ALLION【164】
が、これらのオーナーはクリスティーナ・ハーレイじゃなかった、最近収集したの?と訊かれて、は?とすっとぼけた。
「あ...いや、別にどうでもいいことか」
「そんなことないわ?全部イーギンが管理しているから詳しいこと
知らないけど、そのオーナーたちに私が貸していたの。私と言う
かイーギン。6つは100年以上前からハーレイ家のもの。その人
たちは自分がオーナーって言って有名ヴァイオリニストに貸して
やると言う見栄を賃料払って得ていた。名誉だけかどうか、まあ
他に得るもの大なんでしょう。そんなことに大枚出す気持ち判ん
ないけど誰かに弾いて貰えたらこのコたちも幸せだし...ひとつは
ずっと私が使っていて5つは私が戻るって言ったからイーギンが
違約金渡して戻したそう...アリオンのヴァイオリンのオーナーは
誰?買い取ったの?」
「いや、そこまでは出来ないよ、ロシア人のものだ」
「そう。じゃ今のヴァイオリンは返したら?
部屋に持って行っていいわよ?それ、全部」
今度はアリオンがエヴァの話半分でヴァイオリンひとつひとつにすっかり魅せられている―エヴァは微笑ましく眺めていた。
「 ...クリスティーナ、これ、アントニ」
「ええ。ウスじゃなくて本人の。弾いて?聴いてないから」
「あはは、聴かないのか」
アリオンは、それなら という顔をして見せる。
エヴァの耳にヴェターリのシャコンヌが響いてきた。
本当にお試ししてるわよ...綺麗。
アリオンはとても古いヴァイオリンに酔うように奏でていた。
エヴァは東側の壁に向いたデスクに噛り付くように向いて、アリオンはガラスケースのある西側の壁の方を向いて―随分離れたところに居てお互い背を向けて全く違うことに没頭していた。
1時間ほど経ったとき、エヴァはホッとしたように顔を上げた。
エヴァはヴァイオリンを弾くアリオンを見詰めていた。
そんな自分に何故か照れて―アリオンから顔を背けて『シシィ』の現状に気を向けていた。
『シシィ』副社長カーティスの明日提出する報告書は2月の人事異動結果の異論、その受理―社内の過去の社員たちの確執を全く知らないエヴァはカーティスのそれに引っ掛かる。
エヴァが現在の『シシィ』に明るいジュンと電話で声を出しても、ヴァイオリンに獲り憑かれているアリオンには聴こえていない。
エヴァもヴァイオリンの一音さえ聴いてなかった。
顔を上げたが、聴こえていない。
何事もないわけではなかったが『シシィ』に思念していた。
修正案出したところでナール企業が改善されるわけではない。
改善を思うなら根本から―それはナールでは無理だ。
どこにでもトレイシアのような人は居るし悪意なくとも自利必死、強欲だからこそ障害も多く出るが、そこに正義を揮っても上手く動かなくなるもあると想定されれば、誰を主人公にすべきかと思う。
人事異動の前に突然、墨西哥国の支社長コリン・ルニが辞職、人望も厚く利益上昇の先、理由は病気の療養、彼の健康診断と人柄からそれを誰もが信じない。辞職の本当の理由が判らない。
裏で人事取引を嗅ぎ付けた社員の正義、さも正当であるかのように弁明処理しているが、この報告書の内容ではぬるくて一般社員も誰も納得出来ない。
コリンの勢いある仕事は誰もが認めるところで次期本社幹部の噂が一般社員まで届くほどの成績と人望を持っていた、そこで突然辞職なんてカーティス派閥の圧力に違いないと疑う。
既にこの件は静かに納まって墨西哥国支社長はヘイゼに決定されていたが、一部の社員たちから不審を買うカーティスに社員たちから分かるよう弁明しろ。と言われて提出された報告書。
辞職となっている過去ログ検証―カーティスと重役たちの所業。
伸びるコリンを挫くためにザーイン星ロマ支社長に栄転(?)移動を上層が言い渡すなら、体調不良を理由に辞職と本人が言い出して受理 となっているが、コリンを知る社員たちは彼がそんな性格ではないことを知っている。
頼れるはずの臨店社員は脅迫されて丸め込まれていた。
ここまでになっていたこれは吉か邪か。
マフィアと関わり持ってその闇部分を『シシィ』が持つのをコリンは、クリーンであるべき、と入社当時から20年間、訴えて姿勢強固清潔精悍。彼に付く社員も幾らか増えていた。
しかし、それは理想論でしかない。
実際にマフィアと手を切ってコリンの言うクリーンにしようものなら ナール相手では回収できるものも回収出来ない を知らないとは綺麗しか触ったことのない青臭い経験無知。
そんなことを掲げたいならナールを辞めてラキスになるべき。
エヴァは実報を読んでログを観て―セディックを思い出した。
彼は正義を振るったわけじゃないけど...バカではない?
いえ、結局、人の輪の中で自分が正しいと言いたいの?
自分ひとりが偉いことは素晴らしいことじゃない。
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