時雨スタジオより

9年の休止期間を経て、
なんとなく再開してみました。

今に通じるモーゲンソー理論。

2010-12-23 10:56:12 | 国際関係論

 人は自らの心に巣くう「悪」を知っているから、信仰をするのかもしれない。

 2010年12月、77歳の名誉教授(O先生)が教壇を去った。70歳で大学を退官、以来社会人向けの講座で「国際関係論」を7年間教えていたが、著作活動に没頭したいと「先生」を廃業することになった。僕はといえば30年以上前に、できのわるいゼミ学生としてお世話になり、ここ7年は社会人向け講座に通い続けてきた(仕事を続けながらなので皆勤賞には遠かったが…)。なお、社会人向け講座では老教授の授業をきっかけに、国際問題を学び・議論しあう50~80代の集まりが30人規模に育っていった。
 O先生は、「国際政治におけるナショナル・インタレストの研究」を生涯の研究テーマとし、アメリカの国際政治学者「ハンス・J・モーゲンソー(Hans Joachim Morgenthau, 1904~1980)」研究の第一人者であり続けた。今、前原外相が「現実主義者」などといわれているが、とんでもない。O先生は前原のようなチンピラとは違い、本物の現実主義研究者である。このブログにおいても、O先生が生涯にわたり研究を続けてきた「平和であり続けるための国際理論としての現実主義」を機会を見つけ取り上げていきたいと思う。

ナショナル・インタレストを「国益」と訳すことのむなしさ
 ナショナル・インタレストは国益と和訳されるが最近マスコミ等で登場する「国益」という言葉は、ナショナリズムの文脈で語られることが多いようだ。「勝つか負ける」の二元論の中で、「自分さえよければ、相手の国がどうなろうともかまわない」という最近の国益重視論調は、あまりにも薄く情けない。モーゲンソーの「ナショナル・インタレスト」は、「パワーバランスを保ちながら、相互の生存を保障しあう」というもので、「知恵のある外交」のバックボーンとなる理論なのである。米国という親犬に守ってもらいながらキャンキャン吠えるチンピラ外交とはまったく相容れない考え方なのだ。ゆえに、ナショナル・インタレストを国益とは訳すのにはむなしさすら覚える。あえて訳すのなら「国家的利益」が適切だと考えるが、本稿ではナショナル・インタレストとカタカナで通したい。

 O先生とは早稲田大学名誉教授の大畠英樹先生である。先生は、『国際政治』(日本国際政治学会機関誌、第20号、1962)のなかで、「モーゲンソーの国際政治理論は、『パワーとして定義されたナショナル・インタレスト』を国際政治の中心概念とする理論である」と書いている。同論文のタイトルは「モーゲンソーのナショナル・インタレスト理論」であり、いわばモーゲンソー理論の案内書ともいえるが、いわゆる「論文」なので読むのに骨だ。そこでまずは、少々乱暴だが、モーゲンソー理論を手短に紹介することにしたい。

モーゲンソー理論の出発点とゴール
 モーゲンソーは、人間は生来、「利己欲」と「権力欲」とに支配されているとして、そこを出発点に次のように理論を進める。箇条書きにする。
・利己欲によって生存的環境が確保されると、人はそれを守り、広げようする権力欲に基づく行動をとるようになる。
・権力欲という「悪」が渦巻くのが社会の姿であり、政治の場では権力欲が激しく交差しする権力闘争が繰り広げられる。
・権力とは「パワー」であり、人間による人間の支配にかかわるもの。ゆえにパワーの際限なき発動は、他者の「破滅」をもたらす。
・国内社会(政治)において、近代市民社会は権力欲の発動を抑制する方法をあみ出してきた。それが法・制度・社会的慣習である。
・よって国内では大多数の人は権力欲を満たすことができず、権力欲を満たす場を他に求めることになる。
・権力欲が発動できる場。それが国際政治である。国際政治において、法や制度は単にイデオロギーとしての役割を果たすに過ぎず、権力欲を抑えることができない。
・国内政治において抑制的立場にあった人は、国家を自己と同一視し、「国家の権力欲」は力を得る。
・しかし、国家間における権力欲の衝突は利己欲としての「生存権」を脅かす。
・モーゲンソーは「悪の世界において《lesser evil》(より少ない悪)を選ぶことがわれわれのなしうる唯一の善であることを知らなければならない」と主張し、次のように続ける。
・「政治行動は不可避に悪であることを知り、しかもそうでなく行動しようとすることは道徳的勇気である。いくつかの要素の中からもっとも悪ならざるものを選ぶのは道徳的判断である」
・すなわち、国家の行動が他者を支配しようという権力欲の際限なき発動に陥る危険性を知ることで、「本質的道徳性」をめざしていこうという理論なのである。

 O先生は言う。「どのようにすれば戦争を起こさないで済むのかを研究するのが、私たち国際政治学者の仕事です」。

 モーゲンソー理論やO先生の言葉に比べ(比べることさえ憚られるが…)、尖閣諸島、普天間基地移設、朝鮮半島などの問題で、菅直人・仙谷由人・前原誠司らがとり続ける行動は、いかに軽薄で愚かであることか!
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