「いじめをふせぐ処方箋」(19)
『育てたい表現力』ーアルシンドの覚書―(補足)
「会話」への理解を深める
-小説の中の会話ー
本当に「痛かったのか」、小説の中の会話を考える。伝えたいものは何かを考える。
握手
(前略)
ルロイ修道士は壁の時計を見上げて、
「汽車が待っています。」
と言い、右の人さし指に中指をからめて掲げた。これは「幸運を祈る」「しっかりおやり」という意味の、ルロイ修道士の指言葉だった。
上野駅の中央改札口の前で、思い切ってきいた。
「ルロイ先生、死ぬのは怖くありませんか。わたしは怖くてしかたがありませんが。」
かって、わたしたちがいたずらを見つかったときにしたように、ルロイ修道士は少し赤くなって頭をかいた。
「天国へ行くのですから、そう怖くはありませんよ。」
「天国か。本当に天国がありますか。」
「あると信じるほうが楽しいでしょうが。死ねば、何もないただむやみに寂しいところへ行くと思うよりも、にぎやかな天国へ行くと思うほうがよほど楽しい。そのために、この何十年間、神様を信じてきたのです。」
わかりましたと答える代わりに、わたしは右の親指を立て、それからルロイ修道士の手をとって、しっかりと握った。それでも足りずに、腕を上下に激しく振った。
「痛いですよ。」
ルロイ修道士は顔をしかめてみせた。(後略)
(井上ひさし 作『中学校 国語3』光村図書)
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「光司くんは『フラガール』っていう映画を観たことあるかな」
車のハンドルを握る田村章に訊かれて、助手席の光司は「すみません……」とうつむいた。
「名前は知ってるんですけど」
「べつに謝るようなことじゃないさ。そういうときは『いいえ』だけでいいんだ」
田村は苦笑して、「きみはアレだな」とつづけた。「自分が悪いことをしたときじゃなくて、相手の期待に応えられなかったときに謝っちゃう性格なんだな」
『希望の地図 3・11から始まる物語』重松清 幻冬舎










