ガンプラ騒動

　インタネットで、ばかばかしい事件の記事を見た。兵庫県加西市に住む29歳の男が自宅に火をつけて全焼させて逮捕された。動機は機動戦士ガンダムのプラモデル（ガンプラ）を母親に処分されたことを悲観したからだという。

　ガンダムというのは1979年に初めて放映されたアニメのロボットで、今年で30年になるが依然として人気の高いキャラクターだそうだ。例によってこのようなことには関心もなく無知な私は、そのアニメを見たことがないが、熱烈なマニアもいるようだ。この男もその一人でガンプラを多く自室に飾っていたらしい。55歳になる母親はかねてから「年も年だからいい加減にしなさい」と言っていたようだ。それでも収集をやめない息子に業を煮やした母親は、本人に無断でガンプラをゴミ袋に詰め、あとは捨てるだけの状態で自宅に放置した。

　その後、自室に大切なガンプラがないことに気付いた男はパニック状態となり、「自殺しよう」と自室に灯油をまいて火をつけた。自身も灯油をかぶり火を付けようとしたが、隣室にいた母親に「何しとる？」と声をかけられ、われに返り、燃えさかる自宅から母親と脱出した。同居する祖母と弟は外出中で無事、男と母親にもけがはなかったが、木造２階建ての自宅は全焼した。もちろんゴミ袋の中のガンプラも灰になった。男は警察の調べに「ガンプラがないことに気付き、生きていけないと思った。死のうと思った」と供述しているという。

　いやはや、いい年をして呆れ返った行動だが、30近い男がガンプラを収集することをとやかく言うつもりはない。趣味に年齢はない。鉄道模型マニアのように、男には趣味に熱中する者は少なくない。もう止めたが私も切手収集が好きだったことがあるから、好きなものを集める気持ちはよく分かる。切手や鉄道模型が高尚で、ガンプラは程度が低いなどということはない。人の好みを自分の好みでとやかく言うものではない。しかし、30歳近くにもなる息子の母親にとっては、いくつになっても「おもちゃ」に熱中している我が子には愛想を尽かす思いで、自分にとってはごみに等しいガンプラを処分しようとしたのだろう。いささか手荒だが母親の気持ちも分かる。いまだに息子を子ども扱いしているのがちょっと気になるが。

　呆れるのは、大切にしているいせガンプラがなくなっては生きてはいけないと考えて自殺しようと火を放ったという短絡極まりない男の行動だ。それがマニア心理だと言ってしまえばそれまでだが、あまりにも幼稚すぎる。この男は、初めてガンダムに出会った少年の頃と精神状態はあまり成長していなかったのではないかとも思ってしまう。そして今も家を焼いてしまったことをもちろん悔やんではいても、大切なガンプラがなくなってしまったことの方が諦め切れないのではないだろうか。