長谷寺から南佐渡の多田(おおだ)へと抜ける道の途中に小倉という地区がある。あの小倉ダムで有名な小倉だ。ここに観光用の千枚田がある、千枚田とは丘陵地に段々畑のような感じで細分化された小規模の田んぼが整然と並ぶ様を言うのだろう。外海府地区などでもよくお目にかかる光景だ。はっきり言って、こんな耕作しにくい田んぼは採算が合わないのだそうだ。従って、もっぱら観光用に残してあるのだとどこかのおやじが言っていたように記憶している。中でもこの小倉の千枚田はかなり規模が大きくその眺めは壮観そのものだ。この千枚田に雪がひとはけ積もった風景もいいし、新緑や紅葉の頃の眺めもまたいい。更に朱鷺でも舞い降りてくれれば佳景この上ないものとなろう。
この千枚田からの帰り道、既に廃屋と化した民家の隣にある家のT字型煙突から薪を炊く煙が登って行くのが見えた。その煙が風に押し流され私の方に向かってきた。片田舎でしか嗅ぐことのできない独特の香りだ。見ると台所ではおばあさんらしき人が夕餉の支度に忙しそうな様子であった。佐渡の原風景を見るような思いがした。