我が人生、最大のミステリー、レモンピール事件とはいかなるものか?
時は今をさかのぼること20年ほど前のこと。場所は自分の働いていた
吉祥寺のバー。20坪ほどの店内にシングルモルトを中心に酒瓶が300
ほど並ぶ、内装も手のかかったオーセンティックな雰囲気の良い店
(BGMを使ってませんでした。無音!)でした。
そこでのある日のこと。営業前の仕込みをしている時に[それ]は
起こります。
まずはレモンピールって何?という話ですが、レモンの皮を薄く切って、
カクテルを作って提供する直前に皮を半分に折ってグラスの上にレモンの
香りをふりかけるという技法があるんです。形的にはアーモンドスライス
を想像してもらうといいかもしれません。まあ、パフォーマンス的要素も
あって、初めて見るお客さんには「エッ!何?今のなんですか?」と
聞かれるので「美味しくする魔法です」と答えたりします。日常的には
恥ずかしくて言えないようなことも言えたりするのがバーという場所でも
あります。非日常の空間づくりもバーテンダーの仕事です。
というわけで、その日もいつも通り仕込みをしていました。店内には自分と
同僚の二人。カウンターの中でせっせと働いていました。
知ってる方も多いかもしれませが、飲食店は営業前が一番忙しい時間帯です。
その日は自分がドリンクで同僚が料理担当でした。ジュースを絞ったり、
氷をアイスピックで割ったり、せっせと仕込みに励んでおりました。
そしてレモンピールをまとめて作っている時に[それ]が。
まな板に10個ぐらい作ってひとまとめにして専用のタッパーにしまおう
として、何かの拍子で後ろを向いたんです。確か酒瓶のチェックか何かだった
と思います、その場でホンの2、3秒、後ろを向いただけ。姿勢を戻して
レモンピールをタッパーにしまおうと、まな板に目をやるとレモンピールが
2つの山に分かれているんです。
レモンピールが2つの山に!まな板の上にほぼ等分に、2つの山に!
レモンピールが!
思わず隣の同僚に目をやりますが、何の変化もなく、全くさっきと同じ様子で
淡々と仕込みをしています。距離にして2メートルはあるでしょう。それを
一瞬で移動してレモンピールを2つに分けて一瞬で戻るといのも考えられない。
店内を見回しますが、いつもの営業前の静けさ。もう一度まな板の上の
レモンピールに目をやります。そこに2つの山が。ふり返った時に腕があたって崩れた
とかじゃないんです。きれいに等分に分けられた山が2つ。同僚に声をかけ
そうになりますが、ぐっとこらえて、ちょっと待て、何かの勘違いかも。
自分で2つに分けたのかも、、、でもそんな記憶はない、ホンの少し前なのに、
それになんで2つに分ける?まとめてタッパーにしまうのに。
しばし固まっていました。この現実にどう対応すればいいのか、これ、
ちっょと見て!レモンピールが2つの山に!と騒いでも、だから?さっさと仕込み
しちゃいなよ、と言われれば、まぁ、そうか、しまっちゃえば一緒だし、と言う
しかないし、何に困るわけじゃないし、とあれこれ考えているうちに
レモンピールはしまわれいつもの日常が続いていきました。自分の頭の中以外は。
確かに、確かに2つになっていたよな、レモンピール、レモンピールが2つの山に、
気のせいじゃないよな、レモンピール自体、ちゃんとタッパーにしまわれてるし、
あれは幻ではなかったよな、とその日、その後は頭の中はレモンピールでいっぱいでした。
その日の営業が終わってからみんなには話したんですが、隣にいた同僚はレモンピールを
ジッと見つめていたのには気がついたようです。レモンピールがそんなに珍しいの?と
思ったらしいですが。
何かの勘違いと言ってしまえばそれまでなんです。このことがあって何かが自分の中で
変わったとか、その後も不思議なことが続いたとかもなく、ただレモンピールが2つに
なっただけ。なのでこのことを人に話すこともあまりありませんでした。
ただときどき思い出しては不思議がってる次第です。

