 ZEN【225】
「私はジル。あの『LYNC』モールのメイン・スーパー企画室社員
で生鮮食品担当なの。実家はフギの郡部で農家をやってて18まで
手伝ってて詳しいからって。仕事は、農家さんとこに御挨拶回り
だけどね。それで...今は21。貴方は？」
わーい『LYNC』って..ロキのお父さまのいる会社...重役だから
滅多に地方県まで来ないだろうし鉢遭うことはないだろうけど。
「21？俺と同じだ。名前はジュン」
「ホントね。何処の大学なの？」
さっきは、瑞西国の大学になっていたが、あんな風に記載変更
されてるかもと思って身分証を出して確認したらやはり違った。
菊之丞は身分証をジルに提示して―フギ大経済学部。と言った。
「え゛っ...秀才大学...凄いのね...え、住所が記載ない」
「流れ着いたばかりだから家はない、それよりバイト捜し」
「え゛っ...それマジ？！住所ないのにバイトは無理よ」
「世間知らない？そうだ、ジルの実家は何処？そこに行って農業
手伝おうかな、ジルがいなくなって人手欲しいとかないかな？」
「ありがとう。その、私は両親いなくて祖母と暮らしてて高校卒業
したとき亡くなって土地は村に貸して出て来たの。だから実家は
あるけど仕事はないわ？」
「そうか。ありがとう...その、話してくれて」
「そんな、ごめんね。バイトの力になれなくて」
「え、いいよ、でも、住処無いとバイト無理って？
女性ならバアル協会あるのに？男はそういうのは」
「そうよね？そういうときは住み込みかなあ、でもそういう仕事は
大抵風体悪い人の巣窟だったり、あっ、フギ大なら家庭教師とか
いける、高額よ？ジュンだったらモデルでも出来るんじゃない？
タッパあるしイケメンだし」
「 ...表に出るのは勘弁。それに富豪とは縁持ちたくない」
「何ソレ。家無しで贅沢ね？」
「贅沢言ってないよ、分相応でないと言ってるだけだ」
「ふうん...そうは見えないのにそうなんだ」
「何だよそれ」
「 ...農業、経験あるの？」
「手伝い程度なら...知識はある方かな。経済学部には必須」
「そうなんだあ...外見と豪く違うのね。家無しにも見えないし」
「はは」
そして、農家さんに会うためにフギホテルに来て、滅多に海なんて楽しめないから浜辺に寄ったら貴方を見つけた、仕事中なのよ。と言って―ジルは名刺と１万イーを菊之丞に渡して、返さなくていいわ、軍資金にして？と言ってバックヤードに消えて行った。
あっさりいなくなった―ジルが天使かと思ったが違ったか。
気持ち切り替て―ジルが、モールでよかったらモール内の施設
の人材募集掲示板がある。と言っていたので、そこを目指した。
広大な売場面積を誇る建物５棟デパート『オズ』
に匹敵するかというほど『LYNC』モールは広い。
求人掲示板も10所以上ある中のひとつ、ジルと別れたバック
ヤードに近い掲示板に―それでも遠くて、やっと辿り着いた。
求人票は沢山張ってあったが、表に出る店子が殆どで皿洗い
も手が足りないときは表仕事―『光明』のようにはいかない。
託児所の管理でも遊び相手込でやはり表仕事付、駐車場もメンテ
も表に出るも同じだし、夏休みだけのバイト はほぼ表しかない。
完全バックのバイト、ジルみたいな仕事のバイトとかないのかな
と思っていると、学習塾講師＆家庭教師の募集 が目に止まった。
モール内に塾？子供の塾の間、お母さまはショッピングや映画？
ってことか。だとすると考えたなと思うが、レベルは？と疑問。
地元の塾なのかキシャンでは聴かない知らない名前の塾だった。
ジルはこのことを言ってたのか。確かに日当高額。短期長期不問
食事手当に交通費住居手当...バイトで？儲かっているってことか。
有閑マダムのお母さまのヒマつぶし施設は沢山あるからなあ...。
形成外科に歯科矯正に、エステにジム、ヨガにプール...
乗馬も防音音楽室...まるで『サンシャス』―そっくり。
「兄ちゃん、バイト捜してんのか？」
野太い男性の声がして―見るとやや大きな段ボールを二段抱えたカーゴパンツにTシャツ、安全ブーツ、頭にタオルを巻いた..ガラ悪そうで気さくで優しそうな巨大なおっさんと形容したい中年男性が菊之丞に向いてにっと笑った。
あっ...頭のタオルで同業者と思われた？
『クワロフス』にこんなおっさん多いけど...違う人種だ。
お前、力仕事は出来るか？と続けて訊かれて、はい。と言うと
来い。日当弾むよ。と言われて、断る間もなく―付いて行った。
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