欅並木をのぼった左手にあるお店

ちいさいけど心ほっこり、French!テイストなお店♪

教会の庭

2008-03-13 | poem
教会の庭。
今日もどこからかあらわれてきた子供たち。
男の子はボールを使って。女の子は階段に腰かけて遊びはじめる。
高いビルのあいだからぼんやりとした太陽が。
あわただしさの残る平日の昼さがり。
教会の庭だけはその周辺ある殺伐さが漂っていない。

しばらくして、男の子と女の子がけんかをはじめた。
女の子は泣いて、まわりの女の子たちが男の子の方をにらんでいる。
街にある殺伐さがこの庭にも漂いはじめていた。
神父とシスターがそれに気づいて、建物から出てきた。
シスターがやってくると、シスターの腰に泣きすがる女の子。
神父が事情を聞くと。

“僕たちのボールが女の子のところにいったんだ。
僕が返してと言ったら、女の子がボールをむこうの方に投げたんだよ。”
 “背中にボールが当たったのよ。でも、なにもあやまらずに渡せってこの子は言ってきたの。”
おたがいに興奮していて、気持ちがおさまらない様子。

神父は男の子のそばに行って。頭をなでながら。
 “君は女の子がボールをむこうに投げたから、カッとしたんだね。”
男の子はうなずく。
 “じゃあ、女の子が素直にボールを返してくれたら、なにもなかったようにまた遊べたんだよね。”
男の子はまたうなずく。
 “じゃあ、ボールが背中に当たった女の子の立場になって今度は考えてごらん。君はそのことについて、なにかお詫びでも言ったのかい?”
男の子はその時になって、肩をすくめて首をふった。
もう感情はおだやかになっていた。
 “じゃあ、わかるね。女の子になにか言葉をかけてあげなさい。そうすれば今度は素直にボールを返してくれるはずだよ。”
男の子は事情が飲み込めたのか、しずしずと女の子のそばに行って、素直にあやまった。
しかし、女の子はシスターの裾にすがりついたままだった。

神父は今度は女の子のそばに行き。
“ここが痛かったんだね。よしよし。ほら、もう大丈夫。どうだい? こっちを見てくれないかな。”
女の子はシスターの裾をはなして、神父の顔を見上げる。
“もう大丈夫だよ。この子はね、本当はあやまりたかったんだよ。でも、気持ちが先にいってしまったんだ。ボールをむこうに投げたことも、男の子はもうなにも言わないよ。どうかな? 許してあげられないかな?”
女の子は口に手をあてて考えている風だった。
 “どうだい? 許してあげられないかな?”
女の子は静かに首をふった。
 “そうかい。いい子だ。もう仲直りできるね。”
女の子はうなずいた。女の子ももう落ち着いていた。
 “ほうら、もうなにもなかった。みんな仲良しだからね。
ここはみんなの場所なんだから。みんなで仲良く過ごせる場所にしておこうね。
さぁ、また楽しく遊んでおいで。日が沈みはじめるまで、ここで楽しく遊んでおいで。"

ビルの合間から顔をのぞかせていた太陽がよりいっそう明るく教会の庭を照らしはじめた。
子供たちはまた散り散りになって楽しそうに遊びはじめた。
街にありがちな殺伐さはもうこの庭にはなかった。
男の子と女の子がけんかした前よりも、そこはおだやかな平穏さに包まれていた。