ALLION【215】
エヴァは無性に会いたくなった。
しかし、会うと言っても、どうやって?
自分の顔をキエーラが憶えていても当時の同僚とは言えない...。
『シシィ』社長、サ・ナールとして会っては、きっと彼女の好きなスノビズム関係以上にはなれない。
宝飾品に興味ないからお客さんとしても行けないし、その前にショップに行ったところで、社長 に会えるわけでなし。
20の女の子がどうやってこんなサ・ナールの仲間入りしてるだろう地位の社長に近づけると言うのか。
宝飾商品写真と数字沢山、うんざりするほどの桁の多い数字を見ていたら、ショップの電話番号、そして、スタッフ募集!の文字。
! ...........なんちゃって。
エヴァは今度は叫んでもいないのにこそこそと部屋中見回した。
誰もいないダイニングを確認して、エヴァは雑誌の並んだ棚の引き出しから赤いペンと鋏を取り出した。
ショップの名は『キエーラ』
電話番号に印をつけて広告を切り抜きはじめた。
切り抜きながらちらりと見えた裏はアリオンの音楽集の広告。
はっ!!...し...しくった...!
アリオンの顔が......切っちゃった...まあ、いいわ。
アリオンは私と結婚して幸せだからこんなのいいのよ。
「クリスティーナ!あっ、何だ、その格好!」
...びくっ。
ゆっくり振り向くと新しく来たクルー・セーレ。
「あ...うふふ、おはよう。今日もいい天気ね」
「何でそんな格好なんだ?」
「まだ寝るの。セーレは朝ごはん?」
「着替ろよ、ゼレンカが出るんだと。今仕度してる」
「出る!?」
「ああ、もう大丈夫だからここを出て自宅に住むって
今から送ってく。クリスティーナに挨拶したいって」
「まっ待ってっ!わかった、急いで着替てくる!」
エヴァは直ぐに立ち上がってアリオンの部屋に走って行った。
「何だ?...何の切り抜き...シゴトか?」
セーレはテーブルに広げてあった新聞を畳んで元の場所に戻した。
鋏とペンを片付けて、残されていた切り抜きを後でクリスティーナに渡そうと思ってパンツのポケットに仕舞った。
そこに、ロジャーがセーレに珈琲を淹れて来た。
エヴァはいつもの汚い服装の自分を『シシィ』社員であるゼレンカに見られるわけには行かない。
彼女に会うときはこの家の主らしく上品なワンピース。
さっとジーンズに足を通せず、きちんとワンピースを着てそれなりの装飾品を付けたりしたので手間取った。
ゼレンカとセーレは玄関先に車を停めてエヴァを待っていた。
改めて アリオンの元恋人 と思って見てしまう。
仕草も笑も美しくてモデルのように長い肢体が会話を交わすたびに目の前でくるくると心地よく機敏に動いて―何だか照れてしまう。
なんで照れるのか...綺麗な人を見てるのって何より嬉しい。
『シシィ』社長就任した110年前当初、新規も中途も採用は『リーベ・フロッス』のように容姿重要を押して社内の風紀と美容のためにそれ専門の風紀課を作ったのは自分ではないか。
『シシィ』社員のゼレンカが美しいのは当然のこと。
「こんなに朝早く、それも急に決まって...申し訳ありません
本当に色々お世話になりました。ありがとうございました」
昨日アリオンのSPから聴こえた綺麗な声と使い慣れてる言葉。
ゼレンカの高い声が春の涼しさの中に溶けて行く。
エヴァはセーレの運転する自分の車が門に続く森に入って行くのを見送った。
そして玄関ホールに入ったときエヴァは、ハッ!と思い出した。
切り抜き―っ!!
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