【甘露雨響宴】 The idle ultimate weapon

 かんろあめひびきわたるうたげ 自作涅槃長編活劇[100禁]

KEITH【105】今回の人生の卒業

2009-12-06 | 4-0 KEITH




 KEITH【105】 


アランがこっそり俺の耳に声を寄せた。

「自分たちのこんなタイミングでこんな事件...どちらか強引に会い
 たいと思った。そう思いがちだが、実は違う。双方で会いたいと
 思っていた...気に掛けていたかな、するとこうなる」

「え...そうなのか?」

「毎日気に掛けていたのは確かじゃないか...ルナルーもな」

「 ...そうだな」

やがて、イオに伴われてルナルーが出て来た。

白ドレスの次は黒ドレス...何だか妙に面白いと思ってしまった。

喪服のルナルーは結婚式と同じくらい美しかった。

血色もよく肌も髪も綺麗で...何よりだ。

目は合ったが、声は掛けることなく先に後部座席に乗せた。

そして、俺は反対側から乗り込んだ。

アランが助手席に乗って―フレディとイオが見送る中、カトが車を発進させた。






リズの郊外、火葬場まで2時間ほど―カトが仕事の話を降ってくる以外、車内で会話はなかった。ラジオだけが賑やかに流れていた。

会場は緑の芝生も見えないほどに多くの黒い人たち。

車を降りて直ぐ俺はルナルーの側の扉を開けて手を差し出した。

ルナルーは驚いたが、まあ当然...俺は表情変えることなく彼女の手を引いて、その手を自分の腕に巻き付けた。

こんなことは結婚式と同じ...そこに俺の感情はない。

ルナルーは微妙に腰が引けたようだった。

しかし、本人が公の場で自分の感情に構ってられなかったようで、俺の腕にしっかりと縋って来た。

そうして会場に届いたが、セレモニーまではまだ時間あるためか、啜り泣く人の多い中、そして知り合いばかりの中―俺はあっという間に挨拶や会話に巻かれた。

そこでルナルーもいちいち挨拶されて話題を振られる。

皆の目に、マフィアシゴトのボスの正妻にしては随分と優雅で温和な女性に映っただろう。

突然、キース!と若い女性の声で名前を呼ばれた。

その声に振り向く間もなく、どん!と胸に衝撃―華やかな黒衣装のセーニィが力強く抱きついて来た。

その拍子にルナルーの手は俺から弾かれたが、泣きじゃくるセーニィに気を取られた。

エリとセーニィは容姿も性格も対照的だが、俺の知る限りだが、親同士の関係は無視して仲が良かった。

毎日エリの病室に通ってずっと励ましていたらしい。

信じられない、裏切り者、私を置いて先に天使になるなんてっ!と俺に向かって言い続けた。

エリもセーニィも夜会で少し話した程度、それも通りすがりの一瞬―それでどうして俺なのか判らなかったが、判った気がした。

もしかして...最後まで俺を思っていたのか?親の謀に関係なく?

或いは、賢いセーニィ...こんな公の場でひとり泣き叫ぶことで皆が注目する、そこにアレキサンドルと俺の強力な関係を誇示の援護?ハインツの擁護か...こんな世界は穿った見方で丁度いい。

しかし、余り長く引っ付いていられると、それこそ、俺とセーニィの関係まで怪しく見えてくる。

そんなときにいつもベストタイミングで現れるユリウスが今寄って来て(来ていたのか)セーニィを引き取っていった。

俺はルナルーを目で探した―彼女はさっき挨拶を交わした夫人たちに巻かれていた。

「セーニィ...どうしてお前なのか。何か楽しみだな、あのコ」

アランが声を掛けて来た。

「参ったよ、それ思った、何で?」

「よい機会だ、援護射撃だって理解でいいんじゃないかな」

「そうか...そうだな...ありがたく受け取っとく」

「大丈夫か?樽の上か?」

「え...はは、ユリウスに確認取って来い命令か?それはない。自分
 の微力は判っている。これはエリの選択...セーニィが言っていた
 ように今回の人生の卒業おめでとうと思った。最後までセーニィ
 が愛していたのか、幸せだったなよかったと...俺が救われた」

「出たよ?やっぱ樽の上登りかけ...何か贖罪探ししてない?」

「え...あ―言われて見えた...はは、滑り落ちるところだった」

「だな...で、奥様の幸せはどっちを向いているか見えた?」

「いや全く... 」

「そうか...もう半年経つが」






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