内閣府が実施する社会意識に関する世論調査の結果によると、愛国心が強いと答えた人の割合が昨年に比べて減少した。一部では日本は保守的になっているといわれてきたが、その流れが逆転してしまったのか?
この調査は内閣府が、国や社会に対する国民の基本的な考え方を知る目的で毎年実施しているものである。2014年の調査では、愛国心が強いと答えた人(「非常に強い」「どちらかといえば強い」の合計)は昨年に比べ2.7ポイント減少し、55.3%となった。また、今後国を愛する気持ちをもっと育てる必要性があると答えた人の割合も3.5ポイント低下し76.3%となった。単純に数字だけを見ると、愛国的な考えを持つ人が昨年よりも減少したことになる。
このところ、中国や韓国との対立が激しくなっていることから、近年になって愛国的な傾向が強くなったと思われているが、必ずしもそうではない。長期的なデータを見てみると、愛国心は2002年を境に上昇に転じて以降、基本的に同様の傾向が続いており、特に最近の現象ではないことが分かる。2002年から2003年にかけては、日本の不良債権処理がピークとなり金融危機すら懸念される状況でした。非正規労働者の問題が大きく取り上げられるようになってきたのもこの頃からである。まさに日本経済の転換点ともいうべきタイミングだから、経済力の相対的低下と愛国心の上昇の方に、高い相関性があるのかもしれない。
年齢別に見てみると、ほぼすべての年齢層で愛国心が強いという人の割合が減少しているが、年齢によって、愛国心の状況は大きく異なる。愛国心が強いと答えた人の割合は、70歳以上では70%以上と高く、年齢が下がるにしたがって低下し、20代では40%前後になる。もっとも2000年の調査では、20代で愛国心が高いと答えた人の割合は20%台前半だったが、70代での割合は今とあまり変わっていない。ここ15年における愛国心の増加は若年層が中心であったことが分かる。
経済と愛国心に相関があるのだとすると、ここ15年の若年層における愛国心の著しい増加は、中高年層との経済的格差がひとつの要因になっているという仮説が成立する。一方、この調査には、国の政策に対する評価という項目も含まれているのだが、国政に民意が反映されていると答えた人の割合は、昨年に比べて急上昇している。しかも、この項目は日経平均との相関が極めて高いことが知られている。
両者を考え合わせると、今回、愛国心が高いという人の割合が減少したのは、アベノミクスによる経済的恩恵を国民が感じ取り、政治への不満が減少したからなのかもしれない。