TELIPINU【74】
「おい、テリピヌ、起きろ。朝だ」
ギーガが早くに起きてテリピヌの頬に触れ―起こした。
夕べも遅くまで付き合わされたテリピヌを、ギーガは思いやって起こさずにいて―テリピヌは慌てたように跳ね起きた。
「帰りはゆっくりでいい。だが、そろそろ出るようだ」
「あ、ヒナウィラ...。」
「防具をつけるのを手伝おう」
テリピヌの足にギーガが無機質に触れていく。
それはいつものことなのにテリピヌは今朝は特に―ときめいた。
今朝はギーガも買い揃えた完全装備の防具を装着している。
戦士が防具なしではまるで不死身だ、とギーガが言って笑った。
「レイリィオンは?」
「先に商人たちに会いに行った。詳しい話をつけてくるんだろう
埋葬の件とか。レイリィオンの方が外見上、信用されるから」
「え あ、...ふふ」
「何だよ、そうだろ?じいさんなんだからっ」
「ふふ、詰めないで下さい...でも...どうして傭兵引き受けた
のです?いつもなら嫌なものは嫌とつっ跳ねるギーガが」
「レイリイオンも相当嫌がっていたが...俺も本当に嫌 だったが
目的はクムーリだろ?あっちは幌ありでこっちは幌なしで休憩
多く取る。あっちは足の遅い馬車だが、灼熱に強い。断っても
同じ道走って追い越したり追い抜かれたり...断る理由見付から
なかった...これ天空采配だ。降参」
「あ― 」
「レイリイオンは娼婦が嫌いなだけだ。はは」
「嫌い?何故ですか?娼婦とは何ですか?」
「あ―ヒッタイトの踊り子と同じだ...年取ったら意味わかる」
「 ...そうですか」
ギーガとテリピヌは仕度済ませてレイリィオンの荷も持ち、宿の外に出て、幌のある馬車とレイリィオンとヒナウィラを探した。
レイリィオンはヒナウィラと 恰好の男ふたり と4人で立ち話をしていて奴隷らしい男女が馬車へ積荷をしている。
幌馬車はよく見るものより大きくしっかりした白帆布、馬4頭立―ふたりが豪商であると知らせてくれる見栄え。
賊がいなくてもそれを見掛けた誰かを賊にしてしまいそうな
―ギーガは見事な馬車に感心しながらレイリィオンに寄った。
レイリィオンがギーガとテリピヌに気づいて商人に紹介した。
ひとりはナタと言い、レイリィオンに年近く貫禄持った肉付肢体に髭たっぷり、ヒッタイト風に頭に布を固く巻き、色縞の下着に萌黄色のケープを羽織って首や指に飾り石をつけていた。
動きにくそうにも見えるその姿は豪奢商人そのままである。
もうひとりはウーアと言い、テリピヌに年が近い。
肌白く、商人生業のせいか若くとも活力乏しく見えてライバンにも見えた女性のようなしなやかさがある―長身細身、笑はギーガやライバンよりずっと甘く優しい感じがした。
彼もまたナタのように沢山の宝石を身に纏っている。
男性奴隷はハス、女性奴隷をマナと言い、ふたりとも20代後半―よく働く体力に恵まれた若い年と肉体を持っていた。
奴隷たちは陽射しを避ける布を軽く頭に巻いて服は肌露な軽装。
ナタとウーアは親子にも見えるが、血縁はない共同商売関係。
商売も社交も経験の浅いウーアがナタに倣う師弟に近い関係。
ギーガはレイリィオンの媒介で一瞬にしてナタとウーアに溶け込み暫く話交わして2、3要求した。
行商人は盗賊の奇襲を避けるために護衛を雇ったり、街や道中で様々な別個の商人馬車が出会って固まって旅をするキャラバン隊を組んだり、ヒナウィラのような個人や複数の旅人、旅芸人たちが馬車の幌や身を守る人の数に預かりながら道中同行をする。
ギーガはその一切を断ってくれと言った。
「幌のあることで ここから砂漠の多い地域、日差しの中それを
頼る人と出会うだろう。悪いがこれ以上の人数になればこっち
は3人だ、守りきれない。出会った旅団に護衛が居ても俺たち
は同行は遠慮願う。そしてそっちと同行したいときは俺たちは
別れる。ただ、病気や飢えなどで困っている人と会ったら駄目
とは言わないが」
「何故そうも人の共栄共存を嫌う?助け合いは人の常では?」
成功を収め続けている金持商人の余裕か、ナタがその貫禄のある体とともにゆっくりと落ち着き払って笑って言った。
TELIPINU【75】につづく。 |
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