PAI【335】
「わかったよ、禁軍を使ってやる。てか、一緒に来い」
「きゃああっ王妃さまっ何を、」
「王妃さまっおやめくださいっ」
突然、養心宮の中から女官たちの声―歩き出したギーガと狛胤は、ピタリと足を止めた。
「内官を呼びますっ」
「そんなことなさらないでくださいっ王妃さまっ」
「こんなの、こうすればほら早いでしょ!」
「ひぃいいっ王妃さまっ」
「私たちが怒られますっ」
ギーガと狛胤の元に戻って来た内官3人は再びぎょっとした。
「 ...今度の王后は狛胤と同じ遺伝子か、はは」
独り言を言って養心宮の壁を見詰めるギーガ。
狛胤が、なにそれ。と言いながらギーガと同じ方向を見詰めた。
「ていうか、助けないの?」
「別に暴漢に襲われているわけじゃなし」
「母上が怖いから?」
「婚礼の儀まで会ってはならんと言われてるのに会えと?」
「事故って怪我したら兄上のせいだね」
言って横を見たとき、ギーガは忽然と姿を消していた。
内官たちが、陛下っ!と叫ぶので、え?と見遣ると、真上の塀から向こう側に降りる人影が見えた。
「え゛え゛っ兄上.......飛んだのか」
養心宮の塀を超えるとそこは美しく手入れされた庭園。
真っ直ぐ先に大きな銀杏の木が天まで10mほど伸びている。
夏空に青々と茂る銀杏の葉が揺れて白い衣がふわりと浮いた。
ギーガは銀杏近くの養心殿のひとつの建物の屋根の上で王妃が何をしているのか眺めようと思ったが、屋根の上では目立ってどこから誰に見られるが判らないので―銀杏上方にサジして葉中に潜んだ。
しかし、生茂る葉の中から下の高光景は見えない。
ギーガは掌の上にカナンを現して―沃満斗を観た。
下から女官たちのきゃあきゃあ騒ぐ声はまだ続いている。
沃満斗は先に鉄フックのついた途中均等間隔に玉を作ったロープを投げて銀杏の大木の枝の出揃う辺りの上方まで投げて固定、ロープを持って木の周りを3周回って斜めに巻き、手元のロープのを地面と木の根の境に楔を打って玉伝いに身軽にするすると登っている。
王妃服を脱いで下着白布だけふわふわ移動するように観える。
フックで引っ掛けた枝にたどり着いて―枝伝いに数m登る。
そのとき、女官の黄色い声は失神しそうな頂点に達していた。
沃満斗が手を伸ばした先は風に飛ばされて引っ掛っていた赤小布。
それを手にして直ぐするすると軽快に降りて行った。
地面到着と同時に女官の歓喜と安堵と文句が飛び交う。
ギーガは沃満斗の山育ちは知っていたが―見事だ。と感心した。
ここまで軽業師のように木登りをこなせるとは思っていなかったので、危なくなったら助けようと思っていたが、出る幕なく。
ギーガはカナンを観ず、女官たちは こんな王后は王には直隠し!だったので、沃満斗の、ここまでのお転婆娘を初めて知って思わず木の上で大笑い。
しかし、あっ。と口を手で塞いだ。
下方でまだ女人たちの騒ぐ中、赤布は、美々ちゃんの と言う。
美々ちゃん?誰?と彼女たちの行く手を辿るとそこに珠がいた。
えっ...珠が美々ちゃん?!
大型犬体格の珠は王后付の女官の部屋にいた。
美々ちゃん専用赤絹布団の上で白に金糸刺繍の服着て寝ていた。
沃満斗が銀杏から取って来た布は首輪ならぬ御リボン。
あいつっ...座敷の上に上げられ...みんなに可愛がられている。
て言うか...珠は狛胤の元に帰る気ゼロ?...どうするよ?
狛胤が尋ねても返事なし...そういうことか。
光蔵から連れ去られたか珠が養心宮に迷い込んだか....それにしても番犬返上していい暮らし。
これは...交渉するしかなさそうだ...本人(珠)が決めるか。
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