労働組合運動が盛んになると、一方でワリを食う人々がいた。
まずもちろん雇用者側ではあるが、こちらはまだ利益を確保できている。
問題は、労働組合を組織できるほどの被雇用者の数がいない中小規模の事業所・企業の労働者や自営業の労働者には、まったく恩恵がなかったことであり、労働組合に入れる者とそうでない者の間の労働条件の格差が広がった。
労働組合も調子に乗って、噴飯物の待遇を要求する職場もあり、中には労働組合専従で業務自体に関わらない人間まで出るに至っては、その恩恵を受けられない者たちからは、憎々しげに
「ふん、平民がお貴族様気取りか!さしずめ”労働貴族”だなっ!」
と揶揄された。
その言葉を聞いた、チキン屋を営む知恵者が(チキン屋をやるものに知恵があるのかどうかはともかく)、天啓を受け、「チキン貴族」というチェーン店展開をして全商品2800ヲンという高級感を演出し、スマッシュヒットを得た。
更にそれを見て「チキン・パンパン(コーライの貴族階級を指す)」という類似店を出店して泥沼の法廷闘争に発展したが余談が過ぎるか。
労働者階級の分断という事態に危機感を覚える労働組合の一部の賢明な者は、労働組合を母体に政治活動団体を組織し、労働組合という枠では、すくい上げきれない庶民の不満を吸収するという方針を推し進めた。
パーク政権への不満を高めさせた背景には、とあるフェリー事故の処理に失敗したというものもあった。
事故自体は政権に発生の責任を帰すべきかどうかは正直微妙だったが、事故発生から7時間もの間の去就が不明瞭で、ヘアメイクに90分かけていただとか、エステに行っていたとか、巫女を呼んで祈禱していたとか、男と密会していただとか、様々な憶測が飛び交った。
かつてモトヒノでも大きな海難事故が起きたときに失言癖で有名な首相が急報を受けたゴルフ場でその場で指示を出していたというのを非難されたことがあったが、その方が、よほどまともな対応だっただろう。
こればっかりはムーンの存在とは無縁の自業自得である。
巫女といえば、この巫女の影響でヌルヌル体操なる怪しげな動きの運動を広げようと公費を投じたのは事実であり、しょっぱい・こすい汚職も色々としていたが、なぜか政治的な失策による大惨事までがこの巫女の影響だと邪推されたのは、完全に濡れ衣であったw。
パーク政権打倒運動の動きは、ツイステ合州国の長い手によって察知されていた。
通称カンパネラと呼ばれている対外諜報機関の工作員が活動し、反政府運動に資金援助を行った。
次の大統領になるべき人物達に接触し、誰がいちばんツイステの靴を綺麗に舐められる逸材かという品定めを始めた。
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とあるモトヒノの下町の工房
「父ちゃん、もう三日も寝てないんだろ!もうお休みよっ!死んじゃうわ!」
「てやんでぇっ!海の向こうじゃ、オレッチのローソクを待望している高貴な趣味人が今か今かと待ってるだぞ。なんとしてでも間に合わせなきゃ、この道50年の低温ローソク職人、エスエム・ハンテイ、4代目フォーラム屋の名がすたるってもんよ!」
「……。父ちゃん…。言いにくかったんだけど…。言うよ。なんでも今度の注文は、媚薬を配合したりだとか、凝った造形とかは、要らないって先方から連絡があったんだ。簡易な作りでいいから、コストも下げて欲しいって…。安い大量生産が必要なんだってさ…。」
「なん…だと…。」
「父ちゃんの採算無視の職人仕事では、うちの経営は火の車だったんだよ。そこにまとまった注文が入って…。しばらくはこの注文が続くって話だし、弟子達の給料だってこれで払えるようになるんだよ!」
「もう、おれの仕事は古いってえのかい…。そうかい…。わかった。残りの仕事は弟子共に任せる…。少し休ませて貰うぜ…。」
降って沸いたローソク需要であったが、後に新聞でコーライの事件の様子を目にし、ローソク職人の親父は想定外の用途に驚くことになった。
なお、この事件の後にコーライからローソクを使った「灯籠飛ばし」が輸入され、モトヒノで灯籠祭りが流行り、ローソクの安定した需要を生むことになった。