ALLION【323】
船の常勤クルーがリッツの元に入れ替わり立ち代り現れては様子を観たりリッツと交代したりして、クルー皆で白雪姫の柩に寄り添う小人たちのようにその復活を祈って―エヴァを見守った。
ギーガとゼルダも現れては エヴァの安らかに眠る肉体 その間近まで行き、黙ったまま傍にいた。
それは次第に多忙極めるクルーの間にも広まって行き―知って驚いたイーギンやセレスタインやシオン、ロータスもエヴァに寄った。
それは―ゼルダが最長3日と言ったそれを越えていたから。
エヴァは3日を過ぎても目覚めなかった。
【真夜中の騎士】では既に最後の血祭が終わっていた。
『シシィ』ではコリンのマリア支社長就任式も終わり、テレビやネットに流れて―社内祝賀の賑わいも収まりつつあった。
サファイアに守られていたコリンは持ち前の腕を揮うに戻ったのでサファイアは家に戻った。
そのとき初めてエヴァの昏睡を知ってシベリアに現れた。
どういうことなんだ!
サファイアがゼルダやギーガに訊くも、エヴァは本気で哀しかった、としか理解しようがない。
訊くまでもない。見ればわかる。
あの日から3日後―。
アリオンはラウルを伴って約1ヵ月ぶりに家に戻った。
家を仕切っていたのはサファイアに代わってダンタリオン。
ラウルはダンタリオンと交代して元の任務に戻って行った。
アリオンが、サファイアは?とダンタリオンに訊くなら、旅行中のエヴァの代わりにコリンの補佐に行った。『シシィ』でサファイアは社長秘書。とダンタリオンは何気に言った。
アリオンが何か反応するかと思ったが、アリオンは、ニュースで知って僕も嬉しかった!と言って喜ぶ。
何がどう嬉しいのだ?その件が解決したら赤ちゃんだから?
そんな悠長にやってられないだろっ。と思うが―言えない。
アリオンは、エヴァは友だちと旅行 は知っていたが、自分が家に戻るときには、もう戻っているんじゃないか と期待していた。
SPを持たないは不思議だが、エヴァの性格を考えると微笑ましく思える―友だちが旧友ならSPを持ってなかった時代の友だちでSPを持つわけにはいかなかったのだろう。
隙を縫ってホテルの電話からでも自分に電話してくる?と思うが、シェリーと再会したときのエヴァの会話を思い出し、夢中になってるんだろうな。と思った。
公演旅行からマリアに戻って自分を出迎えてくれたのが、エヴァではなく、会社ではティムやミーホ、自宅ではダンタリオンとセーレと使用人たちだったのは結構寂しく感じた。
しかし、エヴァもこんな思いをして旅行に。と思うに励んだ。
公演旅行から戻っても人気沸騰の続くせいで仕事を休むことは許されず、ティムやミーホとの時間が増えたが、以前のように遅くなることもなくなってパーティーがなければ夕方には家に帰っていた。
カナンで観て―ゼレンカと会ってないし連絡もしてない。
アリオンが今日か明日かとエヴァを待つを見ていて―ダンタリオンとセーレは心痛くなる。
何も言えず訊けず寡黙を貫くのは酷く心労する。
7日経って、旅行から戻る日になってもエヴァは戻らない。
アリオンは終にダンタリオンとセーレに訊ねた。
ふたりは、何も知らない、俺たちだってあんたと同じくらいの気持ちで待ってる!とつい語尾語調強くなって言ってしまった。
ダンタリオンとセーレもしょっちゅうシベリアに行っていた。
トーン激しくなってしまわないでは涙が出そうだった。
10日経って―サファイアが家に戻ってきた。
丁度ホールでカールの伴奏でアリオンのヴァイオリン。
サファイアはアリオンに噛み付かれる覚悟で戻って来た。
サファイアは怒りより哀しみでいっぱい。
エヴァの哀しみとアリオンの哀しみと...。
「お帰り、アリオン」
「お帰り、サファイア。待っていたよ」
玄関フロアから続くホールでふたりの冷たい声が響き合った。
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