【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

PAI【33】人の世 SAMSARAの関心

2009-05-03 | 2-2 PAI




 PAI【33】 


円楊はギーガを見て驚き、そして、笑った。

藍もまたギーガの慌てた形相に驚いていた。

「まあ、祥、何ですか?叫んだと思ったら突然出てきて」

「あ...すみません。や、起こしてくださいよ、俺はひとりで」

と言い掛けて藍が視界に入ってギーガは詰まって衣服を正す。

「あ...すみません。とんだ醜態を。え、すっかり
 色がいい!もうそんなに元気でいらっしゃる」

「皆さんのお蔭です。本当にいい具合です。それより、祥こそ
 連日酒席でお疲れだったのでしょう?ぐっすり眠れましたか」

「え、はい。甚くありがたく、しかし...あ、藍さん、夕べの!」

ギーガは円楊に礼を払いながら次に藍を見て言った。

藍は緩やかに母子の会話を嬉しく眺めていて突然ギーガに振られて―火照ると共に腰が引けた。

「伊雛という男は今朝は?」

「今朝早くにお父様を尋ねられて薪割をなさっておいでです」

「そうですか。お父様に後にお話に伺いますとお伝え下さい」

「はい、あの、それでは私は失礼します」

熱の舞い上がりそうな顔色を隠すかのように藍は俯き加減で―部屋から出て行った。

円楊やギーガが引き止める間すらもないほど速かった。

ギーガが何か取り残されたような気配を感じて訝しく思う。

「え...何かあったのですか?」

円楊はコロコロと笑った。

ギーガは膳の冷めたのを見て、俺のせいですみません。と言う。

円楊は、そう気遣ってばかりでは疲れますよ。と優しく言った。

「夕べのお客様は伊雛とおっしゃるの?薪割とは?」

「あ―夕べは本当に参りました」

ギーガは伊雛の話を自分の失態も含めて話した。

円楊は、今までに無い話を聞いたものです。と楽しそうに笑う。

「どうなさるおつもりなのですか?」

「え...そうてすね...あれは、剣よりも鼓舞に磨きを
 かけたが早い。暫くしたら「月光」に送ります」

「そんなことをして、伊雛さんは祥を信じていらっしゃるのに」

「鼓舞も武術のうちですよ」

「そうなのですか。それで、やはり、祥は武芸達者
 なのですね。しかも、その辺の並みの者ではなく」

「え、母さんまで...何ですか、教える、力になる、とは
 言いましたが、俺は包丁以外を持つ気はありません」

円楊は生真面目に応えるギーガに、そう頑なに為らずともよいではありませんか。と言って今朝の藍との話をした。

ギーガは嬉しくないわけではないが、半分はどうしていいかわからないので―蒼くなる。

「 ...それは散歩ですか?花を摘みに?」

「この秋に花よりは山に山菜、木の実、でしょうか」

「そうではなくて...想像してみてください
 一緒に居て歩いて...一体何を話すのです」

「そんなこと、私にはわかりません」

「あ...あの、ですね、」

「藍さんから頼まれれば、お引き受けなさるでしょう?」

「 ...母さん。それ、無理です」

「あら、どうしてですか?」

「悪戯が過ぎますよ、俺は毒です」

「ふふ、気にしてらっしゃったの?長い仲ではありませんか」

「母さん、今話しました?俺は伊雛に噛み付いたほど獰猛、藍さん
 を目前にそんなこと出来ません、出来なくて苦しむのは俺です」

「男女の中などそのようであってよいではありませんか」

「 ...母さん...う」

ギーガは苦し紛れに、伊雛もと発想したが、伊雛も居れば三竦み。却下。と考え直し、困苦の揚句―黙り込んだ。

そして、戦と色恋以外に花香る楽しい道はないのかこの世。と問題を擦り替えてみる。

現在の地上、SAMSARAの関心はそのふたつしかない。

それがあることで―人の魂は学び行く。

そして、それが終らないので死ねないということを忘れていた。

この地は柔くギーガを包み込む。






PAIもくじ PAI【34】 につづく。




コメント    この記事についてブログを書く
« PAI【32】祥は可笑しなことば... | トップ | PAI【34】薪割 »

コメントを投稿