FIND【240】
「ガラスが見えなくて激突したとしても二度も失敗なんて
あいつはフツウの鳥じゃないんだから、それはないだろ」
そこに、あっ、社長、ラウル!とカメリアの声が聞こえた。
カメリアは立派なスーツ姿の手に丈夫な魚釣用の網を持っていた。
6、7人ほどがイーギンとラウルを中心に囲んで蒼然となっていることに気がついて、あ...。と言った。
「何だ、その網は」
言ったイーギンにカメリアは、届かないかと。と窓に近寄った。
「そんなことより俺が言ったように先に来い。もういない」
「え― 」
「取り逃がしたじゃないか」
カールが、何ですか?と訊いてきてイーギンは誤魔化して笑う。
「騒ぎを起こして済まなかった。王の鳥が」
話を続けようとしたとき、皆の頭の上を、さっ!と物凄いスピードで黒い物体が飛んで行った。
何っ?!と誰もが思ったときその物体はカウンターの上に着地してカウンターの内側を向いた―ルーラとエマの真前。
「カメリア、捕まえろっ!」
イーギンが言ってカメリアが網で生け捕りにしようとしたが
ウリエルは敏捷過ぎ―サジしたように姿を晦まして行方不明。
なんだっ...こいつ...。
四方八方資料室を皆が見回した。
そして、どこからともなく姿を現してまたカウンターの上、今度はルーラから少し離れていたエマの真前に降り立ってエマに向いた。
カメリアが網を振り上げてイーギンが、待て。と止めた。
エマが、ええっ私?!と怯えながら目前の鴨を見ると嘴にぴちぴち動く生きた魚を銜えて足首には赤い蘭の花―興味をそそられる。
エマが鴨を見詰めると鴨は嘴の中で暴れる魚を振り解くようにぺっと吐いてエマの足元に投げた。
床に投げ付けられた魚が大きく跳ねて、カウンターの中にいたエマとルーラが同時、それがピラニアとわかって、きゃああっ!と咄嗟抱き合い、大慌てしてカウンターの外に避難した。
エマもルーラも鴨どころではなかったが、鴨は移動するエマに向き花を受け取れとでも言うのか、蘭を付けている鰭足を差し出して、くえくえがあがあっ!と仕切りに訴える。
鴨の背後から―そっと寄ったカメリアが素手で掴んだ。が、大暴れして、くえっ!と叫んで、2階ロフトまで飛翔してとまった。
ルーラが慌てふためいて、ぴ、ぴピラニア!と叫ぶ。
驚いてイーギンとラウルがカウンターの中に確認に行くと通常サイズより少し大きめのピラニアが床の上で未だぴちぴち跳ねている。
『これはセレスタインの城の魚。足にあるあれは蘭
ロホ蘭だ。ロホはセレスタインの城にはない... 』
カウンターの中なので誰にも見られていないとわかって、ラウルがピラニアを手で掴んでセレスタインの城の池にアジした。
『ロホなら...東宮殿の森の蘭か?ふたつの場所、』
『処刑場って意味だな』
『しかし、何故エマ?ピラニアも蘭もエマにって、』
『それは後で調べよう。取り敢えずこの場を収めないと』
『どうやって?ウリエルを回収しないと、』
『案外名前を呼べば来るんじゃないのか?』
カウンターの下でこそこそと喋っていたイーギンは立ち上がって、ウリエル!こっちに来い。と鴨に向かって叫んだ。
すると鴨は素直に急降下して真っ直ぐイーギンの目前、カウンターの上に来た―驚いたが、そんな顔は見せられない。
そのとき、カメリアが大きな麻袋を被せてやっと生け捕りにして
中で、くえっくえっ!と騒ぐ鴨から蘭を取り出して―口を閉じた。
「騒ぎ立てて済まない。迷惑掛けた」
イーギンはその場にいたカールと社員たちに謝り、ルーラとエマに寄ってふたり平等に扱い、大丈夫か?と声を掛けた。
エマには平素の顔をしたまま、ラウルとカメリア(と麻袋)を伴って資料室を出た。
3人は資料室を出て社長専用エレベータに乗ったと見せ掛けて屋上にサジした。
カメリアが麻袋を開けてウリエルを両手で掴んで大空に放ち
大空に飛んで行くもの と思って、ばいばい!と手を振った。
しかし、ウリエルは直系5mくらいの円を描いて暫く旋回の後、ひゅんっと戻って来て3人の前、足元に着地した。
イーギンとラウルとカメリアが呆気に取られていると
ウリエルは3人を見上げてくあくあと何か催促の模様。
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