【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

かんろあめひびきわたるうたげ 長編涅槃活劇[100禁]

TELIPINU【90】街を出よう!

2009-04-05 | 1-2 TELIPINU




 TELIPINU【90】 


ギーガは宿の主人を探してその手に1シキルを握らせた。

「死体がひとつ、女は呻いたままだ。私は国の法を犯した者を
 成敗に来た隠密剣士。部屋を汚したが、後を頼む。だがあの
 女には勾引かされないように」

「何故その罪深い女を殺さない?」

「女は死より罪贖うことが重要だ」

主人は1シキルを握り締め、後はお任せを。と鈍い笑を滲ませた。

ギーガも宿の主人にその笑と全く同じ笑をして返した。

...どいつもこいつも腹の中は同じか。商売人。

売り買いしないで与え捧げ、授かれないものか なあ。

英雄宗教では無理か...。






ギーガが馬車に戻ると奴隷のハスもギーガを歓喜して迎えた。

ギーガはハスに3つの箱を渡し、ハスは深く礼をして箱を抱えて馬車に入った。

ギーガはマナを埋葬したことを聴いた。

ナタとウーアが肉体労働をしたと聴いてギーガは驚いたが
今に至っては、これまでのこのふたりの態度の記憶も薄い。

ギーガは先に戻っていたテリピヌを見て―纏わりついてくるナタとウーアを避けて言った。

「話す前にテリピヌに訊きたい。あいつらをどうした?」

テリピヌは王に仕える騎士の姿勢で言った。

「逃がしました。そう言われたように聞こえました」

ギーガはその場で抱きしめた。

テリピヌは不意を突かれて途端、動揺した。

「ああ。外国で英雄宗教に生きる者。死など賜らなくとも良い」

テリピヌに引っ付いたギーガはナタとウーアに引き剥がされた。

「ギーガ、概はテリピヌ姫から聞いた。しかし、ヒナウィラは」

ナタが堰切るように訊いてくるのでギーガは粗方を話した。

ウーアがその脅威と愕然の意識のままにギーガに詰めた。

「ヒナウィラは両腕骨折?ギーガが素手で?!」

「人の命を救う医者が俺に訊くな。治療に行きたいのか?」

「いや...街医者に診せれば...骨折だろうと鋸で切断される」

ウーアのそれには聞こえた全員の血の気が引いた。

だが、ギーガが締める。

「それでいい。男たちは記憶が残り、生きて贖う。だが、マナの
 理不尽にはそれでも足りない。マナはヒナウィラを信じていた
 ナタとウーアに尽くしていた」

「 ...そうだ」

ナタが言った。

ウーアが、すまない、と言った。

ギーガは、何もかも失意のソコだ、とウーアとナタに笑う。

そして、加えた。

「ヒナウィラに聞こえていたかどうか判らないが
 仕返ししたければどうぞ追って来いやと言った」

「え?!」

「それで賊の根を少しでも絶やせればナタたちの旅は今後も安泰
 ヒナウィラが生きてこの馬車を吹聴すればヒナウィラに同調の
 愚民らが同袍、公明正大なる難癖つけて襲ってくるぞ?何しろ
 この馬車は薬が積まれている。今まで以上ナタとウーアは彼ら
 のエモノ。善後策、来てくれれば後がラク。片付ば後は無い」

「ああ、だが、来なければ?」

「以後それに怯えて旅をするか、ヒナウィラが痛くて聞いて
 なかったか、激痛で記憶弾けた...幸いはヒナウィラ改心」

「ギーガ、それでは幅が広すぎる!」

「手がかりもなくヒナウィラに会えた。叶うものは叶う」

言ってギーガは、街を出よう!とタロウを撫でて乗ろうとした。






TELIPINUもくじ TELIPINU【91】につづく。





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