EMA【52】
「え゛え゛えっ結婚してらしたんですかっ!?」
イーギンに向かってオットーが小声で叫んだ。
秘書室も人の少なくなった夕方5時の社長室。
向かい合わせのソファに座ってふたりきり―イーギンはオットーにだけ宣言することにした。
「まだ正式届はしていないが...相手は俺がここの社長と知らないで
バイトに入って...俺もつい昨日彼女がここにいると知って...友人
が細工して...の結果で」
「そうでもしないと社長はデートもなさらない...から?」
「おっ...な、んでそういうこと」
「それくらいリウイだってシャナンだって理解します」
「 ...。」
「しかし何故、私だけに?皆に言わないと、」
「今のうちはだ。彼女だって突然社長夫人て周りに思われたら折角
楽しんでるのに困るだろうと...だけでなく『リーベ・フロッス』
だぞ...BGだなんだかんだと大袈裟になって...そういうの嫌だろう
から...よく考えて、周りに知られない方が余程安全。というのと
我々が平和だ」
「はあ、確かに仰る通りです。しかしあの?」
「君だから正直に言うが...一度しか会ったことがない」
「え゛...あ...そうですか。しかし表情は甚く惚れてらっしゃる
様子。一度しか会ったことがないという方が嘘臭い。ハハ」
「兎も角、知った以上放置出来ない。俺が出向くと残ってる
社員の誰に見られるかわからん。どこにいるか人事が知る」
「週3日でしょう?では、今日はバイトの日?」
「それも知らん。来てないかもだが」
「え...連絡もとってらっしゃらないんですか」
まさかと思って確かめてみた―この正直過ぎるところに社長の安心を見る。と思ってオットーはくすっと笑った。
「早く行けっ、あ、秘書室は残っていたらとっとと帰せ」
「了解しました」
『リーベ・フロッス』は宝石をメインに婦人紳士とベビーキッズ、服飾、他に住と食はあるが、衣服のティーンはない。
その代わりではないがサ・ナールの10代に受けている特別衣服部門『lu・lu・HANA』がある。
『リーベ・フロッス』のコンセプトは簡単に言えば気品ある正統派―目に一瞬でソレと判る特異個性持たずブランド自己主張しない。
カジュアルシーンでも正装シーンでも着る人を選ばない王様だろうが庶民だろうが誰もが着ることの出来る服や宝石たち。
デザインは機能的且つセンスある定番からあまり外れず、少し未来が入る少しお洒落という微妙加減で時代の先端を行く。
ドレスはボディラインに忠実でありたいためオーダーしかない。
そんな歴史の中に異端者たるデザイナー現れて―彼は他のブランドのように『リーベ・フロッス』らしい自己主張すべき。人は自由。うちは型に嵌り過ぎていて自由がない。と言い出した。
世の中は身に纏うもののセンス磨く以外に情熱燃やしている人の方が多い。そんな彼彼女をサポートすることを定番と言う。
彼彼女にとって定番は安心とも同義語。
ときに衣服は自由だセンスだこうあるべきと括っては彼彼女の壮大なエネルギーによる集中力その大成の邪魔となる。
我社は彼彼女の自由のためにある。
ひとつの国の伝統や定番に凝り固まるわけではない。
そこは理解して入社したのでは?目指すものが違うと今判ったので辞表提出、そこに伴う君の残り香だろうか?
すると彼は『リーベ・フロッス』に守られた状態で自分の可能性を見たいと返した。
その厚顔素直に感激した社長が『lu・lu・HANA』新設。
但し『リーベ・フロッス』シンボル猫と葡萄の使用は許可するが、デザイン変える、資金販促協力、アトリエ提供するが『リーベ・フロッス』と一線を引く。ショウ参加や提携広告はしない。
赤字は3年回収。ならなかったら即取り潰し。
『lu・lu・HANA』はストリートファッションや舞台衣装、古代や中世様式『リーベ・フロッス』得意の世界中の宝石を鏤める『リーベ・フロッス』高品質の生地や織物を使うなど様々なアイテムを自由に織り交ぜた特殊世界を一般生活で纏うというキッチュワールドを作り、それはティーンズに受けた。
世界トップブランド『リーベ・フロッス』デザイナーの彼の作品にはまだ年若く視野狭く無知な若者が騙されがちなそれと同じようなステージにいるデザイナーの作る下品な怪香や貧相は全くない。
ためにティーンに留まらずどの年齢層にも受けて売れだした。
『リーベ・フロッス』部門のひとつ『リーベ・フロッス』名の援護射撃を持たず、彼は1年経たずに一躍ときの人となった。
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