大橋むつおのブログ

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高校ライトノベル・オメガとシグマ・33『ちょっと凄いのよ』

2018-09-17 06:24:24 | 小説3

高校ライトノベル・オメガシグマ・33
『ちょっと凄いのよ』




 凄い凄いを連発している。

 連発しているのは祖父ちゃんだ。

 平仮名の「すごい」でも片仮名の「スゴイ」でもなく漢字の「凄い」だ。
 マンガの吹き出しじゃないから、祖父ちゃんの口から漢字が飛び出してくるわけじゃないんだけど、感じとしては漢字(親父ギャグみたいだ)なんだ。

 なにが凄いかというと、昨日の大相撲春場所千秋楽結びの一番。

 前日の怪我で休場するんじゃないかと思われていた稀勢の里は、左肩から胸にかけての痛々しいテーピングの姿で大関照ノ富士を小手投げで打ち破った。
 祭りの打ち合わせに神社に行った祖父ちゃんは夜中まで帰ってこなかった。
「三時には終わったんだけどね」
 先に帰って来たお袋は晩飯のダンドリがつかないので「様子を見てきて」と俺に命じた。

「ちょっと大勝負になってんのよ!」

 社務所で声を掛けると、神社の娘で幼なじみの風信子(ふじこ)が巫女装束に似合わないテンションで告げた。
「大勝負!?」
 祖父ちゃんたちが喧嘩でもおっぱじめたんじゃないかと、素っとん狂な声が出てしまった。
「オメガもいっしょに観て行きなよ!」
 神社の豊楽殿に行くと、三十人ばかりの役員さんたちが100インチのテレビにかじりついていた。
 相撲なんて久しく見ない俺だけども、土俵で睨みあっている横綱と大関には圧倒された。

 でも、あの怪我じゃ勝てないなあ。

 圧倒されながらも俺の常識は、そう予測した。

 その稀勢の里が、見事に勝ってしまった。

 三十畳の豊楽殿は沸きかえった。WBCの準決勝戦よりもボルテージが高い。
 あっという間に豊楽殿は宴会仕様になって、ポンポンとビールの栓が抜かれる。
「妻鹿屋の若!」「ゆうちゃん!」
 俺にも声が掛かって(さすがに街の年寄りたちはオメガとは呼ばない)ビールを注がれてしまう。
「あ、どもども」
 こんなときに「未成年ですから」というのはヤボだ。
 でも酔いつぶれるわけにはいかないのでグラス二杯で勘弁してもらう。
 風信子は心得ていて、年寄りの相手をしながらも俺をエスケープさせてくれる。

「お祭りもね、この春は、ちょっと凄いのよ。明日の昼過ぎは見ものだよ!」

 逃がしてくれながらも、風信子は俺をけし掛けてくる。
 この街の子どもたちは、楽しそうなことがあると、みんなでけし掛けあうんだ。
 一人で楽しいことは二人で、二人で楽しいことは三人、三人はみんなでってな具合で広げていく。
 年寄りたちが騒いでいるのも、このけし掛けあいが根っこにあるんだろう。

 で、一夜明けた今日。

 俺はシグマとノリスケを呼んで、再び神社に来ている。
 俺もけし掛けたわけだ。

 せっかくだから、サブカルチャー研究会の発足と弥栄(いやさか)を神さまに祈る。
「あたし、この神社は知らなかった」
 二礼二拍手一礼を終えると、神社のなにかに感応したのか、シグマは興奮の面持ちだ。

 手水舎の向こうが車の出入り口になっていて、一台のトラックが停まっている。

 そろいの法被を着た氏子さんたちが、荷台のロープを外し終わって、ブルーシートを剥がしにかかっている。
 風信子が言っていた「ちょっと凄い」はこれなんじゃないかと、ここに来た時から目を付けている。
「あ、神主さんが出てきた」
 小父さんが風信子を従え、手には大きな幣(ぬさ=ハタキの親分みたいなの)を構えて現れた。

 そして、シートを剥がされ、その姿を顕わにしたものに、三人揃って感嘆の声を上げることになったのだ。
 

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