいろんなところに連れて行った。でも何かいつも違和感があった。ほんの少しの違和感。きれいに整頓された本棚を眺めていると一つだけ少しはみ出しているような。よく見ないと気がつかないが何か落ち着かない気持ちにさせるズレ。自分の本当の気持ちに向き合っていないんじゃないかという不安。</p>
<p>仕事が順調だったのも最初の2，3年で、時代の流れに乗っていただけで自分の強い意思で切り開いたわけじゃない。そんなやつのやることだからだんだん収入が不安定になり落ち込むときは限りなく落ち込んだ。フリーだから無理してでも仕事をとらなきゃいけない時があるが、相手に強く出られるとどうしても引いてしまう。競争心が持たなくちゃいけない時に持てない自分にあきれて（妻もあきれて）だんだん酒量が増えた。そんなこんなで別居が始まり４０で正式に離婚することになる。簡単に言えばそういうことだ。</p>
<p>４０の時（ちょうど４０歳、僕の誕生日に離婚届を出した。たまたまだけど）妻と別れ、娘とも疎遠になった。それ以前から一緒に暮らしていなかったし生活が変わるわけじゃなかったが大きな節目ではあった。収まるところに収まったというか。正式に離婚した後に妻（元だけど）と娘と高級レストランで食事をした。けじめとして最後に三人で会おうと僕から提案して元妻もそうね、最後にね、と気乗りはしないようだったが応じてくれた。でも食事が始まってすぐやめておけばよかったと思い知らされた。テーブルの上に冷たい冷気の固まりが頑として居座って目の前の元妻と娘の距離を縮めることを拒んでいる。その冷気を感じれるぐらいはっきりと。</p>
<p>一度壊れたものをもとに戻すのは簡単じゃない。僕としては娘とのつながりを失いたくないというただそれだけだったのだが子供みたいに無いものねだりをしているだけだったようだ。椅子の上で落ち着かず足を組み替えまわりを見て何とか話題を探そうとして何も見つからずついグラスに手が伸び杯数を重ねる。元妻があまり見たことのない表情を浮かべていた。懐かしい故郷の景色を遠くから眺めてるような慈しみと反感がないまぜになった陰りのあるような晴れ晴れとしたような不思議な表情。帰ったあとにあれは別れて正解だったという安堵の顔だったのかもしれないと思いいたった。</p>
<p>元妻はそれでも気を使って会話らしきものをしてくれたが、もう高校生の娘は視線をあげずずっと黙っていた。話しかけても目を上げようともしない。その様子を見ているとオッペンおじさんが思い出された。突然ここに現れないかな、そうすればまたうまく元に戻れるかもしれない。そんな気がしたのだ。もちろんオレの勝手な妄想だ。子供のころの二人で荒れる大海原を乗り越え、深い森を獣たちを退治しながら駆け抜けた妄想が蘇ったのだろう。あの時は自由で力強くまわりも自分も光り輝いていたのに。でも実際にそんな体験なんてしたことがないわけだ。当たり前だ。ただの妄想。今目の前にあるのが現実。</p>
<p>夜に暗くひっそりとした部屋でひとりでウイスキーをストレートで飲んでいる時に何かが崩れる音がした。思わず辺りを見たがなにも変わりはない。オレの中から音がしたんだとしばらくして気がついた。</p>
<p> </p>
<p>単調な生活で経済的にも楽ではないがそれなりに満足はしている。つまらない会議はないし嫌味を言ってくる上司もいない。気楽と言えば気楽だ。ある程度の仕事のネットワークを作っているしこれからもなんとか一人で食べていくぐらいはやっていけるだろう。でも先のことを考えると思わず酒に手が出る。若い頃はビールだったが今はウイスキーだ。</p>
<p>そんな鬱々というか淡々というかのっぺりとした日々を送り５０になった。５０になったからと言って特別な感慨はないが散歩に行くとついてくる野良猫みたいにもう５０という思いがどこか頭の中にあってなにをしていてもふと浮かんでくる。</p>
<p> </p>
<p>このあいだ母が突然電話してきた。珍しいことでなんだろうと思ったが取り立てて用事があるわけでなくお互いの近況報告みたいな話になった。</p>
<p>―いや、どうしてるかと思ってね。この前お正月に会ってから連絡ないし。</p>
<p>母が珍しく饒舌に話して奇妙な感じがしたが最近はあまり外ににも出ないようで退屈しているんだろうと半分話をききながしていた。外交的な性格でいつも人と一緒だった母だががさすがに歳と共に億劫になったようで一人でいることが多くなっていた。今年の二人だけの正月を思い出していたら母の瞳が浮かんできた。母の瞳は黒というより褐色に近い。お正月に二人でいるときに年とともに薄くなっている感じがしたので見つめていたら、なに見てんの、とがめられたことがあった。その時も瞳の色が歳とともに変わったりするんだろうか、とぼんやり考えていた。</p>
<p>気のない相づちをうちながら今度の連休にでも訪ねておこうかなと考えていたが、いつもは電話だとぶっきらぼうで用件を言えばすぐ切るタイプなのにその日はだらだらとしゃべり続ける。小一時間も話し続けてさすがにもういいかと母の言葉が途切れたときに、仕事があるから、じゃあ、切るね、と言ったところで、オッペンおじさんが死んだの、と一言いって沈黙が流れた。聞きたいこと、言わなければいけいこと、頭の中で一瞬に言葉が沸点を越えた水から蒸気がほとばしるように湧き出てきたが形にはならず口から漏れることはなかった。沈黙が返事のように電話が切れプツンという音の後にさっきの言葉が目の前に差し出される。オッペンおじさんが死んだ。最初に浮かんだのはあの茶色い瞳だった。少し黄色みがかった透明感のある茶色い瞳。しばらく受話器を握っていたが洗面所にいき鏡をのぞき込む。よどんだ茶色い瞳があった。</p>
<p>それからしばらく仕事もあまり手につかづ気がつくとぼんやりしている。なにを考えているわけでもない。ただぼんやり。</p>
<p>そういう時になぜか人生最初の記憶がよみがえる。何十年も前の記憶。波打つ金髪に茶色い瞳。そして満面の笑み。</p>
<p> </p>
<p> </p>
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   <category>日記</category>
   <dc:date>2024-12-31T09:50:13+09:00</dc:date>
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   <title>新しい挑戦　その１</title>
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   <description>
<![CDATA[
<p>サイのツノは１１月２８日から新しいサービスを始めます。</p>
<p>フードデリバリーサービスのＷＯＬＴです。</p>
<p>皆さん、ご存じでしたか？私は知りませんでした。ＷＯＬＴさん、すみません。</p>
<p>フィンランド発のフードデリバリーサービスですでに広島や北海道、東北では実績があり東京でも</p>
<p>展開を始めたところのようです。１１月末から小金井がある地区のサービスが開始される機会に登録店参加の</p>
<p>声をかけて頂き、デリバリーサービスは初めてですが参加することにしてみました。</p>
<p>昨今の経営状況の厳しさはサイのツノにも当然のごとく降りかかり、先行き不透明さが日々、夏の積乱雲のように</p>
<p>もくもくとのしかかってきているのですが、などとのんきな言い方をしている場合ではない気もしますが、深刻に</p>
<p>なっても良い事はないし、とにかくなにか新しい動きが必要だと思っていたところに話が舞い込み最初の特典みたいな</p>
<p>ものもあるしまずはやってみようと決めた次第です。</p>
<p>じっさいどれくらいの需要があるのか皆目見当もつきませんが、あれこれ考えても前には進めないので、あたって砕けろ</p>
<p>のサイのツノスピリット（？）で一歩を踏み出します。</p>
<p>サービス開始は１１月２８日からです。デリバリーしたいな、という時は、サイのツノでいいんじゃない！</p>
<p>ということでよろしくお願いいたします。</p>
<p> </p>
<p>ちなみにタイトルに「新しい挑戦　その１」とありますが、その２の予定があるわけではありません。</p>
<p>どうでもいい話でした。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
]]></description>
   <category>日記</category>
   <dc:date>2024-11-26T23:44:01+09:00</dc:date>
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   <title>十三夜って</title>
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<![CDATA[
<p> </p>
<p>今日10月15日は１３夜だそうです。スタッフとは話している時に話題に出て、１３夜って何？という</p>
<p>ことになったんですが誰も知りませんでした。１５夜の満月を愛でるというのはわかりやすいですが</p>
<p>まん丸になる前の中途半端な形の月を愛でるというのはなんかおかしくない、と思いませんか？</p>
<p>自分はおかしいと思います。遠い昔からの風習なんでしょうが、あと二日待てば満月なんだから</p>
<p>もうちょっと待とうよ、ということにならなかったのか。月見自体は中国からの伝来だからそもそもの</p>
<p>起源があるのか、いやいや月見という風習は世界各地にあるわけでもっとさかのぼって人類に共通する</p>
<p>古の習わしなのか（石器時代とか）、それとも別の納得の合理的な理由があるのか、でも、もしかしたら</p>
<p>なにか忌まわしい事実が隠されていたりしてと今日一日気になって仕事も手につかない精神状態になって</p>
<p>しまったので夜になって調べてみました。</p>
<p>結論から言えば日本独自の風習で平安時代のころからできたようです（諸説あり）。だいたいの事情は</p>
<p>分かりましたが今一つすっきりしないものが残ります。</p>
<p>そもそも１３夜という言葉は聞いたことはあるとは思いますが中秋の名月の次の月を愛でる習慣があると</p>
<p>いうのは（テレビとかで情報としては聞いたことはあったかもしれませんが）今日改めて知りました。</p>
<p>子供時代を含めて１３夜を祝った思い出はないし、身近で話題になった記憶もありません。廃れた季節行事</p>
<p>ということになるんでしょうか。昔（明治とか江戸時代）は一般の人達は当然のように愛でていたんでしょうか。</p>
<p>満月でもなく半月でもない１３夜の月を。</p>
<p>いくつになっても知らないことはたくさんあります。でもお陰で今夜の月が趣深い気がしてちょっと得した気分では</p>
<p>あります。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
]]></description>
   <category>日記</category>
   <dc:date>2024-10-15T23:49:57+09:00</dc:date>
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   <title>番外編　オッペン・ロウシ氏作品集より　「ひらひらと舞い落ち緩やかに流れる」　３</title>
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   <description>
<![CDATA[
<p>久しぶりの続きです。まだまだ続くようです。  </p>
<p> </p>
<p>その３</p>
<p> </p>
<p>―もう帰らないと。明日、またここに来ます。そう、と相づちをうつようにつぶやいたが、それってどういう意味と考えていたら少年は立ち上がってぺこりと頭を下げ小走りで去っていった。不思議な心持だった。いったいどこの誰なんだ。少年が去ると少年との会話を最初から思い出そうとしたがお互い断片的だったせいかうまく思い出せない。本当にオレは少年と一緒にいて話をしたんだよな、と自分に確かめていた。少年の座っていたところをみて去っていった方をみる。ついさっきのことだ。でもなんだか本当に起きたことの気がしない。</p>
<p>少女の映像が閃いた。青い空に溶け込むように遠くで小さくゆっくりと舞い落ちている。</p>
<p>映像が薄れてオレはベンチにもたれ現実の空を眺めている。なんにしても少年の記憶はある。</p>
<p>うまく話せなかったけどあの少女の映像に悩まされているのは確かなようだ。いったいどういうことなんだろう。　</p>
<p>そういえば見て分かったって言ってたけどなんでオレに少女の映像が現れるって分かったんだろう。少年はいつから見えるようになったんだろう。他にもいるって言ってたけどどうしてそれが分かるのか。一人になるといろんな疑問が出てきてなんで聞かなかったんだろうと思うが、オレにはいつもあることだ。なにかが終わってからああすればよかった、こうすればよかったと気がつく。遅いんだよな、いつも。</p>
<p>次の日目が覚めた時から落ち着かなく（このところいつものことだがさらに落ち着かなかった）とにかく外に出てぶらぶらしていたが自然と足が昨日の公園に向いた。まだ午前中で薄曇りの少し肌寒い天気だった。</p>
<p>公園を道からのぞくと誰もいない。犬を連れた老人が通り抜けて向こう側に出るところだった。がっかりしている自分に少し驚いた。別にいつ会うと約束したわけじゃないし昨日はもっと遅い時間だったからこんなに早くからいるわけはないと思っていた。いなくて当たり前だろうがついきてしまっていないと分かってがっかりしている。オレはなにをやっているんだろう。あの日以前とそれからでなにかが変わった。なにが変わったんだろう。あの映像が出てこなくても何かを感じている。口の中にいれてかんで飲み込もうとするけど飲み込めず出すこともできずいつまでも口の中に残り続ける咀嚼物のように。</p>
<p>風に吹かれて両手をズボンのポケットに入れ空を見上げていた。まわりを木やビルに囲まれ見上げた上の部分だけ見える空。いつもの空と変わらない、はずだ。でも、なんだか雲のせいでなく薄ぼんやりしているように見える。そういえばこの大都会に出てきた最初のころ電車から見る空が故郷の空と微妙に違うようにみえたのを思い出した。高層の建物に邪魔されてなんだかなんか申しわけなさそうに広がっている。故郷のはいつもでんと構えている感じだ。つながっているんだから空に違いはないんだろうけど。気持ちの問題か。空を見上げたままゆっくりとした雲の動きを眺めていた。</p>
<p>実家の親はどうしているんだろう。夏休みも帰省はしなかった。一浪してやっと大学に入って都会に出てきて自分なりの生活ペースができてきてバイトも始めたところでペースをかえたくないからと親には伝えたが帰省したいという気持ちがおきなかった。列車で半日かけて帰るのが億劫だった。ホームシックというのになるのかなと来た当時は思っていたが自分でも不思議なほどまったくなかった。母親は列車代ぐらい出してあげるからと言っていたが帰る気にはならず暑い夏をだらだら過ごして気がつけば夏休みも終わりになっていた。母親の作る料理は食べたかったけど。父親とは話すこともないし、5歳上の兄貴は父親の小さな水道関係の工務店を手伝っているはずで兄貴とはいろいろ話したい気もしたが会ってもお互いうまく話せないのは分かっている。兄弟なんてそんなもんなんだろうと思っていた。結局なにもなく夏が終わった。なにを期待していたわけでなくなにをしようとしたわけでもないからしょうがないけど。そんなことをぼんやり考えながら見るともなく空を見る。</p>
<p>こんにちは、と後ろから声をかけられ振り向くと昨日の少年がいた。</p>
<p>ー早かったですね。オレが上を見上げいていたので何かあるのかないうふうに上を見上げている。不意を突かれて、いや、別に、とか口の中でもごもご言って少年を見る。昨日と同じような服装で明るい色の長袖シャツにクリーム色のズボン。洗い立てみたいな清潔感がある。オレの格好とはだいぶ違う。どんな家に住んでいるんだろう。もちろん家族と一緒なんだろうけど平日の昼間から学校にも行かずこんなところで過ごしていて怒られないんだろうか。</p>
<p>とりあえず座ろうか、と昨日と同じベンチに二人で腰を掛けた。少年はリラックスしている感じで浅く腰掛けゆったりしている。横目で見ながら疑問が次々湧いてくる。</p>
<p>ーあのさ、と声をかけたがなんだか眠いのか反応が鈍くこっちをふりむかず足元を見ている。オレも目をやるがなにも珍しいものがあるわけじゃない。</p>
<p>ー昨日言ってた他にもいるっていうのはどういうこと？なんで分かるの。っていうかそもそもどうしてオレに声をかけたの？なにか、なんだろう、印みたいなもんでもあるの？</p>
<p>ひとつ聞き出すとつぎつぎ口をついてでた。ちょっと驚いた顔をしてオレを見るとしばらくそのまま見つめ合う。なんかペースが狂う。</p>
<p>ーごめんごめん、なんか聞き過ぎたね。そうだな、えーと、まずは昨日オレに声をかけたのはどうしてなの？</p>
<p>こっちを見て深呼吸するみたいに息を吸って吐いてから</p>
<p>ーお姉さんがが目の前に出てきてお兄さんの中に吸い込まれていくんです。</p>
<p>言ってることがよく分からない。お互いにしばし黙っている。</p>
<p>―お姉さんって。</p>
<p>―あの日から僕の頭の中に出てくる人。最初の時僕が落ちてたんです。夢じゃないんです。ほんの一瞬だったけどあのデパートの屋上から。たぶん飛び降り自殺した女性と同じことをしたんだと思う,ていうか同じ体験、じゃなくて、同じ光景が見えたっていうか。</p>
<p>まったく意味が分からずオレもどう反応していいのかわからずまたしばらく沈黙があった後とぎれとぎれに説明してくれた。なにが起きてるか本人もよくわからないのだからうまく説明できるはずもない。それはなんとなくわかる。あの日少年がいたのはオレとは反対側、デパートの正面入り口のほうだった。何かを目撃したわけではなく騒ぎを少し離れてみていただけらしい。飛び降り自殺らしいというのは野次馬の会話で知ったようだ。オレのあの時の体験を話すと僕はそんなのはなかったですとすまなさそうに言う。家に帰ってひとりでご飯を食べようとした時に突然少女の映像が目の前に現れ続いて飛び降りている瞬間の風景を体験したらしい。お姉さんの中から外を見るっていうか視線が同じになるっていうか、とまた黙りがちになる。なんとなく伝わるがオレにはなかった体験でそれはそれでかなり強烈そうだ。飛び降りている途中を体験する？</p>
<p>そして昨日は少女の映像がオレと重なり吸い込まれるように消えほのかな輝きをはっしていたらしい。ほのかな輝き？</p>
<p>そういうことが前の日にもあったそうだ。少女の映像が人混みの中に現れる。オレの経験とはだいぶ違う。前を歩いていた女性の後ろにすっと現れた少女が吸い込まれるように消え、その女性がほのかに輝きを放っているのをびっくりしてとにかくその人の後をつけたらしい。他の人とは違って見えるから見失うこともない。でも駅に入っていったのでそれ以上つけていくのをあきらめた。</p>
<p>ーなんだかここら辺にいると気配があってときどき人のあいだに漂ってたりするんです。</p>
<p>―お姉さんが？</p>
<p>ーいえ、お姉さんは一瞬だけふっと浮かび上がるように見えて、歩く、っていうか流れるような、とオレの顔をみてそのあとを続け欲しそうだがオレにはどんな感じなのかうまく想像することもできない。</p>
<p>ーすぐいなくなるんです。なんか細かい粒になってばらばらにになるような、もともと、うーん、と言葉に詰まる。－すぐ近くなのに遠くの景色を見てるみたい、というと、うんうん、と嬉しそうにうなづく。</p>
<p>ーそのあと薄ぼんやりした気配が残るっていう感じかな。</p>
<p>―薄ぼんやりした気配？何だろう、よく言われるような死んだ人の霊みたいな。</p>
<p>ーいや、そんなのとは違います。ごく普通の、、、靄っていうか、霧？手で触れるような気配っていうか。霧を見ても怖いとは思いませんよね。</p>
<p>ーそりゃね、霧とか自然現象を怖いとは思わないよね。でもお姉さんはどう見えるの？顔がはっきり見えるわけじゃないの？</p>
<p>それはと言って両手を顔の前にあげて何かするのかと思ったらすぐすとんと力が抜けたように下ろした。</p>
<p>―はっきり見えるといのは違います。なんていえばいいのか、ぽっとうかんでくるんです。顔も見えます。後ろ姿だったり横を通り過ぎたりするけど毎回同じ人なのは間違いないと思います。お兄さんの時は前から見えたから顔も見えました。くっきりじゃないからどんな顔かうまく言えないけど、表情までは見ないぐらいうっすらなんです。お兄さんはそういうのはないんですか？その、あれ以来。</p>
<p>ーオレにはそういうのはないな。逆さまに落ちていく映像がくっきり目の前に出てくるけどこの、と言ってまわりを眺め、ーこの現実の世界っていうのか、人混みの中に気配っていうのは感じないな。それで少女が消えていってその人がほのかに輝くってどんな感じなの？</p>
<p>ーうまくいえないけど、お兄さんはぽっと明かりがつくみたいな感じでした。なんか変な言い方なのはわかるんですけど、それ以外どういえばいいのか。なんか変だなと思って目を閉じたりこすったりして見直してもとにかく違ってるんです。蜃気楼っていうんでしたっけ、もわもわっとその人のまわりがぼやけるってときもあるし。でもだいたいすぐ消えるんです。でもお兄さんははっきりしていたからなんだか思わず声をかけたんです。なにかわかるかなと思って。</p>
<p>―今のオレは？</p>
<p>ーふつうに見えます。</p>
<p>ーオレみたいな人が何人もいるんだ？</p>
<p>ー薄ぼんやりっていうのが誰かと重ならないのがほとんどなんです。はっきりしてたのはお兄さんで3人目かな。</p>
<p>ー３人。多いのか少ないのかなんとも考えようがない。ーそれであの日って言っていいのか、あれからこのへんをずっとうろうろしているわけ？</p>
<p>ーうろうろといっても夕方には帰らないといけないから半日ってとこですけど、とにかくお姉さんが目の前に出てくるからなんかじっとしてられなくてとりあえずこの場所に来れば何かわかるかなと思って。わかるっていうか、なんだろう、ぼくがどうかしてるのか、なんなのか。</p>
<p>呆然とした表情で口をつぐむ。</p>
<p>ーうん、わかる、とオレが相づちをうつと目を輝かせてオレの方に身を乗り出してくる。分かりますか、そうですか、と無防備に向けてくる笑顔に幼さがあらわれる。</p>
<p>ーそもそもなんであの日あそこにいたの、平日の昼間に。学校には行ってないって言ってたけどどういうこと？</p>
<p>オレの顔をなんだか疑わしそうな表情でみて口をすぼませている。話したくないということなんだろう。</p>
<p>ーいや、まあ、いいんだけど、と話をかえようとしたら</p>
<p>ーとくに行くとこもないからいろんなところをぶらぶらしていたんです。たまたまあの日あそこにいただけで。と微妙に違う答えをしてきた。</p>
<p> </p>
<p>ーそれで、どう、どうっていうかその時どんな感じがするの？感じっていうか、どう思う、うーん、どうなんだろう。</p>
<p>最後は独り言になっていた。少年もそうですね、どうかな、どうなんだろう、よくわかんないですね、と二人でしゃべっていても会話にはならない。でも通じ合っているという安心感がある。こうして隣に座って少女について話せている。他の誰とも話せないことを。話しても通じないことを。</p>
<p>見ず知らずの中二の男子とほかに話すこともなく言葉は途切れがちになりなんとなくお互い自分の中に閉じこもっていく。まだまだ話すべきことがある気がするしもう何もない気もする。深い霧の中道に迷った二人がたまたま体をぶつけあってお互いがいることを確認はしたものの道に迷っている状況に進展はない。</p>
<p>ーほかにもオレ達みたいな人がいるっていうけど同じような目にあってるかは分かんないよね。そもそも飛び降り自殺した少女とオレに現れる少女と君に見える女性とどういう関係があるのか、なにもないのか。</p>
<p>ーそれはそうですけど。なんにも関係がないっていうほうが変っていうか、無理があるっていうか。</p>
<p>そう言われると反論できない。確かにそうかも。でも、と理性というのか常識というのかが頭をもたげて疑問を差し出してくる。それを無視するのも難しい。ここ数日オレの中で繰り返す堂々巡りというやつだ。</p>
<p>ーなんだか同じことが起きてるような気がしますけど。</p>
<p>ー同じこと？でもさ。といって後が続かなかった。ーいるなら会って話したいけどね、と力のない言葉が力なくでてくる。</p>
<p>ーきっといますよ。弾むように言ってオレの顔をじっと見る。</p>
<p> </p>
<p>二人でデパートの前の交差点の一角に陣取って行き来する人の流れを見つめる。平日なのにとにかく大勢が行き来する。絶えることがない。なんでこんなに人が多いんだろう。みんな何をやっているんだろう。ここに来る前にコンビニにいっておにぎりを買って公園で食べ腹を満たしておいた。少年のとにかくこのままだとなにも分からないままだし、何かしないと、という意見に説得された。確かに何かしないでいつまでもこんな状況が続いたらたまらない。ただ問題はなにをすればいいのかさっぱり分からないことだ。</p>
<p>少年は悪いことをして立たされているみたいにまっすぐ背筋を伸ばしている。オレは自動販売機の横面に背をもたせ掛けて少年と人の流れを交互に見る。　</p>
<p>学校も終わる時間でますます人が増えてくる時間になっていた。そろそろ終わりにするか、いつまでもここでじっとしているわけにもいかない。そう思って声をかけようとした時、あ、あの人と右腕をまっすぐのばし指さした。</p>
<p>人混みを指さされても誰をさしているかなんてわからない。誰、どこ？ほら、あの女性、髪の長い、今、道路を渡った、</p>
<p>髪の長い道路を渡った女性は大勢いた。少なくともオレにはそう見える。少年が足早に先を行く。オレも人にぶつからないよう追いかける。信号が赤に変わりかけているのを強引に渡ってほとんど走るように進んでいく。小柄なせいかうまく人の間をすり抜けていくので少年を見失いそうだ。少年が一人の女性の真横にいってちらっと見てから後ろに下がって同じ歩調でついていってオレを振り返る。うなづいて少し小走りでその女性の前にでてさりげなく様子をうかがう。</p>
<p>高校生ぐらいの女子だ。少年を振り返り目を合わせる。少年がオレに目で促す。いやいや、促されても。どうしろっていうの。しばらくつかづ離れづの距離で歩いていたがその女子がビルの一階に入っている大型の書店に入っていった。オレたちは書店の前で立ち止まる。</p>
<p>ー話しかけてくださいよ。</p>
<p>ー無理だよ。そんなの。いきなりなんて言えばいいの。</p>
<p>ー少女の映像が出てきませんかって聞けばいいんじゃないですか。</p>
<p>ーいきなりかよ。突然そんなこと言えないだろ。頭のおかしな人だと思われるよ。変質者だと思われて騒がれたらどうするんだよ。</p>
<p>ー走って逃げる。</p>
<p>お互い顔を見合わせオレは首をふり少年はため息をつく。</p>
<p>どうするんですか、どうしよう、ここにいても、中に入っても、と二人であれこれ言っているうちに少女が出てきて駅の方へ歩き出した。少年がオレの肘をつついて、あ、ほら、行っちゃうと促すがオレとしても話はしてみたいがどう考えてもきっかけを作れない。無理、無理と顔をしかめていると少年がオレの肩越しに見やって驚いた表情をする。つられて後ろを向くとさっきの少女がこっちに向かって歩いてくる。書店になにか忘れものでもしたのか目をやらずうかがっているとオレたちの前に立ち止まった。少年と素早く目を交わしてお互いあらぬ方向に目を向けていると、なにか用があるんでしょ、とはっきりした口調で話しかけてくる。え、オレに話かけてるの、と顔を向けるとまっすぐ目をみつめてくる。どこかであった子だということにその時気がついた。</p>
<p>―用があるんじゃないの。</p>
<p>オレたちの顔を交互にみる。少年がうん、うんとうなづいている。オレもこう正面から話しかけらると腹が座るというか妙に落ち着ちけた。</p>
<p>ーうん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。とそこまで言って後が続かない。どう切り出せばいいのか。少年のほうを見るが完全にオレの役目だと思っているようで興味津々の感じ丸出しで女子を見ている。気楽な奴だ。どう話せばいいんだ。</p>
<p>―このあいだデパートから飛び降り自殺があったことで話があるんじゃない？</p>
<p>耳に届いて理解するまでほんの一瞬固まったが思わず二人で激しくうなづく。そんな様子を見て女子が笑った。自然な笑顔だ。つられてオレが笑い、続いて少年が笑う。何年かぶりで会う幼馴染のように不思議な和やかさがあってついさっきまでの緊張感は風に吹かれた落ち葉のようにどこかにいっていた。</p>
<p>細い目が印象的で正面から見た時は挑むような迫力を感じたが笑うと目じりが下がってがらっと雰囲気が変わる。背丈はオレより少し低いぐらい。オシャレじゃないな、もうちょっとファッションに気を使えばいいんじゃないかと自分の身なりは忘れて勝手なことを思った。ゆったりめの白っぽいジーンズに濃い青のパーカーをきてフードはかぶらず両手をパーカーのポケットにつっこんでいる。髪は短くうなじがみえている。</p>
<p>ここじゃ話もできないからとさっきの公園に三人で向かう。少女は人混みの中少し離れてつい来る。公園につくと小さい子を連れた母親が上り下りできる遊具で遊ばせていた。少年はベンチの端に座りオレが真ん中でどうぞと女子を隣に座らせる。オレが年上みたいだからなんとなくこの場を仕切らなきゃいけない雰囲気だ。でもどう話せばいいんだ。</p>
<p>―昨日の昼デパートの屋上にいたでしょ。そう言われてすれ違った子だと気がついた。―彼女が見えるんでしょ。</p>
<p>単刀直入にいってくれた。細い目をさらに細めてさすような真剣さでみつめてくる。</p>
<p>ーどうしてわかったの？</p>
<p>しばらく間があった後、ー昨日昼デパートでエレベーターに乗って屋上で降りて外を見た時彼女が立っていたの。本当にそう見えた。びっくりして足が止まって息も止まってた。でも次の瞬間には立っていたのはあなただった。</p>
<p>ーえっ。</p>
<p>ーとにかく確かめたくて屋上に出ていったの。彼女はどこにもいなくて目の前にいるのは若い男の人だっていうのを。一瞬彼女が見えたのはただの私の錯覚だって。</p>
<p>ーえっ。それしか言葉が出てこない。</p>
<p>ーその子も、といって少年に目をやる。ーそうなんでしょ。さっき私の横に来た時オーラがでてたからあれっと思ってたらあなたが出てきてついてくるからそうなんだと思って、話しかけてくるのを待ってたんだけど。</p>
<p>うっと言葉に詰まる。</p>
<p>ー彼女が出てくるんでしょ。その、目の前に。</p>
<p>ーつまり、君も、といってその先の言葉が消えていく。心臓が激しく動き出して鼓動が二人に聞こえるんじゃないかと変な心配をする。</p>
<p>ー私も見えるから。</p>
<p>ーでもどう、どんなふうに、その、見えるの？っていうか何が、女性が？</p>
<p>うまく言葉が出てこない。やっぱりそうなのか、というのとそんなことがあるのかという矛盾した感情が頭の中を渦巻いてなにも考えられなくなる。隣で少年がなぜか激しくうなづいている。しばらく女子はうつむいて黙っている。髪が頬にかかって表情はわからない。</p>
<p>ー飛び降りがあった日の夜に彼女の姿が、と言って言葉につまる。この子も混乱しているんだろう。そりゃそうだ。混乱しないわけがない。</p>
<p>ーわけがわかんないよね。思わずつぶやくと、ーそう、そうなの、とさっとこっちを向いてそのまま見つめ合う。</p>
<p>でもそれを合図にしたように少年と女子が同時にしゃべりだす。そこからオレも思わず言葉が口ををついて出て三人でいっきにしゃべりだした。とっかえつっかえ言葉がオレを真ん中にして行きかう。</p>
<p>三人でつたなく自分に降りかかっている状況を話すがますます混乱するばかり。あいまでそれぞれ自分の事も話す。女子はこの先の高校に通っていて通学でこの街を通るらしい。少年は僕は一つ隣の駅の名前を言って住まいがそこで中2ですと言った。オレは地方から出てきた大学１年生というと女子が意外な顔をしていた。</p>
<p>逆さまに少女が出てくるのはオレだけらしい。二人は遠くにたたずんでいるように見える映像がほとんどみたいだ。女子は顔がはっきり見えると言っている。じっと正面から見つめられるらしい。それも辛そうだ。言葉は発しないのと聞くとそれはないらしい。少年もしゃべりはしないという。出てくるタイミングも回数もまったくでたらめで予測がつかない。少年が今日はでてこない、とつぶやいてオレも今日は見てないのに気づく。彼女の写真を見たことを二人に話す。少年はまだ見たことがなく女子高生は知っていた。女子高生ははっきりと私の中に出てくる少女と同じ人だと言った。間違いないと。最初に見たのはあの日の夜だが三人とも微妙に時間は違う。ただ寝ている時に夢ででてくることがないというので三人が一致した。起きている時に見る夢。</p>
<p>夢かな。夢じゃないですよ。そう、夢じゃない。じゃあなんだろう、まぼろし、幻覚みたいな。</p>
<p>ひとしきり話した後放心したように沈黙が降りた。その沈黙には両手で捕まえていたばたばたする小鳥をやっと外に向かって放してやったような解放感と少しの寂しさがあった。</p>
<p>ーなんだか共通点があるような無いような。</p>
<p>ーでもこれって僕たちにどんな意味があるんでしょう？</p>
<p>―意味？</p>
<p>そんなの分かんないよとオレと女子は同時に首を振る。そんなの分かんない。その時オレの頭の中で何かの音がした。固いドアを拳で叩くような音。誰かが何かを知らせようとノックするような音が。でもすぐに二人との会話に戻ってただの気のせいだと思おうとした。目の前の現実、二人（ほとんど初対面なわけだけど）としゃべってちゃんとした現実とつながっているという実感がその時は必要だったんだろう。まだオレはそれに気づくことができなかった。</p>
<p> </p>
<p>ー僕、そろそろ帰らないと。</p>
<p>そう言われて日が傾いて夕暮れ時が近づいているのに気がついた。自転車を駅の反対側に止めているらしい。今日はこのへんで終わりにすることにしてまた明日三人で会おうと自然と約束していた。三人とも口にしなくても会わないといけないような気になっている。</p>
<p>少年が立ち上がると―なんだか二人雰囲気が似てるね。と女子が言ってーえっ、と二人で同時に驚く。</p>
<p>女子が笑っていると少年が昨日と同じようにぺこりと頭を下げ去っていく。オレと女子も立ち上がり駅の方に歩き出した。オレはこっちのほうだからと駅と逆方向に行こうとしたら、女子が立ち止まって後ろに見えるデパートを見上げ、なんでなの、とつぶやくように言う。大勢の人や車が行きかう中オレ達だけ違う空気を吸っているような気分だった。</p>
<p>なにか悪いことしたのかな、と街の喧騒の中言葉が聞こえた。彼女をみると下唇を軽くかんで足元を見ている。ふっとオレをみると（気のせいか目が潤んでいる）、明日ねとわずかにほほ笑みながら言ってくるりと背中を向け人混みの中に消えていった。　</p>
<p>一人になるとなんだか取り残されたような心もとなさに襲われた。見知らぬ人達がオレのまわりを次々と通り過ぎていく。ある人達は笑いあい、ある人は速足で、またある人はなにかぶつぶつとつぶやきながら。ついさっきのことを思い出すが現実感がない。見えないなはずのものが見える。いや見えるといえるのか、感じるだろうか。どっちにしてもそんなことが本当に起こるんだろうか。ただの錯覚じゃないのか。二人ともただしゃべっただけで本当のことを言っているのか確かめようもない。昨日少年と別れた時と同じような自分が少し地面から浮き上がっているような現実感のなさに取りつかれていた。ついさっきまで公園で三人で会って話していたのは本当のことだろうか。</p>
<p>まだバイトの時間には早かったが自然とバー「アール」に足が向いた。知っている人と会って言葉を交わしたいという欲求が足を自然と速足にする。今のオレに浮かぶのはマスターの顔だ。買い物とかあればオレが行ってくればマスターも助かるだろうしとさっきのみんなとの会話を思い出しながら狭い階段をあがり木製の重いドアを勢いよく開けた。</p>
<p>カウンターに男性が座っている。最初陰になっていてわからなかったが何度か見かけた人でお客さんとしてきていたこともあったし遅い時間にきて店を閉めた後マスターと一緒に帰ったりしていたこともあった人だ。少し白髪がはいったボリュームのある髪を後ろになでつけて、口と顎にグレーがかったひげをはやしている。年はマスターよりだいぶ上に見えるが精悍な感じの男性だ。オレには酒の話をよくして何かと教えてくれるので同業者でマスターの先輩かなとぐらいに思っていた。</p>
<p>ーマスターは買い物にいったよ。留守番を頼まれてね。</p>
<p>目じりにしわを寄せ笑顔を浮かべながら、まあ座りなよ、と隣の椅子をすすめてくれた。思いもしなかった展開で意表を突かれ言われるまま何も考えず足の長い椅子にカウンターに手をついてよじ登るかっこうで座る。まだこのカウンター用の高い椅子に座るのに慣れていなのがばれたみたいで顔が赤らむ。</p>
<p>だいぶ仕事も慣れたみたいだね。大学はどう、楽しんでる？と小声だけどよくとおる声で話かけてくる。</p>
<p>しばらく前にあったことを思い出していた。その日バイトにきて店内に入ると奥のテーブル席でマスターと男性がなにやら話し込んでいた。一瞬二人が驚いたようにこっちに顔をあげた。その時に二人が手を握り合っているように見えて、あれっと思い二度見したが目をやった時は離れていた。見間違いかなぐらいに思って忘れていたがなぜかあの時の二人の手が思い浮かんできた。</p>
<p>ーここでの仕事は楽しいです。</p>
<p>ーそう、最近はカウンターの中の立ち姿が様になってきたよね。</p>
<p>そうですか、とまた顔が赤らんだ。オレの出身地や大学のことを聞いてきてオレもあれこれ話した。お客さんとして顔は知っていてもほとんどしゃべったことのない年上の人と話すなんていつもだったら臆してほとんど言葉が出てこないのだが男性の聞き方がうまいのかなぜか言葉が出てくる。</p>
<p>ーなんだか、ちょっとがっかりしてる感じです。</p>
<p>ーがっかり？</p>
<p>ーもっとなにかあるんじゃないかと、漠然とですけど、なにを期待してたっていうわけでもないんですけど。地元にいてもやりたいことがあるわけじゃないし、こっちに出てきたらななにかあるかと思ってたんですけど。</p>
<p>―「なに」が多いね。</p>
<p>ーすいません。</p>
<p>楽しそうな顔でオレを見る。おもしろいことを言ってるんだろうかと不思議に思うが嫌な感じはしない。</p>
<p>ー昔から若者は迷い惑うもんさ。これからだから。</p>
<p>ーそうはいっても二十歳過ぎたし。大学生だし。</p>
<p>ー焦る気持ちはわかるけどね。気持ちばっかり先にいって手ごたえが無い感じだろ。でも大学といっても教室のなかで学べることなんてほとんどないからね。</p>
<p>―そういうもんですか。ここ数日ぜんぜん大学に行ってない後ろめたさを取り除いてくれる</p>
<p>ーそういうもんだよ。ここでのバイトなんていい経験だろ。目の前をいろんなことが通り過ぎていくだろうけど、よく見ておくことだね。じっと目を凝らして。</p>
<p>目を凝らすのか、と思っていた刹那少女の映像がほんの一瞬閃いた。ほんの一瞬だったけど時間がだいぶ過ぎたような奇妙な感覚にとらわれて気が動転してしまった。気づかれたかなと男性を見やるが置いてあったコップで何かを飲んでいる。</p>
<p>ー分からないんです。やりたいことが。そう口にしてその言葉がオレに舞い戻って口や鼻からオレの中に吸い込まれる。ーオレにはなにもないんです。</p>
<p>男性がオレの方をじっと見つめる。視線が揺るがないから入り口を見ているのかと思っていたらーこういう風景を想像してごらん。と話し始めた。</p>
<p>ー多くの人が歩いている。見渡す限り暗く広がる地面を大勢の人たちが歩いている。でも本当は足元にあるのは細い紐なんだ。</p>
<p>紐？何の話だろう。</p>
<p>ー固い地面だと思っていても本当にあるのは一本の紐だけ。両手を胸の前で広げて紐を引っ張るしぐさをする。</p>
<p>ーあまりにしっかりした感触だから紐の上を歩いていることをみんな忘れる。でも紐だからね、すごく危ういわけだ。踏み外せば落ちてしまう。暗くて深いところに。でもそれもゆっくりだから気がつかなかったりするんだ。自分が紐から落ちているのを。</p>
<p>暗くて深いところ？何の話なのか。聞こうとした時にマスターが仕入れてきたお酒などを入れた段ボールを両手に抱えて入ってきた。</p>
<p>ーお疲れさん。彼とおしゃべりしてたよ。男性が雰囲気を変えて明るい声でマスターに声をかけた。</p>
<p>マスターがオレと男性を見比べてちょっととまどったような顔をした。荷物をカウンターの中に置きながら－早かったね。と話しかける。</p>
<p>－すいません、なんか手伝うことがあればと思ってきちゃいました。</p>
<p>－いや、いいんだよ。買ってきた酒瓶や食材を出して整理しながら何げない調子で話す。ーじゃあ、これを奥の棚に収納しといてくれないかな。と缶詰や袋詰めの食材とかを目で示す。わかりましたと手伝いを始めた。男性は買ってきた酒瓶を手に取ってマスターに金額とかを聞いている。</p>
<p>しばらくして男性はカウンターの端でマスターと小声で少し話していたあと、じゃあ、僕はこれで、とオレの方に手を振って帰っていった。　</p>
<p>―なんだか変わった人ですね。なにをしてる人なんですか？</p>
<p>ー何をしてるんだろうね、と笑いながら言って、ー詩人なんだよね、自称だけど。と付け足した。</p>
<p> </p>
<p>その日部屋に帰って布団に入って眠りにおちながら今日あったことを順番に思い出そうとしたがばらばらに少年や高校女子やマスターや男性が出てきて混ぜられたジクソーパズルの大量のピースを眺めているようで途方に暮れるしかなかった。これを意味ある形にすることがオレにはできないんじゃないか。いつまでもこの夜が続きそうな気分になっていた。最後に浮かんだのは自分の言葉だった。</p>
<p>オレにはなにもないんです。</p>
<p> </p>
<p>次の日の昼前三人で前の日に少年と立っていた交差点で行きかう人を見ていた。オレには違って見えるというのはないからただぼんやりするしかなかったが（じっと目を凝らしてみていても何も変わったものは見えない）二人は真剣な眼差しを人の流れに投げかけている。いつものことながら人の流れが尽きることはない。祭りがあるわけじゃなし、どうしてこんなに人が集まるのか。集まってるわけじゃないか。ただどこかからどこかへ向かっている。オレが大学に行って（何日行ってないんだろう）帰ってと繰り返すのもこの流れの中にいるわけだ。いまここで立ち止まって見ているがいったん歩き出せば流れに飲みこまれて流れの一部になる。</p>
<p>少年が小さく、あっと声をあげる。高校女子が同じところを見やる。少年が女子を見やり、二人が視線を交わす。うなづきあう。オレを見て人混みを指さす。追いかけるのはオレの役目らしい。誰を指さしているかさっぱり分からないが。</p>
<p>　</p>
<p> </p>
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   <category>日記</category>
   <dc:date>2024-10-01T00:01:06+09:00</dc:date>
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