FIND【85】
船内―ギーガが船長室に入ろうと扉の前まで来たとき、突然ルビーがサジして現れ、ギーガの背後に回って抱きついた。
「今夜は一緒に寝てやるよ」
「 ...クミエルはいいのか?」
「何だよ。俺を呼んだのは船長だ」
「向こうの夜でいいのに。状況を訊こうと思っただけだ」
「そう言わず。中に入ろ」
船長室は純白ベースに銀色の線や点が光り、床もオパールオーロラで神秘的な色を放って神殿のようにただ広い。
仕切りや狭い空間に閉塞感を感じるギーガは広いと思わない。
船の窓から見える景色は宇宙空間―暗闇と星。
船のエネルギーが船外の周りを散歩しているときは地上のように
船内に陽を射してくる―船長室の窓からは暗闇と陽射が愉しめる。
見えないものは緑。
ギーガもクルーも緑を求めて地上を喜ぶ。
ルビーは船長室に入るなり、バスルームに走った。
クリア機で常に清潔でも湯船で水圧を感じたいときもある。
水は船が宇宙に漂うゴミを水にして排水はダビ。
ギーガはバスに走るルビーに笑い、服を脱いでベッドに入った。
そして、しばらくしてルビーが身体に湯気を纏って出てきた。
「この部屋に寝る船長を見るのは久しぶりだ」
ルビーはうつ伏せになっていたギーガの背に抱きついた。
「あそこまで皮肉の削げたの初めてじゃないか?」
「あそこまでの激痛」
「天空は...船長が惚れた相手を無慈悲に消したな」
「 ...。」
「いつまでも続く失恋。失恋も窮みだったね。残念だった」
「そうか。慰めに来たのか」
「冗談にしても面白くない。そんな笑うこと言うな
表面は擦られるよりも体温で撫でられる方がいい」
ルビーはギーガの背を撫でて肌の体温と接触で緊張を血脈を柔らかな中和のビジョンに誘っていく。
お母さんが赤ちゃんを抱きしめて触れる喜びのソース―赤ちゃんは体温に触れられるその数と量の多さによって脳は愛を知覚して生を果て見えない大きく喜びの謳歌へ何者にも阻まれること知らずただ向かおうとする。そこに人の生のソースがある。
クルーは人を思う愛しかない。
誰と問わず抱き合い肌を触り支えて―その融合を満たし合う。
満ち合うエネルギーは船の中ではなくクルー同士ではなく、外の全く知らない人へ流れていく。
ナールは何でも対極を持って放さない。
優勢が劣勢になれば、優勢に変えようと抵抗頑張る。
頑固に凝り固まって、それを楽しい人生としている。
猜疑心ばかりで己を見ることなく自分を最高とし他者の何者
にも愛なく自暴自棄身勝手欺瞞それがナール。汚染メンバー。
一気に底まで行けば、浮上も早い。
「俺を呼んだのはクミエルの何?」
「クミエルは...ラドミールにアランを付けた」
「わ。アラン、遂に寺院から出してクミエルに赴任?」
「どうするかは任せる。その後、お前とラピスは別シゴト」
「それが本題か」
ナールの表裏両方に虚実の出入口を敷く。
稼いだ金を達磨へ還す人の循環のベース。
裏の巨額収益だけではただ片方。両側から吸い上げる。
しかし、次のお前らのシゴトは汚染防御金策ではない。
表舞台の方をお前たち担当。
ラピスはあの通り、ギターも歌も天才的でセンス高くカリスマ持つが天真爛漫でお前ほど堅実は備えていない。機転の策謀能力に優れているが、今後のマフィア収益抗争には策謀よりも実戦戦士の方がありがたい。そのラピスの頭脳とお前の堅実実務を生かして俺の代わりに立って表面を覇す。
経済裏工作は【エルメス】曲はヨウリが準備する。
「何だそれっ!ラピス、知ってんのかよ」
「ラピスにはまだ言ってない。マフィア統括で滑り出す方が先だし
お前たちが人の目に入れば人を選ばず、誰の心も癒していく愛を
語るクリシュナの如しとか言われるだろうよ。気付き起こる素地
ある人たちに。だから、静かに目立たないようにだ。テレビとか
コンサートとかで持て囃されるスター類ではない。ディーライの
声明を巧み暗喩で大衆視線にした詩を大道芸人みたいな、路上で
1日ただ只管歌ってああ日が暮れたってヤツ」
「大道芸人か...しかし大衆、ナール相手...本気で磔の刑だ」
ギーガはルビーの機嫌を取るように振り返って絡みついた。
「現実を手放せ。今ここで俺に触れて抱き合っているのに俺の存在
を忘れて自分思考のままでいたら宙に落ちて酔う。それは怖くて
気分がよくないよな?」
ギーガは笑うとルビーの意識を宙に放った。
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